179.暁の攻撃(1)
レファイン=ヴァルデスの攻撃。
レファイン=ヴァルデス三将は焦っていた。
リュシアス様の帰還を待つまでもなく、この攻撃である。
それに先立って、アジンバル公国からの出向部隊、タルタロス部隊が撃破された。
アマレス、シズマ=ローク、マーシャ・ツヴァルの3人である。
彼らは、命令無視、というか先走りをして、統合軍の攻撃にさらされた。
彼らの機体は、今バグダッド東の砂漠で回収を待っている。
セラフィスの人員も限られているのに……と、レファイン=ヴァルデスは思う。
(くそっ! ジェマナイはどうしてこうなんだ!)
今、ジェマナイには9体しか稼働できるビッグマンがいない。
自分とネラのヴェガ2体。
ヴェガⅡが4体。ヴァレリテ、カリュクス、オルガ、およびピエタの機体だ。
それから、ノルニール、リントヴルム、サロメ。これらは、アーシャ・ロウラン、コバルトレオ、ニクス=EAの機体である。
今、この部隊で一番先頭に立つ士官は自分である。
攻撃の連携は、自分が取らなくてはならない。
いまだ、リュシアス一将からの連絡はない。
これは、想定外だった。
ジェマナイ陸軍の支援を受けられるとは言え、その戦力は限られている。
アジンバル公国から出向しているグリペンネオの部隊もいる。
しかし、もしもライジングアースが出てきたとしたら……
例のユーマナイズで味方の戦力が一気に削られてしまわないとも限らない。
自分に課せられた使命は、深刻であり重要だった。
レファイン=ヴァルデスは、一歩を踏み出した。
これから、全面攻撃である!
──
シエスタは、眠ったばかりのところをまたたたき起こされた。
今、ジェマナイのビッグマン部隊がバグダッドに向かっている。
暁の全面攻撃である。
「ちぇっ! なんだってんだ!!!」
シエスタは、ベッドから起き上がって、そんな言葉を吐き捨てる。
枕もとの通信機で、フィオリヒト少尉、アマラ少尉に連絡を取った。
彼らもすでに起きている。
出撃だ! 迎撃戦である。
ライジングアースとプライムローズは、まだバグダッドに到着していない。
──
バグダッド市街は、ジェマナイのビッグマン部隊による砲火にさらされた。
すでに、バグダッドは市街地の20%が壊滅されている。
今回の攻撃地点は……どこだ?
敵は、バグダッド国際空港とタージ基地を重点的に攻撃してきているように思える。
しかし、市街地の繁華街も目標になっているようだ。
敵の目的はやはり、市街地の破壊なのか?
バグダッド市民は戦慄した。
空襲警報が鳴り響く。
夜空に、火線が瞬く。
次々に破壊されていくビル。
爆散する商店街の窓ガラス。
バグダッドは、数日ぶりに苛烈な戦禍にさらされていた。
バグダッド市街の高層ビルに設置されたアル=ナスル砲は、ビッグマンに向けてミサイルを放った。
エニグマムスタング2の部隊も、対空砲火を放っている。
しかし、敵ビッグマンの姿は見えない。
長距離からの砲撃を放っているのだ。
敵……ジェマナイは、ここ数週間慎重な攻撃をしかけてきている。
イラク陸軍の猛烈な攻勢に、慎重を期しているのだ。
敵の姿が見えないなかで、ミサイルの火線だけが飛び交う。
──
レファイン=ヴァルデスは、今ネラとともにイラク軍のタージ基地へと向かっていた。
ヴォルガ二将が攻撃の拠点としていた、敵基地である。
ここには、イラク空軍および統合軍の空軍が終結している。
最初に叩くならば、ここだ。
しかし……
レファイン=ヴァルデスは焦った。
敵イラク陸軍の大部隊がここには終結している。
その対空砲火はすさまじかった。
上空で何機ものスホーイが爆散する。
レファイン=ヴァルデスのヴェガは、地上からミサイルを叩き込むが、それも空中で撃墜されてしまう。
敵AIの性能も優れているのであろう……
上空にはイングレスαが舞っている。
これでは、地上と空中から挟撃されないとも限らない。
レファイン=ヴァルデスは、ネラに通信する。
『敵部隊の抵抗は激しい。ここは無理をせずに、対空装備だけを破壊することにつとめよ。イングレスαの破壊は後だ……』
『了解です』
レファイン=ヴァルデスの指示は的確だった。
味方のスホーイ、あるいはアジンバルのグリペンネオの支援を待つのが正しい。
双方ともに総力戦だな……と、レファイン=ヴァルデスは思った。
──
イングレスαの機上で、シエスタはふたたび舌打ちをしていた。
(くそっ! 敵の砲火が激しい……今日このタイミングでバグダッドに攻撃をしかけることを、ジェマナイは図っていたのか……?!)
敵のビッグマンはバグダッド市街を悠然と進んでいく。
単騎であれば、まだ良い。
しかし、上空にはスホーイとアジンバル公国のグリペンネオも展開している。
地上だけに気を取られていたら、上空の敵にやられるだろう。
シエスタは、注意力を全開にした。
NooSからの情報入力も参照する。
それによると、味方1に対して敵の数は1.4という報告だった。
バグダッドの上空から、敵空軍戦力を追いやるだけで、精一杯だろう。
シエスタは、STSMを活用して、敵ミサイル群を撃ち落としていく。
しかし、本命のビッグマンや敵戦闘機を攻撃するのには、一手遅れている……
(ライジングアース、いつ来てくれるんだ!?)
と、シエスタは再び思う。
ライジングアースのコパイロットは、今斎賀ではない。
しかし、その戦力は貴重だ。
ジェマナイが全面攻勢をかけてきているのであれば、ライジングアースが存在しないことは、かなりの不利になる。
それに、クオンティティーのユーランディアは謹慎を強いられている。
こんなときに……ボワテ大佐は何を考えているんだ、とシエスタは憤る。
今その瞬間にも、シエスタ機の側面を敵のAAMがかすめた。
すんでのところで躱す、シエスタ。
そのミサイルは、バグダッド市街のビルに向かっていって、その中層階に命中した。
がらがらと崩れ落ちるビル……くそ、また廃墟が一つ増えたか!!!
シエスタは、タージ基地に通信する。
『ボワテ大佐、今すぐQR‐Xを出撃させてください! 謹慎なんて言っている場合ではありません!』
その通りだった。
このまま行けば……バグダッド市街の大部分が破壊される。
これほど大掛かりなビッグマンによる攻撃は、このところなかったのだ。
タルタロスの破壊だけでは、不十分だった。
手遅れになる前に、ユーランディアの援護を請わなくてはならない。
『了解した。すぐにユーランディア少尉を出撃させる。それまで、なんとか持ちこたえよ』
言われなくても分かっている──と、シエスタは思った。
敵はやる気をだしている。……ここで粉砕しなければ、統合戦線にとって決定的に不利な状況が訪れるだろう。
──
レファイン=ヴァルデスは、(うまくいっている!)と思った。
夜の部隊を朝方の攻撃に回した成果が出ている。
ビッグマンとスホーイ、グリペンネオとの連携も取れている。
(今、ジェマナイは統合軍とイラク軍を押している……これで、敵拠点に決定的な打撃が与えられるだろう……)
リュシアス様が帰っていなくても……と、思うと同時に、一将は無事だったのだろうか、という懸念も胸に萌す。
リュシアス一将からセラフィスへの通信はいまだに届いていない。
ライジングアースを無事足止めできたのか、あるいは、万が一のこととは言え、撃墜されたのか……
しかし、一将が敗れ去ったとしても、ジェマナイはジェマナイである。
作戦は予定通りに遂行しなくてはならない。
ある意味ジェマナイの二正面作戦ですね。バグダッドが襲われます。




