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空気少女のトラブルダイアリー  作者: しろまる
第2話:「決闘だ」? 私音痴なんですけど。
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(12)


 自信満々な様子でリモコンを操作する永井。

 その様子を、ざわつきながら見守るクラスメート。

 そして、ひたすらに帰らせてくださいと願う私。

 もしここに新たに人が入って来たとしたら、非常に困惑する事必至だろう。

 それもそのはず、今から行おうとしている事は、 私の生徒会加入を賭けた"決闘(笑)"なのだから。


「く、来るぞ……」


 その一声で、クラスメートが一斉に息を飲む。

 いやいや、何でそんな張り詰めた感じになっちゃってんの。たかがカラオケなんだからもっと気楽にやればいいのに。

 ってか決闘とか意味わかんないし……あーもう本当とっとと帰りたいんですけど……。


「では皆の衆、まずは僕の優雅な交響曲(シンフォニー)…とくとご覧あれ! 」


 澄ました様子で言う永井。

 直後に流れてきたのは……菅弦楽器や笛などの日本独特のゆったりとしたリズムの曲。これって……。


「ブッ……! いやお前演歌て‼︎ カッコつけた感じで何を歌うのかと思ったら演歌て‼︎ 」


「いやまぁネタ的な意味で言ったらオイシイ感じあるけどよぉ‼︎ 」


 とっさに男子たちが、爆笑の渦に包まれる。


「貴様ら…あまり演歌を馬鹿にするなッ‼︎ いいか、演歌と言うのは日本代々から伝わる伝統文化、心にじんと響く素晴らしい歌詞、歌っておられる歌手の数だけ表現力、世界観があると言うものなのだッ‼︎ 」


 机に足をダンと力強くのせて、男子たちに無礼だと食ってかかっている。

 いや、めっちゃ熱く語ってますけど、君クラシック以外聴かないんじゃ無かったの?


 彼らが揉み合っている間にも、曲はどんどん進んでいき、既にAメロが終わろうとしていた。


「えっと……私たちどうすればいいんだろう? 」


「さぁ? 面白そうだしこのまま見てる? 」


「永井くーん、もう曲始まってるけどいいのー? 」


 女子たちが困惑しながら呼びかけると、その一言にハッとした永井が、眼鏡のブリッジをクイッとしながら、慌ててマイクを持ち直した。

 もうすぐサビに突入しようという場面だったが、

彼は何事も無かったように冷静に歌い出した。

 コイツもやたら歌唱力高いんだよなぁ。演歌特有のこぶしとか抑揚とか、ちゃんと使い分けられてる。

 性格以外は本当にハイスペックだな。性格以外は。


 早くもサビに入ろうとしたところーーそこで事件は起きた。


「……」


 何を思ったのか、永井はふと歌うことをやめた。

 一番盛り上がるサビの部分が無声というのは、少しばかり寂しい気がするが、その眼差しは至って真面目であり、真っ直ぐに前だけを見つめていた。

 一同が「何かあったのか? 」といった様子で、彼を不思議そうに見つめる。


 その時、何をどうしてトチ狂ったのか、突然右手にマイクを持ったまま、机の上に勢いよくジャンプした。そしてそのままーーー


「うわっ⁉︎ 何だコイツ、演歌なのに急にダンス始めたぞ⁉︎ 演歌なのに‼︎ 」


「ってか危ねぇ! せめてマイク置けっての‼︎ 」


 腕をブンブン回し、演歌の曲調に全く合ってない、訳の分からないダンスを踊り出した。やたらとキレが良く、上手いのがまた腹立つ。

 見てる分には面白いかもしれないが、狭いカラオケルームでこんなに暴れられては、ケガ人は避けられないだろう。

 幸いにも、グラスやスマホには危害が及ばなかったのだが、辺りは一層パニックになっていた。そんな中詩音だけが、


「おっもしろそー‼︎ 詩音も一緒にダンスするー‼︎ 」


 変わらずのハイテンションで、その場に立って一緒に踊り出す始末。完全にカオス。


「何やってんだよ、会長! 」


「マジで危ないから、歌うか踊るかどっちかにしろ! いやマジでケガ人出るって‼︎ あと芳村、頼むから余計な事しないでくれ‼︎ 」


 必死に場を落ち着かせようとする声が聞こえるが、本人たちはダンスに夢中で、全く聞く耳を持たない。


 おかしい……流石に挙動がおかしすぎる。

 根っからの幼稚園児の詩音なら分かるが、コイツはあくまで次期生徒会長。それなりの良識はあるはず。

 周りに迷惑をかけてまで、そこまでして決闘に

勝ち、私を生徒会に引き入れたいのか?


 結局、1フレーズも歌わないままサビ終了、したかと思えば、今度は羽織っていた上着をバッと脱ぎ捨て、決めゼリフまでビシッと決めて再びダンシング。


「銀河の果て(ヘヴン)まで行くぜ、ロックンロールッ‼︎! 」


 これ演歌だよね?

 元々かなり重症だとは思っていたが、もはや会長としての面影、威厳はどこにもない。


 ここにいても時間の無駄でしかない。

 私は一刻も早く、どうしようもないカオスな空間を抜け出す事が最適解だと考えた。

 バッグを持って席を立ち、そそくさと部屋を出ようとするが、暴走状態の永井に腕を掴まれた。


「どこへ行く気だ水園……まだ勝負は終わっていないではないかッ‼︎ 」


 謎の笑みと共に、マイクを持つ方の腕をバッと振り上げる永井。

 と同時に、マイクが手からすっぽ抜ける。

 私と永井の目線が、吹っ飛んでいったマイクに向けられる。

 それは、机の上のグラスに見事ヒットして転倒し、中のジュースが、置かれていた私物やスマホ、そばにいた人たちの服にぶちまけられる。


「うわっ⁉︎ オイ俺のスマホにかかったじゃねーか‼︎」


「服びしょびしょだし……」


「っざけんなよ永井‼︎ 何て事してくれてんだよ⁉︎ 」


 周囲から、これでもかというほど非難の目を浴びる永井。

 しかし本人は「フハハハハハハ‼︎ 」と笑い飛ばし、悪びれる気も全くない様子だった。

 うわ………完全に意識無しだよこの人。



 ……ん? 待てよ……?



 私は"ある事"を確信した。

 次期生徒会長ともあろう者が、わざわざ他者からの信用を落とすような事するとは思えない。


 ……もしかして!


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