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ご隠居剣聖と斬り拓く叛逆行路 ~三日剣聖と押しかけ弟子による最強突破~  作者: 熊谷茂太


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第二十八話 野営も慣れたもの①

(新章です。よろしくどうぞ!)

 その日の成果は三等ランクの幼魔獣十体。


 ナタリーは廃墟に巣食っていた集団を相手に銃剣を駆使。クシャナが距離をとったサポートに徹しつつ順調に討伐を完遂させた。

 討伐依頼を出していた現地の役所からの報酬を両手で恭しく受け取ると──

 クシャナとナタリーは顔を合わせて頷き。


 今日も郊外で野営を開始する。焚火近くに置く小さなテントは、ほぼ周囲の茂みと同化していた。


「──うぅーん…………うっすい塩味が身体に沁みるなぁー」

「トリの出汁もちゃんと効いてるはずなんだけどなあ」

「んー……トリは……そこはかとなく気配を感じるよ!」

「気配か。味覚以外でトリを感知するとは大したもんだ。ほれ、おかわり」

「わわ、ありがとう師匠。て、多いよう、師匠もちゃんと食べてるよね?」

「いやあ、若者が食べている姿見てるのって中年の保養になんのよ。気分が満腹になる」

「ほよー? 気分だけじゃなくてちゃんとお腹も満たしてよ、師匠」


 小さな焚火を囲み、小型の鉄鍋にクシャナがこさえたのは煮汁だ。昼食で仕留めていた野鳥の残りを骨まで煮込んで出汁を取り、野草やキノコ類、僅かな米を放り込むことでそれなりの量は確保できているのだが──味が薄い。


 倹約の果てに二人が行き着いた野宿と自炊生活は十日を迎えていた。


 毎日のように討伐しつつその出費を抑えているのには、もちろん高価な銀弾購入のためだった。行く先々における衣食住や武器調達・手入れなどなど……旅というものはなにかと入用だ。

 さっそくクシャナたちは節約生活を日常に取り入れた。自炊用具を確保し、食材は狩りや山菜をメインに、寝泊まりはよほど周囲が幼魔獣まみれの危険地帯でない限りは野外で。ナタリーには一人用のテントを使って眠ってもらっている。


 二人はあれこれ試行錯誤しつつ「なるべく出費しない旅」に努めているのだった。

 限界まで煮詰めたおかげでたっぷり膨れた米を神妙な表情で噛みしめつつ、クシャナは唸った。


「やっぱり出汁がなぁ……煮干し、いや、大豆由来の調味料を小さじ一杯分でも足せれば」

「気にすることないよ師匠っ。味は薄いけどお腹は膨れるんだから問題なしっ」


 お椀の煮汁を綺麗に平らげたナタリーが満足そうに「ごちそうさま」と手を合わせる。


「でもさ、こんな大きいお鍋に調味料小さじ一杯だけ入れたところで味って変わるの?」

「おっと、なかなか挑戦的な質問じゃないか」


 クシャナは片方の眉をちょいと上げて見せた。

 剣聖を剥奪され辺境で人知れず討伐をしていたころ、クシャナは趣味が高じて手製の屋台を出すほど料理には一家言(いっかげん)ある。


「調味料の微妙な差し引きで素材のおいしさも変わるもんだ」

「そうなの? 塩しかわかんないや」

「これ、塩は入れてないよ」

「そうなん⁉」


 驚いたナタリーがその場で立ち上がり、焚火の鍋と手元のお椀とを見比べる。

 西の辺境出身の彼女は、気が緩んだり動転したりすると語尾が(なま)りがちだ。


「じゃああたしが味わってた塩味はなんだったん?」

「トリの肝とか肝臓系の苦味じゃないかな。むしろよく気付いたね」

「苦味っ……? よくわからんのやが……まあいいか。美味しいもん」

「繊細なんだか大雑把なんだか」


 元気で満足そうなナタリーに内心安堵しつつ、クシャナはどうしたものかと考えていた。

 ──連日討伐を続け、着実に成果を出し報酬を得られてはいるが……どうもここ数日は稼ぎが悪い。


 というのも、高額報酬がかけられている討伐依頼がないからだ。


 クシャナたちがエーベンから山を二つ越えて北上した先は中級都市の領地が続いていた。各地とも生活領地を囲む境壁外に幼魔獣の脅威があり、剣客や領土騎士らが討伐していく。大陸世界で多く見る防衛対策が行われている。


 今、二人が討伐拠点として郊外で野営をしているのは中級都市ティグルスだ。廃墟や森が近く、幼魔獣が限界・棲息しやすい物騒な環境に囲まれているため討伐依頼も途絶えることがない。

 稼ぎのチャンスと二人はティグルスに乗り込んでいざ討伐依頼をみたものの、剣客に振り分けられるのはもっぱら三等ランクと呼ばれる討伐難易度の低い──つまり稼ぎも少ない依頼ばかりだった。


 現地の討伐状況について役場に訊ねたところ、数日前から地元の領土騎士たちが高難易度の討伐を率先してこなすようになり、流れの剣客にまで依頼が下りてこなくなっているのだという。

 領土騎士たちが勤勉で、都市の安全が守られているのはいいことだが……


「思ってたのと違うのも、考えものだなあ」


 お椀の煮汁を飲み干すと、クシャナも「ごちそうさま」と鍋を片付ける。


「違うって、鍋の味? 討伐のこと?」


 夜の寝仕度のため、テントを張ろうとしていたナタリーが小首をかしげた。


「両方だね」

「それじゃ気分転換に他の都市に行こうよ、師匠。ティグルスが安全なら何よりってことで」

「それもありか……いやー、しかしここ数日でいきなり領土騎士が討伐に張り切るなんてタイミングが悪い……」

「気にすることないよ師匠っ。それにあたしたち討伐で稼ぐだけでなく、銀山探しもしないといけないんだから」

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