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空気少女のトラブルダイアリー  作者: しろまる
第2話:「決闘だ」? 私音痴なんですけど。
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(8)


「ふぁぁ……眠い」


 ひとつ大きな欠伸が出る。

 眠そうに目を擦りながら、玄関のドアをガチャリと閉めた。

 時刻は午後六時半を過ぎた頃。まだまだ外は明るく、西の空には、オレンジ色の穏やかな光が差しこんでいて、気温も昼間より少し低い程度だ。

 私は、家の駐車場に停まった自転車に手をかけて、ふとスマホのチャット画面に目をやった。

 そこには、何だかんだで登録しておいた冬架の連絡先があり、一件のメッセージが表示されていた。


『集合時間・・・今日の夜七時くらい

 集合場所・・・JASPAの入口


 それじゃ、気をつけて来てね〜 \(o^^o)/ 』


 メッセージの内容はこんな感じ。

 ……入口ってどこのよ? 凄いアバウトだな…もっと明確に決めた方が良かったんじゃないのか?

 天然だからか知らないが、集合場所・時間は書いてあっても、どこで何をする予定なのかという具体的なものが、全く書かれていなかった。


 冬架さーん……こんなざっくりとした内容で大丈夫なの? もう不安になって来たんだけど……。


 結局、帰ってからも断りの連絡ができずに、一緒に遊びに行くはめになってしまったのだ。こういう時、キッパリと断れない自分が憎い。

 このままバックれてやろうとも思ったが、帰ったら帰ったで、後々約束も守れないクズという意味で、

 クラス中の女子に干されてしまう。

誘われたのが冬架なだけあって、それは流石に可哀想だと思ったので止めておいた。


 まぁいいか、適当にやり過ごして帰ろ。


 私は重い足をペダルに乗せ、よっと力を込めて、ゆっくり自転車を漕いで進んでいった。


 ☆★☆★☆★☆


 特に何もなく、無事JASPAに到着できた。

 JASPAとは、つい今月開設したばかりの、超大型のショッピングセンターだ。

 私は今週の水曜日、どっかの誰かさんに連行され、徒歩で片道30分、くだらない話に付き合わされ、疲労だけが溜まっていく、という地獄を経験済みだ。

 しかしながら、今は徒歩ではなく自転車。

 倍以上の時間を短縮できる…と言いたいのだが、今日は色々気分が乗らずにスローペースで来たため、二十分ほどかかってしまっている。


 まぁそんな事は別にいい。

 ちょっと離れた駐輪場に自転車を停め、モールへと歩き始める。


 結局何するか決まってないっぽいけど……体動かす系だったら早退案件かな。まぁショッピングセンターだし、それは無いと信じたいけど。

 財布にスマホに学生証……必要最低限のものは持ってきたつもりだけど……。

 とりあえず服装は、帰りが遅くなって冷え込む事も視野に入れて、Tシャツに薄いカーディガンを羽織ったパンツスタイルをチョイスした。普段はこう、誰かと外出するという事は無いので、何を着るべきか少しだけ迷ったが、まぁこういうのは無難でいいだろう。


 集合場所の詳細が分からない私は、とにかく入口という入口を探し回った。

 やがて、行き交う人通りの中に、一生懸命に両手を振って合図する冬架の姿が見えた。

 私はそれに軽く手を振って返して、自分の腕時計を一瞥した。

 ピッタリ七時。割と余裕持って到着したのに、ギリギリになってしまった。


「ごめんね冬架さん、待った? 」


「ううん、私たちも今来たところだよ〜」


 遅れてやってきた私を、冬架はにこやかに微笑んで迎えてくれた。

 ナチュラルガーリーな、飾らない水色の可愛らしいワンピース。今日も可愛い。

 彼女の近くには、クラスメートの女子が二人、別のクラスの女子が一人いた。

 ……なお、そのうちの一人にはーーー


「マナちんヤッホー‼︎ 今日はマナちんも一緒に遊びに行くの? これはまさに『変えられない運命』ってやつかな⁉︎ そうだよね⁉︎ 」


「まぁ、いつも学校で会ってるけどね……って、抱きつかないで暑いから」


 精神年齢が幼稚園児並みの、詩音の姿もあった。

 マジですか……いやマトモな冬架からの誘いだったから、てっきり居ないとばかり思ってた。

 結局今日もコイツに振り回されるのか……。何か頭痛くなってきた。


「あとは現地集合って事になってるし、そろそろ出発しよっか」


 クラスメイトの莉子がそう言って、先導を切って進んでいった。明るい色のポニーテールが揺れる。

 ってかまだいるの? ここにいるだけで既に五人いるんだけど……どんだけ大人数になるんだコレは。


 こうして、皆でお喋りしながら、私は詩音のよく分からん話に付き合わされながら、現地に向かって移動し始めた。

 ってか、結局どこ行くんだろ?


「あの、今日はどこに行くの? 」


 気になって、詩音に腕をホールドされながら、前を歩く莉子に声をかけてみる。


「あれ、言ってなかったっけ? カラオケだって」


「へー、そうなんだ……」


 ………⁉︎ カラオケ……だとっ⁉︎

 自慢ではないが、私はかなりの音痴らしい。

 正直自覚は無いのだが、何気なく鼻歌を歌っていたらリョウに嬉々として


「姉ちゃんすげぇ‼︎ それ狂魔獣『バハメシア』の召喚呪文のサビんとこだよな⁉︎ ゲームに劣らねぇ凄い再現度じゃん‼︎ なぁ、それオレにも教えてくれよ‼︎ 」


 ……と言われたのは、今でも忘れられない。

 そもそも、呪文にサビなんてあるの? ゲームの話はよく分からん。

 

 あの後、狂魔獣『バハメシア』の召喚魔獣がどんなものか気になって、ネットで調べてみたところ、ある動画が見つかった。

 バハメシアとは、当時人気だったRPGゲームに登場するラスボス的存在の魔獣。

 見つけた動画とは、白装束を着た宗教団体的な人たちが、バハメシアを召喚するために、地面に書かれた魔法陣に向かって、ひたすら複雑な言葉で呪文を唱えている、という不気味なものだった。


 ……そんなに不気味だったか? 私の鼻歌。


 それからしばらくの間、リョウが私の事を呼ぶ時は決まって『バハ姉』と呼ぶようになってしまった。

 あの悲劇以来、私は二度と人前で歌を披露することはしないと、そう決心していた。


「もー冬架ったら、また内容の詳細書き忘れちゃったの? 本当に気をつけてよね〜」


「えへへ……ごめんごめん」


 決心していたにも関わらず、今日その決心が破れてしまいそうな気がする。


 回想を進める間にも、前を歩いている女子の会話に笑いが巻き起こる。

 またって何? まさか前科あり⁉︎ 少しは学習しようよ冬架さん。えへへで済む話なのかそれは。


 決心していたにも関わらず、それが本日いとも簡単に破られてしまうかもしれない。

 まぁもっと人数増えるっぽいし、ひとまず聞き役に徹しておけば問題ないかな……。


 謎の不安感に襲われながら、私たちはJASPAの二階へと続くエスカレーターを上がっていった。


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