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ご隠居剣聖と斬り拓く叛逆行路 ~三日剣聖と押しかけ弟子による最強突破~  作者: 熊谷茂太


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第三十八話 『八人目』と『六人目』の再会①

 フード姿の少年少女が、朗らかにセオドールの腕をつつく。


「セオドール、見つけたよ。勿体ぶってないで早く会お? 感動の再会なんだからさ」


 黄昏を迎えた村に突然現れた訪問者ふたり。

 村人が怪訝にざわつくなか、クシャナの耳はその声を拾っていた。

 あどけない声はナタリーと同年代か。しかし男女いずれかは定かではない。


「……」


 セオドールは薄く開いた唇から、結局何も発さず静かに足を進めた。


 まっすぐ、クシャナの方へ。


 無造作な歩進。しかし腰に剣を佩く者のただならぬ気配は剣客でなくとも見る者を張り詰めさせた。門扉周りで作業をしていた採掘工たちがその動きを追い、気付くと花道を作っていた。

 向かう先に立っているクシャナは、無言で動かない。

 人違いでは誤魔化されない間合いで、ついに二人は向かい合った。


「クシャナ」

「セオドール、十年ぶりだな」

「ああ」


 互いに名前を呼び合うと、懐かしさがふたりを襲った。

 十年はかつての面影を変えるには充分な時間だ。しかし短く交わされた声の響き、受け応えの間はあの頃と全く同じだった。十年ぶりに目の当たりにする外見の変貌すら些末なものになる。


 ──変わらないな。

 今、そう感じることは喜ぶべきことなのか。

 まずクシャナの胸中にあったのは安堵だった。生きてこうして会えたことが──


「どうセオドール。嬉しい?」


 傍らでセオドールを覗き込んだのは、フードの少年少女だった。


「十年ぶりだもんね。奇跡の同期、感動の再会に立ち会えてフルガラは嬉しいよ」


 戯れる子どもを思わせる無邪気な声。微笑ましさすら覚えるほどの。なのに──

 その存在は自然と目を惹き付けると同時に警戒心を芽生えさせる。


「はじめまして、クシャナ。剣聖の『七人目』フルガラだよ。お見知りおきを」


 ひらひらと愛らしい笑顔の横で手を振って見せる。


「……! 剣聖──」


 クシャナの傍らでナタリーが驚き、乾いた声を漏らした。

 セオドールとの唐突な再会に驚いて息を呑んでいたナタリーだったが、まさか連れの者まで剣聖だったとは。

 クシャナも不意を突かれていた。


「現役の『七人目』か……それは、よろしく、フルガラ」

「よろしくねっ」


 親愛をこめるように、屈託なく答えるフルガラ。挨拶をしただけで相手を惹き付けて止まない魅力にあふれている。しかし、やはり。

 クシャナの粟立つ警戒心が和らぐことがなかった。

 思わず窺うような目で見ていると、フルガラはくすっと頬を緩める。


「フルガラも嬉しいな。あの『八人目』に会えたんだから。クシャナのことは色々と知ってるんだよ」

「そりゃあ──」


 その瞬間の動揺を、クシャナはなんとか押し隠す。

『七人目』の剣聖。それが元・剣聖である自分のことを把握している。なぜ「色々と知る」に至ったのか。簡単だ。答えは一つしかない。


『三人目』の剣聖・アーノルド。その死に関連しているから。


 フルガラは、艶をたたえた唇でいたずらっぽい笑みを刻む。


「あはは。フルガラがどんなこと知ってるのか、知りたい? でもあとでね。まーずーはー……」


 くるん、とその場で身を翻してセオドールの背後に回り込むと、背中をとんと押した。


「セオドール、クシャナとお話するの十年ぶりでしょ? ふたり仲良く積もるお話でもしなよ。ちょっと待っててあげるからさっ。えひひ、フルガラってば粋なことするでしょ?」


 そういって有無を言わさぬ力でぐいぐいとセオドールを前に押し出す。

 話をしなければ保たないほど近い距離に二人は顔を見合わせ、気まずく目を逸らす。


 ──いやいや、いい年した男どもが照れている場合ではない。

 クシャナはフルガラに視線をやった。


「お気遣いどうも。じゃあちょっとセオドールをお借りするよ」


「もちろん! それじゃフルガラは…………んん?」


 そこでフルガラはきょとんと目をしばたたかせる。

 クシャナの傍らでじっと剣聖たちと師匠とのやりとりを見ていた少女──ナタリーにやっと気づいた、いや、初めて存在を知ったとでもいうような表情だった。


「どちらさま?」

「え、と……ナタリーです」


 自分で強めに叩いた頬の痺れなど吹っ飛んだ様子で、ナタリーはぎこちなく答えた。

 クシャナは一瞬迷ったが、下手な誤魔化しは避けるべきだと判断する。特に目の前にいるこの剣聖・フルガラには。


「紹介するよ。俺の弟子のナタリーだ。剣客の武者修行であちこち旅しててね」

「……っへえー! そうなんだあ。フルガラの知らない子だ」


 喋りながら、フルガラの鮮やかな碧眼はじいっとナタリーに据えられていた。見つめるというより凝視する目には迫力すらある。


「ねえナタリー? じゃあ剣聖のセンパイたちがお話している間、フルガラとおしゃべりしようよ」


 気圧されるナタリーに、さらにずいと真正面から迫る。

 油断なんてしていないのに、いつの間にと思わせる瞬時の合間で。

 まばたきも忘れて相手を見つめ返すナタリーに、フルガラはにっこりする。


「フルガラはナタリーのことを知りたいかな」


 と、さっそくナタリーの腕をとると、ぐいぐいと強引によそへと移動していく。


 その場には、クシャナとセオドールが残された。

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