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「それでは皆さんご一緒に……カンパーイ‼︎ 」
「「カンパーイ‼︎ 」」
ジュースの入ったグラスを持った男子生徒が、勢いよく音頭をとり、それに続いてグラスがカチャンとかち合う音がする。
結局このカラオケボックスに、樹林高校の男子5人と女子6人、計11人の生徒が集まっていた。
「……男子もいたんだね」
冬架も知らなかったらしく、目をパチクリさせながら苦笑いしていた。
ただでさえ大人数でワイワイとかしたくないのに、まさか男子たちも一緒だなんて……。
何とか平静を装っていたものの、当然テンションはどん底だった。
しかも今回は、そこそこ長い2時間コース。
2時間もこの空間で耐え忍ばなければならないのかと思うと、さらに気持ちが重くなっていった。
さらに最悪なことに、私の向かいの席に座っていたのは、色んな意味で印象に残っているアイツだった。
「なあなあ、会長も何か曲入れたら? 」
「……フン、僕はクラシック以外聴かないんだ。大体何ゆえ選ばれた存在であるこの僕が、こんな愚民共と戯れなくてはならないんだ……」
そう、今日の会って話したばかりのアイツが。
総合スペック100点、性格−100点の生徒会長候補の男。永井 綜次郎だった。
本人には、あの帝王(笑)気取りの性格を、包み隠さず全てオープンにしているのだからタチが悪い。
軽い感じで話しかける隣の男子に対し、あからさまに怠そうに応答している。彼もまた、友達づきあいで仕方なく連れてこられたのかな?
……正直言って気まずい。昼間にあんな風に言い返してしまったからなぁ。あの程度の反論で気分を害するような奴じゃないと思うけど。むしろ生き生きしてたし。
そんな永井からふと目線を逸らすと、
「最初誰から歌う? 」
「ハイハイハーイ‼︎ 詩音歌いたい! 」
元気よく手を挙げて、詩音がアピールしているのが見えた。どこ行っても元気だなアイツは。
「……あれ? ねえねえ、この英語ってどうやって打つの? ほらこの……何か硬そうな貝っぽいやつ」
「……詩音、これ英語じゃなくて漢字。あとこれ曲の番号入力すればいいやつだから、わざわざ漢字入れなくても良いんだよ」
「そうなんだ! ありがとー莉子ちん‼︎ 」
莉子が立ち上がり、選曲用のリモコンを持ちながら説明する。
詩音はマイクを握って、嬉しそうに飛び跳ねる。こういうとこは相変わらずなんだね。
しばらくして、ポップ調の明るいリズムのイントロが流れてきた。
私もよく知ってるアニメのオープニングの曲。
へぇ、詩音ってアニソンとか歌うのか、意外だな。
そして彼女、やたらと歌が上手い。
思い切り地声だけど、音程もしっかり取れてるし、コブシとかビブラートとかいった加点要素もしっかり加えている。
周りにいた男子たちもノリノリで肩を組みながら、狂ったように踊り出した。何というか……楽しそうで何よりです。ホントに。
……そういやコイツ、常識が無いことと勉強ができない以外は、大抵何でもこなせる天才型だったなぁ。
目を瞑って聞いたら、本当にアニソン歌手が歌ってるんじゃないかと疑ってしまう、そう言えるほど歌唱力が高かった。
悔しいけど、あんな気持ちよさそうにして歌を披露できるのは、素直に羨ましいと思った。
「マナちゃん」
思わず詩音に見入ってしまっていたが、可愛らしい声に呼び戻された。
目が合うと、隣に座っていた冬架がにっこりと自然に頰をほころばせた。
「マナちゃんって、普段どんな音楽聴いてるの? 」
「まぁ色々聴いてるよ。普通にJポップとかアニソンも聴くし…洋楽なんかも聴いてるかな」
「マナちゃんもアニソン好きなんだ! 」
私の返事に、冬架が目をぱあっと輝かせる。
「アニソンだと、どんなのが好きなの? 」
「うーん…いい曲多すぎて、なかなか1つには決められないかなぁ。あっでも詩音さんが今歌ってる歌、最近これにハマってるだよね」
「『Game over』かぁ〜、私もお気に入りなんだ」
ポップな曲調に『Game over』というタイトルは、正直どうなのかと思うけど。
……あれ? 漢字入ってなくない??
アニソンの話に花を咲かせているところに、冬架にリモコンが流れてきた。
「じゃあ私『フルバースト』歌っちゃおうかな」
「えっ、それ結構難しくない? テンポ速いし、早口で歌うとこもあるし」
「練習してるんだ、まだ全然上手く歌えないけど」
そう言いながら、手慣れた手つきでリモコンを操作する。
おっとりした冬架が、ハイテンポな激しい曲を熱唱する……ギャップ萌えってやつかな?
こうやって好きな話題で語り合うだけなら、すごく楽しいんだけどなぁ。
……ん、ちょっと待て?
これはもしや、私も一緒に歌うハメになる流れじゃないか⁉︎
まずい、このままここに居たら音痴がバレる!
目立ちたくない私は、あくまで聞き専のままでいたいのだ。
「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」
ここは一旦距離を取っておく。
冬架を騙すようで申し訳ないけど、これは仕方ない事なんです、分かってください。
私は部屋の外に出てドアを閉め、溜息をついた後、どこか心を落ちつけられる場所を探し始めた。




