201.衛星兵器ユニット・ジュピター
ジェマナイに新兵器登場です。
ジェマナイの前進基地セラフィスにミサイル砲が運び込まれた、というのは正しくない。
それは、リュシアスが流した欺瞞情報である。
この時代、戦いとは事前準備と情報戦・電子戦でほぼすべてが決まる。
初手を間違えば、戦局は大きく不利に変化する。
そのことを、リュシアスはよく分かっていた。
この日、セラフィスに搬入されたのは、衛星兵器ユニット・ジュピターをコントロールする電子戦車両である。
この48時間の停戦によって、リュシアスは大幅にジェマナイの現状を前進させることができた。
すでに、ヴォルガのヴォルグラスⅡも合流している。
あとは……バグダッドを落とすのみなのだ。
しかし、そこにはライジングアースとプライムローズがいる。
ブラックスワーンダーやヴォルグラスⅡよりも前世代のロボとは言え、それらの機体は強敵である。
先日も、ジェマナイのビッグマン部隊が完膚なきまでにやられてしまった。
それは、リュシアスにとっては最大の失策だった。
なにしろ、敵としてはセラフィアも出てきているのだ……
ジェマナイを裏切ったセラフィアを、リュシアスは許してはいなかった。
しかし、そこには自分自身の過誤もある。
ユーマナイズの影響を無視して、前線に出撃させたという己れの過ちが。
だからこそ……負けられないと、リュシアスは思うのだ。
(次に敵として立ちはだかったときには、お前の命にたいしてわたしは容赦はしない……)
と、リュシアスは思う。
もし、この言葉をタージ基地でセラフィアが耳にしていたとすれば、2度くしゃみをしていたことだろう。
いや……そんな楽観的な見通しではなかったのだが。
セラフィアは、統合戦線に身を置きつつ、ジェマナイの理想を実現しようと思っていた。
そこに立ちはだかっている最大の存在が、リュシアス一将である。
彼女は、セラフィアが「これを是とする」というすべてのことにたいして、否定の構えで来るだろう。
そんなことを、セラフィアも思っていた……
リュシアスは、今すべての怨念をセラフィアにぶつけるつもりでいた。
なんとしても、ライジングアースは破壊しなければならない……。
前進基地セラフィスの作戦室で、ヴォルガ二将がリュシアスの前に立った。
「これを……使うのですか?」
MVの画面を見ながら、リュシアスに尋ねる。
「うむ。大味な機体だが、役には立つ……そう思っている」
「しかし、北欧同盟時代の遺物ですよね? 第四次世界大戦当時の……」
「ああ、そうだ。しかし、すでにチューンナップは行っている。今回の作戦に同期している」
「はあ……しかし、ライジングアースにこれが効きますかね?」
「効かせる。そのためこその、今回の作戦だ……ヴォルガ二将は、事前の打ち合わせ通りに行動してもらいたい」
リュシアスは言う。
ヴォルガは、唇をにやりとさせた。余裕の表情である。
「わたくしが、囮を務める、ということについては納得しておりますよ? で、一将は、なんにたいして止めを刺すおつもりで?」
「無論、ライジングアースに対してだ」
「こだわられませんように、祈願しております」
ヴォルガは、頭を下げた。
リュシアスの胸に今どんな思惑が萌しているのか、ヴォルガは知らない。
が、現場でのリアルタイムな連携が、彼と彼女とのあいだをつなぐだろう。
そこに……乖離や齟齬が生じないと良いのだが、と思いながら……しずかに頭を下げる。
「ところで、ヴォルガ二将、ヴォルグラスⅡの調子は順調か?」
仮面を外さずに、リュシアスは尋ねる。
先日以来、リュシアスが人前で仮面を外したことはない。
それは、ジェマナイとリュシアスとが一体化している、ということであり、その契約の証のようなものでもあった。
「はい? それはどんな意味においてでしょうか?」
「貴公にとっては、新しい機体だ。シンクロは万全なのかと思ってな」
「それは……万全でしょう。一将が作った機体です。わたしにも、完璧にマッチしていますよ……」
ヴォルガは、ふっとした息を吐くような調子で答えた。
リュシアスが、ヴォルガとヴォルグラスⅡのシンクロ度合いについて疑問である、というのが解せなかった。
この機体は、完全にわたしのために作られた機体ではないのか?
それとも、他に心配するような要素があるのか?
ヴォルガは首を傾げた。
「しかし、今後はユニット・ジュピターと連携する必要が出てくる。作戦行動前のブリーフィングでは、慎重にな?」
「分かっています。ライジングアースを高高度に誘うという作戦ですね? しかし、……ユニット・ジュピターが正常に機能しますでしょうか? なにしろ、第四次世界大戦当時のユニットです……」
「それは分かっている。しかし、万全の調整は施した。あとは、実戦いかんだな……」
リュシアスも、やや不安げながら答える。
今回の作戦は、事前の綿密な連携によって、最大の威力を発揮する。
それだからこその、48時間の停戦なのである。
統合戦線には猶予を与えることになるが、ジェマナイの側にも余裕が生まれる。
この作戦によって、バグダッドはジェマナイの統制下に入るだろう。
そんなことを、リュシアスは予想していた。
そこに……ヴォルガの存在は欠かせない。
サテライト群とは、第四次世界大戦以前からある、いわば古い衛星ネットワーク・システムである。
しかし、現在のインターネットおよびAIネットともに、サテライト群がなければなりたたない。
世界の通信の根幹をになっているのが、サテライト群なのである。
そこにあるユニット・ジュピターは、汎地球的な攻撃範囲を有している高度な兵器だとも言える。
ユニット・ジュピターは、自立駆動可能なレーザー兵装をともなった衛星兵器である。
その射程範囲は、全地球である。
第四次世界大戦当初は、諸事情あって使用されずに終わったのだが……
今まで、統合戦線にもジェマナイにも活用されてこなかったのが不思議なくらいである。
今回、その超兵器をリュシアスは使う。
いかなロボ(ビッグマン)とは言え、大出力の衛生砲による攻撃を受けたらひとたまりもないはずである。
これで、ライジングアースを一気に打ち破ることができたら……
(バグダッドに核を撃ちこむまでもない……)
と、リュシアスは思った。
バグダッドを死の町にすることは、リュシアスの望んでいることではない。
しかし、統合戦線という一つの国家に対峙するにあたって、この街を落とすことは必須事項である。
それが、ジェマナイの拡大を許容する……。
(次は、ワルシャワか? アレキサンドリアか?)
と、リュシアスはそれ以後のこともすでに考えのうちに入れていた。
ジェマナイが汎地球的な国家になるのは、そう遠い未来ではない。
そしてそのとき……ネオスによる新しい国家秩序というものが生まれるのだ。あるいは、倫理秩序というものが。
リュシアスは、今故郷のアジンバル公国のことを脳裏に思い描いていた。
(わたしの生まれた国……それは、かならずしもネオスに優しい国ではない……)
リュシアスは思う。
すべてのネオスが、等しく人間と平等な権利を手にし得ることを。
リュシアスの野望とは、そんなちっぽけな野望に過ぎなかった。
しかし、それが今現在の地球を率いていたのである。
ネオスと人間との共存、という野望が……
リュシアスは、ヴォルガにたいして言った。
「君の命、次の作戦に賭けてもらう」
「はっ!」
ヴォルガは、姿勢を正してリュシアスに敬礼した。
新兵器というか旧兵器でした。オーパーツみたいなものですね。




