第64話。魔王軍12「嘘から出たまこと」嘘は嫌いなのです!
ここでは俺の精神だけが磨り減っていく……。癒しも全くない……。
「ハンナさん、俺、故郷に帰りたいです……」
その言葉が、思わず口から出てしまった……。そして、俺の口から出てきてしまった言葉を拾ったハンナが、俺の故郷を、俺がどこから来たのか、どこに帰りたいのかを聞いてきた……。
魔王領からきた、とは間違っても言えるはずもなく……焦りに焦った俺は、咄嗟にヴェギ王国だと言ってしまった……。つい最近までは、そこを滅ぼそうとしてました! なんて、死んでも言えない……。
ていうか正直、もう終わっただろ……。ヴェギ王国がどんな国だとか、なんにも知らないぞ……。もう次に聞かれる質問には何も答えられない……そんな自信があるぞ! もうどうしたって取り繕えないぞ……。あぁ……とうとう、終わったな……。
いつか終わることは、当然ながら知っていた……。意外と長かったと思う……。今の今まで、誰も俺の素性を聞いては来なかった……それどころか親切にしてくれた……。俺がこうやってボロを出さなければ、まだまだいけたんじゃないかとも思う……。けど、もうそれも終しまいだ……。覚悟を……決めよう……。
。。。
だが、どうやら俺の咄嗟の嘘が疑われることはなかったらしく、それどころかむしろ、何故か話はとんとん拍子に進んでいって、なにやら結局、今から俺を本当にヴェギ王国まで送っていってくれることになったそうだ……。
何が起きたのか、当の本人である俺は、全く理解できていない……。とりあえず、あのヤバい赤髪の男が責任をもって、俺をヴェギ王国まで連れて行ってくれるそうだ……。
あっ! いや、あの、一人で行けます! 一人にしてください!
とは、とても怖くて言えなかった俺は、今、隣にいる赤髪のヤバイ男と一緒に、ゴーレム馬車とかいうヤバイ乗り物に揺られながら、ヴェギ王国へと赴いている……。
そしてそのまま、なすすべもなく、ただただ揺られ運ばれているうちに……あっという間に、ヴェギ王国についてしまった………。
そして、ヴェギ王国についてから、俺は身元について何度も何度も丁寧に調べられた。だが結局、俺の身元が判明することはなかった……。
当然だ……。嘘なのだから……。身元が分かったら逆に驚くわ……そいつは誰なんだ! ってな……はは……。終わった……。もう無理だ……。さすがにもう無理だと思う……。
なら、もういっそ、玉砕覚悟で逃げ出すか?
今なら脅威と呼べる存在は、赤髪のヤバい男と数人の門番くらいなものだが、その赤髪のヤバい男と門番たちも、何やら話し込んでいて、今はこちらに注意を向けていない……。どうする……。逃げ出すなら、今しかない……。
いや、やめよう……。やめておこう……。正直なとこ、逃げ出せる確率は低い……。それにもし逃げきったところで、行く当てなんかない……。というかもう、疲れた……。もう、そんな気力も出ない……。もう、なにもしたくない……。
そうして長い時間を門所でうつむいて、ふてくされていた俺は、呼ばれた……。なんと! 国王に呼ばれた……。今から俺は、王城に向かうそうだ……。
はぁああ! いやいや、国王って! なんで? ただの一人の身元不明人に対して、普通そこまでするもんなのか!?
いや、まて……最近、色々あって忘れがちになってしまうが、俺って……魔王軍四天王じゃん……。全然ただの普通の身元不明人じゃないじゃん……。もしかしてバレたんじゃ……。ていうか国王に呼ばれる事態なんだ……まぁ、バレたんだろう……。
終わった……。今度こそ、本当の本当に終わった……。
そうして今、俺は処刑台へと向かう処刑人の心持で、門番に王城へと連行されている……。隣にはヤバイ赤髪の男も寄り添っている……。
何の色も声も匂いも、脳裏には残らない……。
俺はうつむいて、ただただ道を歩いた……。
。。。
それからのことは、悪いがあまり覚えていない。
王城について、少ない時間を王城で過ごし、国王にあって、黙って話を聞いて、そして話が終わった。そんな感じだった……。だって、どうせ何をしたって、話したって、もう詰んでるんだし、終わってるんだから、何もする気なんて起きない……。もう、どうでもいい……。
だがしかし、間違いなく終わったと、詰んでると思った俺の人生だったが、どうやら、それでもまだ終わってはいなかったらしい……。
なんでも、あのヤバイ赤髪の男が、随分と俺を庇ってくれたそうだ……。なんだろう……少しだけ、嬉しくなった……。
そしてどうやら、ヤバイ赤髪の男の頑張りで、俺は処刑されるなんてことにはならないらしい……。っていうか、それどころかなんと! 俺はこの国の身分までも、もらい受けてしまった…………。マジかよ……。流石の流石に、これは本当に意味が分からない……。何もんなんだよ、あのヤバイ赤髪の男……。ていうかいいのか!? 本当にいいのか?
もう、何が何だかで、訳が分からなくて、俺が混乱を極めているうちに、ヤバイ赤髪の男は村に帰ってしまって、俺は一人残されたわけなんだが……。
なぜか不思議と歓迎されている……。何故か優遇までされている……。何故……? 本当になんで……? ぶっちゃけ怖いまであるよ……。
なんでも、この国は、エルナ村をとっても優遇しているそうだ。王命だそうだ。でも、いくらなんでも……俺、魔族なんだけど……何なら、四天王……なんですけど……。
そういったことも、もう思い切って、勢いでぶちまけたが……。どうやら、そういったことも関係ないらしい……。エルナ村から来たものは、何でも優遇するらしい……。
どうなってんだ……。てか、いいのかそれで……。
。。。
まぁ、そういうわけで、なんにせよだ、俺は今、ヴェギ王国に住んでいる。街のみんなには国王からもらった証明書もたいなのを見せたら、とても歓迎された。職も頂いたし、家まで貰った。他にもいろいろと恵んでもらった。本当に感謝している。
それに加えて、今は……気になっている女性もいる……。もう肉体的な関係まで持ってしまっている……。我慢できなかった……。可愛いなと一目見て思った瞬間に、誘ってしまった……。襲い気味だったと思う……。我ながら本当に酷いと思う……。
だがそれでも、受け入れてくれた……。本当に嬉しかった……。本当に本当に嬉しかった……。ただ受け入れてくれるというだけのことが、こんなにも嬉しいことなんだとは知らなかった……。
魔王四天王の座についてからは、言い寄ってくる女も多かったし、それはもう沢山の女を抱いてきたわけだが、この時ほど気持ちよくて、幸せを感じた行為はなかった……。嬉しさと感謝で泣きそうになった……。
それからは、彼女にどうにかして、この感謝を返したいと思って、彼女のこと、彼女がしたいこと、好きなこと、少しでもたくさん見つけようと目を光らせて、とにかく優しさと愛情を持って彼女と接しようとした。いや、どちらかというと、接しようとしたわけではなくて、気づけば、自然とそう接していた。
すると、ある日の行為中に彼女から言われた……
「カビエルさん、ありがとう……大好き……」
泣いた……。大泣きした……。嬉しくて泣いたのなんて、初めてだ……。それも大泣き……。俺は彼女が大好きなんだと、愛しているんだと、この時、はっきりと自覚した。感謝を返そうと思っていたのに、また、もらってしまった……。さらに増して、涙があふれてくる……。
彼女からは心配された……。
俺も大好きだと伝えた……。
愛してると、大泣きしながら伝えた……。
彼女もつられたのか、泣いていた……。
二人で泣きながら、抱き合った……。
本当に幸せだ……。
。。。
俺はこの国に住もうと思う。彼女とも付き合って、いずれは結婚しようと思う。魔王軍? そんなものはもう知らない。もう辞めた。
俺は決めた! 俺はこの国で第二の人生を生きてゆく!
fin
○ 私の独り言 ○
闇も照らせば、光になります。
闇を消す必要などありません。
照らせば良いのです。
闇を消すのではなく照らすのです。
闇を嫌うのではなく愛するのです。
闇も愛せば、光になります。
闇を嫌う心は、闇の心なのですよ。
闇を嫌う気持ちは、闇の餌なのですよ。
気をつけるのです!




