第75話「案ずるより生むが易し」やってみましょう!
そんなわけで、僕と姉ちゃんは今、大人しく両手を繋いでいます。僕はにぎにぎしたくなる衝動を必死に抑えながら、姉ちゃんと向き合います。
そうして向かい合った姉ちゃんはというと、顔をほころばせながら「ふ、ふっ」――っと鼻で笑っています。どうやら笑いをこらえているようです。……何が面白かったんだろう? ま、いっか。
それにしても、こうして向かい合って手をつなぐのって、なんだか新鮮です。普段、わりと遠慮なく接して触れ合っている僕たちですが、そういえば、手をつないだことって意外にも少なかったように思います。……姉ちゃんの手って、思ってたより小さいなぁって思いました。
村人W「うむ、ではクロ、右手からシルに光魔法を流し込んでみて」
僕たちの様子を、一通り観察し終えたような様子のウィズさんが、では早速! と言わんばかりに、僕にそのような注文を出してきます。
光魔法を姉ちゃんに?
黒助「……えっ? そんなことして大丈夫なの?」
村人W「うむ、分からないから、試してみて欲しいんだ」
おぉ……流石はウィズさんです。可愛い顔してサラッとエグイこと言います。そのうち、【魔術の進歩、発展に犠牲はつきものデース】――なんていう言葉も発してきそうです。僕たちにも、一切の妥協と容赦がありません。
でもそこがなんかいい! やっぱり学者はこうでないと!
村人D「私は別にいいぞ、くろすけ、どんと来い! 全部吸収してやる!」
村人W「うむ、多分シルなら吸収出来るだろう。クロ、さあ早く」
いつもの破天荒ぶりを発揮する姉ちゃんと、それに乗っかるようにして、僕をせかすウィズさん……一見、無表情に見えますが、よく見ると、そのワクワクを隠しきれていません。
まあそれじゃ、まずは本当に軽く……。
ふぅー、集中、集中……。
ぴかー
村人D「なっ! うっ……うあああぁ……あううぅ……っ!!」
え、えーっと、大丈夫? ホントに大丈夫?
こんなに苦しむ姉ちゃん、初めて見るんだけど……。
やめる?
村人D「あううぅ……あぅ……ぅ……」
あ、でも落ち着いてきたみたい?
村人W「おおおーー、凄い! シルの中に入っていった光が、闇になっていく! こんな風になるのか…………」
一刻の驚きを見せた後に、なんだか感慨深そうに僕たちを観察するウィズさん。そうして暫くしてから、「よし! 今度はシル、右手からクロに闇魔法を使って」――と、次のオーダーが入ります。
村人D「えっ! だ、だめだよ、そんなの!」
黒助「僕は別にいいよー。姉ちゃんおいでー」
闇魔法を使われるとどうなるのか……はわかりませんが、そんなことはどうでもいいことです。なんだかワクワクしています。受け入れ準備は万全ではないけど、万端です。さぁ来い!
村人W「さぁさぁ、シル、早く早く」
村人D「うぅ……ぅ……。くろすけ……いくよ……」
この場の流れに観念した姉ちゃんが、そう言って僕に闇魔法を……って! ううぉああ!! なんじゃこりゃあああ! やばい! やばい! 飲まれる! 腕! 腕がああっ!
だめ! 本当にだめ! このままじゃだめ! えっと、闇には、光! そう光! 僕は光。私も光。あなたも光。世界は光。宇宙も光。みんな光。とにかく光。
光、光、光、光、光、光、光、光、光……。
あ……、だんだんとだけど……マシには、なってきた……。よかった……。はぁ……はぁ……。
うん……? あれ? マシになってきたと思ったら……何ていうか……えっ? や、やばいこれ…………気持い……。ちょー気持ちいい……。
えっ…………。めっちゃ気持ちいんだけど……。
村人D「くろすけ……大丈夫……?」
姉ちゃんが心配そうに聞いてきます……。
黒助「うん、大丈夫……なのかな……? すっごく気持ちいんだけど……もしかして、姉ちゃんも、気持ちいい……?」
村人D「くろすけもなんだ……。うん、ビックリするくらい、気持ちいい……」
村人W「す、凄い! すごい! すごい! 回ってる! 回ってる!」
あまりの快楽に、多少の戸惑いと困惑を見せる僕たちをよそに、ウィズさんはなんだかとっても、はしゃいでいます……。でもそんな声も姿も、どうでもよくなるくらい、気持ちいい……。
でも、回ってるっていうのは、分かります……。繋いでる手から、反時計回りに円を描くように、僕と姉ちゃんの魔力が回っています。
僕の白い光の魔力と、姉ちゃんの黒い闇の魔力が、円を描いて行ったり来たりしています。右手で魔力を消費した瞬間に、左手から魔力が供給されます。
いつもなら、少し使っただけでもヘトヘトになり、ぐったりとしてしまうような光魔法の行使も、ここまでは全くといっていいほど疲れてはいない……。まるで、永久機関……。
村人W「すごい、灰色……。いや! 銀色!」
ウィズさんの呟きが聞こえます……。
銀色……。確かに銀色です……。白い光の魔力と、黒い闇の魔力が交わっているところが、銀色に輝いています……。それが、だんだんと広がっていっています……。交わった魔力が銀色の魔力になり、僕と姉ちゃんの間を、円を描いて回りだしています……。気持ちい……。本当に気持ちい……。
もう僕の中にある魔力が、僕のなのか、それとも姉ちゃんのなのか、よく分からなくなってきています……。交わっています……。今、僕は間違いなく姉ちゃんと、交わっています……。おかしくなりそう……。気持ちよすぎる……。
どうしよう……。
壊れるかも……。
村人W「よし! そこまででいいぞー! いやー、凄い、すごかった! ありがとう2人とも!」
どうやらウィズさんは、満足したようです……。
僕達も、その声に従って、とりあえずは止めようとします……。けど、いざ止めるとなると、なんだか名残惜しいような……。でも、これ以上はダメだと、僕の何かが警鐘を鳴らします。その直感に従い、なんとか、止めます……。
刺激が強すぎます……。日常生活に支障をきたすレベル……。この刺激に、この快楽に慣れてしまったら、きっと普通の強い刺激くらいでは、満足出来なくなってしまうと思う……。多分、廃人になる……。
村人D「凄かったね……」
黒助「うん、凄かった……」
たぶん姉ちゃんも、僕と同じ気持ちだと思います。
なんとなく、わかります。
村人D「封印しよっか……」
黒助「だね……」
そして僕達は、この強すぎる刺激には、もう触れないようにすることを決めました。
……が、その後ウィズさんに、たびたびあの銀色の魔力の実験をお願いされてしまって……そして何より、あの快楽の誘惑に誘われて……僕たちのあの決意は、あっさりと折れてしまいました……。
まあ、やりすぎなかったら、いいのかな……? 依存はしないようにしないとね……。薬物中毒ならぬ、魔力中毒なんかには、ならないようにしないとね……。
。。。
そうして、たまーに姉ちゃんと繋がりながらして、しばらくの日を過ごした結果、今のところ懸念していたような、思っていたようなデメリットはまだありません。
変わったことといえば、僕は刺激に敏感になったように思います。最近では、姉ちゃんと手を繋いだだけでも、軽く快楽を感じます……。
程々にしないといけないなぁ……と思います……。
○ 私の独り言 ○
皆さんは本って読みます?
読書ってします?
私はまーったく、しません!
私が今までに最初から最後まで読み切った本は、学校の教科書とか、ラノベとか、漫画とか、ゲームの攻略本、雑誌、新聞、なんかをぜーーんぶひっくるめても、たったの1冊だけです。27年間で、1冊だけ……。逆に凄くないですか?
そして、その1冊というのは、【あるヨギの自叙伝】――という本です。たしか19歳か20歳か21歳? あたりの頃に出合って読みました。疑問形なのは、そのころの記憶が曖昧だからです。なんでそれを読もうと思ったのか、なんで最後まで読んだのか、そして、その本がどんな内容だったのか、といったことも全くと言っていいほど覚えていません。
まぁ何にせよ、私はその本を最初から最後まで読みました。そしてそれ以来、私は一切、本を手に持ったことがありません。もしかしたら、知らず知らずに何かを読んだことがあったかもしれないけど、記憶してる中では一冊もありません。
本を読むのは小さいころからとっても苦手でした。そのせいなのか、学校のテストでは、国語と英語と歴史の点数がつねに壊滅的だったことは、今ではちょっぴりいい思い出です。ですが、私は決して文字を読むのが苦手というわけではないんです。本を読むのが苦手なだけなんです。他人の思考に依存するのが苦手なんです。
周りの人を見ていると思ってしまうんです。あの人は本当に自分で考えて言葉を発しているのかって……。誰か自分よりも偉い人が言った言葉を、本に書かれていた言葉なんかを、なぞっているだけなんじゃないかって……。そして、そういった他人の考えに、思考に、依存しているだけなんじゃないかって……。
私は、自分で考えるのが好きだし、それがとっても楽しいんです。
私は周りの人間よりも優位に立って、マウントを取るための情報が欲しいわけでも、この世界で賢く生きるための方法が知りたいわけでもないんです。
「私が知りたいのは、真実なんです!」
。。。。。。
ってな感じでー、あの本手に取った記憶ある~。
なんか、なつかしいなぁー。
それにしても、真実かー、あの本にそんなの書いてたかな?
ほんとに忘れちゃったからねー。きれいさっぱりー。
また読み返そうにもなぁー、この本めっちゃ分厚いし、すっごく文字小さいし……。ホントさー、よく読めたよね、あの頃の自分。
本当に、なんで読んだんだろう?
不思議ー。
休憩~。
ちょいとあの本、読み返してみますかー!
本を手に持つの何年ぶりだろうw




