(12)
自信満々な様子でリモコンを操作する永井。
その様子を、ざわつきながら見守るクラスメート。
そして、ひたすらに帰らせてくださいと願う私。
もしここに新たに人が入って来たとしたら、非常に困惑する事必至だろう。
それもそのはず、今から行おうとしている事は、 私の生徒会加入を賭けた"決闘(笑)"なのだから。
「く、来るぞ……」
その一声で、クラスメートが一斉に息を飲む。
いやいや、何でそんな張り詰めた感じになっちゃってんの。たかがカラオケなんだからもっと気楽にやればいいのに。
ってか決闘とか意味わかんないし……あーもう本当とっとと帰りたいんですけど……。
「では皆の衆、まずは僕の優雅な交響曲…とくとご覧あれ! 」
澄ました様子で言う永井。
直後に流れてきたのは……菅弦楽器や笛などの日本独特のゆったりとしたリズムの曲。これって……。
「ブッ……! いやお前演歌て‼︎ カッコつけた感じで何を歌うのかと思ったら演歌て‼︎ 」
「いやまぁネタ的な意味で言ったらオイシイ感じあるけどよぉ‼︎ 」
とっさに男子たちが、爆笑の渦に包まれる。
「貴様ら…あまり演歌を馬鹿にするなッ‼︎ いいか、演歌と言うのは日本代々から伝わる伝統文化、心にじんと響く素晴らしい歌詞、歌っておられる歌手の数だけ表現力、世界観があると言うものなのだッ‼︎ 」
机に足をダンと力強くのせて、男子たちに無礼だと食ってかかっている。
いや、めっちゃ熱く語ってますけど、君クラシック以外聴かないんじゃ無かったの?
彼らが揉み合っている間にも、曲はどんどん進んでいき、既にAメロが終わろうとしていた。
「えっと……私たちどうすればいいんだろう? 」
「さぁ? 面白そうだしこのまま見てる? 」
「永井くーん、もう曲始まってるけどいいのー? 」
女子たちが困惑しながら呼びかけると、その一言にハッとした永井が、眼鏡のブリッジをクイッとしながら、慌ててマイクを持ち直した。
もうすぐサビに突入しようという場面だったが、
彼は何事も無かったように冷静に歌い出した。
コイツもやたら歌唱力高いんだよなぁ。演歌特有のこぶしとか抑揚とか、ちゃんと使い分けられてる。
性格以外は本当にハイスペックだな。性格以外は。
早くもサビに入ろうとしたところーーそこで事件は起きた。
「……」
何を思ったのか、永井はふと歌うことをやめた。
一番盛り上がるサビの部分が無声というのは、少しばかり寂しい気がするが、その眼差しは至って真面目であり、真っ直ぐに前だけを見つめていた。
一同が「何かあったのか? 」といった様子で、彼を不思議そうに見つめる。
その時、何をどうしてトチ狂ったのか、突然右手にマイクを持ったまま、机の上に勢いよくジャンプした。そしてそのままーーー
「うわっ⁉︎ 何だコイツ、演歌なのに急にダンス始めたぞ⁉︎ 演歌なのに‼︎ 」
「ってか危ねぇ! せめてマイク置けっての‼︎ 」
腕をブンブン回し、演歌の曲調に全く合ってない、訳の分からないダンスを踊り出した。やたらとキレが良く、上手いのがまた腹立つ。
見てる分には面白いかもしれないが、狭いカラオケルームでこんなに暴れられては、ケガ人は避けられないだろう。
幸いにも、グラスやスマホには危害が及ばなかったのだが、辺りは一層パニックになっていた。そんな中詩音だけが、
「おっもしろそー‼︎ 詩音も一緒にダンスするー‼︎ 」
変わらずのハイテンションで、その場に立って一緒に踊り出す始末。完全にカオス。
「何やってんだよ、会長! 」
「マジで危ないから、歌うか踊るかどっちかにしろ! いやマジでケガ人出るって‼︎ あと芳村、頼むから余計な事しないでくれ‼︎ 」
必死に場を落ち着かせようとする声が聞こえるが、本人たちはダンスに夢中で、全く聞く耳を持たない。
おかしい……流石に挙動がおかしすぎる。
根っからの幼稚園児の詩音なら分かるが、コイツはあくまで次期生徒会長。それなりの良識はあるはず。
周りに迷惑をかけてまで、そこまでして決闘に
勝ち、私を生徒会に引き入れたいのか?
結局、1フレーズも歌わないままサビ終了、したかと思えば、今度は羽織っていた上着をバッと脱ぎ捨て、決めゼリフまでビシッと決めて再びダンシング。
「銀河の果て(ヘヴン)まで行くぜ、ロックンロールッ‼︎! 」
これ演歌だよね?
元々かなり重症だとは思っていたが、もはや会長としての面影、威厳はどこにもない。
ここにいても時間の無駄でしかない。
私は一刻も早く、どうしようもないカオスな空間を抜け出す事が最適解だと考えた。
バッグを持って席を立ち、そそくさと部屋を出ようとするが、暴走状態の永井に腕を掴まれた。
「どこへ行く気だ水園……まだ勝負は終わっていないではないかッ‼︎ 」
謎の笑みと共に、マイクを持つ方の腕をバッと振り上げる永井。
と同時に、マイクが手からすっぽ抜ける。
私と永井の目線が、吹っ飛んでいったマイクに向けられる。
それは、机の上のグラスに見事ヒットして転倒し、中のジュースが、置かれていた私物やスマホ、そばにいた人たちの服にぶちまけられる。
「うわっ⁉︎ オイ俺のスマホにかかったじゃねーか‼︎」
「服びしょびしょだし……」
「っざけんなよ永井‼︎ 何て事してくれてんだよ⁉︎ 」
周囲から、これでもかというほど非難の目を浴びる永井。
しかし本人は「フハハハハハハ‼︎ 」と笑い飛ばし、悪びれる気も全くない様子だった。
うわ………完全に意識無しだよこの人。
……ん? 待てよ……?
私は"ある事"を確信した。
次期生徒会長ともあろう者が、わざわざ他者からの信用を落とすような事するとは思えない。
……もしかして!




