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シルバーリング  作者: Yua
87/91

第87話。シルヴィア4「やまない雨はない」雨宿り中なのです。

あのあと私は、まりーさんとセフィルさんに連れられて、二人の暮らす村へとやってきた。そして、依然として恐怖を抱えていたこの時の私は、恐る恐る、セフィルさんが持ってきてくれた桃にかぶりつきながら、どこに連れていかれてるのかも分からないまま、二人の後ろを、この静かな村の中を歩いた。そのどこか殺風景な通りからは、まとまりのない個性的な建物の数々が目に映った。



「おいしい……」


その桃は、甘かった。優しい甘さ。ずっと空腹に、優しさに、飢えていたからなのかもしれない、この時の私には何か抑えられない、こみあげてくるものがあった。



「あなた、それにしてもよく泣くわねー」

「泣き虫さん~」


そう二人に言われて、ハッとした。私はこの二方の前では泣いてばかりで、暗い顔をずっと見せていた。まりーさんの、その何の感情もこもってないような平坦な声を聞いて、私はもしかしたら、何か気分を害してしまったのかと、もしそうなら、これ以上機嫌を損ねてはいけないと思った――この時の私には、この二方にすがるしかなかったから、なんとしてでも嫌われるわけにはいかなかった。



「ご、ごめんなさい……」


だから私は、必死で涙を抑えつけて、二人に謝った。そして、もう泣いてはいけないと、もう泣かないと強く決心した。



「ん? なんで謝るの?」

「何か~いけないこと~したの~?」


「えっ、え、えっと、だって私、泣いてばっかりで……」


分からなかった。本当に分からなかった。この時の私には、この二方の反応の一挙手一投足その全てのことが本当に分からなかった。今までの私の常識とはまるで違う方たち……。その二方の反応に、私はまた戸惑わずにはいられなかった。



「うん? まぁ、でもそうね、あなたって、泣いてばっかりね。――で、それがどうしたっていうの? もしかしてあなたは、泣くことがいけないことだとでも言うの? まさか、そんなわけはないでしょ? 人生、笑うためには、泣くことも必要よー。泣きたいなら好きに泣けばいいし、なんなら誰かを泣かしちゃったとしても別にいいでしょ? 泣けない、笑えない、そんな生き方はしんどいわよ?」


「はーどもーど~」



分からなかった。この時の私には、このまりーさんの言葉が、私を励ましてくれている言葉なのか、それとも今の私を責めている言葉なのか、本当に分からなかった。分からなかったから怖かった。


(とにかく嫌われないようにしないと……)――という思いが大部分を占めていた当時の私は、けれど、(どうすれば嫌われないで済むのか)、(どう接すれば嫌われないのか)、ということに、とにかく苦心していた。私はこの二方との距離を、全く掴めないでいた。



……最近になり、この時の言葉の真意について、まりーさんに尋ねてみた。すると、「何言ってるの? そんなの、何も考えてなかったに決まってるじゃない!」――という、今なら割と予想できる返事が返ってきた。


けれど、それが全く予想が出来なかった当時の私は、何か機嫌を損ねないかとビクビク怯えながら、二人の後を歩いた。



そうしてやってきた場所は、大きな木の前だった。そこの隙間には、人が数人入れる程度の大きさしかない、小さな洞窟のような村長の家があった――この時はまだ、それを家だとは思ってなかった。それもまさか、この村の長の家だとは思ってもみなかった――。


この場所で何をするつもりなのか、何のためにこの場所にやってきたのか、全く分からなかったけど、そこに一人の初老の男性が佇んでいるのは分かった。



「村長ー! この子、保護したわ! ここに住まわせてもいいかしら?」

「住民登録~」


まりーさんのその言葉で、私は、私が何のためにこの大きな木の前まで連れられたのかをようやく理解した。そして、そこの佇んでいた存在が、村長だということも認識した――その時の私は、彼がまさか村長だとは思わずに、とても驚いた――。村長は背筋を伸ばして、目を瞑り、じっと瞑想の姿勢で佇んでいた。外見は、何かの布を纏っただけの、村長と呼ぶには余りにみすぼらしい恰好だった


そんな村長が、まりーさんと、セフィルさんの声に反応して目を見開いて、じっと私の目をのぞき込んできた。



「ふむ、どれどれ、なるほどのぉ……。ほぉー、ほぉー、これはまた随分と……」


何をしているのか、何をされているのか、不思議に思いながらも、私は不用意な、不審な行動はしない方がいいと思って、大人しく村長に目を覗かれていた。そして、それと同時に、この時の私の頭のでは、この後に聞かれるだろうこの村長の質問に答えるために、ありとあらゆる嘘に固められた言い訳の物語を編み出していた。とにもかくにも、彼から何を聞かれたとしても、私の過去を悟られるようなことだけは、なんとしてでも絶対に避けないといけなかったからだ。



そして、ひと段落してから、私から顔を離した村長が、いよいよ私の予想通りに私へと質問をしてきた。しかし、その質問は、私の予想などはるか彼方であざ笑うほどに、予期せぬ質問だった。



「君は、君の恩人様には、もう未練はないのかのぉ?」


何の前触れもなく、あまりにも自然に、村長の口からその言葉がやってきた。まるで、昨日は何を食べたのか? と聞かれたかと思うほどに、自然に、平凡に、そして気軽にそれを聞かれた。



「……ないです」


恩人様……、未練……、これらの言葉に思い当たる節は勿論あった。けれどそれを悟られるわけには絶対にいけないと思った私は、なぜそんなことを聞かれたのかと、戸惑いながら、一時の間をおいて私はそう否定の言葉を発した。



「嘘はいかんのぉ」


村長が確信を持った声色で、そう私になげかけた。その言葉のせいで、私の身体からは血の気が引いた――きっとこの時の私は、それはそれは真っ青な表情を浮かべていたことだろう――。



……本当に馬鹿だと今でも思うけど、本当に本当に思うけど、この当時の私には、あれだけの扱いをされながらも、受けながらも、それでもまだ、あの彼――この世界の人々を苦しめる、魔王――である彼のことを慕ってる気持ちが、ほんのわずかにだったけど、あった。あの時のことは、彼のほんの一時の迷いだったって、次に会えば、また今までのように優しく扱ってくれるんじゃないかって思いが、ほんの少しだけだけど、確かにあった……。



「嘘じゃないです」


けれど、それに気付かれる、どころか、そもそも私の過去など何一つ知られるわけにはいかないと思った私は、それでも否定の、その嘘の言葉を重ねた。



「うむぅ、困ったのぉ、それくらいは正直に答えてくれないとのぉ……、それとじゃ、『シルヴィア』――という、君がその恩人から授かったその名を名乗る間は、この村の長としては、君をこの村に置いておくわけには、いかんだろうのぉ……。」


「――っ!!! な、なんで……、私の、名前……」


それから先は、何の言葉も出なかった。私の心臓がこの時ほど活発に働いたことは、今の今までにもない。私史上最大の動悸と吐き気と眩暈が、この時の私を襲った。



(何で、どうして私の名前、知ってるの……、どこまで私のこと、知ってるの……。何で、何でなの……。どうして……。どうして知ってるの……、どうしよう、どうしよう……)



「…… …… ……」


私のぐちゃぐちゃの頭と乾いた口からは、先ほどまで考えていた嘘の物語や、言い訳の言葉なんてモノは、何一つ出なかった。



「すまんのぉ、勝手に覗いてしまって……。一応この村の長としては、どうしても確認しなくてはならんくてのぉ」


「の、覗いた……? ――な、なにを、ですか……? ま、まさか……、私の、記憶……」


人の記憶を覗くことが出来る存在なんて、私は今まで見たことも聞いたこともなかった。けれど、目の前の存在からは、それくらいのことが出来そうな雰囲気が漂っていたのと、そしてなにより、それくらいのことでしか、私の名前や恩人について知っていることへの説明が思いつかなかった。だから私は、そうでないでほしいという強い思いを込めながらも、そうつぶやいた。



「うむ、その通りじゃ……、本当に、すまんのぉ……」


村長は本当に申し訳なさそうに、私にそう謝ってきた。人の記憶を覗く何か……、とても信じがたかった、嘘であってほしいと思った。でも、私の目の前の村長の本当に申し訳なさそうにする反応が、嘘をついていない人の反応だってことは、流石の私にも理解できた。と、同時に、私は絶望した。ただただ絶望した。


魔王という私のその恩人のために、その恩人に好かれるために、数えきれないほどの罪のない人々を殺めてきた……。そんな私の記憶を知った者が、その後どういった行動をとるかなど、火を見るよりも明らかだった。



(殺される……)


この時の私の常識からすれば、それは間違いなかった。絶対不可避の確定事項だった。それ以外の可能性なんて、私には何一つ見えなかった。


けれどそのことに、事この期に及んだ私はというと、納得していた。こんな私が普通に暮らせるなんて、幸せになれるなんて、そんなことない、そんなこと望んでいいわけがない、当然の結果だと、そう納得していた。



(でも、痛いのは、嫌だなぁ……)


それでも、もし何か一つだけ望んでもいいのなら、普通に殺してほしいと思った――もしかすると、それすらも望んではいけないのかもしれない……。



(火あぶりだけは、嫌だなぁ……)


もはや、この時の私には、この村に置いてもらおうなどという気は消え失せていた。どんな殺され方をするのだろうかと、ただそれだけを考えていた。そして、そんな様々な殺され方が、私の頭の中を巡っていた。


私はこれまで、人間や魔族が、様々な殺され方をするのを間近でこの目で見てきたし、私もそれに加担していた。泣き叫ぶ人間や魔族を、いたぶりながら殺したことだって少なくない。私だけがそうならないなんて、都合のいい考えは勿論ない。覚悟はできていた、出来ていたつもりだった……。けれど、いざ自分の番だと言われると……、怖かったし、逃げ出したかった……。私が磔にして、火をつけて、足元から徐々に火に焼かれ、熱さに泣き叫びながら私に必死に助けを懇願していた、あの知らない女の顔を思い出すと、この時は恐くて怖くて、気が狂いそうだった。


『次はお前の番だ!』――と言う、いくつもの怨嗟が、聞こえて気がした……。



(ごめんなさい……)


私は、この時になって、ようやくあの時の彼女に謝罪した。それは、あまりにも……、あまりにも遅すぎる謝罪だった。これほどの恐怖を、絶望を、今までは私が与えていたのかと思うと、私の中では、後悔という言葉だけでは足りない何かが沸き上がった。そして、それほどの後悔と懺悔の気持ちがありながらも、なおもこの場から逃げ出したいという気持ちが溢れ出ることに、私は私が本当にどうしようもない存在だと、思わずにはいられなかった。



(死にたい……)


楽に死にたいと、楽に殺してほしいと、そんな都合のいいことを、この時の私は心の奥底から真剣に願った。



「あ、あの……、できれば、斬首で……」


私は村長にそう懇願した。すがる思いだった。


『どんな仕打ちでも受け入れます』なんて、口ではいくらでも簡単に言えるけど、実際の立場になると世界が違う。今から直ぐにあなたを火あぶりにしますと言われて、逃げ出さずに受け入れることができる人間が、この世界には果たしてどれほどいるというのだろう……。私には無理だった……。


これだけのことをしてきておきながら、自分は楽に死にたいだなんて、本当に私は、どうしようもない存在だと思う……。けどやっぱり怖いのは、痛いのは……いや……。



「ほほぉ、さて、どうしたものかのぉ」


その探るような村長の言葉に、私は何の反応も示さなかった。示せなかった。私はただ床に敷かれた青い布を見つめて、事の顛末があっさりとした悲惨で終わってくれることを願って、待っていた。



「あのさー、さっきから何の話してるの? 全然ついてけないんですけどー」

「わたしも~さっぱり~」


悲痛な面持ちでうずくまる私の隣から、私とは対照的に、まりーさんとセフィルさんの、何とも場違いで能天気な明るい声が聞こえてきた。



「ていうか、あなたってシルヴィアっていうのねー。そういえば名前、聞いてなかったわ、うっかりね……。あ、ちなみに私はまりーよ、よろしくね!」


「私はセフィル~よろしく~」



そしてそのまま、何とも場違いで能天気な自己紹介をされた。


私は二人にあっけにとられそうになったけど、変わらず何の反応も示せなかった。この時の私の心は、暗く閉ざされて乾いていた。私にこんなに明るく接してくれる彼女たちも、私のことを聞いたら、きっと目の色を変えるに違いないと、当時の私は思った。そして、そうなる時間も近いと、私はそう悟って黙していた。



「まったく、村長もいい年してさ、こんないたいけな少女からかって虐めて、何楽しんでんのよ! みっともないわよ!」


「村長~相変わらず~おちゃめ~」


二人はなぜか私ではなくて、村長のことを責めていた。本当に能天気な人たちだと思った。でも、私の過去をまだ何も知らない二人から見れば、この状況は、私が村長からからかわれて、虐められてる様に見えるのかと思うと、何だか可笑しくて、笑いそうだった。



(村長さえ、いなければ……、よかったのに……)


そんな私の醜い、どうしようもない思いも、同時に生まれていた。そして、おそらく次には、村長の口から二人へ、私の正体が伝えられるのだと思った。



「ほほほ、いやいや、なにやら面白そうじゃったからのぉ、ついついからかってしもうたわい、にしてものぉ、少しばかり悪乗りしすぎたかのぉ、すまんかったのぉ」


しかし、村長の口から出てきた言葉は、私の正体でも、過去でも、糾弾でも、攻め立てる言葉でもなく――本当にまったくもって想像だにもしなかった――、私への謝罪であった。



(……え…………?)


私の思考はそこで完全に、停止した。



「ホント、なーにが村の長としてよ! 村長が村長してるとこなんて、私見たことないんですけど!」


「わたしも~見たことない~」



「ほほほ、みんな優秀じゃからのぉ、儂のでる出番は確かにないのぉ、村長冥利に尽きるわい」



「まったく、シルヴィアちゃん……、こんなにうずくまっちゃって……。あー、そういえば、シルヴィアって名前はなんかダメなのよね? なら真ん中あたりをサクッと消して、シルアとかにでもすればいいんじゃない?」


「しるあ~固まってる~」


そりゃあ、固まりもする。全く理解が追い付かなかった。もう何が何だか分からなかった。なぜ村長が、私の正体について、私の救いようのない残虐な過去について、黙って黙認したのか……、本当に分からなかった。


分からなかったけど、この時私は、私のことを二人に言わないといけない気がした。自分の口でちゃんと言わないといけない、これ以上この優しい人たちを騙してはいけないと思った。これ以上黙り続けてのうのうとすることは、私にもほんのわずかにある、なけなしの良心が持ちそうになかったからだ。



「あ、あの……、わたし、そ、その、ずっと魔王軍にいて、それで、それで……」


魔王軍にいたこと、これはなんとなく許してくれるような気が、ここまでのやり取りで、この二人からは感じていた。だからそれが、以外にもすんなりと私の口から出てきた。けれど、その先は……、恐かった。その先の私を、二人に告げるのが怖かった。


怖くて怖くて……、私は結局、どうしても、どうしても、その先の言葉が出なかった……。そうして、しばらくの間、私は言葉に詰まって沈黙していると……、



「白髪の少女よ、君の名前は、何かのぉ」


急に村長が、かしこまった感じで私にそう聞いてきた。



「え、えっと、シルア……」


私は咄嗟に、その名を口にした。



「ようこそ、シルア。君をこの村に歓迎しよう」


そうして、私は訳も分からないままに、この村の住人となった。その大きく見開かれた私の目には、少しの驚きと、ほんのすこしの喜び、そして膨大な量の混乱がにじみ出ていた。



「あ、なんか村長っぽい!」

「初仕事~」


二人のそんなお気楽な声に、「ほほほぉ、気分がいいわい」――という村長の笑い声が聞こえた。



(えっ……? 何が起きたの……? え……、いいの……?)


突如として現れ、いつの間にかに乗った、生の道。


本当に何が何だか分からなかった。本当に私なんかがこの道を歩いてもいいのか、降りるべきでなのか、許されるのか……、という思いと共に、(降りたくない、生きたい)という確かな思いが生まれ、私の中でせめぎ合った。それに加えて、とても私なんかでは処理できない量の混乱が、私を襲った。自分が自分とは思えなくなるほど混乱して、固まった。


そんな戸惑い混乱して立ち尽くす私に、村長が優しい声色で話しかけてきた。



「ほほほ、白いのよ、死ぬことが償いとなるのは、未熟な魂だけじゃよ。白いのは生きてその罪を償いなさい。けど勘違いするでないぞ、償うとは苦しむことではないぞ。苦しんで償うことは、未熟者のすることじゃ。償うとは、許すという意味じゃ。君は君を、許しなさい。そして、君は君を、愛しなさい」


その村長の言葉を、私は一つ一つかみしめようと頑張った……、けれど、今までの私の常識ではとても考えの及ばない言葉の数々に、私はそれをかみしめる前に面食らってしまった。


それでも、村長が、私の過去を咎めようとしていないことは、なんとなく伝わった。だから私は……、


「私は、まだ生きて、いいの……? ここにいて……、いいの……?」――と、そうすがるように尋ねた。


とにかくその答えが聞きたかった。この時の私は心のどこかで……、私は苦しまなくてはいけない、私は苦しまないと、許されない……、という思いがあった。だから、村長の『苦しまなくてもいい』という甘い言葉の答えを、是非を、私はせかすように求めた。



「ほほほ、いいとも、いいとも」


なんとも軽い感じでそう答えられた。その瞬間に、ほっと一息して安堵した私の気持ちも少なくなかった……、いや、あまりの安堵に気が動転しそうにさえあった。



「で、でも……」


けれど、それを許せない私も、私の中にはいた。私が今までにしてきたこと、それを許してはいけないと、裁かれなければいけないと、訴える私がいた。そうして思い返す私のしてきた数々の残忍な過去…………。


今まさに、そんな私の過去が見逃されようとしているのだと考えると、私の心は張り裂けそうなほどの悲鳴を上げていた。


「ごめんなさい……」――そう言葉をこぼして、私は、苦い顔で、またうずくまった。



「ほほほ、そうじゃな、白いのが今までにしてきたことは、確かに罪じゃな。間違いなく罪じゃ。裁かれなければ、罰を受けねば、それは正義ではないのう。もしそんなことが許されるなら、この世の正義が廃れてしまうことになるかもしれんのう。


けどの、この世界を管理している者はの、いわゆる神と呼ばれる者じゃな、『正義』などという言葉にとらわれ続けるほどに、矮小な存在ではないのじゃよ。神はの、悔い改めた者に罰をお与えになるような正義は、持ち合わせてはおらんのじゃよ。


とても慈悲深いお方じゃ。己が議の存在でありながら、己の議を曲げてでも、人々を愛そうとするお方じゃ。そんなこの世の神が与えぬ罰を、なぜ自身で与えようとするのじゃ? たとえそなたが罪を抱えていようともじゃ、この世の慈悲深い神はの、そなたをも愛しておる。そんな神の慈悲を、愛を、容易く踏みにじるではないぞ」


当時の私は、この村長の言葉をどれほどを理解できただろうか? もしかすると、そのほとんどが理解できていなかったかもしれない。神と呼ばれる存在も、今の今まで一度も信じたことがなかった。


なのに、なぜか私の瞳からは涙が流れていた。止まらなかった。そして、私は生きてもいいのかという、さっきまで抱いていた疑問と恐れは消え失せていた。


『生きよう』――と思った。この時の私にあったのは、それだけだった。



「どういうことなの……、村長が、とても村長しているわ!」

「明日は~雨が~降る~」


私の涙などお構いなしに、そんな二人の明るく元気な声が、私の隣から聞こえてくる。私の心も、それにつられて明るくなりそうだった。



「ほほほぉ、緑のよ、残念じゃが、明日は晴れじゃよ」


明日は晴れる――そんな村長の予言めいた言葉に、私は何の疑問も抱かなかった。きっと晴れる。そんな、来るはずもないと少し前までは決めつけていた明日を、いつしか私は待ち望んでいた。そうして気づけば、私の涙は止んでいた。



……笑っていた。


――私の曇りきっていた心には、この人たちの明るい光が差し込み始めていた。



この人たちとの出会い――それは神が与えてくれた、私への祝福の始まり……、そのほんの序章のことでしかなかった――。




続く……。

「村人D」――Devil、デヴィル、悪魔。ちなみにシルヴィアのヴィは、デヴィルのヴィです。まりーに消されてシルアになりました。


村人S「わたしは~Spirit~精霊~」

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