第62話。魔王軍10「逃げるが勝ち」でも、ボスからは逃げられないのです……。
翌朝。
俺は普通に目を覚ました……。いや、疲れ切っていたせいなのか、今までにないくらいにぐっすりと眠ってしまった俺は、とてもサッパリな気分で目が覚めた。
生きている……。本当に本当に、不思議な感覚だ……。
そうしてしばらくの間を、空っぽな、夢うつつな、放心状態で氷ついていた俺だったが、しだいに、徐々に生きている実感が戻ってきた。それに伴って、だんだんと今自分の置かれている現状も、よみがえってくる……。いろんな不安というものが、一気に押し寄せてくる……。
どうしようか……。どうするべきだろうか……。これからどうなるんだろう……。どうなってしまうんだろう……。いろいろ聞かれるだろうか……。なんて答えたらいいんだ……。魔族だってばれないだろうか……。ばれたら…………。
不安は次第に恐怖に変わっていく……。
そんな気持ちを紛らわすように、俺はあたりを見渡す……。部屋にはまだ誰もいない……。落ち着いた部屋だ……。ベットが三つ、縦に並んでいる。朝日がまぶしい……。
「寝よ……」
。。。
次に目覚めたとき、近くにはハンナとかいう女がいた……。俺は、「少し……外の空気を、吸ってみたい……」と言った。
このヤバい女と、その場に一緒にいたくないという思いもあったし、なにより、少しでも情報が欲しかった。
何か気に触らないかとビクビクしながら言ったが、言葉を濁しに濁したのが功を奏したのか、ハンナはいやな顔一つせずに、俺の外出をあっさりと許可した。
そして、とうとう部屋の外に出た俺の、いの一番の感想、そして口をついた言葉は、「普通の村だな……」――だった。
特別に大きな建物もなく、目に映るのは、ぽつりぽつりと建っている、石や木でできた小さな建物と、多種多様な植物だけ。建物も少なく、大きな木がそこら中に立っていることから、おそらくは、まだまだ開拓中の村なんだと思う。
耳を澄まさなくても、聞いたことのない鳥の鳴き声や、名前は知らないが聞き覚えのある虫の音なんかが、勝手に耳に届いてくる。それと、遠くの方で、子供たちがはしゃいでいる声なんかも聞こえてくる。
気づけば俺は、そのはしゃぎ声の方へと歩を進めていた。ほとんど無意識だ。特に意味はない。つい気になってしまったから、そっちの方へと向かっただけ。
そして、しばらく歩いて、その場へとやってきた。ここからは、数人の子供たちと小さな精霊が遠目に映る。
遠目から見たその場の状況から察するに、どうやら子供たちと小さな精霊は……戦争をしているらしい…………。
いや、戦争は少し言い過ぎた……。あまりの現場の激しさに、ついそう言ってしまった……。
よく見てみると、子供たちが束になって、必死に小さな精霊を追いかけまわしている。おそらくは、精霊狩りの最中なのだろう。そして、俺は今、木々の隙間から、それをひっそりと観察している……。
「攻守こうた~い。それじゃ~行くよ~まずは~」
「姉ちゃん! そっちに行ったよ!」
「なに! こっちだと!」
「捕まえた~」
「くうぅーーー!」
「次は~そこだ~」
「紅葉ちゃん! 僕に捕まって!」
「わーー! ヒロト君、速いーー!」
あれ? 子供達が小さな精霊から、逃げ回っている? 人間狩り?
いや、そんなことよりもだ……ヤバイ……ヤバイ……ヤバすぎる……。なんなんだよ……。なんなんだよ、この光景は……。ありえないだろ……。
今も子供たち一人一人が、とんでもなく恐ろしいスピードで逃げまわっている……。全く目に追えない……。それと、たまに反撃でもしているのか、魔法のようなものが物凄い勢いで飛び交っていて……それに触れた木々や地面が、えぐれている……。
一発でも当たれば、俺なんて一瞬で吹き飛んでしまいそうな……そんなものが、そこら中に、何の気もなく飛び交っている……。
それなのに……あの小さな精霊は何てことのないように、子供たちを次々に捕まえていく……。開いた口が塞がらない……。
昨日、逃げなくて本当によかった……。こんな化物達から逃げられる、そんなこと……あるはずなんてない……。
そんなことよりも、ここは本当に危険だ……。離れなきゃ……。この場から、今すぐ離れなきゃ……。
。。。
「くろすけ~捕まえた~。ん~? あれ~?」
「ふ・・・、残像だ」
「あ~こっちから声~。つっかまえた~」
「あうっ」
「黒にい……。でもその気持ち、わかる……」
。。。
後で聞いた話だが、どうやらあれは、鬼ごっこという遊びだったらしい……。
逃げ役になるのだけは、勘弁したいものだ……。
もう逃げ出そうだなんて、絶対に思わない……。
〇 私の独り言 〇
無邪気に遊ぶのって、何歳になってからでも楽しいですよね。
邪気が無いのだから、楽しいのは当然ですね。
大人だから無邪気に遊べない、なんて言う人もいますが……。
邪気を取り込むことが、大人になるということではないのですよ?
恥ずかしさ、不安、心配、なんかを取り込んで大人ぶる姿は、なんだか面白いのです。私にはそういった人こそ、子供に見えるのです。
無邪気に遊ぶこともできない大人は、大人なんかではないと、私は思いますよ。




