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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第十部

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196/203

196.シャフレザード救出作戦(3)

レイラ・ザンドがとらわれている拠点へと乗り込む斎賀たち……

 翌日の夜である──


 昼間の間は、水たばこを吸ってバカ騒ぎをした。

 ホテルには水たばこを吸えるバーがある。

 ホテルの従業員たちの間では、彼らは弟妹の婚姻を祝うバカ兄弟……として、すでに認知されていた。

 あまりにも羽目を外しすぎるので、実際に婚姻する夫婦の家からは閉め出されているのだろう、と。

 斎賀は、ほくそえむ思いである。


「あまり、はしゃぎすぎないでくださいよ?」

 などと、ホテルの従業員が注意してくる。

 だが、その表情はほがらかな笑顔だった。


「わかってるよ、明日弟が結婚なんだ。これが祝わずにいられるかって!」

 と、マフムード。

「俺は、妹だ。妹が家族じゃなくなるのが、本当に寂しいよ!」

 と、斎賀。

「お気持ち、わかりますよ。結婚は祝福すべきことですが、同時に寂しいことです」

 ホテルのカフェのボーイが、そんなことを話す。

 マフムードと斎賀は、見つめあってにっこりした。

 まさに、未来の親せき同志、といった感じである。

 気持ちは、相通じている──べつの意味で。

 できるだけ派手に騒ごう……と、斎賀は思っていた。

 マフムードも同様である。彼らしくはなかったが……


 ランチの時間、斎賀はマフムードに耳打ちした。

「工作は成功している。俺たちは、完全に旅行者だ。弟妹の結婚式に参加する親戚同士。怪しまれていない」

「そうだな……俺もそれを実感した。お前は本当にすごいな? 以前は何をやっていたんだ?」

「残念だが、その記憶はない。だが……こんなことばかりやっていたんだろう」

 斎賀は照れて言った。

 マフムードは笑った。

「そうだな。きっと、そうだ。お前らしいよ……オガーブ!」

 本来であれば、極度の緊張のなかで過ごさなくてはいけない時間を、彼らは快適(?)に過ごしていた。

 その余裕が、作戦の成功に一役買ったことはたしかだろう……


 時間はゆっくりと、静かに流れていった。


 夜──

 斎賀とマフムードとは、こっそりとホテルを抜け出す。

 自動車のエンジンをかけ、走らせる。

 必要な物資は、すでに後部座席に積んである。

 ホテルのセキュリティーがざるだったのは、幸いだった。

 もし、自動車の中まで検閲が入るようであれば、彼らもあぶなかった。

 しかし……まだまだここは、戦争においては辺境なのである。

 監視体制は緩かった。


 こんな場合、敵だけでなく当局をも警戒しなくてはならない。

 斎賀たちの属しているアーヴァーズ・エ・ハークは、あくまでも反政府組織である。

 ジェマナイ派の人間から見れば、斎賀たちは、文字通り「敵」だった。

 ホテルの従業員たちのうち、どれほどの人間がジェマナイ派であり、どれほどの人間が反ジェマナイ派であるのかは分からない。

 しかし、表向きには彼らは公正中立である。

「お客様がすべてです」という顔をしてくれる。

 それが、斎賀たちの作戦であり、この救出作戦の肝となった。

 できるだけ、相手組織に警戒をさせないこと……

 そのためにも、この町に乗り込んできたのは弟妹の婚姻を祝うバカ兄弟でなくてはならなかった。


 夜の町を、斎賀とマフムードの自動車は駆けた。

 20分ほどで、目的地の近くに到着する。

 200メートルほどの距離をおいて、自動車を止める。

 ここからは、徒歩だ。

 斎賀とマフムードがリュックサックをかつぐ。

 そのなかには、機銃、ナノマシン、万が一の時のためのシャフレザードの衣服、などがしまいこまれていた。

 この衣服……というのが重要である。

 逃走の際には、彼らの(義理の)妹という状況説明が必要になる。

 その点でも、斎賀は慎重だった。

 先日に、市場で適当な衣服を見繕ってあった。

 マフムードは、そんなところにも感心する。

 さすがに、斎賀は情報軍所属の士官だっただけのことはあった。

 経験がものをいうのである。


 ──


 斎賀たちは、目的としている工場らしき建物の前についた。

 明かりは消えている。

 前日の調査では、工場は午後5時に稼働を終えて、終業する、そういう設定のようだった。

 もちろん、本物の工場ではない。

 テロ組織のアジトである。

 内部では、その後も様々な活動が行われているはずだったが……

 午後5時以降、目立った動きはない。それは確認済みである。


 今は、午後7時。

 あるいは、敵さんは食事の時間帯だろうか。

 だとしたら、大人数が一か所に集まっている可能性がある。

 この瞬間での襲撃は、あまり得策ではない。

 斎賀とマフムードとは、さらに潜伏する。

 近所をなんということのない散歩のように歩いてきて、再度合流する。

 ふたたび自動車のところに退避していよう、ということになった。

 襲撃は、午前1時~2時くらいにしようと、相談して決めた。


 いくらテロ組織とは言っても、相手は人間である。

 食事もすれば、眠りもする。

 相手が眠っている時間が重要なわけではない。

 相手に十分な準備をさせない、ということが重要なのである。

 というのは、敵グループでは、すでにシャフレザード奪還に対する備えもしているであろうからだ。


 じりじりとした時間が過ぎていく。

 午後9時。

 午後10時。

 午後11時。

 午前0時。

 ……まだ早い。

 テロ組織とは言え、24時間体制で活動しているようなところは少ない。

 深夜にはグループのメンバーは眠りにつく。

 しかも、今はシャフレザードという人質を抱えて緊張している。

 いつも以上に、時間というものを厳守するはずだ……斎賀の勘は当たっていた。

 午前1時。

 建物の明かりがすべて消えた。

 行動開始の合図である。


 斎賀は、カバンのなかから粉末のナノマシンを取り出した。

 マフムードが「なんのために買うのか?」といぶかった、例の奴である。

 じつは、これは統合戦線では一般的なナノマシン「パンくず」だった。

 熱源を発して、疑似的な位置情報を相手方のセンサーに送る、ハッキング専用のナノマシンである。

 これを使うと、あたかも生身の人間が移動しているような欺瞞情報を、相手方コンピュータに送ることができる。

 それを、斎賀は「工場」の玄関の前に撒いた。

 斎賀が開いているタブレット端末上では、複数の熱源が立ち上がっている様子が表示される。

 その5体のうち1体だけを、斎賀は玄関に向けた。

 残りは、建物の周囲を遠巻きに取り巻くように配置する。

「熱源」と言っても、実際には何もない。ナノマシンの雲があるだけである。

 しかし、このナノマシンが優秀なのだった……


 パンくずは、「工場」の玄関の扉をすりぬけていく。

 静かな間──

 それから、銃声があった。

 自動探知装置が、「工場」の玄関に人影を探知して発砲したのである。

 しかし、実際には人はいない。

 ナノマシンの影があるだけである。

 斎賀は、即座にコンソールに入力して、パンくずを解体──微小な熱源に戻る。

「よし、やった」

「やったのか?」

「ああ」

 センサーに反応して射出された銃弾が、見事に工場の入口のドアのカギを破壊した。

 斎賀は、それだけの計算をしている。

 ドアノブをひねると……開いた。

 うっすらとドアを開けると、斎賀は自動探知で銃撃してきた機銃と監視カメラにピストルの狙いを定める。

 銃撃。

 ぱちんぱちん、と音を立てて機銃と監視カメラがはじけ飛んだ。

 これで、入り口のセキュリティーは突破できた。

 幸いなことに、未だに人が起きてきた形跡はない。

(なるほど、やっぱり相手は素人だ……)

 斎賀はほっとした。



またパンくずが活躍しました。

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