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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第十部

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184/203

184.ライジングアース無双(2)

引き続きライジングアース無双のエピソードです。

 ヴァレリテは、コックピットのなかで軽く息をついていた。まだまだ冷静である。

 ──

 3体のヴェガは、少しずつライジングアースに対する間合いを詰めていく。

 まずはホバーで前進。

 ついで、角度を変えて後退。

 そのまま、3体のヴェガⅡはライジングアースの周りをじょじょに接近しながら回る。

 車懸りの陣の戦法に少し似ていた。


 ライジングアースはぎこちなく、メイン・カメラをそれぞれのビッグマンのほうに交互に向ける。

 ライジングアースもまた、ホバーで地面より少し浮きながら、機体を回転させている。


(さて、次はどんな戦法で行くか……)

 ヴァレリテは考える。

(ミサイルを発射しても、あの奇妙なバリアですべて撃墜されてしまう。他の方法を考えなくてはいけない)

 ──ためには、カリュクス、オルガとの連携が不可欠だ。

 ヴァレリテは、それぞれの機体にショート・メッセージを送る。


 ──


 ライジングアースのコックピットのなかでも、セラフィアとミューナイトが次の作戦について考えていた。


 今は戦闘中だ。コックピット内がハッキングされていないとも限らない。

 ……だから、思念通信での会話である。


(ミューナイト、お前なら次はどの機体を狙う?)

(そうね。ヴァレリテの機体。彼は量子ナイフを構えていない。今の武器はハンドガンだから……)

(そうだな、わたしもそう思う。ハンドガンによる攻撃なら、スーパー・アンブレラで防げる)

(量子ナイフのほうが厄介ね。接近戦に持ち込まれたら、力業が通じてしまう)

(そうだ。わたしの意図を分かってくれて嬉しいよ)

(あなたは上官だもの。指示には従うわ……)


 ……そんな会話は、まだ少しぎこちない。

 セラフィアと斎賀とでは、考えていることが全く違うのだ。

 ライジングアースは、今以前とはまったく違った機体になっている──と、言っても良かった。


 ミューナイトは、わざとカリュクスのほうに機体を向ける。

 それは、セラフィアも思ったことだ。

 敵に、狙っているのはカリュクスだと思わせる。

 それは、正しい。

 普通、戦闘では一番弱いところから切り崩していく、というのが定石だ。

 そんな素朴な作戦に敵がひっかかってくれれば……


(お前は本当に優秀だよ……)

 セラフィアは、思念通信でミューナイトに伝える。


 ライジングアースは、威嚇のためにハイ・フリークエンシー・ソードをつかんだ右手を、ロケット・パンチでカリュクスのヴェガⅡのほうに飛ばした。

 次のタイミングで、敵はいっせいに攻撃をしかけてくるだろう……


 ──


 セラフィアの予想は当たった。

 ヴァレリテとオルガの機体は、それぞれジェットで高速に横に移動しながら、ミサイルを撃ち込んできた。

 ヴァレリテのヴェガⅡはハンド・ガンによるミサイルを、オルガのヴェガⅡは全方位ミサイルを一点集中させて。

 次は、こちらに飛び込んでくるだろう。


 こんな戦法は、ミューナイトと斎賀がヴォルガと対決したときの状況とも似ていたが……

 セラフィアは、今度は攻撃を受けて立つ番である。


 カリュクスの機体だけが、回収した量子ナイフを右手に構えて、高速でライジングアースに突っ込んできた。

 ……

 ライジングアースは、ロケット・パンチを収納。

 ジャンプして、カリュクスのヴェガⅡを躱す。

 空中に浮きながら、腰部ミサイルでカリュクスの機体を狙う……

 爆音。

 着地する寸前に、ミューナイトは機体を飛行形態に変形させる。


 そのまま、半円の機動を描いて、ヴァレリテのヴェガⅡに突進していく。

 ヴァレリテの機体は、やや動揺したように震えた。

 ハンド・ガンを構えて、飛行形態のライジングアースに再度ミサイルを撃ち込む……

 が、それを絶妙のタイミングで躱すライジングアース。

 1秒あったかなかったかのタイミングで、ヴァレリテのヴェガⅡの前に到達──と、瞬時に人型形態に変形するライジングアース。

 ハイ・フリークエンシー・ソードを構えて、ヴァレリテのヴェガⅡの腹部に刺し込んだ──。

 カーネルを貫かれて、停止するヴァレリテのヴェガⅡ。


 ヴァレリテはソードを突き立てられる寸前、量子ナイフで抵抗しようとしたが、遅かった。

 ……完全に計算ミスだった、と悔やむヴァレリテ──。

 静かな無音が、ヴァレリテの心を包む。

 ……

 瞬間、ヴァレリテは脱出ポッドでもあるコックピットを射出して、離脱した。

 ハイ・フリークエンシー・ソードを「ぶん!」と回すと、ヴェガⅡは地面に崩れ落ちた。

 これで、2対1である。


 カリュクスとオルガのヴェガⅡは、今度はジェットでライジングアースのほうに突進してきた。

 両者とも、量子ナイフを構えている!

 子ルーチンとしてのAI脳で、ライジングアースは接近戦でなければ倒せない、と確信したのだった。

 カリュクスもオルガも、子ルーチンながら昂奮している。

 これは、負けられない戦いのはずだ……


 ──

 ライジングアースは人型形態のまま、機体を振り向かせて、ロケット・パンチを射出。

 ……ハイ・フリークエンシー・ソードは、破壊したヴェガⅡに刺さったままだ。

 ……

 左腕はカリュクスのほうに、右腕はオルガの機体のほうに飛んでいく。

 敵から発射されるミサイルは、スーパー・アンブレラで粉砕。

 両機に、ほぼ同時に激突するロケット・パンチ。


 カリュクスの機体は、頭部を完全破壊。

 オルガの機体は左足を粉砕された。

 両子ルーチンとも、すぐに脱出ポッドでその場から離脱する。

(このままでは、死ぬ……)

 カリュクスは思う。

 どうやら、ジェマナイのほうでは、過去の戦闘の教訓が生きなかったらしい……

 個別の思考で行動する子ルーチンならではの弱点だった。


 ──


 セラフィアは、ほっとしていた。

 これで、残っているのはアーシャ・ロウランの部隊だけである。

 いや、もう1体ピエタのヴエガⅡがいる……


 セラフィアは、HUDの画面にサテライト群の情報を展開させる。

 どうやら、残り6体のビッグマンは戦線を離脱したらしい。

(アーシャ・ロウランとも戦ってみたかったな……)

 セラフィアは思った。

 そして、バグダッド市内の映像をHUDに映し出す。

 それは、文字通り「惨状」だった。

 しかし、悲しみはない。

 ……

 子ルーチンだった時の思考は、容易に抜けないのである。

 そこが、ミューナイトとは違っていた。

 ミューナイトは、セラフィアから映像を送られて、唇を噛んだ。


(次は、ブラックスワーンダーね?)

 ミューナイトが思念を送る。

(ああ。そして、たぶんヴォルガも戻ってくる)

(バグダッドは持つのかしら?)

(分からない。ジェマナイ次第だ)

(でも、ヴェガⅡが3体手に入った)

(どうかな。ヴァレリテとカリュクスの機体はもう使えないだろう……)


 結果として、統合戦線は1体のヴェガⅡを鹵獲した、ということになる。

 ヴァレリテとカリュクスの機体は、オルガの機体を修復する際に部品として使われるのではないだろうか?

 これで、統合軍のロボは合計で3体である。

 優秀なパイロットを、もう1人探さなければならない。

 しかし、これによって統合軍は、ロボをチームで展開させられることになった。

 ジェマナイに対する対抗手段が増えたのだ。


 セラフィアは、リュシアス同様全体を俯瞰していた。

 そのことが、ミューナイトにも分かる。

 セラフィアは、以前ミューナイトとともに戦いたいと思ったことがあった。

 それが、今実現しているのだったが……


 ──


 イラク陸軍の戦車部隊は、依然として攻撃を継続していた。

 上空には、まだオルリヌイ・ルーチとスホーイがいて、イングレスαの部隊と交戦している。

 しかし、彼らも直に撤退行動に移るだろう。


 ライジングアースは、ヴェガⅡに突き刺さっていたハイ・フリークエンシー・ソードを引き抜いて、背部に収納した。

 バグダッド国際空港の滑走路に屹立して、上空を見上げる。


(たしかに……次はリュシアス一将とヴォルガと戦わなくてはいけない……)

 セラフィアは無言で思った。

 ──

 思念通信でミューナイトに伝わらないように。

 セラフィアにも、悲しみに似た感情が萌していたのかもしれない。

不穏な空気は続きます。

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