第86話。シルヴィア3「灯台下暗し」あ、こんな近くにあったのですか……。
「ごめんなさい……」
今の私は、もうどれだけそう呟いただろうか……。
もうどれだけ彷徨ってるだろうか……。
どれだけそう口にすれば許されるだろうか……。
どれだけ彷徨えば許されるだろうか……。
どれだけ苦しめば許されるだろうか……。
いつまで彷徨えばいいんだろう……。
もう、死のうかな……。なんでまだ生きてるの……?
私が生きてる意味なんて、価値なんて、なにもないのに……。
私が生きてる意味ってなに……。
…… …… ……
私が生まれた意味ってなに……。
…… …… ……
私は何が欲しかったのかな……。
――力が欲しかった。力があれば何でもできると思った。……けど間違っていた。力は私を生かしただけで、人を傷つけ、私を苦しめるモノでしかなかった。
『私が欲しいものは力ではなかった』
私は何がしたかったのかな?
力を手に入れて私は何がしたかったのかな?
――見返したかった。認められたかった。優越感に浸りたかった。……けど間違いだった。そんな物を手に入れても、私は満たされなかった。虚しくて淋しいだけだった。
『見返し、認められ、優越感に浸ることが、私のしたいことではなかった』
私を満たすものってなに?
私はなんで生きたいの?
私は何が欲しいの?
…… …… ……
私ってなんだろう?
私は、この世界の誰からも愛されない……。そんな存在……。
私は何が欲しかったの?
私が……欲しかったもの……、
何を求めていたの?
求めていたもの……。
何?
私は……、誰かに……、
――『愛されたかった』――。
私は……、誰かに……、
――『愛されたい』――。
―― ―― ――
「あら? あなた見ない顔ね――って、泥だらけじゃない!」
「ほんとだ~迷子~?」
そう二つの何かが、当時の私に話しかけてきた。
――『殺される』
そう直ぐに悟った。それほどまでに、その二つの圧力は凄まじかった。
「なに、これ……。こんなのが、この世界に、居たの……? でも……、なんで、今なの……」
「えー、なに? こんなの? セフィルのこと?」
「いや~、まりーのことだと思うな~」
でも、どうしてなのか、その二つに攻撃の意思はなかった。
(私が魔族だと、気づいてない? そんなことが、あるのかな……。この私の、見た目で……)
薄汚れた白髪に、淀んだ赤い目、そして、血泥まみれの褐色肌の不気味な魔族――この時代のこの世界で、これらを携えた私に襲いにかからなかった人間は、今までに出会ったことがなかった――。
(なんにせよ……、逃げなきゃ……)
そう思った時には、すでに私は逃げ出していた。けれど……。
「なになに~鬼ごっこ? わたし~強いよ~!」
私が逃げ出した時には、もう既にその小さな緑のなにかが、私の前に回り込んでいた。
(どうしよう……どうすればいい……どうすれば…………、
いや……、もうやめよう……。諦めよう……。この二つには、どうしたって勝てないし、逃げられない……。あぁ、呆気ないなぁ……)
私はそうすべてを諦めて、膝を、腰を、地面につけてうなだれた。
「ははは……、こんな終わり……。せっかく、ここまで……、苦しんで……、ぅ……、せっかく……、ぅ……、答えを……、みつけたのにぃ……」
私の瞳からは、自然と涙が流れていた。この時ほど『死にたくない』『生きたい』と、願ったことは今まで一度もなかった。
「ちょっと、セフィル! なに泣かせちゃってるのよー!」
「え~! 私なにもしてないよ~」
「え、そうなの? なら、なんでこの子は泣いてるのかしら?」
「さぁ~なんでだろ~」
そんな私を他所にこの二つは、これからやってくる絶望に涙を流す私のことを不思議がる。
(え……、もしかして、この人たち……、本当にまだ私が魔族だって気づいてない……? それなら、もしかしたら……、このまま気づかれずに、見逃してもらえたり…………、
いや……、やめよう……。そんなこと、あるわけないし……、それに正直もう……、疲れた……)
「あのぉ……、できれば、楽に……、お願い…します……。痛いのは、やっぱりイヤなので……」
これまで痛いこと辛いこと、いっぱい経験してきたけど、結局それが慣れるなんてことはなかった。やっぱり痛いのはどこまでいっても怖い。この人たちの良心に期待して、私は覚悟を決めてそう言った。
「この子、何言ってるの?」
「さぁ~」
けれど、そんな私の覚悟を他所に、この人たちは依然として、私を見て不思議そうな表情をしていた。
(本当に……、気づいてないんだ……。なら、最後くらいは、潔く……)
「わたし……、魔族なんです……」
この時の私には、もう死ぬ覚悟ができていたし、固まっていた。だからその程度の希望では揺さぶられなかった。それに、そうして私が私の正体をこの人たちに告げたとき、私は恐怖や恐れよりも、どこかすがすがしい思いと、一滴の喜びを感じていた。
「「 ? 」」
しかし、そんな私の覚悟も思いも踏みにじるかの如く、この人たちの私を見る不思議そうな表情は、さらにその色を濃くしていった。
「そうね、魔族ね、いまさら何言ってるの? あ、ちなみに私は人間よ」
「うんうん~まぞく~。私はね~大精霊~」
「で、それがどうしたの?」
「どうしたの~」
「――えっ?」
私は完全に動揺した。この人たちが、私が魔族だと気付いていたこと、それを知りながらも、今こうして私と接していること、大精霊のこと、まったく頭が追い付かなかった。
「え、え……、だって……、私を殺すん、ですよね……?」
「意味不明だわ」
「いみふ~」
「――えっ?」
「「 え? 」」
この時の私には、何が起きているのか分からなかった。人間が魔族である私を殺すことが意味不明だと言う、この人たちのことが、私にとっては意味が分からなかった。
「魔族だと何かあるの?」
「あるの~?」
「えっ、えっと……、だって……、だって……」
そんな当たり前のことを聞かれるなんて思ってもみなかった。こんな常識を、こんな真顔で聞かれるなんて想像もしてなかった。当然言葉に詰まった。なんて言ったらいいのか分からなかった。
「えっ、えっと……、だって……、だって……」
「「 ? 」」
この人たちは相変わらず、不思議そうに私のことを見ていた。そんな己の無知を無知とも思っていない、この人たちの表情を眺めていると……、魔族は人間に害をなす存在で、人間は魔族を見つけ次第、殺しにかかってくること、それはこの時代では仕方がないこと――そんな私の認識が、常識こそがが間違っているのかと疑ってしまいそうだった。
「まぁ、それはよく分からないけど、それにしても、あなたのその銀髪……」
――銀髪――、唐突にやってきたその言葉を耳にした瞬間、私の心臓は跳ね上がった。そして、おそらくその後に続くだろう罵倒の言葉に備えて、私は身構えた。
「とっても綺麗ね! 触ってみてもいいかしら!」
「あ~、まり~、ずる~い、私も~」
――私は固まった。それまでの私の、普通では、常識では、ありえない言葉を耳にしたから、私は自分の耳が本当におかしくなったのかと、この時ばかりは本気で思った。
「え…………、きれい……?」
「ええ、とっても綺麗よ――こんな綺麗な銀髪は、今まで見たことがないわ!」
「私も~」
「……きれ……い? 本当……に……?」
「ええ、綺麗よ! 本当に本当に、綺麗よ!」
……
……
……
「……ぅ……ぅ……うぅ……うぅぅ……うぅ……うぁぁ……あぅうぅ……あぁぁ……」
私は泣いた。いっぱい泣いた。嬉しかったから? ……わからない。私には、あの時の気持ちをどう表現すればいいのか、分からない……。ただ、とにかくこの時の私は、泣いた。
「ちょっと~まり~! なに泣かせてるのよ~!」
「えぇ! なんでよ! 私まだなにもしてないでしょ! 謝んないからね! 私まだ悪くないもん!」
。。。。。。
このあと、私はまりーさんとセフェルさんに保護されて、エルナ村の家族になった。
……fin。




