182.暁の攻撃(4)
引き続きヴェガ部隊と交戦するシエスタたち。
『了解しました』
アマラ少尉がショート・メッセージで答える。
アマラ機は急旋回して、2体のヴェガを眼前に捉えた。
牽制にAAMを撃ち込む。
その隙に、シエスタ機とフィオリヒト機はふたたびリードル・ワイヤを射出。
クラッキング・キーウィのデバイスが、2体のビッグマンへと向かっていく……
しかし、今度も成功しなかった。
高層ビルに激突する、シエスタ機とフィオリヒト機のクラッキング・キーウィ。
2体のビッグマンが、こちらにメイン・カメラを向けた。
AI頼りの攻撃では心もとない。
目視によって目標を見定め、手動でミサイルを撃ち込むほうがより確実なのである。
レファイン=ヴァルデスとネラ、2人のビッグマンがミサイルを射出。
それも、寸前のところで躱す、3機のイングレスα。
ミサイルは地面に激突して、爆発した。
シエスタは、上空のユーランディアに再び通信した。
『なんとか、オルリヌイ・ルーチをクラッキングできないか?』
『やってみます!』
この時代、味方をクラッキングされることは、敵の攻撃よりも手ごわい。
それをジェマナイも分かっているのか、なかなかユーランディアの返信は伝わってこない。
しかし……
『ハッキングできました。これより、敵無人機をビッグマンに突入させます!』
『やってくれ!』
シエスタたちの目の前で、クラッキングされたオルリヌイ・ルーチがレファイン=ヴァルデスとネラのヴェガに向かって特攻していく。
(これで、少しでも時間を稼げれば……)
しかし、時間を稼いだからといって、決定打はない──
2体のヴェガがそれぞれミサイルを発射して、味方のオルリヌイ・ルーチを撃墜した。
(よし! 少しでも戦力を削げれば……)
再び前向きに考える、シエスタ。
(あとはやはり、アルリク大佐たちに任せるしかないのか???)
シエスタは黙考する。
操縦桿を握る手が汗ばむ。
『アレーテ中尉、アレーテ中尉。こちらは、シャダム・アルリク』
イラク陸軍からの通信が入った。
『現在、こちらはタージ基地の直近で待機中。むしろ、こちらに敵ビッグマンを呼び込んでくれ』
『どうするのか?』
シエスタは尋ねる。
『メーザー砲で、敵ビッグマンを攻撃する。準備するのに時間がかかった。今、チャラビー少尉らと連携して、敵ヴェガへの包囲網を築いている。こちらに任せてくれ』
『了解した。地上戦は、あなたたちの専門だ。こちらは支援攻撃を行う』
『敵をこちらに呼び込んでくれさえすれば良いんだ』
『わかった』
シエスタ機は、ヴェガ2体の上空で旋回飛行。
そのまま、2体の後方につけて、タージ基地の方向へ追い込むようにする。
それだけで作戦が成功する、とは思えなかった。
しかし、敵のメイン・カメラだけでも破壊することができれば……ビッグマンを撤退に追い込むこともできるかもしれない。
今は、アマラ少尉が考えるような奇策も成功するまい。
敵ビッグマンは、バグダッド市内に9体が展開している。
1体にトリックを使っても、他の機体がそれを阻害する……
シエスタは焦っていた。
こんな焦燥感は、最近なかったことだ。
敵のジェマナイも、ライジングアースの復帰に向けて、本気を出してきているのだ。
その気迫が、逼迫した感覚として伝わってくる……。
3・2・1……シエスタはAAMを射出。
それが、敵ヴェガに向かって直進していく。
しかし、それは攻撃が目的ではない。
敵ヴェガをアルリク大佐たちイラク陸軍の包囲網へと追い込むこと……
その目論見は成功した。
アルリク大佐らのエニグマムスタング2の包囲網の真ん中へと着地する、レファイン=ヴァルデスのヴェガ。
エニグマムスタング2に搭載されたメーザー砲がいっせいに火を噴いた。
吹き飛ぶ、レファイン=ヴァルデス機のメイン・カメラ!
「よっしゃあ、やったぜ! アレーテ中尉」
エニグマムスタング2のなかで、アルリク大佐が快哉を上げた。
こんな快勝は久しぶりのことだ。
イラク陸軍は、ジェマナイに一杯食わせる機会をひたすらうかがっていたのである。
それがこの夜、この未明に起こった。
バグダッド市街から見える朝焼けが、彼らの成功を祝福しているようだった。
フィオリヒト少尉とアマラ少尉は、ネラのヴェガに向かってAAMを発射した。
しかし、上官の失敗を目にしているのか、ネラ機は微動だにしない。
そのまま全方位ミサイルを発射して、AAMを撃退。
後方にジャンプして、バグダッド市内の繁華街に降り立った。
再び全方位ミサイルを発射して、市街地を破壊。
煙幕が立ち上がる。
それは、撤退の準備だ。
ネラはレファイン=ヴァルデスに通信した。
「三将、無事ですか? イラク陸軍の抵抗は激しいようです。ここは撤退のタイミングでは?」
それに対して、返信が返ってきた。
「そうかもしれないな。こちらは、メイン・カメラをやられただけだ。敵をあなどっていた」
「三将だけではありません。今回の攻撃は、無謀だったものと思われます。残る7体の機体はどうでしょうか?」
「どうも、通信が通じない。そちらで、状況を把握できないか?」
「……できました。7体とも無事ですが、苦戦しているようです」
「なら、全軍撤退を指示しろ。わたしからでは通じない」
「了解しました。……リュシアス一将はなんと思うでしょう?」
「一将は無謀な作戦は考えない。撤退した後で、態勢を立て直すとしよう」
「了解です」
「しかし……」
と、ネラは言葉を継いだ。
「上空に光が見えます。2つです……これは……ライジングアースとプライムローズ!!」
レファイン=ヴァルデスは戦慄した。
この戦いが、負け以上の敗北になる???!
──
ライジングアースから、シエスタ機に向かって通信が入った。
『こちらはライジングアース。ミューナイト少尉とセラフィア少佐が搭乗している。貴官らの援護をこれから行う』
ライジングアースは、圧倒的な戦力である。
ユーマナイズを駆使すれば、敵を全滅させることも奇跡ではない。
バグダッドの上空に、巨大な影が躍った。
そして、その傍らにはプライムローズ。
ダレンザグ中尉の駆る機体である。
──
セラフィアは、タージ基地に向かって通信した。
「現状はどうなっていますか? バグダッドは無事なのでしょうか? 敵ビッグマンの勢力は……?」
それにたいして、ボワテ大佐からの返信が返ってきた。
「現在、タージ基地への攻撃は防げている。アレーテ中尉が活躍してくれている。しかし、バグダッド国際空港への攻撃が激しい。貴官らはそちらへの援軍にまわってもらいたい」
「了解しました」
セラフィアは、すでに統合戦線の士官となった態度で答えた。
ミューナイトに告げる。
「タージ基地は無事だそうだ。センサーによると、そちらには2体のビッグマンがいるが、すでに撤退行動に入ったらしい。わたしたちは、これから7機のビッグマンの迎撃に向かう」
「わかったわ」
ライジングアースは、バグダッド国際空港に進路を向けた。
飛行形態から人型形態に変形して、着陸する。
これで、ユーマナイズを発動することができる。
しかし、味方は避けなくてはならない……
ジェマナイのビッグマンを駆る、ヴァレリテやアーシャ・ロウランらの機体の直近に、ライジングアースの威容が現れた。
これで第九部は終了です。第十部へと続きます。




