第三十一話 人探し、してるんだ②
少年か少女か不明の剣聖──フルガラは宣言通り話をどんどん切り出しては進めていった。
ベアトリクスがなぜアーノルドの元を離れたのか。セオドールが詳しく訊ねようとしていた話についてはさらっと流され、フルガラが話の焦点にしたのはアーノルド戦死の状況についてだった。
「先生が討伐のため森に出られた時点、わたくしはエーベン領地内で待機しておりました」
対面する二人の剣聖に、ベアトリクスは順を追って自分の行動を話す。
「魔獣が現界する可能性のあった瘴気は二地点ありました。ですが先生は魔獣現界ではない地点に。わたくしはそのことを至急報告するため先生のもとへ──」
しかし〈七聖〉に足止めされ、剣聖の真実を知らされた──
そう正直に言おうとしたところで、
「ふんふん。なるほどねっ」
フルガラがさっさと納得の相槌を打って続きを遮った。
「でも、実際にアーノルドは魔獣が現界した地点で戦死していた──キミとは不運にもすれ違っちゃっていたわけだ」
「……?」
いや、実際にはアーノルドと直接会っていた。
そこでアーノルド本人から魔獣を利用したエーベン潰滅の目的を知り、離反した。それが事実だ。
「アーノルドが戦死した瞬間、キミはその場にいた?」
ベアトリクスの戸惑いに構わず、フルガラは話を進めていく。
「……いいえ」
言いかけていたものを裡にしたまま、ベアトリクスは答える。
彼とクシャナとの決着には居合わせていない。エーベンの境壁まで戻って来たクシャナから決着までの顛末を聞き、この場から離れるようにと進言したのは事実だが──
そこまでを話すまでもなく、
「なるほど。おっけー。見えてきた」
フルガラは満足そうに、にこりと唇を笑みの形にした。
傍らのセオドールは黙して二人の会話を聞くに徹していた。意図を探るような眼差しは、フルガラの方に注がれている。
「長年慕っていた剣の先生が死んじゃって、ベアトリクス可哀想。フルガラたち剣聖はこれからもキミの味方だよ。悪いようにはしない」
フルガラはひょいと無造作な足取りで、ベアトリクスの真正面に立つと。
「だから引き続き、正直に答えてね? 嘘はナシだよ」
愛らしくにこやかな顔を寄せる。
「…………っ」
ベアトリクスは思わず息を止める。
邪気のないその存在が、これほどまでに自分の近くに立っていることへの警戒心が今さら芽生えたのだ。
問いに対する回答に偽りはない。
だが、言っていないことがある。〈七聖〉から告げられ、アーノルドが認めた「剣聖の真実」だ。
フルガラはベアトリクスが「それ」を言及することを巧みに封じている。
──口にするべきことではないからだ。
そのことに気付きベアトリクスは呼吸を止めていた。全身をぞわりとしたものが駆け巡る。
もしも「それ」を喋ればどうなるか──相手が明言しないからこそ恐怖が思考を凍えさせた。
迂闊に喋れば命はない、などという下手な脅しよりもよほど効果があった。
「承知、しました」
乾いた喉で、ベアトリクスは辛うじて答えた。
「うん」
フルガラは目を細め、さて本題、とばかりに手を打った。
「それじゃあ知っていることを答えてもらおっかな。フルガラたちはねぇ、人探し、してるんだ。
ベアトリクス、知ってる? アーノルドは魔獣と相打ちで戦死したってことになってるけど、本当は人に斬られて殺されたかもしれない。討伐にも参戦していた元・剣聖に」
聞くものの反応も待たずフルガラはその言葉を放り込み、さらに続ける。
「十年前、一瞬だけ存在した『八人目』の剣聖・クシャナ。アーノルドはそいつに斬られたと見られている。フルガラたちはその行方を追ってるの。だから知ってることを教えて」
「わたくしが知っていること、ですか──」
気づくとベアトリクスはおうむ返ししていた。
こんな手際の悪い反応はすべきではない。しかし今、自分は慎重になるべきだと理解していた。
他愛のない問答で真偽を見抜く目の前の剣聖に、
クシャナがアーノルドを討ったことについて偽り、偽装し、虚偽を弄しようものならば、
命はない。
──本能的に、断定できたからだ。
「そうだよ」
ベアトリクスの予感を確たるものにするように、絶妙なタイミングでフルガラは頷く。
「フルガラたちはね、クシャナを探して会いに行くつもりなの。
アーノルドを殺したのなら元・剣聖は斬らなきゃ。でしょ?」
それがこの世界の習わしであるように、フルガラは言う。




