(11)
"決闘"………普通に生活している上ではまず縁が無いその言葉に、そこにいたほぼ全員が唖然とする。
曲もとっくに終わりを迎えていて、部屋には一部のクラスメートによるざわめきだけが聞こえる。
「え、決闘って……えっ? 」
「決闘ってあれだろ? よく映画とかで見る、ピストル持った2人が反対側に歩いてって、10歩目で同時に撃つやつ……」
「あの2人の間に何かあったのか? 」
「つーかジュース溢れそうだったんですけど。皆の服とかスマホとか濡れたらどうするつもりだったん? 」
永井は、それらに耳を傾ける気配も無く、私をじっと見つめたまま、差していた指を眼鏡のブリッジに 持っていった。
いや大袈裟すぎない? 私ただ勧誘を断っただけなんだけど。
そんな一方的に「決闘を申し込む」とか申し込まれても、私受けないよ? 都合を押し付けられる筋合いはないはずだ。さっさと願い下げしていただけないだろうか。
「……付き合ってらんない」
呆れて言いながら立ち上がった、その時、
「あれっ? 誰も歌わないの……? だったら詩音もっかい歌っていい? 」
気まずい空間を破ったのは、詩音の一言だった。
でかした詩音! そのまま皆の気を引いて、この最悪な雰囲気を何とかしてくれ! ……そう思ったのも束の間
「オイ芳村、邪魔すんなって! 何か知らんけど面白い事始まりそうだから見てよーぜ! 」
マイクを取ろうとした彼女は、隣に座る男子に腕を掴まれ、あっという間に席に引き戻された。
詩音も詩音で、無抵抗で席へと戻されていく。
ちょっと余計な事しないで! 何で急にワクワクし始めてんだよ!
私の淡い期待は、一瞬で掻き消された。
てか決闘つったって、何で勝負すんの?
カラオケだから普通に点数勝負とか? それだったら恐らく私瞬殺されると思うんですが。
ただでさえ音痴なのに、相手は何でもそつなくこなせる永井。きっと歌も上手いんだろう。知らんけど。
そんな事を考えていたら、永井がフラッとよろけた後、一息置いて口を開いた。
「お前の事だから、歌の点数で勝負するなどと安直な事は考えていないだろうが……」
あれ、違ったみたいだ。
「まぁ一応簡単なルール説明をしておこう」
机に手をつきながら言うと、永井はわざわざマイクを口に当てた。普通に伝えればいいのに。
「ルールはズバリ‼︎ ここにいる愚民共の心にどれだけ響かせられるか……パフォーマンス勝負と行こうじゃないかッ‼︎! 」
そのまま、女声で歌っていた男子からマイクを強奪し、そのルールとやらを声高に叫んだ。
ハウリングが凄くてよく聞き取れなかったが、要は歌うなり踊るなり好きにしろと、そういう事か。
ますますくだらない。参加するメリットがまるで無い。
というか、そもそもここに来たのだって、冬架から誘われて仕方なく来ただけだし。
「……もしお前が勝ったら、僕は今後一切お前に干渉しない」
マイクを私の方に向けて、普段の低い声で言い放たれる。
そうしてくれると助かるんだけど、何と言われようとも決闘はしませんからね?
私がマイクを見つめて黙っていると、
「だが負けた場合……次期生徒会に加入する事を約束してもらおうッ‼︎! 」
再びマイクを口元に持っていき、よく響く高々と した声で叫ぶ。
そしてハウリングが凄い。もっと高品質のマイクは無かったのか。
クラスメートからの視線が、私に集められる。
「ねー、やっぱ詩音うたーーームグッ」
「オイ待て待て、今いいとこだから」
気まずい雰囲気に耐えきれなくなったか、ただ何も考えてないか分からないが、詩音が歌う意思を見せるも、近くの男子たちに手や口を塞がれ、あえなく撃沈した。
「先手必勝だ、僕から行かせてもらおう」
そう言うと同時に、リモコンを操作して曲を入れる永井。
私の是非が尊重されるーーーそもそも発言さえさせて貰える事なく、世界一どうでもいい決闘が、ここに開幕してしまった。




