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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第十部

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198/203

198.シャフレザード救出作戦(5)

すみません、こちらがレイラ・ザンド救出作戦の最終章でした。

「サング、階上に機銃を撃ち込んでくれ! なるべくランダムに。こちらが多数だと思わせるように……今、敵は2人しかいない」

「なるほど、チャンスだな。なるべくこちらの有利だと敵に思わせるんだな?」

「そうだ。その間に、俺はまたコントロール・ルームで情報を検索する」

「ああ、まかせてくれ」

 マフムードは言った。

 背中のリュックサックから機銃をもう1丁取り出して、2丁で階上に銃撃をする。

 階上からも、時折応戦の弾丸が降ってきた。

 どうやら、敵は廊下を行きつ戻りつしながら、こちらとの間合いを測っているらしい。

(これは……シャフレザードは階上だな)と、斎賀はあたりをつけた。

 とすると、今ごろは彼女が盾に取られている可能性もあるが……


(ここは賭けだ)と、斎賀は思った。

 パンくずを再び隠密モードにする。

 それぞれの階上の部屋へとパンくずを進入させていく……

 部屋の真ん中で、発光モードに。

 人がいたら、きっと驚く。

 シャフレザード(レイラ・ザンド)を驚かせる……ということが斎賀の作戦だった。

 その目論見は当たる。


 ひとつの部屋のなかで、女性の悲鳴が上がる──シャフレザードだ。

 敵がひるんだ。

 侵入者はすでに、シャフレザードの身柄を取り戻したのか? ……と、あわてて引き返していく、敵グループのメンバー。

 しかし、ドアをあけてもそこには誰もいなかった。

 工作員とシャフレザードの目が合う。

 シャフレザードは、明らかにおびえたような表情をしていた。

 椅子に縛り付けられ、手には手錠がかけられている。

 尋問の途中だったものと思われる。

 工作員が、銃で彼女を脅した。

 実際には、脅したかったのは、彼女ではない。

 未知なる侵入者──斎賀たち、である。


 しかし、今の悲鳴で斎賀たちは、シャフレザードの位置を特定した。

 やはり、二階の部屋の一室に拘禁されていた。

 が……彼らは、シャフレザードの身柄の確保までは頭が回らないようである。

 急な襲撃にうろたえている。

 斎賀は、マフムードに階上への銃撃を続けるように伝えた。

 さらに、手りゅう弾を1個投げ込む。

 爆発。

 階上はきっと、しっちゃかめっちゃかな状況だろう。

 ここから、一気に上へと上がっていく……斎賀は、マフムードに目で合図をした。


 工作員の1人が緊急通報をしたらしい……

 サイレンのようなものが響く、「工場」。

(まずいな……)と、斎賀は思う。(しかし、大丈夫だろう。十分な時間がある。余裕が……)

 斎賀とマフムードとは駆けた。

 今、2人の敵は完全に分断している。

 二階の入り口で、1人を狙撃。もんどりをうって倒れる、工作員。死亡。

 残りの敵は1人だ。

 ……斎賀たちは走った。

 先ほど悲鳴が上がった部屋の前で、ドアの影に隠れる。

 室内には、敵工作員とシャフレザード、その2人がいるはずだった。


 斎賀は、リンゴのような形をした丸いものを部屋のなかに転がした……煙幕である。

 ごほん、ごほんと、むせる、工作員とシャフレザード。

 斎賀とマフムードとは、室内に踊り入って、銃口を工作員に向けた。

 卒然、両手を空に掲げる工作員。

 降参した、という合図である。

 銃口は、2人とも、ぴたりと工作員のほうに向いている。

 依然として、おびえた目をしているシャフレザード。自白剤の影響だろう……

 何にしても、事は終わった。

 容赦なく、残った1人の工作員の胸をピストルで撃つ、斎賀。

 残忍……というか、プロフェッショナルな仕事である。

 こういうとき、斎賀は容赦ない。マフムードも、あっけにとられている。


 シャフレザード(レイラ・ザンド)は、マフムードの機銃を見て、おびえた目をした。

 彼女への襲撃時に使われたのが、機銃だったのかもしれない。

 シャフレザードは、パルチザンとしてプロフェッショナルだったが、それでも恐怖心はいかんともしがたい。

 斎賀が手錠を外しても、やはりしばらくの間震えていた……

 斎賀の袖にすがりつく。

 それから、そっと手を外した。


「来てくれる……、来てくれると思っていた……」

 と、そんな言葉を絞り出す。

「大丈夫だ。敵はすべて無力化した。今、ここには俺たちしかいない。しかし、サイレンが鳴った。すぐにでもここを出ないと」

「すぐに、ここを出る? 出られるの?」

「ああ、大丈夫だ。敵は素人だったんだよ……」

「良かった」

 そんな会話を、斎賀とレイラ・ザンドが交わす。

 マフムードは、傍らにたって彼らを見下ろしていた。

 今回の救出作戦は、ほとんど斎賀の手によって成功したようなものだ。

 自分は何もできなかった……と、マフムードは思っていた。

 しかし、それでも斎賀オガーブに協力はできたのだろうか?

 ──そんなふうに考えると、心は少しだけ休まった。さて、すぐにでもここから脱出しなければ……


「工場」を出て、200メートルほどの距離を彼らは駆けた。

 そこに、彼らが乗りつけてきた自動車が停車してある。

 遠くから、パトカーのサイレンの音が響いていた。

 彼らの背後で、パトカーは工場へと向かう。

(ふうっ)っと、斎賀は息を吐いた。

 マフムードも同様だ。

 レイラ・ザンドは、未だに少し震えている。

 自分たちの自動車に乗り込む、斎賀たち。

 どうやら、レイラの着替えは必要ないようだった……。


 そのまま、高速で自動車を走らせる。

 もう、この町に用はない。

 ホテルでバカ騒ぎをする必要もない。

 イーラームへと、一直線に帰るだけである。

 フボイの町では、今後しばらくアーヴァーズ・エ・ハークの作戦がやりにくくなるだろう。

 しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。

 組織としての効率よりも、組織のメンバー一人の命が大事である。

 それをおろそかにするような組織は、長続きしない。体力が弱い。

 組織とは、人の力と和があってこそ、初めて成り立つのである。


 斎賀たちの乗っている自動車は、すでに西アーザルバーイジャーン州のオルーミーイェへとたどりついていた。

 ここからは、国道11号線を下っていく……

 ウルミエ湖の上を、水鳥たちが羽ばたいていた。


 ──


 レイラ・ザンドは、次第に落ち着きを取り戻していた。

 運転席のマフムードに向かって、冗談を言ったりしている。

「あなたたち、わたしの奪還作戦、怖くはなかったの?」

「いや……それなんだが」

 と、マフムードは言う。

「オガーブが、早くからこれは素人の仕業だと言うんだ。プロフェッショナルによる仕事ではないと……俺は、その慧眼に感心したよ」

「オガーブは、プロよね。情報戦のプロ。わたしたちの組織には、今では欠かせないわ」

 レイラも微笑む。

「しかし、オガーブがいつまで俺たちといっしょにいてくれるか? 今回も、オガーブがいなければお前を救いだすことはできなかったかもしれない」

「分かるわ。でも……オガーブはわたしたちの仲間よ?」

 レイラ・ザンドは、すこし頬を赤らめた。

 そちらを、そっと見る斎賀。

 ──そんなことをしても、何も出ないぜ? という態度で斎賀はいた。

 今回は、あくまでも世話になっている仲間を救った、それだけなのだ。

 自分は、今アーヴァーズ・エ・ハークという組織に助けられている。

 命を救われている。

 居場所がある。

 与えられている。

 そういう思いだけが、斎賀にはある。

 そのほかの一切の感傷はなかった。


「シャフレザードは、この組織の要だ。ないがしろにしたら、俺たちはお陀仏だろうさ……」

 と、斎賀はうそぶいた。

 マフムードは、「だな?」と答えた。

 レイラ・ザンドが、いくぶん照れながら、「あたしは、本当はたいしたことないんだよ?」と言った。

 それは謙遜だったが、嫌味な謙遜ではなかった。

 ……

 眼前に、イーラームの町が見えてきた。

 すでに、昼過ぎになっていた……

無事救出できました。

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