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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第十部

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200/203

200.48時間の停戦(2)

停戦中のできごと。

 シエスタは休憩室を出て、整備場へと歩いていった。

 フィオリヒト少尉に会うためである。

 少尉は、彼女の管轄下からは離れる。

 チーム・アマリを離脱するのである。

 以後は、統合軍空軍第一大隊直下のロボ部隊に所属することになる。

 シエスタとは、今後遠い関係になるのだった……しかし、関係性は保っておかなくてはならない。


 雨ざらしにもなりかねない野天に、ロボが屹立している。

 今、ロボの整備場は急ピッチで整備が進んでいるところだ。

 全高70メートルほどの格納庫の建設が進んでいる。

 しかし、今のところはロボはタージ基地の滑走路にそのままたたずんでいる。

 整備場……と言っても、ただの滑走路である。

 クレーン車などが、ロボの周囲に集まって、修復作業などに従事している。


 シエスタは、1体のロボの足元にフィオリヒト少尉を見つけた。

 ヴェガⅡである。

 彼は、どうやらロボの修復作業にも携わっているらしい。

 コックピットの細かな位置調整などを指示してる……

 AIネットによる情報で、とうにロボの細かな設計図などは入力済み、という顔つきだった。


 シエスタは、「やあ」と声をかける……

 フィオリヒト少尉は、こちらを振り向いて「大尉でしたか?」と答えた。

「ああ。修復作業は順調なようだな……」

「はい。一週間ほどでロールアウトの予定です。何か……?」

「いや。少尉がいなくなると、寂しくなると思ってな」

「戦場は一つです」

「だな。また少尉に助けられる機会も増えることだろう……」

 シエスタは感慨深げに言った。

「それはどうでしょうか? イングレス部隊がいなければ、戦場はなりたちません。これからも変わりありませんよ……」

「だと良いんだが……いや、良くはないか」

 シエスタは頭をかいた。

 チームを離れるフィオリヒト少尉を前にしていると、うまく言葉が出てこない。

 どう声をかけて良いのか……


「なあ、少尉。少尉は、ビッグマン……ロボの操縦をすることに、不安や疑問は持たなかったのか?」

 シエスタは聞いた。

「わたしはネオスです。命令には従いますし、マニュアルを読めば操縦方法は即座にマスターできます。不安というものは……」

 フィオリヒトは答える。

「そうかもしれないな。それだからこそ、怖い」

「戦争が、人間の手を離れることが、ですか?」

「それもある。しかし、そうではない理由もある」

「と言いますと?」

「ネオスが消耗されることだ」

 シエスタは、重い口調でそう言った。

 フィオリヒト少尉にもそれは伝わる。


「わたしたちのことを気遣ってくれることはありがたいのですが……」

 しかし──と言った口調である。

「それは、わたしたちを買いかぶりすぎです。わたしたちには、感情もあれば、喜びもある。人間とさほど変わりないのですよ?」

「うむ? そうなのか……わたしはてっきり」

 シエスタは、多少うろたえた。


「それは、差別です。大尉。我々ネオスは、たしかに人工生命だ。しかし、感覚の所在は人間と変わりない。あなどってもらっては困ります……それでは第一、戦争などできるわけがないではありませんか?」

「そうか? ……そうだな、たしかに。痛みがあって初めて、戦うこともできる」

「その通りです。それがネオスです。戦う職についていることは、単なる役割にすぎない。制約ではないのです」

 シエスタとフィオリヒトとは、ともに目の前に立っているロボの威容を見上げた。

 それは、戦う機械である。

 と同時に、AI脳をも有している。

 それをどう扱えば良いのか、とシエスタは思い悩む。

 ライジングアースも、迷い、感じ、考えるということがあるのだろうか……と。

 それは、斎賀がコパイロットとして搭乗していたときから、変わりない疑問としてあった。


 しかし、ネオスであるセラフィアが搭乗している現在、シエスタはライジングアースやそのほかのロボとの連携ということについて、思い惑うのである。


「少尉、少尉だからこそ聞けることなのだが……」

「なんでしょうか?」

「貴官の乗るロボが、わたしを犠牲にして作戦を遂行せよと伝えてきたとき、貴官はどうする?」

 フィオリヒトは笑った。

「そんなことには、なりませんよ。わたしは、ロボが100の選択肢を与えてきたとき、1万の選択肢を返すことができます。わたしは……ネオスです」

「優秀だな」

 言って、シエスタは笑った。

 フィオリヒトも微笑んだ。


「今日は、悪いことを言った」

「そんなことはありません。人間として当然の反応です」

「そうか……」

「そうです。そして、あなたは人間として戦争をしてください。器械としてではなく……」

「分かっている」

 それは、十分に分かっていることだった。

 しかし、分かり切れていないことでもあった。

 そのことを、シエスタは目の前のフィオリヒト少尉から突き付けられる。


「ところで、これは余計なことだが……」

「なんでしょうか」

「貴官は、ミューナイト少尉やセラフィア少佐とは十分に連携できるか?」

「無論です。ご不安でしょうか?」

「いや……不安ということはない。だが、なんとなく」

「セラフィア少佐が気になるのですか?」

 フィオリヒトが聞く。

「ああ、そうだ」

「彼女は……戦術士官です。スパイではないでしょう。ネオスの思考というのは、一直線なのです。なにかに貫かれたら、それを貫き通す」

「そういうものなのか?」

 シエスタは、口をぽかーんと開けた。

 フィオリヒトはうなずく。


「もしわたしが、この瞬間にジェマナイに与したいと考えたとします。その十数秒後には、わたしはジェマナイに亡命しているでしょう。セラフィア少佐も、それと同じです」

「なるほどな……わたしたち人間には、ネオスのことはあまりよく分からない。だが、貴官の話を聞いて、ちょっと納得する部分もある」

「少佐にきつく当たらないでください。彼女は彼女で、懸命に生きているのだろうと思います」

「少尉がそこまで考えているとはな……」

「わたしの上官になる存在です。考えないわけがないでしょう」

「そうだったな。済まない……」

 シエスタは、素直に謝罪した。


 自分は、ネオスのことも、子ルーチンのことも、あるいは斎賀のことさえ……十分に分かってはいなかった、そう思えた。

 シエスタは、フィオリヒトとともに、目の前にたたずんでいるロボ──ヴェガⅡを見上げる。

 砂漠に一陣の風が吹いた。

 シエスタは、髪を抑える。

 そんな彼女を見て、フィオリヒトが笑った。

「大尉も、女性なのですね?」

 と、セクハラまがいのことを言う。

 どこにそんな冗談回路があるのか、と、シエスタは訝いつつも微笑した。

「それ、セクハラだぞ?」


 ──


 シエスタは、ふたたびボワテ大佐のもとへと向かう。

 胸に一つの決意を秘めている。

 フィオリヒト少尉は、すでに自分のもとにはいない。

 彼ぬきで作戦を立てる必要がある。

 ナーナ曹長、アレン曹長も使いこなさなくてはいけないだろう……

 あるいは非情な作戦を立てることもあるかもしれない。

 彼らは、そのときどんな反応をするだろうか?


 しかし、シエスタは恐れてはいなかった。

 ボワテ大佐の前で、

「停戦は残り36時間です。その間にしておくべきことはなんでしょうか?」

 と、尋ねていた。

どんどんリーダーらしくなっていくシエスタです。

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