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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第九部

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178/203

178.ダグラス・ボワテ大佐

ユーランディアをめぐって。

 シエスタは、作戦室のなかに入って、ダグラス・ボワテ大佐の執務机のほうへと歩いていった。

 その机の前では、今まさにユーランディアが叱責されている。

 ──「勝手なことをするな、命令に従え」という型通りの指示である。

 ユーランディアはうなだている……と思いきや、毅然とした表情をしていた。

 やや不遜だな、とシエスタは思う。

 そこに、つかつかと歩み寄るシエスタ。

 ダグラス・ボワテに一言言ってやろうと言うのである。

 こんな真夜中の出撃を今後も強いられるようでは困る、と。

 日中には日中の作戦があるのだ。

 もし、深夜の作戦が長引けば、翌日以降の作戦に支障が出る。

 深夜の待機組の人員をもっと増やしても良いはずなのだ。


 シエスタは、しばらくの間叱責されるユーランディアのことを見つめていた。

 もちろん、ユーランディアのほうでも、自分が救われたのはシエスタたちのおかげだ、という意識はあるはずだった。

 しかし、どんな言い訳をするのだろう……命令無視をした、ということに対して。


 敵のタルタロス3体は、シエスタたちの攻撃によって無力化できた。

 今ごろは、ジェマナイの回収部隊が動いていることだろう。

 今朝には、敵の前進基地であるセラフィスに戻る。

 そして、再び出撃してくるのは、明日のことだろうか、明後日のことだろうか。

 統合軍は、ジェマナイの補修部隊について、今ひとつ把握しきれていない。

 今までは、ビッグマンを1体破壊すれば、その機体が次に出撃してくるのはおよそ3日後のことだった。

 しかし、敵の前進基地も装備を充実させてきているだろう。

 ライジングアースがバグダッドに戻るまで、一刻でも早い方が良いのだ。

 でなければ、早晩バグダッドはジェマナイの手に落とされてしまう……


 ユーランディアは哨戒行動に出撃中だったこともあり、ライジングアースの現在地というものを知っていたが、仮眠中だったシエスタはそのことを知らない。

 今、ライジングアースはエチオピアの上空、あるいはサウジアラビアの上空にいるのである。

 刻々と、こちらに向かってきている。

 しかし、だからと言って、シエスタにとっては何だったろうか。

 そこに、斎賀はいないのである。

 セラフィアという新たなコパイロットについて、シエスタは懐疑の念だけを抱いていた。

 ミューナイトは斎賀とともに行動してこそ、真価を発揮できる。

 そういう確信があった。

 その確信が証明されるのは、もっとずっと後のことである……

 しかし、この時、この場でも、シエスタの確信にはしっかりとした証拠がある。


「ボワテ大佐……そのへんにしておいてはいかがでしょうか?」

 と、シエスタは切り出す。

 ユーランディアがこちらを向いた。……驚いた、という表情である。

 シエスタは、

「ユーランディア少尉はよくやりました。いち早く、敵の奇襲に気づいたのです。それが一瞬でも遅れていたら、バグダッドは火の海になっていたかもしれません。命令無視をとがめるのは、いささか勇み足ではないでしょうか……」

 ボワテ大佐は無言だ。

 シエスタは、一瞬息を飲む。

 ユーランディアは、シエスタの目をじっと見つめた。

 自分の命を助けられた、その恩人の目を見つめる目である。

 シエスタは頬をかく。


「アレーテ中尉。貴官が、このユーランディア少尉に同情するのは、理解もできるが、いささか遺憾だ。彼は、命令系統を逸脱した」

 と、ボワテ大佐。

「ですが、敵のタルタロスは撃破できました」

「それは、君の働きによってだが……」

「わたし、ではありません。わたしとアマラ少尉、フィオリヒト少尉によってです」

「同じこと、ではないかね? 君は次期のチーム・アマリのリーダーだ」

「ですからです。わたしたちは、チームで行動しなければ成果を得ることはできません。そこには、ユーランディア少尉も含まれているのです」

「命令無視の少尉が、かね?」

 ボワテ大佐は厳しい。

 今度は、ユーランディア自身もうなだれていた。

 ボワテ大佐を前にしてうなだれたのではない、シエスタを前にしてうなだれたのだ。

「わたしは……とんでもない過ちを犯したのかもしれません」

 ぽつりとつぶやく。

 シエスタもボワテ大佐も、その言葉を冷静に見守った。

「敵のタルタロスは、ジェマナイのなかでも未熟な部隊が率いています。わたしは、わたしなら彼らに対抗できると思ってしまったのです……。未熟でした」

 ユーランディアがゆっくりと話す。

「アレーテ中尉らを待つべきでした。命令違反の罰は、なんでも受ける所存です。どうか、わたしを罰してください」

 今では、殊勝に言うユーランディア。

 しかし、シエスタの考えも、ボワテ大佐の今の考えも違っていた。

「いや、良い。君にはしばらく謹慎してもらうことになるが、降格ということはない」

「あんたは、わたしたちにとっては貴重な戦力だからね」

 と、ボワテ大佐とシエスタが言う。

 その言葉に、ユーランディアははっとしたようだった。

 今さらのように、チーム・プレイということを思い知ったのだ。

 彼らは、自分を叱責するだけの人間ではなかった。

 自分は、今まではミューナイトの意向に沿うことだけを考えてきた。

 しかし、これからはそうではない。

 チーム・アマリという大きな枠組みのなかで、戦っていかなければならないのだ。

 そう……思った瞬間だった。

 ユーランディアは、涙を流す。ネオスにも関わらず。

 それは、悔し涙であっただろう。自分の至らなさに対する。

 それを、シエスタもダグラス・ボワテも見守っていた。


「下がり給え。君には。24時間の謹慎を言い渡す。その間、じっくり反省してくれれば良い」

 ダグラス・ボワテは手を振った。

 それを、シエスタも見つめている。

 ユーランディア少尉は敬礼した。

 敬礼して、下がる。

 シエスタは、ユーランディアの悔悟と、ボワテ大佐の寛容を見て取った。

 これ以上、言うべきことはないだろう。

 立ち去るユーランディアの後姿を見守る。

(今回の作戦は、失敗ではなかった。一応の成功だった。それを大佐も熟知している……)

 そんなことを、胸のなかで思う。

 そして、ダグラス・ボワテに向き合った。


「彼のことはあれで良いのですが……」

 と、切り出す。

「深夜組をもう少し増やしてもらえませんか? チーム・ンデゲかチーム・キアリを深夜に回すとか……」

「そうだな。それも考えよう」

 ダグラス・ボワテは、慎重に答える。


 今、バグダッドの制空権は統合戦線が握っている。

 とは言え、ジェマナイの空軍力は手ごわい。

 なにしろ、12体のビッグマンが所属しているのだ。

 今回、3体のビッグマンを破壊しても、依然として9体のビッグマンが残っている。

 今回破壊したタルタロスが復帰してくるのも、せいぜい明日か明後日だろう。

 ライジングアースは間もなく到着するが、QR‐Xの支援がなければ、それによる防備も覚束ない。

 自分は今、シエスタ・アレーテ中尉、ユーランディア少尉、ミューナイト少尉、セラフィア少佐……彼らの最善の努力を期待しなくてはいけないのである。戦力は、依然としてぎりぎりだ。しかも、敵は再びブラックスワーンダーを出撃させてきている。あの、大型のビッグマンを。

 自分は今、事務仕事をメインにしているが、可能であれば再び前線に立ちたいくらいだ。

 ダグラス・ボワテもまた、情熱を燃焼させていた。

 自分は、今は部下たちの最善の成果を期待する意外にはないのだ。

 これが、指揮官としての自分の役割であり、役目である。


「アレーテ中尉、下がりたまえ。今夜のうちに、明日以降の作戦の概要を整えておく……」

 ダグラス・ボワテは、ため息をつきながら言った。

「了解しました。よろしくお願いします!」

 シエスタ・アレーテは敬礼した。

 そこには、すでにダグラス・ボワテにたいする敬意が取り戻されていた。

ボワテ大佐は有能な上司です、オバデレ准将とは別の意味で。

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