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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第十部

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199/203

199.48時間の停戦(1)

ジェマナイ側から停戦協定が出されます。

 およそ2か月ぶりで、ジェマナイによるバグダッドへの空爆が止んだ。

 この日──ジェマナイの戦略・戦術長官であるリュシアスは、統合戦線とイラクにたいして48時間の停戦を申し入れてきた。

 統合戦線、およびイラクにとっては願ってもないことである。

 それでなくても、先日のビッグマンによる強襲で、バグダッド市内には大きな被害が出ていた。

 統合軍やイラク軍の兵士たちの疲労も大きい……

 ここで、1日だけでも空白の日付が加えられることは、現場の士気の維持にとっても意味のあることだった。


 もちろん、それはジェマナイにとっても益あることだったのである。

 単純にバグダッドへの攻撃を停止した……というわけではない。

 ビッグマンによる攻撃は、3日前から止まっていた。

 ジェマナイ側の損耗も大きい。

 前進基地セラフィスでは、急ピッチでビッグマンの修復作業が行われている。

 バグダッドの冬の空は、青い。

 その空に、今日はミサイルの軌跡が飛んでいない……


 大尉となったシエスタは、その日の朝、ボワテ大佐のところへと出向いていった。

 シエスタは、ボワテ大佐が疲労に取りつかれていないかと心配である。

 彼女自身は大尉に昇進したものの、大佐自身は階級を止め置かれている。

 噂では、オバデレ准将は少将に昇進するということらしいが……

 戦争という政治の現場はいつも理不尽が支配するものだが、シエスタはボワテこそが昇進しなくてはいけないのではないかと考えている。


「ボワテ大佐。シエスタ大尉、出頭しました」

「うむ。朝早くから、ご苦労だな……」

「先日お話のあったフィオリヒト少尉の後任ですが……予備隊のフリーダ・マーキュリー曹長はどうかと考えています」

「マーキュリー曹長か。たしかに、訓練での成績は優秀だった」

 シエスタは首を傾げる。

 ボワテ大佐が、彼女についてそれほどよく知っているというのは意外だった。

 シエスタ自身も、それほど詳しくは知らないのだ。

 しかし、そのことについては話題をずらす。

 余計な詮索をしても仕方がない。

「フィオリヒト少尉が、正式にヴェガⅡのパイロットになるのは、いつごろでしょうか?」

「今、ヴェガⅡの修復作業が進んでいる。プライムローズ用に用意していたコックピット・ユニットが使えるらしい。ロールアウトするのは、1週間後だろう。このタージ基地でも、ロボ整備の環境が整ってきている」

「なるほど……では、アルスレーテからフリーダ曹長を呼び寄せるのに、ちょうどよいタイミングかと思われます」

「ああ……君の権限で行ってくれ。君はすでに、チーム・アマリのリーダーだ」

「ところで、チディ・マベナ少佐は、どのような待遇になっているのでしょうか?」

「彼は、今後わたしの秘書を務める。オバデレ准将……次期少将への牽制をしておかないといけないからな。軍部を、彼の好きなようにはさせられん……」

 かなりきわどいことを、ボワテ大佐は言っていた。

 上司に対する讒言、ともとられかねない。

 しかし、ボワテ大佐はここバグダッド、オバデレ准将はアルスレーテにある。

 距離感は、いかんともしがたかったし、逆に救いでもある。

「それは言ってはいけないことでは?」

「言ってはいけないことも言わなければいけない。それが軍部だよ」

 ダグラス・ボワテ大佐は、考え深げに言った。

 シエスタにとっても、それは身につまされる言葉だった。

 今後、この上司にたいして、彼女は忌憚のない意見をぶつけていく必要がある。

 そんなことを思った瞬間だった。


「では、大佐は今後とも准将にたいしては警戒を?」

「ああ。解くつもりはない。NooSにしても同様だ。統合軍が、民間の好き勝手にされるわけにはいかない」

「ですね」

「そうだ。君も……くれぐれも、チーム・アマリを民主的に率いてくれたまえ」

 ボワテ大佐は、シエスタにたいして釘を刺した。

 それは、必要のないことにも思われたが、シエスタは反感は感じなかった。

 むしろ、このような厳しい環境が軍部を強くする。

 そのことを、シエスタはよく自覚していた。


 シエスタは、ボワテ大佐のもとを退く。

 今日は、一日休養日だった。

 フィオリヒト少尉とも話しておきたかったし、アマラ少尉ともつもる話がある。

 新任のナーナ曹長やアレン曹長とも話しておきたかった。

 何にせよ、チーム・アマリは今後は彼女自身のチームとなるのである……


 タージ基地の廊下で、シエスタはナーナ曹長とアレン曹長と行き会った。

 偶然である。

 彼女たちは、今ちょうど食堂へ朝の食事へと出向くところであった。

 彼女たちの朝も早い。

 しかし、今日と明日は48時間の停戦である。

 シエスタは敬礼した。

 ナーナ曹長とアレン曹長が敬礼を返す。

「昇進、おめでとうございます。アレーテ大尉」

 2人が言葉をかける。

 シエスタは、無言でうなずく。

 それから、通り過ぎていこうとする彼女たちに声をかけた。

「今日は、一日休戦だ。貴官らもゆっくりしてくれ。いずれ、また死線をかけた戦場だ……」

 それは、いかにも不器用なことばだった。

 ナーナ曹長とアレン曹長は再び敬礼で答えた。

 シエスタを心から尊敬している、といった様子である。

 シエスタは、遠ざかる足音に襟を正す思いをする……。


 休憩室に行くと、フィオリヒト少尉はいなかった。

 代わりに、アマラ少尉がコーヒーを飲みながらだべっている……。

 相手は……女性の曹長だ。チーム・ンデゲのメンバーらしい。

 シエスタが近づいていくと、2人とも話を止めた。

 かまわないのに……と、シエスタは思う。

 しかし、アマラ少尉は言った。

「今、大尉の噂話をしていたところんなんですよ。昇進、おめでとうございます」

「ありがとう。良いことばかりじゃないがな……責任が増えるよ」

「それは当然です」

 アマラ少尉がこちらを睨んでくる。

 そこには、期待と信頼とがにじんでいた。

 シエスタはある種のうっとうしさを感じたものの、悪い気はしなかった。


「今日は快晴だよ、アマラ少尉。こんなところでだべっていても良いのか? 彼女とショッピングにでも行ったらどうだ?」

 シエスタは言う。

「止してください、大尉。嫁さんに叱られます。浮気はご法度でしてね……」

「あら? わたしたち、そんな関係?」

 女性曹長が、その気ありげに尋ねている。

 しかし、アマラ少尉は首をすくめるだけだった。

「お前もやめてくれって……いや、彼女、訓練学校時代の同期なんですよ。アン・サーイィマ曹長」

「初めまして、アレーテ大尉。少尉の奥さんとも知り合いなんですよ?」

「そうだったのか……これは、失礼した。でも、ショッピングくらいなら良いんじゃないのか?」

「ですよねえ……」

「俺はこう見えて、カタブツなの。女についてはね」

 アマラ少尉はうそぶいている。

 それでもまあ、まんざらでもない様子は見てとれた。口とは裏腹である。


 しかし、その少尉が急にけわしい顔つきになる。

「ですが……大尉。今回のジェマナイからの停戦……信じて良いんでしょうか? あるいはだまし討ちとか……」

「いや、それはないだろう。リュシアスという女は、信念をもった指揮官だ。むしろ、時間稼ぎだな?」

 シエスタが首を振る。

「ですね。しかし……この後が怖い。ミサイルの雨が降ってくるんじゃ……」

「そうだな。ビッグマンよりも怖いのは、核だ。敵の前進基地にはミサイル砲が搬入されたという情報もある」

「戦術核なら……エカテリンブルクからでは? あるいはテヘラン……」

「ジェマナイはイランをも巻き込むつもりかな? どうだろう……」

 人差し指を唇に当てて、考える。シエスタの癖だ。

 アマラ少尉も考え込んだ。

 アン・サーイィマ曹長は、やれやれと肩をすくめた。

(軍で出世はしたくないね……)などといった顔つきだった。

つかの間の平和に……なるのでしょうか?

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