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空気少女のトラブルダイアリー  作者: しろまる
第2話:「決闘だ」? 私音痴なんですけど。
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(10)


 5分後。

 そろそろ冬架の歌も終わった頃かと思い、カラオケボックスのドアを開け、何気なくさっきの場所に腰を掛けた。

 冬架はちょうど今歌い終わったところらしく、クラスメートたちから拍手喝采され、本人は照れ臭そうに頰を赤らめていた。

 よかった、グッドタイミングで帰れたっぽい。


「あっお帰りマナちゃん! 私みんなに褒められちゃったんだ〜。加藤君なんか「千年に一人の天才歌姫だ! ぜひウチの事務所に来てくれ! 」って言ってくれたし」


 私に駆け寄った冬架が、嬉しそうに飛び跳ねながら言った。

 千年に一人ねぇ……一千年前の天才歌姫って誰なんだろう? そもそも一千年前の音楽ってあんなロックな感じだったのか?

 盛りすぎてまで絶賛するほどの歌声かぁ。


「……ちょっと聞いてみたかったな」


 そう、うっかり呟いてしまったのが間違いだった。

 その呟きに反応した冬架が、カゴの中から2本目のマイクを取り出し、


「じゃ、一緒に歌う? 私まだ曲入れるつもりだし」


 笑顔で私にマイクを差し出す。ピンチ再来。


「あ、えーっと……私は……」


 目を左右に彷徨わせ、ハッキリとした応答ができずにいると、


「あ、久我ちゃんマイクパース! 次コイツが歌うみたいだから! 」


「は? 何で俺が歌うことになってんだよ⁉︎ 」


「男に二言はない! 男気ジャンケンで負けた奴は次の曲をフルパワーの女声で熱唱するって約束だろ? 」


「えぇ……マジでやんのかよ」


「おいおい男気ねぇぞ高橋〜。ってなわけで、マイク

 2本ともこっちくれる? 」


 ワイワイ騒いでいた男子グループが、嫌そうにしている一人を冷やかしつつ、冬架にマイクを要求した。冬架はその声を聞き、笑顔のまま「どうぞどうぞ〜」と、持っていた2本のマイクを男子に手渡した。


 詳しい事は知らないけど、とりあえずナイス。

 再び音痴がバレそうになったが、まさか男子の下らない罰ゲームに救われる事になるとは。

 心の中で、ほっと安堵の溜息をついていると、


「……フッ、命拾いしたな」


 本日3度目、もう聞き飽きたとまで言える低い声。

 そこにはグラスを持った永井が、壁にもたれかかりながら、ワインでも吟味するかのように、ジュースを飲む姿があった。

 ……ピーチジュース? 珍しい物飲んでるなぁ。

 思わず振り返ってしまった、しかも目を合わせてしまうっていう。

 私は聞こえなかったフリをしてスマホを取り出し、何となくニュースアプリを起動した。


「奇遇だな。まさか水園も来ていたとは」


 気づいてなかったんだ…思い切り真向かいにいたんですけど。

 まぁ気づいてないなら気づいてないで、今みたいに謎に絡まれることも無かったんですけどね。


「永井君もね。真面目そうだから、カラオケとか行かなそうなイメージだったけど」


 スマホを見たままで、簡単に話を繋いでおく。


「ったく……生徒会の書類を今日中に終わらせておきたかったのだが、無理やり引っ張られてな。

 これだから落ち着きのない愚民は……」


 そう言って、芝居掛かったように溜息をつき、再びジュースを口に含む永井。

 愚痴ってるつもりなのか? まぁとりあえず、彼も私と同じように、人付き合いとして連れてこられたクチということか。


「永井君、何か曲入れる? 」


 これ以上、どーでもいい愚痴を黙って聞くつもりはないので、スマホでテーブル上のリモコンを差し、

 永井に向き直った。


「フン……人に歌声を求める時は、まず自分からーーじゃないのか? 水園よ」


 人に名前尋ねる時みたいに言うのやめろ。

 凄い勝ち誇った表情で「キマった……」って雰囲気出してますけど、あなた大分メチャクチャな発言してますからね?


「まぁ、神より授かりし"天命(デスティニアス)調和(ハーモニー)"を拝聴したい、その気持ちはよく分かる。だが済まない。僕はクラシック以外聴かない主義なのでな」


 あー…何かそんな事言ってたな。

 そして発言がイタすぎる。"天命調和"とか(笑)。

 本当にコイツ医者の一人息子か? 一回親御さんに

 本格的に治療してもらった方がいいんじゃ?


「そうだ、1つお前に話があるんだが……」


 手に持っているグラスを机にコトと置き、ふと思い出したように永井が言った。

 このセリフが出た時は、大体碌な目に合わない。言われた回数は少ないのだが、何となく察せるレベルである。


「生徒会に入ってくれーーー」


「入りません」


 ほらやっぱり。


 私は光の反応速度で、キッパリと断った。

 懲りないなぁ本当に。「入らない」と、今日の昼にあれほど断ったのに。


「ま、またしても……」


 脳天に重りが落とされたかのように、ガクッとその場に崩れ落ちる永井。白々しいったらありゃしない。


「私が言った事、覚えてない? あなたの勝手な考えを押し付けないでって。チカラとやらも持ってないし、あなたの我儘に付き合うつもりもありません」


 あくまで表情は変えず、静かに言い放つ。

 音源や歌声、喋り声などが響く中、本人に聞こえる程度にはハッキリ話したつもりだ。


 何だろう……最近はやたらと言葉がスラスラと出てくるな。立て板に水のように、言葉が次々と溢れ出してくる気がする。

 立て続けに面倒な目に遭ったら、自然と慣れてこうなってしまうものなのか? 凄く複雑な心情です。


 永井はしばらく意気消沈した様子だったが、やがてフラフラと力無く歩き出した。かと思えば、



 ーーーーダンッ‼︎‼︎



 彼の握り拳が、机を強く振動させた。机上に置いてあった物が跳ね上がり、そのまま着地した。

 突如響いた音に、そこにいた全員がーーーー詩音でさえもシーンと静まり返り、カラオケ音源だけが流れている。


「……ならば仕方ない」


 一同が注目する中、永井が静かに口を開いた。


「……水園 マナ!! 僕はお前に"決闘"を申し込む‼︎! 」


 次の瞬間、彼は頰を紅潮させて私を指差しながら、高らかに宣言した。

 クラスメートの戸惑いの目が、私と永井へと交互に向けられる。



 ………もう勘弁してください。

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