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シルバーリング  作者: Yua
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第88話。シルヴィア5「親の心子知らず」どの親にしようかなぁー。

そうして、晴れてこの村の住人となった私は、またその直ぐ後にまりーさんとセフィルさんに連れられて、この村の中心付近にある、いつも住人の溜まり場のようになっている広場へとやってきた。そこには、もう既に多くの方が雑多に配置されたテーブルに腰を下ろして、様々に談笑を楽しんでいた。



「ん? まりー、その子誰? 」

「おー、もしかして、隠し子か?」

「――えっ、まりー、いつの間に……」


「にしても、泥だらけだな」

「そういう趣味の子? 流石まりーの子ね」


「白髪!! ――――ねぇ君! 私の実験に付き合う気はないかい!」

「ふふ、ウィズ、がっつきすぎー。ほら、怯えちゃってるよ、この子」



――と、そんな感じで様々な声が聞こえてきた気がするけど、私の意識はそれどころではなかった。ほんの少し前まで、力関係には敏感にならないといけない場に身を置いていたせいか、見るからに私よりも格上の方々から、一斉に注目を浴びてしまったこの時の私は、気が動転しそうになっていた。それは、ただただ恐怖でしかなく、私は蛇に睨まれたカエルの気分で、まりーさんの後ろにしがみついて怯えていた。


……確かにそんな様子は、親子に見えなくもなかったのかもしれないけど、私はそんな言葉の数々ですら、まりーさんを不快な思いにしてしまわないかと、内心で心配していた。


けれど、そんな心配は全く必要なかった。それを不快に思うどころか、むしろ、「そうねー、ならいっそ、私の子になる?」――と、私に聞いてきた。突然の予期せぬ提案に、少しの間おどおどして戸惑った私だったが……、もしそうなれば、この場の安全が保障されるような気がして、私は思わずうなずいた。まりーさんと親子になると具体的にどうなるとか、そんなことを考える余裕はなかった。私はとにかく、この目の前にぶら下がった身の安全にしがみつきたかった。



そのすぐ後、なにやらまりーさんが私について皆に説明している雰囲気だったが、どんな説明をしたのかはよく聞こえなかった。この時の私には誰かの声を聞く余裕はなかった。けれど、なにはともあれ、この時から、私はまりーさんの子供だと皆から認識されるようになった。



そんな感じで、借りてきた猫なんて目じゃないほどに萎縮してる私を他所に、私の扱いはどんどんと決まっていった。私の家を建てるとか、どんな家にするとか、とりあえず風呂に入ったら? 何か食べる? とか――そんな声も聞こえたけど、私は何も答えられなかった。そんな私の戸惑い怯えた様子もあってか、最終的には、まだ色々と勝手の分からない私では不安もあるだろうし、それに親子なんだからということで、私は、まりーさんの家に住まわせてもらうことになった。



そんなこんなで、私のエルナ村での生活が始まったけど、この村には、本当にいっぱい驚かされた。むしろ、驚かない事がなかったくらい驚く事しかなかった。いちいち挙げるときりがない。


その中でも、私が一番驚き戸惑ったことは……、ここの村人たちが、この私をただ『普通』に受け入れてくれたこと。あつくもてなされたわけでも、歓迎されたわけでもない。もちろん、その逆もなかった。


ただ普通の子として扱われた。本当は、私は普通の子なんじゃないかと思ってしまう程、普通に受け入れられ、普通に接して扱われた。戸惑いもあったけど、やっぱり……、嬉しかった……。




けれど、私は全ての村人に受け入れられた訳ではなかった。



村人J「白髪なんて……、きっとこの子は呪われているわ! 村の為にも今すぐ追い出すべきよ!」


そう言って、私のことを歓迎しない村人が居た。この人はジェシカさん。その真っ赤な髪色にも勝る、激しい敵意が私の白髪へと注がれていた。そして、私への数々の迫害の言葉を武器にして、皆に必死で訴えていた。


このジェシカさんの言動に、私は特に不快に思ったりなんてことはなかった。ジェシカさんの私への反応は、今までの私にとっての常識で、何も可笑しい事はない。これが普通の反応であり、日常であり、常識だった。


『呪われた子』――それは、今までに私が周りから散々投げかけられてきた言葉で、そしてなにより、私自身が、私に対して思っている呪いの言葉。今までの、私のどんな状況下にあっても私の中から消えることのなかったその言葉……、それを今さら、たった一人の村人に向けられたからといって、私は特に何かを思うことも、返せる反応もない。


けれど、このジェシカさんの言葉がきっかけで、今までは普通に接してくれた村人も徐々にそれに加担し始めて、私は迫害され、差別され、蔑まれ、そして追い出されてしまうこと――これも、今までの私にとっての常識であり、私がこの時に思っていた、これから起こる予測――。そして、これに対しては私は思うことも、表に出してしまった反応もあった。



(どうしよう……。このままじゃ、村を、追い出される……。いやだよ、出て行きたくないよ……。何か言い返さなきゃ……。けど、何を言えば……)


そうして私は言葉も出ないまま、おろおろ目を泳がし彷徨っていた。他の村人がそのジェシカさんの説得に対して、どんな反応をするのか、しているのかを、私は恐怖交じりに覗いていた。



「呪われてると、何か問題でもあるの?」

「さぁ~私には~分かんない~」


「呪われている? まあそれもありなんじゃない? なんか面白そうだし」

「どんな呪い! どんな呪い! 私は気になる~!」


「僕なんてさー、神に呪われてるよー」

「そもそも白髪って呪われてるの? この子が呪われてるようには見えないけど?」


「呪い…………。面白い! その発想は無かったよジェシカ! どんな呪い? 一体どんな呪いを掛ければ、人の髪は白くなるの!? シロ! 君には一体どんな呪いが掛かってるんだい!? …………え、よく分からない? なら何か心当たりは! なんでもいいから!」



私の不安も心配もどこ吹く風で、そんな感じで反応は様々だったけど、ジェシカさんの私への迫害に加担する者は誰も居なかった。非難するものも居なかった。ほとんどの人が相手にしておらず、興味がないって感じだった。そして、そんな渦中の私はというと、ウィズさんの探究心に圧倒されてたちすくんでいた。



村人J「そ、それにこの子は魔族なのよ! 本当にみんな分かってるの!?」


ジェシカさんの私への迫害は、それでもまだ続いた。そして『魔族』というその言葉を耳にすると、また私の常識が不安と恐怖を携え舞い戻ってきた。と同時に、私はまた恐る恐るに周りの方たちの顔色をうかがった。



「魔族だと何か問題あるの?」

「さぁ~私には~分かんない~」


「僕も魔族だけど、何かある?」

「あっ、そういえば俺も魔族だっけか? すっかり忘れてた」


「ゾンビって魔族に入るのかな?」

「そもそも魔族の定義ってなんだっけ? この耳と尻尾は魔族に入るんだっけ?」

「あー、そういえば私、前に住んでたとこで周りから魔族扱いされてた」


「――えっ! そうなの!? ってことは私も魔族? シロちゃんお揃いだねー」


「えっ、う、うん、お揃い」


どうやら、私の不安や恐怖はお呼びではなかったようだ。私が今まで見てきた人間の街では、奴隷としてしか目にしたことがなかった猫耳を携えた女性――キャロさん――が、私と同じ魔族であるかもしれないことを、私にそう喜び交じりに投げかけてきた。私は戸惑い大半で、なんとかそう返事をした。



「あ~、ジェシカまたやってる~、がんば~」

「ジェシカちゃんは今日も元気だね~」


その後も、結局ジェシカさんに味方する者は現れなかった。反論する者もいなかった。多くの方たちが、そんなジェシカさんの様子をただ微笑ましく見ていた。



「ねぇねぇー、シロちゃんはどんな魔法が使えるの?」

「――っ、…………」


キャロさんに、唐突にそう話を振られて、私は口篭ってしまった。



(言っても、いいのかな……)


私が使っていた闇魔法が、人間の間では良く思われてないことを、私はよく知っていた。私が闇魔法を使うことを認識した人間は、みんな私への敵意や、恐怖、怒り、憎しみ、といったものを増幅させていた。よく思われた試しなんてなかった。



(言わない方が、いいよね……)


「ん? 言いたくないことだった?」


沈黙している私にキャロさんが心配そうに問いかけてきた。そんな私の様子は、少しだけ周りの注目を集めているようだった。けれど私は依然としていい反応を返せなかった。何かを話そうとしては言葉に詰まった。



(でも、隠してたって……、いずれ絶対に、ばれる……)


この目の前にいる方たちから、それを隠し通せる自信は全く湧いてこなかった。ばれたときに、なぜ黙っていたのかを糾弾される未来は予測できた。



「や、やみの、魔法を……」


私は意を決して、その言葉を口にした。



「おー! 闇って、珍しいやつじゃん!」

「やみ~は、やみ~月になる~」


「まさかの同士発見!」

「闇魔法さー、僕も使うよ」


「闇魔法……、白髪……、何かある……。けど一体どんな関係が……。シロ、お願い! 今すぐ私の研究に付き合って!」


誰からも批難はなかった。

むしろ好感すらあるようだった。



そして直ぐに、ゾリアさんとネロさんに、一緒に三人で闇魔法の話をしようって言われた。私は遠慮がちな、うなずきを返した。その後ウィズさんも交じって、四人で他愛もない言葉を交わし合った。それは今までの私が経験したことのない、とても幸せな時間だった。本当にうれしかった。私はこの村に居てもいいんだって、私はこのとき思った。




村人J「もういい!  もういい!  こんな村!  私はこんなにも、この村のことを思って言ってるのに……。もう耐えられない! こんな村、出て行ってやる!」


私が幸せなひと時を満喫し始めたとき、ジェシカさんのそんな叫びが聞こえてきた。私はジェシカさんに再び目を向けた。彼女はもう私には興味がなくなったのか、私のことは眼中になく、「もう本当に出て行くから!」――と、決意を含んだ叫びを他の方たちに向けていた。それに対して他の方々の反応はというと……、



「あ、そうなの? 元気でね~」

「んー、またねー」

「じゃーねー」

「ばいばい~」


――それはそれは何ともあっさりとした塩対応だった。ジェシカさんの必死さと真剣さとを対比すると、その何とも雑な対応に思わず私は、流石にジェシカさんが可哀そうだと同情の気持ちが芽生えた。――この時から私は、たとえどんな立場の人であっても、それが仮に敵であっても、孤立した人、孤独な人を見ることが、ついつい私の過去と重ねてしまい、辛いことになっていた――。



「――ッ、――もういいわよ! 本当に出て行くから!!」


ジェシカさんは、握りこぶしを強く握りしめながら、ほんのわずかにある涙目を振り払うようにして、そう叫んでいた。そしてそのままの勢いで、この場を去ろうとしていた――本当は誰かに引き留めてほしかったのかなって、今では思います――。



「――あっ! ジェシカ! ちょっと待ちなさい!」


今は、私の近場にはいない、まりーさんの声がどこからか聞こえてきた。



「な、なによ! もう止めたって無駄だからね!」


ジェシカさんが、その方向に振り返り言い返した。



「いえ、止めないわ。けどちょっとだけ待ってなさい」


そう言ってまりーさんは、どこかへ向かった……。



――そして暫くして帰ってきた。 



「ジェシカ、せっかくだし、これあげるわ!」 ドサッ


そう言ってまりーさんは、テーブルの上に袋の束を置いた。「ジャラ」というその響きから、私はその中身をさとった。



その中身をジェシカさんが確かめる……、


「あげるって……、なによこの石ころ……、馬鹿にしてんの?」


石ころ……、確かに石ではある。けれど、私は今までにそれを石ころと表現する人に出会ったことがなかったから、ほんの少しの驚きと衝撃を受けた。



「馬鹿にしてないわ! これはね、私が冒険者やってた時に集めた、お金よ!」

「おかね……? なによそれ?」



「これが無いとね、街では暮らせないのよ」


「からかってるの? こんなのどう見てもただの石ころじゃない! なんか汚れてるし……、こんなのなくても私はちゃんと暮らせるわよ!」



「いいえ、暮らせないわ。いい、これがないとコップ一杯の水ですら好きな時に飲めないのよ。飲むと凄く怒られるの。服も貰えないし。家にも泊めてもらえない」


「はぁ……、いい加減にして……、馬鹿にするのにも程がある……、この石ころがないと水が飲めない? 服が貰えない? 家に泊まれない? 意味が分からない……、付き合ってられないわ……」


そう言ってジェシカさんは後ろに向き直り、この場を去ろうと歩き出した。



「あー、待って! これがないと本当に大変なのよ! 本当に!」


そんなジェシカさんをまりーさんが再び引き留める。そして、ジェシカさんは心底うんざりした様子で、まりーさんに目を向けた。



「はぁ……、あのさぁ……、ならさぁ、なんでそんな大切なものを私にくれるのよ」



「えーっと、そうね……、記念に取ってあったんだけど、正直邪魔だからかしら」


「――やっぱり邪魔なもの押し付けただけじゃない!」



「違うわよ! あー、もう、いいから持ってきなさいよ!」


「嫌よ! どうせそう言って、この石ころを律儀に持ち運んでる私を想像して、笑うんでしょ!」



「笑わないわよ! もー、お願いよー、持っていってよー」

「はぁ……、なんなのよ、いったい……、はぁ……、少しだけよ……」


そうして結局、一応はジェシカさんが折れた形で、袋の束から、少しだけ黒みがかった金銀銅様々な色の石ころ――お金――を一握りだけ握りしめて、この場を去ろうとした。







「ジェシカ、村出て行くんなら、とりあえず寄ってきな、剣とか装備とか作ってやるからよ」


「うん、よろしく」



「服とかも新しいのがいるんじゃない?」

「欲しいわ、ちょうだい」

「うん、ちょっと待っててねー」



「果物いっぱい~いる~?」

「いるわ、いっぱい採ってきて」

「わかった~」



「ウィズさん! ゴーレム馬車、頂戴! いつか返すわ!」

「いいよー、好きなの持っておいきー」



「誰か近くの村まで案内して!」

「村じゃないが、ヴェギ王国なら何故か優遇してくれるぞ。案内しようか?」

「うん、お願い」



「もうせっかくだし、ジェシカ……、私の持ってる冒険者道具も全部あげるわ! 大盤振る舞いよ!」


「いらないわ! 邪魔そうだし!」

「もー、なんで私には、そんなに冷たいのよー」




 。。。。。。


そんな感じで、ジェシカさんは一通りの準備を終えると……、


本当に村を出て行ってしまった。それから今まで、彼女がこの村に帰ってきたことは一度もなかった。風のうわさで、今も元気でいるという話は聞くけれど、それでもやっぱり……、



(私のせい……、なのかな……)


という思いは捨てきれない。あの時、彼女が目にためていた涙を思い出すと、今でも胸が締め付けられる思いになる。そんな涙を抱えるのは、今まではいつだって私の方だった。周りに受け入れられないことも、村を追い出されるのも、今までであれば私の方だった――それはとても辛いこと……。どんな事情であれ、私がいたせいで、私がこの村にやってきたせいで、彼女はこの村を出て行かないといけない状況になったことに違いはない。私の存在が、彼女にそんな辛い思いをさせてしまったことに違いはない……。



「ジェシカさんが幸せでありますように」


せめてもの償いに、私は今でも、ジェシカさんの幸せを願っている。それが意味のある行為なのかは分からない。けれど、そうでもしていないと落ち着かない。私はもう、私のせいで誰かが不幸になるのは耐えられない。


だからせめて、私が今こうして幸せであるように、彼女もまた、私と同じかそれ以上に幸せであってほしいと、心の底から思います。


……fin.

村人J「ジャスティス!」 ――ジェシカ

村人S「スピリット~」  ――セフィル

村人T「トラ」      ――トール

村人L「ライオ……ン……」――リオウ

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