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彼女は百合  作者: 小野寺 大河
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十一話

 本日最後の授業も終わり、掃除を済ませ、学生たちはそれぞれの目的地に向かうため動き始める。

 その一人である俺も、重い足取りで自習室へと続く廊下を歩いている。

 六時限目に居眠りをしたのだが、ひどくうなされた。

 授業中はやはり寝るべきじゃないと、戒められた気分だ。

 とても悪い夢を見た。

 五時限目が白姫先生の日本史だったせいか、絶世の美女の皮をかぶった悪魔に追い掛け回され、地獄に引きずり込まれる悪夢だった。

 気を取り直し、自習室の前に辿り着く。

 大きく深呼吸してから踏み込むと、すぐに可憐で輝かしいその姿を見つけた。

 背景が違えば、一幅の絵画になりそうだ。

 静森さんのいる机に歩み寄ると、向こうも気づき、礼儀正しく頭を下げた。

 机の上には俺が静森さんに貸した、秘策が入っている紙袋がある。

 言った通り、早速観てくれたのか!

「左塔くん、こんにちは。あの、これ、」

 紙袋を携え、頬を淡く上気させた。

 この反応は手応えありだ!

 俺の秘策――紙袋の中身は、プロ野球、Jリーグ、大相撲、プロレス、柔道などの球技や格闘技の試合のDVDと雑誌だ。

 もちろんそれらは、静森さんに男の魅力を認識してもらうために用意したのだ。

 小冬のぬいぐるみに宿る神から啓示を授かった後、レンタルビデオ屋や書店で、とにかく男臭いものを物色し、厳選した。

 それらを静森さんに見てもらえれば、いかに男が頼りになって、魅力的な人種か分かってもらえるはずだ。

 期待すべき彼女の変化を窺う。

 静森さんは恥ずかしげに目を伏せ、

「……あの、全部観ました。左塔くん、私、何て言ったらいいか、」

 これまでに無い態度に、俺は確信した。

 これはマジでいける!

 目論見通り、彼女は男の魅力に目覚めたのだ!

 俺の女神は組んだ指をもじもじと動かし、健気に言葉を紡いでいく。

「初めて会った時から、左塔くんは他の男の子と何か違うなって思ってました」

 やった!

 間違いない、愛の告白だ! 

「似た価値観と言うか、私と左塔くんって、多分相性が良いと思うんですね」

 やっぱり、価値観とか相性っていうのは大事だよね。

「左塔くん……っ!」

 さぁ、俺の胸に飛び込んでこい!

「左塔くんも同性が好きだったんですね! 私たち、やっぱり気が合います!」

「ドちくしょうおおおおおおおおおお――――――――――」

「だ、大丈夫ですかっ?」

 俺は膝から崩れ落ち、床に両手をつく。

 なぜこうなっちまった?

 分からない……。

 俺はどこで間違えたんだ?

 女神を見上げる。

「静森さん、一つだけ分かってほしい。俺は男色じゃない!」

「え? だって、逞しい男の人ばかりが出てくる内容でしたよ? ……その、ら、裸体のものもありましたし」

 静森さんは顔を真っ赤にして、視線を彷徨わせる。

 彼女が言ってるのは、プロレスとか相撲のことか。

 ってか、自分の性癖ビデオを他人に見せるって、俺どんだけ変態扱いなんだよ……。

 勘違いモード発動中の静森さんは、膝をつく俺の手をとって、熱っぽく瞳を潤ませる。

「左塔くんは、自分の趣味を打ち明けてくれたんですよね? 私、嬉しいです。だから私と愛子ちゃんの仲も応援してくれてるんですね!」

「え、ち、違う! ホントに違うんだよ!」

 静森さんは、二重目蓋の大きな瞳から滲む涙を人差し指ですくい、

「お互い幸せのために頑張りましょう……!」

 と俺の両手を再び握り直し、まさに女神のごとき神々しい笑顔を向けてくる。

 俺からすれば必死な釈明、傍から見ればただの茶番をしていると、

「すまない、待たせた」

 やけに大人びた、落ち着いた声がした。

 俺は立ち上がり、悪友を迎える。

 ちなみに、唯夜と静森さんには、それぞれ「一人協力者がいる」と説明してある。

 二人はお互い観察し合う。

 先に口を開いたのは静森さんだった。

「左塔くん、この方が、」

 俺が「そう、こいつが協力してくれる――」と簡単な紹介をする前に、

「この男の子が左塔くんの恋人さんなのですか?」

「ちがぁぁあああああああああ――うッ!」

 なななななななんて誤解を!

 タイミングが悪かったんだと思う。

 男ばかり出演するビデオを貸した直後に、男を連れてきた。

 それが決定的敗因だった。

 静森さんは完全に誤解してしまっている。

 何もかもすでに遅かった。

「夏人。彼女がそうなのか。覗きの共犯がまさか女性とは……」

 唯夜は無表情に、少しだけ驚きを浮かべる。

 よく考えれば、かなり危ない話だ。

 女の子の着替えの隠し撮りの協力を、女の子に頼んだことになっている。

 俺は唯夜の耳元で、

「俺が無理に頼んだんだ」

 すると、耳打ちするのが、ひそひそと内緒話をしているように見えたのだろう。

 静森さんは申し訳なさそうに、

「私、……もしかしてお邪魔ですか?」

「そんなこと無いから!」 

「夏人、彼女はさっきから何を言っているんだ?」

「……こっちが聞きたいよ」

 もう収拾なんかつきそうにない。

 俺はさじを放り投げた。

「もうそろそろ、陸上部の人たちが着替え始める頃だと思いますから」

 大きな瞳に決意を浮かべる静森さんに、唯夜は淡泊と、俺は力無く唯々諾々と従う。

 ここに、対愛子専用女子更衣室生着替え激写班が結成された。

 内一人女の子なのは、ご愛嬌だ。

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