183.ライジングアース無双(1)
ついに無双するライジングアース。
(ジェマナイはバグダッドのインフラの破壊を考えている……いや、これはリュシアス一将の考えだろうか……)
と、セラフィアは思った。
それで、ミューナイトと思念通信で会話する。
(少尉、今空港に展開している敵ビッグマンの識別信号は分かるか?)
(待って。今サテライト群のデータを調べている……ヴァレリテ、カリュクス、オルガのヴェガⅡ部隊みたい)
(よくやった……お前はやっぱり優秀だな?)
セラフィアは感心した。
──ミューナイトのハッキング能力はかなりのものだ。
(そんなことない。でも、ちょっと待って? 空港にいるのは2体だわ。オルガは別の場所に展開している……)
(なるほど。ヴェガⅡ2体か。手ごわいな……ヴァレリテはカクタステーマのリーダーだ。リュシアス様からの信頼も厚かった)
(そうなのね。わたしはそこまでは分からない。やはり、ジェマナイに精通しているあなたがいると、安心みたい)
(2体、撃破するぞ?!)
セラフィアは気合を入れなおす。
ミューナイトも同様だ。
──
ライジングアースは歩みを進めていく。
ここで「パンくず」があれば、より有利に戦況を進められるのだが……
セラフィアは思う。
視界にバグダッド国際空港が見えてきた。
なるほど、ヴェガⅡ2体はハンドガンでイラク軍の戦車部隊を攻撃している。
滑走路は、まだ無事だろう。
ミューナイトに指示を出すセラフィア。
(まずは、カリュクスのビッグマンを狙え、少尉)
(了解したわ)
ライジングアースはホバーを吹かせて、カリュクスのヴェガⅡに近づく。
計器でその動きは見えていたが、ヴェガⅡの実体が視界に入った。
まずは腰部ミサイルで攻撃──というか、牽制だ。
敵の反応も早い。全方位ミサイルで応戦してくる。
ヴェガⅡのコックピットのなかで、カリュクスは高速に演算していた。
(ライジングアース1体だけか。……プライムローズはいないのだな? なら、こちらにチャンスがある)
ヴェガⅡは第3世代のビッグマンだった。
ライジングアースより、やや反応速度は遅い。
しかし、こちらは単騎ではない。チームで行動している……
カリュクスはヴァレリテに通信。さらに、オルガに合流を呼びかける。
『了解した』という通信が、双方のビッグマンから送られてきた。
これで、ライジングアースを囲むことができる!
しかし、そう上手くはいかなかった。
全方位ミサイルを一点集中で放っても、ライジングアースはスーパー・アンブレラという武装で防いでしまう。
ライジングアースの手前、わずか十数メートルというところで、ミサイルはすべて爆散した。
(ちっ、統合戦線め! ライジングアースにどんな改装を施したんだ?! これでは遠距離からの攻撃は効かない!)
──接近戦か、と決断する。
腰部に備えられている量子ナイフを取って、ライジングアースに斬り込むカリュクス!
ミューナイトも素早く反応した。
(少佐、敵に欺瞞情報を送ってくれる? まずはエアリアル・ステップで敵の頭を蹴るわ)
(了解した。ライジングアースが直進しているように錯覚させる……待ってくれ。できた!)
ライジングアースはホバーを吹かした。
ヴェガⅡの直前で空中にジャンプするライジングアース。
ヴェガⅡは避けきれなかった。
頭部のメインカメラが破壊される。
そのままジェットを吹かして後退……
ミューナイトは、量子場を形成するエアリアル・ステップという予備機能を、攻撃手段として使ったのだった。
(そのまま直進してくるかと思ったが、甘かった……敵のクラッキングか?)
カリュクスは、歯噛みしながら思った。
ヴェガⅡの量子ナイフは空を切った。
(接近戦でも手ごわいとは……早くチームでライジングアースを囲わなければ!)
ヴェガⅡ3体でライジングアースに斬りかかれば、敵の防備の隙を突くことができる……
そのとき、ヴァレリテのヴェガⅡはライジングアースの背後に回っていた。
全方位ミサイルをやはり一点集中で発射する、ヴァレリテ。
(リーダー、上手い!)
カリュクスは思い、再びジェットを吹かしてライジングアースに斬り込んでいく。
メイン・カメラは破壊されていても、計器で位置を特定することができる。
──
ライジングアースはカリュクスに背を向けて、ヴァレリテの攻撃を防いでいる。
(よし!)
しかし──ライジングアースに斬りかかろうとした瞬間、敵は腰部ミサイルを回転させて後背に向けてきた。
(!!! 後ろにも撃てるのか?!)
量子ナイフを持っている左手が、ライジングアースの放ったミサイルで破壊される。
ドンッ! ──という音。
空中に花火のような光が走った。
はじけ飛び、滑走路に突き刺さる量子ナイフと、ヴェガⅡの左腕。
(畜生!)
カリュクスは、再び歯噛みをする。
ヴァレリテから、通信が入った。
『無理するな。オルガの合流を待て。今は時間稼ぎをすれば良い』
『了解』
さすが、カクタステーマのリーダーだ。全体を俯瞰している……。
(しかし、左腕を失った自分はかなり不利な状況だ)
一方、セラフィアとミューナイトには余裕があった。
ジェマナイ軍が全軍撤退の指示を受けている──ということは、ハッキングによって知っていた。
敵は、安全に撤退する前にライジングアースに遭遇してしまった。
だから、やられる前にやる! ──ということを考えているのだろう。
だが、イラク陸軍の援護もある。
ここで、何体かのビッグマンを破壊、または鹵獲できないか?
……どうやら、セラフィアの思考はオバデレ准将に似ているらしい……
冷たい笑顔が、コックピットのなかで光った。
ミューナイトにこう伝える。
(敵は、こちらに背を向けることを恐れている。カリュクスの後背に回れ)
ここである程度敵の戦力を削いでおかなければ、ブラックスワーンダーが到着したときに不利な状況になる。
……戦術的撤退を許すな! と思っていた。
ミューナイトは、
(あなたの思考が分かるわ。リュシアス一将は強敵なのね?)
(そうだ。機体も大きいし、防備も優れている……わたしも一度乗ったからな。分かるんだ)
(油断はしていないわ。プライムローズと2体でやれば、互角に戦える)
(そうだな。あとは、アレーテ中尉とクオンティティーの援護があれば……)
セラフィアの思考は、ミューナイトの思考とかなりシンクロしていた。
コパイロットとしては、セラフィアは斎賀と同程度の実力を持っている。
そのとき、ついにオルガのヴェガⅡが合流した。
3対1である……!
セラフィアは1つの戦術を思いついた。
瞬間的に飛行形態に変形して、超低空飛行をする。
そして、3体のヴェガⅡのうちどれかの機体に高速で接近。
人型形態に瞬時に戻って、ハイ・フリークエンシー・ソードで機体を貫く
(ならば、その前の挙動はどうするか? 敵に欺瞞情報を送っても、今度は見破られるだろう……)
セラフィアは、2秒ほど考える。
その間にも、ヴェガⅡからのミサイルは発射されてきていた。
ジャンプして、エアリアル・ステップで敵ミサイルを粉砕するライジングアース。
……これは、ミューナイトの判断だ。
コンマ数秒ほどの時間で意思疎通して、行動に移る2人。
まさに無双だった。
次章につづきます。




