第77話「三人寄れば文殊の知恵」
村人D「美味い! この柔らかくて優しい風味……それでいて、とても深いこの味わい……うまい!」
僕の隣にいる姉ちゃんが、そうどこかのソムリエや、グルメレポーターかのように、うなり声を上げます。先ほど飲み干したものが、よほど口に合ったようです。
ちなもに今、僕も同じものを飲んでいますけど、味なんてよく分からないです……。まぁ、おいしいとは思います。
「いやー! くろすけの水は、相変わらず美味いなぁ!」
はい、そういうわけで、僕達はただいま、【水】飲んでます。
なんてことない、ただの水です。
僕がさっき水魔法で出した、正真正銘のただの水です。
黒助「違いなんてあるの?」
僕にはさっぱり分からないです。だって、ただの水だもの……。いや、水は好きだよ! 美味しいよ! でも味の違いまではちょっと、分からないです……。
「ある! 全然違う!」
へー、そうなんだねー。まぁ姉ちゃんはそういうの敏感だからね……「私は闇側の存在だから、光には敏感なんだ!」――と、この前言ってました。まぁ確かに水魔法も光属性ではあるけどさ、それで味の違いまで分かるんだから、なんだかすごいなぁって思います。はい。
まぁそれはおいておいて……。
それにしても、水魔法って便利ですよねー。光属性の魔法というのは本当に多種多様にありますけど、その中でも、最も重宝してるのは間違いなく水魔法です。もうね、人間の営みなんて、水のやり取りだと言ってもいいくらいだと僕は思います。
それくらい人間にとっては、水というものは重要なのだと思います。だって、そもそも人間の体自体がほとんど水だし、僕たちが食べる物、飲むものも、そのほとんどが水でできてるし、僕たちが普段何気なく呼吸している空気の中にすら水蒸気が含まれています。
水、水、水、右も左も、上も下も、斜めでさえも……そう意識を持ってあたり一面を見渡せば、その目に映る水の多さというものに驚かされます。この世界は本当に水で溢れています。
くどいですが、水は本当に重要だと思います。この水で溢れた世界においては、水の量と質、そしてその扱い方で、人間や国、さらには文明にまでその繁栄に影響します。
水の流れを見れば、国力が見えるといいます。水の国というのは総じて国力が強いそうです。そして水のない国から狙われ奪われるということも多いそう。そうして起こる戦争も多いみたいです。
そういえばですけど、僕が前世で住んでた国というのも、たしか水がとても豊富な国で、よく外国に狙われて実際に奪われてましたね。そしてそんな外国諸国は、奪っては滅んでましたね。お金を出して土地を買って、合法的に水を奪っている国なんかもありましたけど、結局は滅んでましたね。他から奪えば滅ぶ……まぁ当然の結果ですねー。
まぁ結局です、水はとっても大事! ということです。なのでこのエルナ村でも、光属性を扱える者は水魔法を必ず教わります。まぁ教わる前に、自然に勝手に身に付いてしまっている場合がほとんど見たいですけどね。
まぁそんなわけで、水魔法は、身体強化魔法と避妊魔法とを合わせて三つで、この村の必須科目です。強制する、されるというのが大っ嫌いなこの村においても、それは半ば強制的だと言ってもいいと思います。それくらいに、この村では水を重要視しているということです。
そして、今まさにですね、その大切な水の供給源である雨が、この村ではあまり降らなくなってしまっています。もうずいぶんと長く降っていません。最後に雨を目にしたのは、一体いつの日でしょうか……。
村長が言うには、またどっかの馬鹿がバカをしてしまったせいで、世界のエネルギーというものが減少しているせいだと言っていました。簡単に言ってますが、それは結構な大ごとみたいです。
まぁですが、現在はもうその減少も止まっていて、その反動なのか、むしろ逆に盛り返してるところみたいです。なので現在のこの異常気象は、少し前までの世界エネルギーの減少が、遅れて現象しているのが現状みたいです。
まぁ要するにです、今のこの雨の降らないという異常気象は、ほんの一時的なもので、また直ぐに元通りになるどころか、なんなら盛り返すということです。何も心配はいらないということです。なので僕達村人は、このご時世にあっても、相も変わらず遠慮なく、そしてありがたく水を扱っています。
ですが、隣国さんは、そういうわけにはいかなかったみたいです。どうやら雨が降らなくなった地域というのは、この村だけのことではなかったようで、現在、この村から少し西にあるヴェギ王国では、建国史上最大の深刻な水不足に喘いでいるらしく、なにやら国の存続の危機にまでなっているそうです。
聞くところによると、ヴェギ王国には水魔法を扱える者というのは、ほんの僅かしか居ないみたいで、扱える者も一部の貴族に買収されてしまったみたいで、現在は、もうどこにも水がない状態みたいです。
少なくない餓死者も出始めて、水を奪い合っての紛争、内戦、さらには戦争までもが起きそうな情勢みたいです。ただこの現状下で、もう皆の気力がなくなっているのが幸か不幸なのか、暴動や小競り合いといった範囲で、今のところはどうにか収まっているそうです。……なんていうか、僕が呑気にお風呂に浸かっている間に、僕たちが元気に水遊びをしている間に、その隣では一滴の水を求めて大量の血の雨が降ろうとしてたみたいです……。
そして、とうとうここにきて、ヴェギ王国の国王シャルルさんが、ようやくエルナ村に救援要請を出したみたいです。
ねぇねぇ、シャルルさん…………遅くないですか!? 何でもっと早くに言ってくれないの? 言わないの? 何も知らなかった僕なんて、姉ちゃんと水遊びで盛り上がって、綺麗な虹とか作って遊んでたんだけど……。目指せ七色マスター! とか言ってはしゃいでたんだけど……。
ちょっとだけ申し訳なくなるじゃん! なっちゃうじゃん! あのさー、こっちはさー、心置きなく遊びたいんだから、そういうことはもっと早くに言ってよ!
……って、もしいつかシャルルさんに会う機会があるのなら、そう言ってやろうと思います。
そして、そんなシャルルさんからの救援依頼ですが、村長や村人達はもちろん心良く引き受けました。当たり前のことですが、無償です。シャルルさんは、なにか対価を支払おうと必死になっていたみたいですが、当然お断りです。それでも、何度断っても、シャルルさんは必死に食らいついてきたみたいですが……「誰かを助けたいという村人たちの純粋な気持ちを、どうか汚さないで下さい」――という村長の訴えで、どうにか引き下がってくれたみたいです。
そしてそれから数日、今日もまだ朝が早いというのに、もうすでに少なくない人がエルナ村に来て、水を貰いに来ています。似た顔、見知った顔、毎日のように見る顔というのも随分と増えました。……えっと、大丈夫でしょうか? ヴェギ王国って、そんなに近い距離にありましたっけ? かなりの強行日程なようですが……。
村長は、僕たち村人が直接ヴェギ王国に赴くことも提案したみたいですが、これもまたシャルルさんが必死に拒んだみたいです。なんでも、僕達が行くようなことになれば、暴動の十や二十は起きるみたいです。今の僕達がヴェギ王国へ行くのは、飢えた猛獣達の檻に、兎を投げ入れる行為に等しいみたいです。食べられちゃいます。
そういう訳で現在の僕たちは、(闇属性を扱うため)水魔法が使えない姉ちゃんたちと、最近生まれた子達以外の村人たちは、代わる代わるにヴェギ王国から次々と持ち込まれる大量の樽の中に、水を詰めていっています。
それをですねー……
「んー! キャロさんの水は甘い! とっても甘い!」
姉ちゃんがいろんな所からコップで水を掬って、つまみ飲みをしてソムリエしてます。ちなみに今僕もソムリエしてますけど、違いは分からないです……。うん、水。
村人N「紅葉ちゃんの水の、この儚い味わいが僕は好きさー」
闇属性――死霊使いのネロさんもソムリエしてます。
へー、紅葉の水は儚いのかー。
どれどれ、ごく、ごく…………うん、水!
村人Z「まりーの水は、もはや水とは呼べないわ……。まりー、水ですら過激だわ……」
この人はゾリアさんです。ゾリアさんも闇属性――侵食魔法を扱います。ゾンビさんです。ゾンビさんだけど、怖いものがとっても苦手な人です。この前なんて、知らない間に取れてしまった自分の腕を見て、悲鳴を上げて飛び跳ねてました。とっても面白かったです。
まぁそれはおいといて、どうやらゾリアさんによると、僕の母は水ですら過激だそうです。まぁ、本当にパワフルだからねー。こらなら僕にも分かるのでは? ゴク、ゴク…………うん、水です。
村人D「ヒロ君の水は、意外にも硬い……だがそれもいい! そして、しっかりとしている」
狐君は硬いのか。尻尾はあんなにも、ふわふわもこもこしているのに……確かに意外です。どれどれー、ゴク、ゴク…………うん、水だね!
「でも、硬さは、やっぱりゴルトの水が一番だね! まーじで硬い」
ゾリアさんによると、父の水はとっても硬いそうです。
まぁ真面目さんだもんねー。ゴクゴク…………あ、ちょっと硬いかも?
村人N「でも黒助の水は本当に凄いのさー、軟らかいのにとっても硬い……。優しいのにとっても過激……。サッパリしてるのに濃くて深い……。よく分からない不思議な味さー」
どうなってるのそれ?
でも僕も本当によく分からない……。
何度飲んでみても、何度の見直しても…………水!
味なんて分からない……。
「だね。黒助の水は本当に特殊……なんかね、ゾクゾクする!」
ゾクゾク? え? この人が飲んでるのって、本当に水なんですか? とても水の感想とは思えないんですけど……。あと、ゾリアさん、そんなに見つめられると、僕の方がゾクゾクしますよ? いいんですか?
「ゾクゾク? 私は逆にとっても落ち着くんだけど?」
うん、まあ、落ち着くってのは、何となく分かるかも? ……まぁ水だし。
あー、でも、僕も姉ちゃんといると、とっても落ち着くよー。
「いやだって、こんなにごちゃごちゃしてんのに、とっても透き通ってて綺麗で美味しいんだもん……。私で染めちゃったらどうなるんだろう……って気にならない? 染めてみたくならない? ゾクゾクする……」
――もはや意味不明です。またマニアックな話になってきました。姉ちゃんにネロさんにゾリアさん――この闇属性三人衆が集うと、いっつもこんな感じになります。
「うーん、私で染めちゃうのは、ちょっともったいない気がするかな……このままがいい……美味しい…」
えー、遠慮なく染めちゃってよ! 姉ちゃん、待ってるから! いつでも美味しくして待ってるから! もっと美味しくして待ってるから!
……美味しくするのってどうやるのだろうか?
「あー、確かに……これを私で台無しにしちゃうのは、ちょっと怖いね……。このままでとっておきたいかも……」
えー、いいよ、台無しにしてくれて! また作ればいいんだから! それで作れないっていうんなら、それが分相応だったってだけでしょ? いいよ、そうなったら、またゼロから頑張って作るから!
いやー、それにしてもです、この三人衆、本当に凄いです。ほんと、マニアックです。だって水ですよ! 水! 水を飲んでるんですよ! 水の話ですよ!?
村人Z「まりーの過激なのとゴルトの硬いの混ぜると、丁度いい感じになって、味わいが増すの、不思議ね……。流石、相性のいい夫婦なだけあるわ」
どうやらこの人、水を混ぜて飲むと、その人の相性まで分かるみたいです。なんていうか、本当に凄いですね……。
でもなるほどねー、たしかに僕の両親って、本当に相性いいもんねー。水の相性にも出るんだねー。僕にはよく分からないけどさー。
だってさー、水の水割りって……それただの水やん!
村人D「キャロさんも甘かったけど、リオウさんも負けずに甘い! これを混ぜると唯唯甘い! この二人は本当に甘甘夫婦だ!」
あー、確かに。その甘さの性で、もう既に一回やらかしちゃってるもんね。そういったところは、僕達周りの人で注意して見守ってあげないとだね!
あ、それとちなみにですが、キャロさんとリオウ君の二人は、まだ結婚はしていません。けどまぁ、もう夫婦みたいな感じですねー。
村人Z「ヴィオラちゃんとエリックは、ここまでくると最早、芸術ね……。綺麗な二つのの味わいの曲線が流れるように、そしてそれが段々と自然に交わっていって……美しいわ……」
うん、あの二人って本当に綺麗だよねー。そして、その見た目に負けないくらいに、本当に優しいんだよね……。僕の理想的な夫婦像だと、密かに思ってます……。
村人N「相性なら、ヒロ君と紅葉ちゃんも素敵なのさー、ヒロ君の硬くてしっかりとした土台に、紅葉ちゃんの儚さが飾られて、とっても幻想的になるのさ……。この二人はきっと素敵な夫婦になるのさー」
――素晴らしいです!
きっと沢山の素敵なもふもふ達が、誕生するに違いないです! 僕も二人の背中をどんどん押していこうと思います! 二人の仲が気になります!
……あー、でもやっぱり嫌がられると嫌なんで、がっつり見守るだけにしておこうと思います。
村人Z「黒助はどれとも合うんだけど、どれとも合わないわね……不思議だわ……」
ん? どういうこと?
「うんうん、どれとも最初は合ってるような気になるけど、思い返してみると、くろすけの水だけの方が良かったような気になる……」
なんですか、それは?
……あー、でも何かそういう感じなこと、前世で思い当たる節あるような? 初めは話が合うんだけど、時間が経つにつれて合わなくなってきて、結局一人の方がいいやってなるやつ。
村人Z「そうね、どれも悪くないし、相性もいいとは思うんだけど……。どれも黒助単独だった時の方が私は好きね……。んー、なんていうか、たぶん黒助は、結婚なんて出来ないんじゃない?」
へー、そうなんだ。僕って一生独身かもなんだねー。
けどまあ、別にいいんだけどねー。正直、結婚なんてどうでもいいし。
「まぁ、可能性があるなら、シルちゃんくらいなんじゃない? 二人とも仲いいし」
――姉ちゃんと結婚? うーん、あんまり想像できないです。なんか今とあんまり、というか全然変わらなさそう。なにか変わります? んー、結婚しないと出来ないこともないし、結婚すると出来なくなることもないし……。
「姉ちゃんは、もし僕と結婚したら何かすること、したいことってある?」
まぁ、普通だと子供を作るとかだよね。けど、僕も姉ちゃんも子供はいらないで意見一致しちゃってるし……。他にすることってある?
村人D「うーん、ないな」
やっぱりないよね。普通の人が結婚したらしようって思うこと、もう大体してるし、まだしてないようなことも、しようと思えば今からでも出来ることばっかりです。
なんでか、えっちはまだダメみたいだけど……まぁ、そのうちすると思う。するよね? まぁ別にしなくてもいいんだけど。うーん、それ以外のことは……
「うん、僕もない」
それって結婚する意味ありますか? っていうか、もう実は結婚してるようなもんなんじゃないですか? まぁ、そんな特に意味のない形になんて、ぜんぜん興味ないし、どうでもいいんだけどねー。
「でも、姉ちゃんのことは大好き」
うん、大好き。もうそれで十分だと思う。
姉ちゃんとの関係なんて、何でもいい。
「――そ、そう……。ありがとう……」
……あれ? んー、まぁ一応嬉しそうではあるんだけど、なんだか思ってたよりも反応が薄いような……? それと、一瞬だけだったけど、表情が少しだけ陰ったような気が……。
……ん? もしかして姉ちゃんは僕のこと、実はそうでもない感じですか?
いや、僕のこと流石に好きだとは思うんだよ? 少なくとも嫌われてはいないと思います。でも、何ていうか、もしかして……僕のこと異性としては見れない的な? 弟としてしか見れない的な? ……そんな感じだったりするのかな?
いやもしかすると姉ちゃんだったら、実は心は男で、男性を性的には見れないんだ! だったりもありうるかも? 姉ちゃんって豪快で男勝りなとこあるし、うん、ありうる……。
まぁでも、僕は好きの見返りなんて全く欲しいとは思わないし、それならそれでも全然いいです! 僕が姉ちゃんを好きになれたこと、それだけでもう既に嬉しいことなんです。ありがとう、姉ちゃん!
まぁとにかく、とりあえず何にせよです、僕は姉ちゃんに性の対象としては見られてないということが分かりました。まぁー、薄々気づいてました。だってー、全然えっち誘ってくれないだもん!
でも、そうだとするとです……僕は姉ちゃんのこと、ずっと性的な目で見てしまっていたから、もしかするとそのことで、とても困らせていたのかもしれない……。不快な思いをさせてしまっていたかもしれませんね……。確かに今、冷静に思い返してみると、僕のそういった目には、姉ちゃんはずっと困惑していたような気がします。……僕だけが勝手に盛り上がって、舞い上がっていたような気がします。てっきり姉ちゃんも僕のことを性的に見てくれるものとばかり思って、姉ちゃんのこと、姉ちゃんの気持ち、勝手に決めつけてしまっていましたね……。反省です……。
まぁなんにせよです、僕はもう、姉ちゃんとのえっちは諦めます。きれいさっぱり諦めます。まぁ別にえっちなんて、愛情表現の一つでしかないからね、まぁー、したかったけど、別にいいです。それになにより、これ以上姉ちゃんを困らせる選択は、僕には選べないです。
ですが、何か隠し事をされているというのなら、ほんの少しだけですが、気になります……
「姉ちゃんって、僕に隠してること、ある?」
別に無理をして聞き出すつもりなんて全くないですが、何かあるなら言ってほしいなぁー、とは思います。まぁでも隠すならそれでもいいです。僕は言ってくれる日を待つだけです。
「ある……。けどお願い、聞かないで……」
あ、やっぱりあるんだ。しかも何だか思っていたよりも結構深刻そうな感じ?
なんか姉ちゃんって、いつも我慢とかしないで、ありのまま素直に自由に生きてるように見えていたけど、実は色々と抱え込んでいて、無理とかもしちゃっているのかもしれないですね。
まぁでも、それは姉ちゃんの問題です。姉ちゃんが悩むべき問題です。何もわからない僕が、土足で踏み込んでいい問題ではありません。聞かないでとも言われたんだし、もう何も聞きません。
だって、僕も前世でいっぱい悩んで落ち込んだことあるけど、こういう時に踏み込んでこられるのって、ほんっとうに辛かったんだもん! それに、何にもできない人ほど、なんなら、むしろ自分が困っている人ほど、勝手に心配して勝手に手を出そうとしてくるんだもん! ――「お前ごときに私の何が分かるの? 何ができるの? そうやって私に依存しないでよ! 不安や心配を勝手に押し付けないで! もう邪魔だから消えてよ!」――そんな言葉が喉元まで出っかかっては言えなかった思い出があります……。まぁ、もうどうでもいい話です。
とりあえず、僕はもう何も聞きません。
「うん、分かったー。聞かないよー」――と、僕が言うと、姉ちゃんはあからさまにホッとしたように、「ありがとう……」――と返してきました。ですが、すぐに、「ごめん……」――と言って落ち込んでいる様子になってしまいました。
うーん、僕に隠し事をしている罪悪感? みたいなものなのかな?
……まぁでも、やっぱりよくわかんないし、別にいいです。それに、落ち込んでいる姉ちゃんっていうのも、何だか新鮮で、たまにはアリです。うん、悩んで落ち込んでいる姉ちゃんも、可愛いなぁって思います。
「あー、それと、姉ちゃんが僕のことを性的には見れなかったとしても、僕はぜんぜん気にしないからね!」
たぶん、こんな感じの隠し事なんだろうなぁって思っていたら、つい口が滑ってしまいました。他に思い当たるような節、全くないし。
なので、まぁー、とりあえず、これからは姉ちゃんのことを、まずは家族愛として見ていこうと思います。
「えっ! 何を言ってるんだ!? 私はくろすけのこと、性的に見てるぞ!」
「―――――――!? えっ! え……、見てるの? ……性的に?」
「うん、見てる」
え、普通にびっくりです……。
また勘違いでした……。さっき反省したばっかりなのに、また姉ちゃんの気持ち、勝手に決めつけちゃってました……。反省の反省です……。でも!
「な、なら! なら何で! えっちに誘ってくれないの!?」
ホントに、あれからいつまで経っても誘われる気配がありません。どういうことですか? 実は姉ちゃんってえっちが出来ない体だったりするんですか? けど、そんなことはないと思うんですけど……。だってそういうのって、回復魔法で大概のことは治せるし、なんなら性病だって治せるし。
他にも、姉ちゃんが実は男性の体でしたとか、自分の体にコンプレックスがありますといったこともないと思います。姉ちゃんが成熟した女性の体をしているのは、一緒にお風呂に浸かったりして何度も何度も確認済みです。お風呂以外でも簡単に脱ぎます。姉ちゃんの胸はとっても小さくて、もしかしたら気にする人なんかもいたりするのかなぁ? っていうくらいには慎ましいけど、本人はその小さな胸を気に入ってるし、僕も大好きです。本当に何度も確認してますし、その堂々と見せつけてくる姿からは、とてもコンプレックスがある人のようには思えないです。
そんな感じで、姉ちゃんの身体は、間違いなく健康的な成熟した女性の体です。僕もとっくに成熟してます。そして、そんな二人がお互いに性的に見ています。避妊魔法も、生理が来なくなって楽だからと、お願いされて今でも僕が姉ちゃんにかけてあげています。なので避妊も問題ない……。
そんな僕たちが、えっち出来ない理由……分からないです……。何でですか? じらされてます? からかわれてます? 今の僕のこと見て楽しんでます?
まぁ、それならそれで、別にいいんですけど……
「そ、それは……。お願い、もう少しだけ待って……」
そんな、からかってるような感じでもないんですよねー。これが演技ならホントに凄いと思います。
「うーん? よく分からないけど、待てばいいの?」
「お願い……」
「うん、分かったー。待つねー」
まぁ、別に姉ちゃんと、どうしてもえっちがしたいというわけではないです。しなくても姉ちゃんのことは変わらずに好きだし、一緒に居たいと思います。
それくらいのことは伝えておいた方がいいのかな? 何か我慢して無理して誘われて、そういうことしたくないし……。
「姉ちゃん、よくわかんないけど、ムリとかしなくていいからね。別に姉ちゃんとえっちなんてできなくても、僕は姉ちゃんのこと、好きなままだから」
「――っ! ……うん。……くろすけ、ありがとう。……私もくろすけのこと、大好き」
――――! い、いきなり何なんですか!? そんな真剣そうに……。ふ、不意打ちすぎます……。 けど、う、嬉しいです! すっごく嬉しいです!
「姉ちゃん!」 ダキッ
「――っ! ……ふふ、よしよし」 ダキッ
なんだか勢いのまま抱き着いてしまいましたが、姉ちゃんもしっかりと抱き返してきてくれました。まぁ抱き合うくらいなら、いつも普通にするのでー、まぁいつも通りです。
それにしても、柔らかいです。ありとあらゆる触れている箇所が、本当に柔らかいです。それと、とても甘い匂い……。やっぱり姉ちゃんは女性の体です。間違いないです。気持よくて……幸せです……。
「本当に相変わらず、ヤバイなこの村は……」
僕が姉ちゃんの身体を堪能していると、すぐ後ろの方から、そのような声が聞こえてきました。首だけを後ろに振り向くと、そこには以前に父が魔法で大怪我を負わせてしまったサマエルさんがいました。
なんと実は、今回のエルナ村への救援依頼を国王シャルルさんに進言したのは、このサマエルさんみたいです。その後の、エルナ村との交渉もこのサマエルさんが主導だったみたい。そしてその功績なのか、今はエルナ村の親善大使となって、大変にご活躍中です。
なので、最近こうしてよく会って話します。なんでも、これから国を救う英雄だと、もうすでに国民から讃えられているそうです。この前すごい照れくさそうに、軽く苦笑いを浮かべながら話していました。
「サマエルさん、こんにちは。あれからどう? 国、大丈夫そう?」
この前話したときは、かなり危機的な状況だって言ってたからね。だから、村からは水だけじゃなくて、森で採れる果物なんかも一緒に持って帰ってもらってはいるんだけど、国の状況っていうの、イマイチよく分からないから。
「あぁ、お陰様で何とかなりそうだ。一時は本当にどうなることかと思ったがな……。お前にこの国の存続が懸かってるって、国王に真剣な顔つきで言われた時とか、マジで終わったと思ったぞ……」
へー、サマエルさんは、僕が綺麗な虹を架けて遊んでる間に、国の存続を懸けて奮闘してたのかー。お疲れ様です……。
「それにしたって本当に、人生っていうのは、何があるか分からんもんだな……。 魔王軍で四天王やってる奴が、人間の国の親善大使なんて立派な役職に就いて、人間の妻を娶って、子供まで出来るなんてさ……。こんなの、いったい誰が想像できるっていうんだよ……」
サマエルさんは、そうとてもとても感慨深そうに呟いています。
へー、サマエルさんって魔王軍に居たんだー。そういえば、この世界って魔王がいたんだったねー。忘れてたー。あと、四天王って何? そんなのあるの? なんかかっこいいねー。
ってかそんなことよりもだよ、結婚!? しかも! もう子供までできたの!?
「生まれた子供が魔族だって分かった時なんかは、本当に心配したんだが、今となっては英雄の子だって言われて、チヤホヤされてやがる……。本当に分からんもんだ……」
魔族だと何か問題でもあるの?
ま、いっか。
そんなことよりも、子供かー。
てかもう生まれてるんだねー。
「子供が生まれた時って、嬉しかった?」
「嬉しかったぞ! 本当に嬉しかった……。そのな、俺はな、あの時に自分の人生が変わった瞬間っていうのがな、ハッキリと分かったんだ……。人を愛して、親になった……。そう実感したら、涙が止まらなくなってな……。その後、赤ん坊と一緒に、妻にあやされてしまった……。はは、思い返すとホント恥ずかしいなー! けど、大切な大切な思い出だな……」
そうとっても幸せそうに、饒舌に語るサマエルさん……。家族を守る一家の大黒柱として、これからは頑張るそうです。お幸せにー。
「っていうか、サマエルさんって魔王軍に居たんだねー、ねぇねぇ、四天王ってなんなの? あとさー、魔王ってさ、どんな人なの? サマエルさんは魔王軍でどんなことしてるのー?」
魔王ってどんな人なんだろう? とってもヤバイ奴って聞いてはいるけど、それ以外のことは全く知らないです。何をしてるのかとかも全然知らない。
そのヤバい奴っていうのも、ただそう聞いただけで、もちろん僕が直接見たわけでも、実際に見たっていう人から聞いたわけですらない。悪いと思っていた人が、実はいい人だったなんて、よくあることです。決めつけはよくない!
そして、どうやらサマエルさんは魔王軍四天王というのに属しているみたいなんで、そういった話、いっぱい聞いてみたいですねー。それに、魔王軍に実際に所属している人から話が伺える機会なんて、そうめったにないと思うんで、色々と遠慮なく聞いちゃいたいなぁって思います!
「……ごめん、それは、忘れてくれると助かる……」
あれ? 何だか急に顔色が変わった?
「え? なんで? サマエルさん、魔王軍四天王ってやつなんでしょ? 色々と教えてよー」
まだ辞めたって言ってないし、たぶん今も四天王ってやつなんだよね? なら色々知ってるだろうし、色々教えて欲しいんだけどー。
「違う! 違うんだ! 俺はもう止めたんだ! お願いだ! 見逃してくれ! せめて妻と子供だけでも! あの二人には何の罪もないんだ! お願いだ! この通りだ!」
そう言ってサマエルさんは、必死に頭を下げてきます。
急になにしてるの? なに言ってるの? 何かの遊び? ごっこ遊び? それとも魔王軍四天王だと何か問題でもあるの? そもそも魔王軍四天王って何なの?
聞いてみたいけど、なんか今のサマエルさん、話しかけづらいんだけど……。なのでとりあえず、隣で一緒に聞いている姉ちゃんに聞いてることにします。
あ、ちなみに、ネロさんとゾリアさんは、さっきまでの僕と姉ちゃんの空気に、気を使ってくれたのか近くにはいません。今は向こうの方で、引き続きソムリエを楽しんでいる様子です。
「姉ちゃんは魔王軍四天王のこと、なんか知ってる?」
「知ってる……。人間を殺すことを目的としてる奴らだな……。お前もそうなのか?」
姉ちゃんが少しだけ威圧しながら、サマエルさんを問いただします。どうやら姉ちゃんによると、魔王軍四天王というは僕が思っていたものなんかよりも、なかなかに残虐な集団だったみたいです。
でもー、それならなんで人間を殺すことが目的であるサマエルさんが、普通に人間の街にいるんですか? 確かヴェギ王国が故郷だって、確かこの前言ってたよね?
「違う! いや合ってる……。けど、辞めたんだ! 俺はもう辞めたんだ! たしかに所属していた……。そのことなら幾らでも謝る……。でも、もう辞めたんだ! もう人間には、なんの危害も与えるつもりなんてないんだ! お願いだ、信じてくれ!」
サマエルさんは、そう必死で僕達に訴えます。
うん、まあサマエルさんが過去にどういったところに所属していて、何をしてきたのかについては、よく分からないし知らないけど……今は、人間に敵意や害意がない、どころかとても好意的であることは、ここ最近の付き合いで知っています。
なら別にいいのでは?
「うん、僕は信じるよー。まぁそもそも、サマエルさんに何かする気なんて、始めっからないけどねー。てゆーか、何で謝ってるの?」
そこなんだよねー。僕はただ魔王側の事情が気になったから、教えて欲しかっただけなんだよねー。サマエルさんが魔王軍四天王だったからって、謝られても……あっそ、だから何なの? って感じなんだけど?
別に今、サマエルさんが魔王軍四天王だったとしても、僕は気にしないよ? 仲良くしましょうねー。って感じです。肩書きなんて僕は気にしません。肩書で人を判断するのはナンセンスだと僕は思っています。まぁ、僕もずっと引きニートで判断されて辛かったことあるし。肩書なんてどうでもいい。
けど一方で、隣にいる姉ちゃんは気にするみたいです。依然として、軽くだとは思いますがサマエルさんを威圧しています。魔力に鈍感な僕でも、ほんの少しだけピリピリと感じれるくらいです。それをモロに受けているサマエルさんの顔色は、どんどんと悪くなっていきます……。
「姉ちゃん、止めてあげてよー。サマエルさんは悪い人なんかじゃないよー」
「――あ、あぁ……。ごめん……つい……」
僕がそう訴えると、姉ちゃんの威圧はすぐに収まりました。どうやら本人もあまり意識はしてなかった様子です。
そして、そんな姉ちゃんの無意識の威圧を浴び続けていたサマエルさんはというと、ぐったりとしてしまった様子で、少し経つと気が抜けてしまったのか、そのまま地面に横たわってしまいました……。
そんなサマエルさんに、僕は意味があるのかは分からないけど、とりあえず回復魔法をかけて、コップに水を入れて、温めて、白湯を手渡します。
ぐったりとしながらも、軽く起き上がったサマエルさんは、「ありがとう」――と力なくつぶやいて、ゆっくりと白湯を飲んでいきます。だいぶと疲弊してしまっている様子です。暫くは、すぐそばにある芝生で寝かせて、看病しようと思います。
そんなサマエルさんの様子を見て、姉ちゃんはとても申し訳なさそうにしています。「ごめんなさい」――とサマエルさんに何度か謝っています。そんな姉ちゃんの謝罪に対して、サマエルさんは何でなのかよく分かりませんが、泣いちゃってます。大泣きしています。安心したのかな?
それに対応する姉ちゃんは、何だかとっても気まずそうで、視線があっちこっちいって、あたふたしています。ちょっと面白いです。それとなんていうのか……可愛いです……すごく……。激レアな、激カワです。
それにしても、姉ちゃんって意外と心配性? あんなに誰かを威圧する姉ちゃんは初めて見ました。そんなに気にすることだったかな? 僕が無頓着すぎる? ま、いいや。
それにしても、どうやら僕は姉ちゃんのことについては、まだまだ知らないことがたくさんあるようです。これから少しずつ知っていけたらなぁって思います。なにやら隠し事というものもあるみたいだからねー。教えてくれる日というのが待ち遠しいです。ふふふ、何だかとっても楽しいです。
好きな人がいるって何だかいいですねー。誰かを好きになるって本当に幸せです。毎日、やることなすこと全部が嬉しくて楽しくて幸せです。
幸せすぎて、眠くなってきちゃいました……。
「姉ちゃん、膝枕してー」
ならもっと幸せになっちゃいましょう!
幸せには天井も壁もありません!
どんどん求めちゃいます!
その柔らかい太もも、求めちゃいます!
「うん、いいよ、おいでー」
というわけで、姉ちゃんの太ももに……ダイブ!
柔らかーい……。気持い……。姉ちゃん可愛い……。
眠い、寝るー。おやすみ…………。
。。。
(俺の看病は? あ、いえ、いいです! 大丈夫です!)――サマエル
……fin。
〇 私の独り言 〇
ここまでがプロローグです!




