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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第十部

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194/203

194.シャフレザード救出作戦(1)

レイラ・ザンド救出作戦へと向かう斎賀とマフムード。

 斎賀はじょじょに記憶を取り戻してきているようだった。

 しかし、それは仕事柄培った記憶に限られている。

 まだ、斎賀は自分の妹がジェマナイに殺された、ということを思い出してはいない……

 しかし、それはどこかでシャフレザード(レイラ・ザンド)を救い出す、ということと結びついていたかもしれない。

 というのは、心のどこかがうずくのだ。

 大切なものを再びなくすわけにはいかない、という焦燥感。

 その「再び」が、何に対する「再び」なのか、斎賀は分からなかった。

 分からないながらも、行動していた。

 行動が、斎賀をもある意味で前のめりにさせている。

 しかし、焦ってはいなかった。

 冷静に状況を分析し、必要な物資と必要な手段とを計算していく。


 斎賀とマフムードは、まず市場で買い出しをした。

 戦争が激しくなって以来、イーラームには闇市のようなものができていたのである。

 そこでは、軍需関係の物資も売られていた……

 斎賀は、マフムードが不思議だと思うようなものを買い足していく。

「おい、オガーブ、それは本当に必要なものなのか?」

 と、マフムードは聞く。

 斎賀は、

「ああ、たぶんな。まあ、予備だよ、予備として買っておく」

 などと言い抜ける。

 マフムードは感心しながらも困惑した。

 粉末のようなナノマシンなど、何に使うのだろうかと訝った。

 しかし、斎賀は高値を惜しまずに購入している。

 アーヴァーズ・エ・ハークに連れてこられて以来、依頼をこなすたびに斎賀はナジーネから報酬を受け取っていたのだった。

 それが、今ではかなりの額になっている。

 斎賀は、それを残らずシャフレザードの救出作戦のために使った。


 マフムードは、自分の財布を見つめながらつぶやいた。

「おれは、サラーブからそんな大金はもらってないな……」

「いや、悪い。見せびらかすつもりじゃないんだ。君は実行部隊だからな。シャフレザードを救出したら……」

 気まずい風が、早くも2人の間を通り抜けた。

 しかし、そこはあえてしれっとしてやり過ごす斎賀。

 何はどうあれ、この作戦は2人で遂行しなくてはならない。


 買い出しには、複数の市場をまわって1日かかった。

 それから、レンタカーで北へと向かう。

 目的地は、フボイという国境の小さな街である。

 イーラームからは、750キロほどの距離だ。

 2人は、途中タブリーズでアーヴァーズ・エ・ハークの他のグループのメンバーと会った。

 グループのメンバーが誘拐される、などということは、こちらでは日常茶飯事のことだったらしい……

 シャフレザードが誘拐されたが、有用な情報はないか?

 と尋ねたものの、返ってきた答えは心もとないものだった。

 すなわち、誘拐された人間はほぼ帰ってこない……と。

 さすがに、今は戦争中なのだった。


 先日も、イラク空軍からの空爆があり、数人の負傷者が出ていた。

 斎賀はあらためて、(俺は今は敵国で活動をしているのだ)と、思いいたる。

 それについても、斎賀は忸怩たる思いを抱いた。

 結局のところ、シャフレザードの救出は、斎賀とマフムードの2人で行うしかないようだった。

 斎賀は、今再び「以前にもこんなことがあったが……」と思い始めていた。

 それは、どこへの侵入だったろうか?

 どんな任務だったろうか?

 俺は無事に帰ってきたんだな……

 ということは、俺は成功したわけだ。

 今回もきっと成功する。

 ──そんなふうに、自分とマフムードの心をなだめる。

「きっと大丈夫だ、サング」

「ああ。絶対にな」


「あらためて思うんだが、シャフレザードは本当に危険な仕事をしていたんだな?」

 斎賀が口を開く。

 自動車の窓の外には、田舎らしい光景が流れている。

 時折、果物を売っている屋台などがあった。

 マフムードは、そちらをちらりと見て、

「ああ。あいつは、お前が言ったように百戦錬磨だ。今回も無事だと信じている」

「俺もだ」

 斎賀は口数少なく答えた。

 マフムードの信頼は、シャフレザードだけでなく、自分にも向けられているということを感じた。


「ちょっと……車を止めてくれないか?」

 斎賀が声をあげる。

 マフムードは、急ブレーキではなく、数十メートルほど行ってからゆっくりと自動車を止めた。

 それもあやしまれないための工作だった。

 斎賀は自動車を降りて、背後数十メートルほどの屋台に駆けていく。

 斎賀が買ってきたのは、数個のリンゴだった。

 リンゴは斎賀の祖国である日本でもメジャーな果物だったが、ここイランも有数の生産国である。

 新鮮なリンゴは、2人の緊張を緩める役に立った。

 2人とも、自動車を運転しながら無言でリンゴをかじる。

 ただ、斎賀には別の目的もある……

 できるだけ、ごく普通の旅行者のように見せかけたい……これは、シャフレザードがやったことと同じだった。

 今は、半ばは敵地にいると言って良い。

 どこで、誰に監視されているか分からなかった。

 あるいは、サテライト群にマークされているかもしれない。

 とすれば、彼らの行動は敵にも筒抜けである。

 なるべく、普通の旅行者のような顔をしておくに越したことはない。


「サング、機銃はカバンに入っているんだな?」

「ああ。ピストルは腰に差しているが、ここらでは、誰もが護身用にピストルを持っている。珍しくない」

「そのようだな……」

 斎賀は、市場でもピストルを腰に差している男たちを数人見かけた。

 ここは、明らかに戦闘区域である。

 と同時に、イラン人たちにとっては故郷ふるさとでもある。

 異国とは言え、斎賀はその街並みにどこか懐かしさを感じ取っていた……

(このような場所で、シャフレザードはさらわれたのか……)

 胸の痛みを、斎賀は感じた。


 間もなく……シャフレザードが襲撃された地点である。

 斎賀は、アーヴァーズ・エ・ハークのメンバーが殺された、その場所も見ておきたいと言った。

 それくらいの寄り道は、それほど危険でもないだろう。

 というのは、フボイの町のなかでも中心街に近いところ、モスク付近で2人は落ち合っていたのだ。

 なるべく観光客同士の交流のような、あるいは田舎の親せきを訪ねてきたような、そんな何気ない雰囲気で2人は会っていた。

 それも工作である。

 しかし、殺されたメンバーは敵組織につけられていた。

 それも用意周到に……というのが、斎賀の勘だ。


 モスクには、いくつか銃弾の跡があった。

 斎賀は、(おや)と思った。

 この町ではグループ間抗争があるのか? ──と、考えたのである。

「サング。このへんでは、アーヴァーズ・エ・ハーク以外の反政府グループも活動しているのか?」

「イラン国内には、いくつかの反政府組織がある。しかし、このへんで活動しているグループというのは、聞いたことがない」

「そうか。なるほどな……こういう場合、得てして敵よりも同志のほうが危険なものだ。目的を見失うと、争いになる」

「それは、分かるよ。俺たちだって、一枚岩じゃない。アーヴァーズ・エ・ハークもデリケートな組織なんだ」

「それが……今回の事態を招いたのかもしれないな」

 斎賀が、考え考え言った。

「どういうことだ?」

「敵は……外国勢力じゃないかもしれない。利益目的のグループという可能性がある」

「というのは?」

「この間も言ったろう? 犯行が雑なんだ。なりあがりのグループがシャフレザードを誘拐した、という可能性もある」

「ジェマナイ派ではなく、か?」

「いや、ジェマナイ派なのは、たしかだろう。しかし、新興の勢力かもしれないな……」

「そこまで分かるとは、お前は大したものだよ。オガーブ」

「ほめても、何も出んよ」

 とは言ったが、斎賀は照れていた。

 斎賀の見立ては、この時点でほぼ当たっていると言って良かった。

トルコとの国境に到着しました。

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