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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第十部

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185/203

185.リュシアスの帰還とヴォルガの合流

ジェマナイが新しい道を示します。

 無数の光点が、規則性なく瞬いていた。

 ……いや、規則がないように見えるだけなのかもしれない。

 その点滅の一部が、わずかに同期する。

 そしてまた、崩れる。

 何かが更新されている。

 何かが選別されている。

 それらの光は、イメージとしてすべての子ルーチンの心に降り注いだ。

 まるで、天から何かが降ってくるように……

 個々の思考とは無関係に。

 ──


 リュシアスもそうだった……

 それは、ジェマナイの思考かもしれないとリュシアスは直感する。

 その「意図」を、リュシアスは分からない。

 無数の光と見えるものは、数十兆次元に及ぶジェマナイの思考ベクトルだろうと思われた。

 ジェマナイと密接に接してきたリュシアスだから、分かることである。

 それは、何か静かな涙を誘うように思われる……一体誰の?


(これは、齟齬か? 悔悟か?)

 リュシアスは、セラフィスへと帰投するブラックスワーンダーのなかで考える。

 あの光は、わたしだけに向けられたものではない……

 はっきりと感じる。


 今、ジェマナイは破れた。

 しかし、バグダッドの統合軍やイラク軍には致命的なダメージを与えただろう。

(体制を立て直して即座に反撃すべきか? ……いや、違う)

 ジェマナイは、そのことをイメージとして彼女たちに伝えてきているのではないのか?

 これほど混沌とした思考に触れるのは、リュシアスは初めてだった。

 リュシアスは、仮面を取って、その頬にそっと手を触れさせる……

(……本当にジェマナイの意志なのか????)


 ──冷たい──


(今の光によって、体温が下がった?! すべての子ルーチンがそうなのか?)

 リュシアスは、その光は自分だけに向けられたものではない、ということを直感していた。

(ジェマナイが、すべての子ルーチンたちにクールダウンを求めているのだろうか? ……分からない、本当に)


 ジェマナイが子ルーチンたちを物理的にも調整できるとしたら、それは恐ろしいことのように思えた。

 リュシアスが、ジェマナイにたいして恐怖を感じるのは初めてだった。

(ジェマナイは、動き始めている……)

 というのが、彼女の思考で出た結論である。

(ジェマナイは、我々を裏切ろうとしているのか? いや、そうではない……)

 リュシアスの頬を、静かな涙が伝う。


(やっぱり、そうだったのか!)


 リュシアスは、今ジェマナイの前に跪かなくてはいけないのかもしれなかった。

 突如として、ブラックスワーンダーが何か神秘的な存在になったように感じられる──リュシアス。


(ライジングアースも同じに違いない。あるいは、すべてのビッグマンが……ああ、そうか。ようやく分かった……)


 リュシアスは、今静かに決断した。


 ──


 ……

 セラフィスの基地内も、同様に混沌に満たされていた。

 子ルーチンたちが、例の光を感じ取ったと話しあっているのである。


 人間であるアーシャ・ロウランには、それが分からない。

 ヴァレリテやオルガらが、「さっき不思議な光を見た……」と。

 アーシャ・ロウランは「お前も見たのか?」と尋ねられたが、そんな心当たりはなかった。


「それは、あのう……例のマザー・ルーティーンというものではないのですか?」

 アーシャ・ロウランは、レファイン=ヴァルデスに尋ねる。

 ジェマナイでは、格上の者と格下の者との間の、敷居が低い。

 レファイン=ヴァルデスは、アーシャに質問されても、それを不快なものだとは感じなかった。

 こう説明する……

「マザー・ルーティーンというのは、たしかに子ルーチンの思考を書き換えるものなのだが、さっきの光はそうではなかった。静かにそっと、我々の心に触れてくるような感じだ。……そして、重要なのは、ジェマナイが何を伝えたかったのか、誰にも分からないということだ」

「そうなのですか……一体何だったのでしょう?」

「それが、分からない。リュシアス一将であれば、分かるかもしれないが……」

 レファイン=ヴァルデスはやや俯きながら言った。

「一将が帰ってきたら、聞いてみようと思う。ブラックスワーンダーの帰還も間もなくだ」


 ──


 それから、基地内では静かな時間が流れた。

 子ルーチンたちは、皆一様に考え込んでいる。

 先ほどの光について、思い当たることをそれぞれ探しているのかもしれなかった。

 アーシャ・ロウランには、やはりそれが分からない。

 ただ、心配そうにレファイン=ヴァルデスら子ルーチンを見守っていた。


(まさか、バグダッドで負けたことに対する罰? でも、彼らは苦痛は感じなかったと言っているし……)

 そうである。

 子ルーチンたちが感じた光は、どこか優しさを帯びているものだった。

 ジェマナイの母性、あるいは父性のようにも感じられる。

 とくにレファイン=ヴァルデスは、率先して子ルーチンたちを安心させようとしていた。


(そうだ!)と、レファイン=ヴァルデスは思う。

 ヴォルガ二将と連絡をとって、二将もあの光を見たかどうか聞いてみよう……

 そして、AIブレインによる直接会話を試みる。

 ヴォルガのAI脳に、レファイン=ヴァルデスの思考が伝わった。

 そこで返ってきたことは、意外とも当然とも思えるものだった。

 ヴォルガは、「俺も見た」と答えたのである……


(この場にいない者にも?)──と、レファイン=ヴァルデスは思う。

 トムスクに残っている子ルーチンたち(上司も含めて)に確認してみると、やはり同様にあの光を見た、という答えが返ってくる。

(これは、マザー・ルーティーンの新しい形なのだろうか?)

 と、レファイン=ヴァルデスは考えた。

 その答えが当たっているのか、外れているのかは分からないが、彼はむしろほっとした。

 もしも、一将も見たのだとすれば、おそらくほぼすべての子ルーチンたちが、あの光を感じ取ったのだ。

 あるいは、あれはジェマナイの祝福なのではないか……

 ヴォルガ二将も同じことを、言っていた。

「あれは、命令じゃない……祝祭だ」と。


 ──


 リュシアスは、間もなく帰ってきた。

 仮面の下の素顔は分からないが、明らかに疲れている様子だと、レファイン=ヴァルデスは思った。

 そして、聞いてみる。

「一将もあの光を見たのですか? と言いますか、感じたのですか?」

 それは、ややぼかした言い方だった。

「見た。あれは、たぶんジェマナイの意志だろう。ジェマナイが、我々すべてに何かを伝えようとしてきている。わたしはそう感じたが……」

「わたしもです。上位の子ルーチンだけでなく、末端の子ルーチンたちも同じ光を見たと言っています。不思議なことですが」

「不思議ではない。たぶんな……」

「それで、ジェマナイはわたしたちに何を伝えようとしているのでしょう?」

「さあな……」

「一将にも分かりませんか」


 しかし、そんなことばかりをずっと話し続けているわけにはいかない。

 レファイン=ヴァルデスは、現実に戻って今後のことをリュシアスに尋ねた。

「それで、バグダッドはどうするのでしょうか?」

「ジェマナイは、わたしに核の使用も辞さないと言ってきた。ライジングアースはどうしても倒さなければいけない。ジェマナイは静寂を望んでいるのだ」

 ……それは、嘘だった。

 リュシアスは、ジェマナイの真意は隠さなければならない、と思っていた。

 だから、レファイン=ヴァルデスにも彼女が感じた「本当のこと」は話さない。


 レファイン=ヴァルデスは、前回の会議と同じように、リュシアスにコーヒーを勧めた。

 が……

 リュシアスは言うのだった。

「いや、わたしはもう仮面を外すことはない。それも、ジェマナイの意志だ」

「そうでしたか……」

 ジェマナイの戦略・戦術長官という地位にあるリュシアスの心を、レファイン=ヴァルデスも即座に理解した。

(一将も、苦しい道を行かれるのかもしれない……とくに、核を使用するだなどと……)

 そして、静かに頭を垂れた。

 リュシアスは、ただ頷いた……。


 ──


 ……

 そして、3日の時間が経った。

 3日経って、何が起こったか?

 ……ヴォルガ二将が再びセラフィスへとやって来たのである。ヴォルグラスⅡとともに……。


「ご苦労。ロールアウトには一週間かかるのではなかったのか?」

「急がせました」

「お前も酷なことをするな……」

「何。皆、ブラックスワーンダーとリュシアス様を助けようとしているのですよ」

 ヴォルガはにこやかに言う。

 リュシアスは、素顔は見せなかったが、やはり仮面の下で微笑していた。

ヴォルガ、復帰しました。

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