195.シャフレザード救出作戦(2)
レイラ・ザンド救出作戦の続きです。
斎賀たちは、その日は町の中心にある高級ホテルに宿泊した。
こういう場合、目立たないように地味なホテルに宿を取ることは、逆効果である。逆に目立つ。
ただしアルコールが禁忌とされているイスラーム圏内では、夜遅くまで開いている盛り場などもない……
斎賀とマフムードは、早々に部屋に引きこもって、お互いに顔をつきあわせた。
ここからは、シャフレザード救出のための相談の時間である。
「シャフレザードの居場所は分かっているんだよな?」
と、マフムード。
「分かっている。彼女のピアスが最後に送信してきた位置情報は、それ以前の場所と変わりない。彼女は一か所に止め置かれている」
「なるほど。俺にはよく分からないんだが……」
「ああ、それは」
と、斎賀は説明する。
「彼女のピアスには、特殊な通信装備が付属している。暗号通信を送ってくるんだ。それをPCで解析して、位置情報を割り出す」
「携帯やなんかでは確認できないのか?」
「確認できない。必ずネット経由での確認が必要になるんだ」
「俺には、そこのところがいまだに分かっていない。お前はプロだ、オガーブ」
「プロと言っても、記憶はあいまいなんだがね。昔取った杵柄ってやつか……」
「なんだ、それは?」
「日本のことわざらしい。俺もうろ覚えだ……」
そんな冗談を言い合った。
「で、具体的にその場所はどこなんだ?」
「この町の郊外だ。俺たちと同じように、ごく普通の住宅地をアジトにしているらしい。だが……」
「だが、なんだ?」
マフムードが首を傾げる。
「どうやら、そこは工場らしい……。普通の住宅とは、大きさが異なる」
「工場か……なるほど、素人が拠点にしそうな場所だ」
「だな? 俺は、今回シャフレザードを襲撃したのは、プロだと思っていない」
「だが……?」
「そうだ。プロではないからこそ、過激である可能性がある。プロは、いずれにしてもスマートに事をこなす」
斎賀は呟いた。
「ああ。素人は、事が荒い。俺も、組織に参加したてのころは、荒かった」
「あなたにそんな過去があったのか? サング」
マフムードはうなずく。
それから、ナジーネに出会って以降の彼の変化について語ってくれた。
なんでも、マフムードはナジーネに出会う以前はかなり荒っぽい戦士だったらしい。
荒事に参加し、反省会で同志に糾弾される、そんなことを繰り返していた。
しかし、ナジーネは彼に違った秩序をもたらした。
彼女のグループに参加して以降、マフムードは荒事を控えるようになった。
彼の強行は、彼の焦りの現れだったのである。
彼は、殺人や襲撃を控えるようになった。
それ以降は、グループの防備だけを担当することになる。
ハサン・ファルザーネとの出会いも新鮮だった。
ハサン・ファルザーネは、彼に「耐える」ということを教えた。
「通信とは忍耐だ」というのが、ハサンの持論である。
マフムードは、人と人との会話というものが、忍耐を要するものであるということを学んだ。
ジェマナイにたいする復讐心にのみとらわれていた彼が、ジェマナイを相対的に見られるようになっていったのである。
それ以後、マフムードは無用な攻撃や、無用な防御というものも慎むようになった。
そして、ナジーネのグループは見事に周囲になじんで隠密的な組織になった。
人員は何度か入れ替わったが、中枢のメンバー──ナジーネ、ハサン、レイラ、マフムードは変わらなかった。
そして、現在の信頼と信用がある。
「俺は……」
と、斎賀は言った。
「サラーブを尊敬している。彼女は強い。だからこそ、このグループには長く活動してほしい」
「俺も、同意見だ。彼女は賢い。彼女がいなければ、このグループは瓦解していた」
「というより、彼女がグループそのものだろう?」
「そうだ。だからこそ、シャフレザードも命をかけていられる。俺も……」
マフムードが、考え深げに首を傾ける。
「明日、シャフレザードがとらわれている場所の下見をしよう。しかし、明日は襲撃はしない」
「それは、なぜなんだ?」
「いや、これには計画があるんだ。俺に任せてくれ、サング」
斎賀は言った。
胸のなかに、一つの計画と計算があるようだった。
マフムードは、無言でうなずく。
そのころには、この男──オガーブに全幅の信頼を置き始めていた。
あとは眠るだけである。
眠りが、すべての答えを出してくれる。
人には休息が必要だ。マフムードはそのことをよく分かっている。
朝日は、つねに人に答えを与えてくれるものなのだ……
それは、啓示でもあった。
「とにかく、今日は眠りに就こう……」
「そうだな」
2人は、ともにそれぞれのベッドに入った。
やがて、穏やかな寝息が2人の戦士の胸に宿った……
──
翌朝、斎賀は早くに目を覚ました。
しかし、マフムードはそれよりも早く起きていた。
「おはよう、オガーブ」
と、斎賀に声をかける。
腰のところに、すでにピストルを差している。
昨日話した通りで、ピストルを隠す素振りは見せない。
この地域では、身の安全を図ることこそがむしろ普通なのである。
旅行者が護身用に腰にピストルを差していたとしても、違和感はない。
ただ、斎賀が外国人であることだけが問題だったが……
斎賀は斎賀で、そのへんのところは心得ている。
イスラーム教徒と婚姻したニホンジンの親せき……といった振る舞いをして、周囲に違和感を与えない。
日本も、今ではジェマナイの構成国である。
会話も、「義兄さんは……」といった言葉を多用して、周囲に不信感を与えないようにする。
たしかに、年齢からすれば、マフムードは斎賀の義兄であってもおかしくなかった。
マフムードは33歳。斎賀は27歳である。
そして、イスラーム圏では、花嫁が表に出るようなことはない。
新婚夫婦の兄と義弟、といったような演出を、2人はした。
ニホンからやってきた義弟を、花婿の兄が迎えている──そんな演出をしたのである。
ホテルの従業員たちも、そんな演出を違和感なく受け入れた。
この時点で、作戦は半ば成功している。
──
マフムードは、ホテルの駐車場でレンタカーのエンジンをかけた。
ここからは、再び戦士の顔である。
マフムードは、斎賀が特定した工場(?)の前を自動車で通過させる。
斎賀は、デジカメを向けて、敷地内の様子を撮影する……
その間、十数秒。
2人は、なにげない様子でその工場(?)の前を通り過ぎた。
今日、襲撃はしない……それは徹底していた。
2人は、架空の花嫁と花婿のために、バカ騒ぎをした。
それは、イスラーム圏にあっては多少軽薄ではあったが、常識外れというほどではない。
ホテルの従業員たちは、新婚夫婦の親せきが浮かれ騒いでいると考えて、安心した。
そうした家族愛は、どんな世界にあっても変わりないものなのである。
──
「明日だ、サング」
と、斎賀は言った。
「どうするんだ? 昼間乗り込むのか?」
「さすがに、それはやばい。明日の昼は今日と同じように騒いで、夜に急襲をかける。作戦の概要はすでに考えた」
「頼れる奴だよ、お前は。オガーブ。しかし、俺に作戦の詳細は説明してくれないのか?」
「いや、これはリアルタイムの作戦になるんだ。その都度、あなたに指示を出す。あなたはそれに従ってくれ?」
「ああ、分かった。お前を信頼している」
マフムードは言った。
そこには、すでに信頼関係が現れていた。
あとは、シャフレザードが実際に無事でいるのか。
それだけが問題だった。
196.シャフレザード救出作戦(3)
翌日の夜である──
昼間の間は、水たばこを吸ってバカ騒ぎをした。
ホテルには水たばこを吸えるバーがある。
ホテルの従業員たちの間では、彼らは弟妹の婚姻を祝うバカ兄弟……として、すでに認知されていた。
あまりにも羽目を外しすぎるので、実際に婚姻する夫婦の家からは閉め出されているのだろう、と。
斎賀は、ほくそえむ思いである。
「あまり、はしゃぎすぎないでくださいよ?」
などと、ホテルの従業員が注意してくる。
だが、その表情はほがらかな笑顔だった。
「わかってるよ、明日弟が結婚なんだ。これが祝わずにいられるかって!」
と、マフムード。
「俺は、妹だ。妹が家族じゃなくなるのが、本当に寂しいよ!」
と、斎賀。
「お気持ち、わかりますよ。結婚は祝福すべきことですが、同時に寂しいことです」
ホテルのカフェのボーイが、そんなことを話す。
マフムードと斎賀は、見つめあってにっこりした。
まさに、未来の親せき同志、といった感じである。
気持ちは、相通じている──べつの意味で。
できるだけ派手に騒ごう……と、斎賀は思っていた。
マフムードも同様である。彼らしくはなかったが……
ランチの時間、斎賀はマフムードに耳打ちした。
「工作は成功している。俺たちは、完全に旅行者だ。弟妹の結婚式に参加する親戚同士。怪しまれていない」
「そうだな……俺もそれを実感した。お前は本当にすごいな? 以前は何をやっていたんだ?」
「残念だが、その記憶はない。だが……こんなことばかりやっていたんだろう」
斎賀は照れて言った。
マフムードは笑った。
「そうだな。きっと、そうだ。お前らしいよ……オガーブ!」
本来であれば、極度の緊張のなかで過ごさなくてはいけない時間を、彼らは快適(?)に過ごしていた。
その余裕が、作戦の成功に一役買ったことはたしかだろう……
時間はゆっくりと、静かに流れていった。
夜──
斎賀とマフムードとは、こっそりとホテルを抜け出す。
自動車のエンジンをかけ、走らせる。
必要な物資は、すでに後部座席に積んである。
ホテルのセキュリティーがざるだったのは、幸いだった。
もし、自動車の中まで検閲が入るようであれば、彼らもあぶなかった。
しかし……まだまだここは、戦争においては辺境なのである。
監視体制は緩かった。
こんな場合、敵だけでなく当局をも警戒しなくてはならない。
斎賀たちの属しているアーヴァーズ・エ・ハークは、あくまでも反政府組織である。
ジェマナイ派の人間から見れば、斎賀たちは、文字通り「敵」だった。
ホテルの従業員たちのうち、どれほどの人間がジェマナイ派であり、どれほどの人間が反ジェマナイ派であるのかは分からない。
しかし、表向きには彼らは公正中立である。
「お客様がすべてです」という顔をしてくれる。
それが、斎賀たちの作戦であり、この救出作戦の肝となった。
できるだけ、相手組織に警戒をさせないこと……
そのためにも、この町に乗り込んできたのは弟妹の婚姻を祝うバカ兄弟でなくてはならなかった。
夜の町を、斎賀とマフムードの自動車は駆けた。
20分ほどで、目的地の近くに到着する。
200メートルほどの距離をおいて、自動車を止める。
ここからは、徒歩だ。
斎賀とマフムードがリュックサックをかつぐ。
そのなかには、機銃、ナノマシン、万が一の時のためのシャフレザードの衣服、などがしまいこまれていた。
この衣服……というのが重要である。
逃走の際には、彼らの(義理の)妹という状況説明が必要になる。
その点でも、斎賀は慎重だった。
先日に、市場で適当な衣服を見繕ってあった。
マフムードは、そんなところにも感心する。
さすがに、斎賀は情報軍所属の士官だっただけのことはあった。
経験がものをいうのである。
──
斎賀たちは、目的としている工場らしき建物の前についた。
明かりは消えている。
前日の調査では、工場は午後5時に稼働を終えて、終業する、そういう設定のようだった。
もちろん、本物の工場ではない。
テロ組織のアジトである。
内部では、その後も様々な活動が行われているはずだったが……
午後5時以降、目立った動きはない。それは確認済みである。
今は、午後7時。
あるいは、敵さんは食事の時間帯だろうか。
だとしたら、大人数が一か所に集まっている可能性がある。
この瞬間での襲撃は、あまり得策ではない。
斎賀とマフムードとは、さらに潜伏する。
近所をなんということのない散歩のように歩いてきて、再度合流する。
ふたたび自動車のところに退避していよう、ということになった。
襲撃は、午前1時~2時くらいにしようと、相談して決めた。
いくらテロ組織とは言っても、相手は人間である。
食事もすれば、眠りもする。
相手が眠っている時間が重要なわけではない。
相手に十分な準備をさせない、ということが重要なのである。
というのは、敵グループでは、すでにシャフレザード奪還に対する備えもしているであろうからだ。
じりじりとした時間が過ぎていく。
午後9時。
午後10時。
午後11時。
午前0時。
……まだ早い。
テロ組織とは言え、24時間体制で活動しているようなところは少ない。
深夜にはグループのメンバーは眠りにつく。
しかも、今はシャフレザードという人質を抱えて緊張している。
いつも以上に、時間というものを厳守するはずだ……斎賀の勘は当たっていた。
午前1時。
建物の明かりがすべて消えた。
行動開始の合図である。
斎賀は、カバンのなかから粉末のナノマシンを取り出した。
マフムードが「なんのために買うのか?」といぶかった、例の奴である。
じつは、これは統合戦線では一般的なナノマシン「パンくず」だった。
熱源を発して、疑似的な位置情報を相手方のセンサーに送る、ハッキング専用のナノマシンである。
これを使うと、あたかも生身の人間が移動しているような欺瞞情報を、相手方コンピュータに送ることができる。
それを、斎賀は「工場」の玄関の前に撒いた。
斎賀が開いているタブレット端末上では、複数の熱源が立ち上がっている様子が表示される。
その5体のうち1体だけを、斎賀は玄関に向けた。
残りは、建物の周囲を遠巻きに取り巻くように配置する。
「熱源」と言っても、実際には何もない。ナノマシンの雲があるだけである。
しかし、このナノマシンが優秀なのだった……
パンくずは、「工場」の玄関の扉をすりぬけていく。
静かな間──
それから、銃声があった。
自動探知装置が、「工場」の玄関に人影を探知して発砲したのである。
しかし、実際には人はいない。
ナノマシンの影があるだけである。
斎賀は、即座にコンソールに入力して、パンくずを解体──微小な熱源に戻る。
「よし、やった」
「やったのか?」
「ああ」
センサーに反応して射出された銃弾が、見事に工場の入口のドアのカギを破壊した。
斎賀は、それだけの計算をしている。
ドアノブをひねると……開いた。
うっすらとドアを開けると、斎賀は自動探知で銃撃してきた機銃と監視カメラにピストルの狙いを定める。
銃撃。
ぱちんぱちん、と音を立てて機銃と監視カメラがはじけ飛んだ。
これで、入り口のセキュリティーは突破できた。
幸いなことに、未だに人が起きてきた形跡はない。
(なるほど、やっぱり相手は素人だ……)
斎賀はほっとした。
197.シャフレザード救出作戦(4)
「こういうとき、緊急アラートは鳴らないものなのか?」
マフムードは訝る。
斎賀は、
「おそらく、敵が防備をメインにしているためだろう。アラートが鳴れば、自分たちが警戒態勢にある、ということが相手にも伝わる。たぶん、アラートは個別の居室のドアにしかけられていて、工場入口では自動的に銃撃が行われるだけなんだろう。サイレント・トラップだな。当局による突入を警戒しているんだ……」
「そんなものか?」
「そんなものだ。入ってみろよ」
斎賀は、マフムードを促す。
「罠じゃないのか……?」
マフムードは冷や汗をかいた。
しかし、斎賀は「だいじょうぶだ」
そして、ドアを押して、「工場」のなかへと入る。
あたりはしんと静まり返っている。
前方斜め上に、破壊された機銃が鎮座している。
監視カメラは、じじじ、という音を立てて震えていた。
斎賀は、入り口付近にあったコントロール・ルームへと入っていく。
もとは、工場全体のラインを監視するコンピュータが設置されていたのだろう。
今も、大きめのサーバーが鎮座していた。
ここが、このアジトの頭脳であるらしい。
斎賀は、端末の電源を入れる……と思ったが、すでに入っていた。
キーボードをたたいて、画面を確認。
入口のところの機銃は、やはりスタンドアローンだった。
つまりは、ブービー・トラップである。
全体のセキュリティーとは連動していない。
(ふふ……相手が素人だと、本当に助かるよ)と、一人思う斎賀。
マフムードは、依然として不安な面持ちをしている。
マフムードは機銃を構えているが、斎賀はピストルを腰に差しているだけだ。
それが、情報員として勤務した経験からくる余裕なのか、油断なのか……マフムードは図りかねていた。
きょろきょろと、周囲を見回している。
しかし、アジトの人間が起き出してきた気配はない。
時刻は、今真夜中である。
「で? シャフレザードはどこにいるんだ?」
マフムードが小声で聞く。
「たぶん、工場のラインはそのままだろうから……従業員の休憩室のどこかだな? 待て。今、敵のメンバーの数を確認している。よし、5人だ。セキュリティー・キーの数を確認した。5人分のパスワードが設定されている」
「よく、分かるんだな? どうやっているんだ?」
「情報軍時代の知恵で、だよ」
「情報軍」という言葉を、斎賀は使った。
統合戦線の統合軍では「情報部」とは言わない。陸軍や空軍などと同列の、独立した「軍」である。
そのことを、斎賀は今思い出していた。
言いながら、はっとする……。
「なんだ? どうした?」
と、マフムード。
「いや、なんでもない……」
斎賀は、冷や汗をかいていた。
それは、恐怖から来る冷や汗ではなかった。
過去が、現在を侵食してくるような、そんな冷や汗である。
斎賀は、今一歩過去の自分の記憶へと近づいているのであった……それは、今この場の極度の緊張感がそうさせることだったろう。
……
「マフムード、敵を見つけたら、すぐには撃つな。警告してから撃て」
「それは、どうして?」
「警告せずに撃っても、敵はひるまない。敵は5人いる。1人倒しても、残りの敵が逃げたり反撃してきたら、おしまいだ。敵にはなるべく警戒させる」
「なるほどな。情報軍らしい……」
「頭脳戦なんだよ、こういうときもな。とにかく、相手はプロじゃない」
斎賀はウィンクした。
それを若干気持ち悪い、とマフムードは思う。すこし、咳ばらいをした。
どうやら、敵のコンピュータのハッキングによって、敵がプロフェッショナルではないということを斎賀は確信したらしい。
それは良いのだが、敵も武装しているだろう。
銃器の扱いに、プロもアマもない。
自分たちは敵を確実に仕留めなくてはいけないが、こちら側は足を撃たれただけでKOなのである。
とにかく、今はシャフレザードという人質がいる。
敵が、もしも彼女を盾に取ったとしたら……
そうさせないための速攻の作戦が必要だ。
斎賀とマフムードとは、2階に上がって廊下を進んでいった。
かつては「何々室」であったろう部屋が、並んでいる。
その個別の部屋は、今はアジトのメンバーの寝室なのか、あるいは休憩室なのか……
一つ一つのドアを開けて、内部を確かめていく。
外れ、が募るほどに、緊張感も高まる。
残っているのは、奥のほうに10室ほどだった。
また、1つのドアを、ぎいっと開ける──と、けたたましい警告音!
「来た!」
と、斎賀とマフムードは身構えた。
部屋の奥のベッドから、人影が跳ね起きる。
マフムードはとっさに銃を構えて「覚悟しろ!」警告を発する。
しかし、部屋にいたのは一人だった。
マフムードは機銃を発砲。
弾丸を撃ち込まれた男が、もんどりをうって床に倒れた。
流れる血。叫喚。死んだ。
「来るぞ! 残りの4人も起きてくる!」
斎賀は叫んだ。
マフムードも分かっている。無言でうなずく。
それから、部屋の入口のドアのところで、身を伏せる。
たたたん、と廊下に足音がした。
斎賀は、ふたたびカバンのなかから粉末のナノマシンを取り出している。
「どうするんだ? 今度は?」
尋ねる、マフムード。
「いや、これにはこういう使い方もあるんだよ」
そう言いながら、パンくずを起動させる斎賀。
端末上でスイッチを入れると、廊下を人影のようなものが走っていく──パンくずの、発光モードである。
そちらに銃声。
どうやら、敵はすでに廊下に出てきているらしい。
4種類の銃声が、同じ方向を目指して弾丸を撃っている……そういう印象。
斎賀は、「しめた」と思った。
敵は、今シャフレザードに注意を向けていない。
このような少人数での奇襲は想定していなかったのか……
ここでも敵の誤算に助けられた。
斎賀は、ドアを開けて、手りゅう弾を転がした。
爆音。
何人かの悲鳴! 2人か?
動ける人間は残り2人だろう。
しかし……
斎賀たちがいる、部屋の扉が吹き飛んだ。
どうやら、敵は大規模な火器を持ち出してきたらしい……。
このまま、部屋のなかに手りゅう弾でも投げ込まれたらお陀仏だ。
「出ろ、サング!」
と、斎賀は声をかけた。
マフムードがうなずいて、部屋の外に走り出す。
それから、廊下をひたすら走った。
銃撃があるが、2人には当たらない。
そのまま、階段を駆け足で降りて、階下で一息ついた。
敵は今、2階に2人である。
シャフレザードは階上にいるのか、階下にいるのか?
階上ならピンチだが……
斎賀は、階上に向けて手りゅう弾を投げ込んだ。
爆音。
確認はできないが、敵はひるんだだろう。
どの程度の襲撃なのか、と反芻しているところだ。
まさか、たった2人での襲撃だとは思っていないかもしれない。
そう思われているうちが、チャンスだ。
マフムードは、虚空に向かって銃を構えている。
「立つな! 危ない。闇雲に銃を構えても無駄だ! 敵の攻勢を待つんだ!」
「しかし、シャフレザードが人質に取られているとしたら!??」
「俺に考えがある。今は、とりあえず安心してくれ!」
「了解だ。お前に任せる、オガーブ!!」
次章にさらに続きます。




