第二十八話 野営も慣れたもの②
「──そうだねえ」
魔獣討伐の鍵であることが判明した銀の弾丸──通称・銀弾。
主要素材である銀の産地を見つけることが当面の旅の目的だった。
とにかくクシャナとナタリーの旅は成すべきことが多い。
〈七聖〉の動向を気にしつつ、資金調達のための討伐も怠れない。優先すべき銀弾の購入に加えて銀山の探索まであるのだから。
「銀弾取り扱ってる武器屋でも、未だに製造者や素材関連の情報は聞きだせてないし」
「銀弾がお店に並ぶまで、とにかくすっごいたくさん業者を経由してるのは解ったけど……」
むー、とナタリーも芳しくない情報収集を思い出して呻く。
複雑な話になるや、目がしょぼつきだす。眠たくなってきたのか?
「銀山がどこにあるかって地図で調べたら判りそうなのに、全然出てこないのはなんでなん?」
「情報操作とも考えられる」
「……むう。〈七聖〉が、銀弾に関わる情報を隠してるってこと?」
「可能性としてね」
クシャナは断言を避けたが──銀弾を「御守」とし、市場価値や有用性に触れない世の認識に人為的なものを感じ取っていた。
現に、銀弾ひいては銀の原産地である銀山を探ろうにも、情報や流通に至るまで見えない障壁に阻まれているのが実情だ。
「無理に探ると危険な線を踏むか……情報を買おうにもお金が必要だろうし」
「ふぉわ……師匠、難しいことは明日また考えようよ……」
小さなテントで寝る仕度を整えた寝惚け眼のナタリーが、のそのそとテントから這い出てきた。
いつも背負っている銃剣や装備を外した衣服だけの身軽な姿。無防備なのは本人が眠いせいもあるだろう。あとは寝るだけ、のはずだが──
「? どうしたナタリー」
「あのさ、師匠……」
四つん這いだったナタリーは、クシャナの前でさっと正座すると居住まいを正した。
「次にお金の余裕が出来たら師匠の寝袋を買おうよ」
「俺の? 寝袋? ……なんで」
「あたしにはテントくれたのに、師匠は野ざらしのままだから」
眠たそうだった青い眼が、真面目な色を帯びていた。
二人旅には小さすぎるテントはナタリーが眠るために最近購入したものだ。宿代をケチって野宿することになったものの、女の子の野ざらしは許されんというクシャナの判断で。
「弟子としては、不本意だよ。自分だけテントで寝るとか……なんなら今日からは師匠がテント使って。あたしは野宿とか余裕だし」
言葉遣いこそ粗雑なところが多いが、ナタリーは若く幼いなりにクシャナを師匠として仰ぎ、敬意を持っている。師匠よりも良い寝食なんて弟子にあるまじきことだと気にしていたらしい。
不器用な気遣いにクシャナは微笑んだ。
「それはできない相談だ」
「なんでぇ?」
中年のクシャナからすれば、十代のナタリーは子どもも同然で、女の子だ。
安全を確保するのは当然のことだし、師弟の関係とは別問題でもある。
──という大人の見解をナタリーはあまり解っていないようだった。
師弟という上下関係をもとに、自分の方が野ざらしで寝るべきだと考えている。
「じゃああたしも外で寝る! 焚火はさんで師匠が西側ね! あたしが東側守るからっ」
「こんな狭いのにそんな仰々しいフォーメーション取る必要ないって、テントで寝なさい」
「そんなの弟子としてしのびないよーっ。師匠がテントで寝てよーっ」
薄着でじたばたし始めるナタリー。さっきまで眠たがっていたのに、なにをぐずっているのだ。
「こらこら──」
「そこの二人」
押し問答を繰り広げていた二人の真横から声が差し込まれた。警笛を思わせる厳しい声音。
暗がりに浮かび上がる人影が、開けた草地の先にある。
「んっ、あれ? 領土騎士の人……?」
目を凝らしたナタリーが、甲冑と武器というおなじみの恰好に気づき、
「えっ!」
次には驚いて立ち上がる。
その一方で、人影にも微かな動揺があった。
「ここ数日、郊外で野宿をしている旅人がいると報告がありましたが──まさかあなた方だったとは」
呼びかけたときには厳しく怜悧だった声が、徐々に柔らかいものを帯びる。
夜目で捉えたその人物に、クシャナは驚きと懐かしさで目を細めた。
「これは驚いた」
「ベアトリクス!」
「お久しぶりです──といっても、二十日ぶりでしたか」
ナタリーが名前を呼ぶと、領土騎士の武装をした女性は優雅な足取りで近づいてくる。
「再会というには、少し短いお別れでしたね」
「あのときはおかげで助かったよ。恩人にまた会えるとは」
肩の上で切り揃えられた金髪に、静かな翠色の双眸の女性は上品な笑みを見せると。
クシャナの言葉に丁寧な一礼を返した。
──二十日前、魔獣討伐の土地エーベンで別れたきりだ。
ベアトリクス。
剣聖・アーノルドの徒弟だった女性の剣客であり、〈七聖〉の実態を知った者でもある。
師であるアーノルドを討ったクシャナと弟子のナタリーをエーベンから逃げるよう促してくれた。
いわばこの旅立ちの援助人でもある。




