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空気少女のトラブルダイアリー  作者: しろまる
第2話:「決闘だ」? 私音痴なんですけど。
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(9)


「それでは皆さんご一緒に……カンパーイ‼︎ 」


「「カンパーイ‼︎ 」」


 ジュースの入ったグラスを持った男子生徒が、勢いよく音頭をとり、それに続いてグラスがカチャンとかち合う音がする。

 結局このカラオケボックスに、樹林高校の男子5人と女子6人、計11人の生徒が集まっていた。

 

「……男子もいたんだね」


 冬架も知らなかったらしく、目をパチクリさせながら苦笑いしていた。

 ただでさえ大人数でワイワイとかしたくないのに、まさか男子たちも一緒だなんて……。


 何とか平静を装っていたものの、当然テンションはどん底だった。

 しかも今回は、そこそこ長い2時間コース。

 2時間もこの空間で耐え忍ばなければならないのかと思うと、さらに気持ちが重くなっていった。


 さらに最悪なことに、私の向かいの席に座っていたのは、色んな意味で印象に残っているアイツだった。


「なあなあ、会長も何か曲入れたら? 」


「……フン、僕はクラシック以外聴かないんだ。大体何ゆえ選ばれた存在であるこの僕が、こんな愚民共と戯れなくてはならないんだ……」


 そう、今日の会って話したばかりのアイツが。

 総合スペック100点、性格−100点の生徒会長候補の男。永井 綜次郎だった。

 本人には、あの帝王(笑)気取りの性格を、包み隠さず全てオープンにしているのだからタチが悪い。

 軽い感じで話しかける隣の男子に対し、あからさまに怠そうに応答している。彼もまた、友達づきあいで仕方なく連れてこられたのかな?


 ……正直言って気まずい。昼間にあんな風に言い返してしまったからなぁ。あの程度の反論で気分を害するような奴じゃないと思うけど。むしろ生き生きしてたし。


 そんな永井からふと目線を逸らすと、


「最初誰から歌う? 」


「ハイハイハーイ‼︎ 詩音歌いたい! 」


 元気よく手を挙げて、詩音がアピールしているのが見えた。どこ行っても元気だなアイツは。


「……あれ? ねえねえ、この英語ってどうやって打つの? ほらこの……何か硬そうな貝っぽいやつ」


「……詩音、これ英語じゃなくて漢字。あとこれ曲の番号入力すればいいやつだから、わざわざ漢字入れなくても良いんだよ」


「そうなんだ! ありがとー莉子ちん‼︎ 」


 莉子が立ち上がり、選曲用のリモコンを持ちながら説明する。

 詩音はマイクを握って、嬉しそうに飛び跳ねる。こういうとこは相変わらずなんだね。


 しばらくして、ポップ調の明るいリズムのイントロが流れてきた。

 私もよく知ってるアニメのオープニングの曲。

 へぇ、詩音ってアニソンとか歌うのか、意外だな。

 そして彼女、やたらと歌が上手い。

 思い切り地声だけど、音程もしっかり取れてるし、コブシとかビブラートとかいった加点要素もしっかり加えている。

 周りにいた男子たちもノリノリで肩を組みながら、狂ったように踊り出した。何というか……楽しそうで何よりです。ホントに。


 ……そういやコイツ、常識が無いことと勉強ができない以外は、大抵何でもこなせる天才型だったなぁ。


 目を瞑って聞いたら、本当にアニソン歌手が歌ってるんじゃないかと疑ってしまう、そう言えるほど歌唱力が高かった。

 悔しいけど、あんな気持ちよさそうにして歌を披露できるのは、素直に羨ましいと思った。


「マナちゃん」


 思わず詩音に見入ってしまっていたが、可愛らしい声に呼び戻された。

 目が合うと、隣に座っていた冬架がにっこりと自然に頰をほころばせた。


「マナちゃんって、普段どんな音楽聴いてるの? 」


「まぁ色々聴いてるよ。普通にJポップとかアニソンも聴くし…洋楽なんかも聴いてるかな」


「マナちゃんもアニソン好きなんだ! 」


 私の返事に、冬架が目をぱあっと輝かせる。


「アニソンだと、どんなのが好きなの? 」


「うーん…いい曲多すぎて、なかなか1つには決められないかなぁ。あっでも詩音さんが今歌ってる歌、最近これにハマってるだよね」


「『Game over』かぁ〜、私もお気に入りなんだ」


 ポップな曲調に『Game over』というタイトルは、正直どうなのかと思うけど。




 ……あれ? 漢字入ってなくない??




 アニソンの話に花を咲かせているところに、冬架にリモコンが流れてきた。


「じゃあ私『フルバースト』歌っちゃおうかな」


「えっ、それ結構難しくない? テンポ速いし、早口で歌うとこもあるし」


「練習してるんだ、まだ全然上手く歌えないけど」


 そう言いながら、手慣れた手つきでリモコンを操作する。

 おっとりした冬架が、ハイテンポな激しい曲を熱唱する……ギャップ萌えってやつかな?

 こうやって好きな話題で語り合うだけなら、すごく楽しいんだけどなぁ。


 ……ん、ちょっと待て?

 これはもしや、私も一緒に歌うハメになる流れじゃないか⁉︎


 まずい、このままここに居たら音痴がバレる!

 目立ちたくない私は、あくまで聞き専のままでいたいのだ。


「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」


 ここは一旦距離を取っておく。

 冬架を騙すようで申し訳ないけど、これは仕方ない事なんです、分かってください。

 私は部屋の外に出てドアを閉め、溜息をついた後、どこか心を落ちつけられる場所を探し始めた。

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