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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第九部

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177/203

177.休憩室にて

戦闘終了後のシエスタです。

 バグダッドのタージ基地には、今イラク陸軍の大部隊が駐屯している。

 それは、統合軍の戦力を守るためである。

 イラクは統合戦線の衛星国であったが、統合軍の空軍が駐留し、ジェマナイからの攻撃を防いできた。

 こうした事情は、ポーランドやトルコなどでも同様である。

 その恩返し、というわけでもないのだろうが、シャダム・アルリク大佐を始めとして、有能なイラクの陸軍士官がこの基地を守っていた。


 シエスタは、大股に基地内の休憩室へと歩いていく。

(さっきの戦いは一体なんだ!? でたらめだ!!)

 怒りながら、顔をうつむき加減にさせるシエスタ。

 そんな間にも、バグダッド市内にはジェマナイのミサイル砲による空爆が続いていた。

 夜間、ビッグマンは出てきていなくても、このような爆撃にはさらされているのである……

 シエスタたちは、いつ眠っているのか、いつ起きているのかも分からない。

 イラク陸軍は迫撃砲や高射砲などで、敵の爆撃を防いでいるが、それでも完全に防ぎきれるというものではない。

 市街地には、未だに大きな被害が出ていた。


(バグダッドはいつまで持つんだ……)

 と、シエスタは現況を呪った。

(QR‐Xは、なぜ警戒監視に専念しなかった???!!)

 ユーランディアの乗機、QR‐Xのクオンティティーは、あくまでも電子戦の支援機である。戦闘機ではない。

 戦いになれば、容易なことで相手に勝つということは見込めない。

 あくまでも、イングレスαのような戦闘機や、エル・グレコのような攻撃機の力があって、戦闘は成立するのである。

(そんな常識を知らないユーランディア少尉とも思えなかったが……)

 今この時、焦っているのは自分だけではないのかもしれない、とシエスタは思う。


 休憩室に入ると、イラク陸軍のシャダム・アルリク大佐がいた。

 シエスタは、つい先だって彼からプロポーズされたばかりである。

 とても気まずい。

 アルリク大佐は、テーブルに腰掛けながら、シエスタの目をまっすぐに見つめてきた。

 右手には、自販機で購入したコーヒーの紙コップが握られている。


「アレーテ中尉!」

「シエスタでかまいませんよ。なんでしょうか……」

 シエスタもコーヒーを購入する。

 こんな夜半に任務でたたき起こされることは、シエスタにとっても不快である。

 その原因となったユーランディア少尉は、まだ戻ってきていない。

 そこへ……アルリク大佐である。


 アルリク大佐は言った。

「今日は、NooSは不穏な動きはしなかったのかね?」

 にやりと、微笑している。

「NooS? そんなに興味があるのですか?」

 シエスタも首を傾げる。

「ああ。なにしろ、自分が恋をしている人間が常時触れているAIだ。気にならないはずがないだろう?」

「あなたは、またそんなことを……」

 わたしにはすでに恋人がいるのですよ、とシエスタは言いたかった。

 しかし、その恋人(仮称)は、今この場にはいない。行方不明である。

 そんな状況で、アルリク大佐のアタックを躱せるとも思えない……

(自分はこのまま押し切られてしまうのだろうか……斎賀もいない今、わたしはいったい何になれる???)


「戦闘というのは……無情なものです」

 と、シャダムは口を開いた。

「生きて帰れるか、死んで帰還するか。それは、戦闘が終わってみなければ分からない。だからこそ、俺たちは希望を胸に宿す」

「そうなのでしょうね……」

「あなたの胸に、今希望はあるのか? 俺もある程度のことは知っている。あなたの恋人はサイガ・シンイチだ。しかし、彼は今どこにいるのか、生きているのか死んでいるのかも分からない」

「そこまで……!!!」

 シエスタは紅潮した。

 そこまで土足で心のなかに踏み込んでくるのか、という思いがあった。デリカシーの欠片もないではないか。

 シエスタは、シャダムを睨んだ。

 その目を、まっすぐに受け止めるシャダム。


 シエスタの予想に反して、アルリク大佐の反応は違っていた。

「俺は、あなたが好きだ。だから、生き急いでほしくない」

 そう、アルリク大佐は言った。

「ええ……」

「生きて帰れない、ということが問題なんじゃない。生死を左右する問題が、目の前にあるということが問題なのです」

「それは、どういうことでしょうか……?」

 シエスタは聞いた。

 しかし、それにたいする明確な答えは返ってこなかった。

「もう寝ますよ! 俺もコーヒーを飲みに来ただけなんだ。あなたを待っていたわけじゃない……」

 予想外の言葉だった。

 アルリク大佐は、片手をふって休憩室を後にした。

 後には、シエスタだけが残される。

 いや……その他に数名の士官たちが、その場にいた。

 しかし、シエスタにとって、彼らの存在は目に入っていない。

 自分に求婚した男、そして自分自身、が思考の範囲内にあるだけである。

(なんだ、あの男。わたしに謎かけをしようっていうのか? あの要領を得ない言葉はどうだ!!)


(畜生! 今日はなんだって言うんだ!)

 シエスタは、飲み干したコーヒーの紙コップを握りつぶした。

 彼女のとげとげしい雰囲気に、やや威圧されている休憩室の面々。

 誰もが、気が立っていた。

 なにしろ、これは戦争なのである。

 生き死にを賭けた戦いだ。遊び事ではない。

「アレーテ中尉。大佐のことは気にしないほうが良いですよ。……あの人はいつも気まぐれんなんだ」

 と、休憩室にいた一人の士官がシエスタを気遣って言った。

「ああ、分かっている……」

 再び、沈黙の時間が流れた。


(それにしても、今日はフィオリヒト少尉とアマラ少尉が遅いな……)

 シエスタは時計を見た。

 シエスタは、何かを考えたいと思うとき、よく腕時計を見る。

 文字盤を見つめているうちに、考えがはっきりしてくるように思えるのだ。

 もう、時刻は未明である。

 昼の出撃はないだろう。

 いくら戦闘機パイロットとは言っても、24時間続けての出撃などはできない。


 シエスタは、(ボワテ大佐に会いに行こうか?)と思った。

 あまり強く、ユーランディア少尉を叱責しないでほしい……と。

 それは、明らかに差し出がましいことだったが、シエスタもユーランディアの勇気は認めていた。

 何しろ、あのライジングアースと連携して、プライムローズやヴォルグラスと互角に渡り合ったのだ。

 ユーランディアはユーランディアで、一人の戦士である。

 1度の命令無視で降格、などということになったら、統合戦線にとっては損失である。

 だから、ボワテ大佐はそうはすまい、とシエスタは思う。

 せいぜい、厳重注意くらいだろう。

 何しろ、敵ビッグマン3体を足止めしたのだ。

 ユーランディアの先制攻撃がなければ、それもどうなっていたのか分からない。


 シエスタはあくびをした。

 とにかく、早く眠りたかった。

 ふらつく足で、ボワテ大佐のところへと向かう……

「今日の出撃はなんですか? わたしたちも人間です!!」とでも、言ってやろうかと思った。

 そんな相手のボワテ大佐はボワテ大佐で、連日の徹夜仕事に追われているに違いなかったのだが……

 ひとまず、タルタロスの攻撃は食い止めた。

 明日のことは明日のことで、どうなるのか分からない。

閑話休題的な章でした。

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