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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第九部

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176/203

176.ユーランディアの誤算(3)

再び特攻をしかけるシエスタ。

 シエスタは、タルタロス群のどまんなかへと、機体を直進させた。

 その後には、アマラ少尉とフィオリヒト少尉が続いている。

 火線が、イングレスαへと向かって伸びる。

 それを高速で躱す、シエスタらの機体。

 上空では、ユーランディアのQR‐Xが旋回飛行していた……


「アマラ少尉、前回の戦闘データは取ってあるな?」

「もちろんです、シエスタ・アレーテ中尉」

「敵は、タルタロスだ。機体の性能は良いが、パイロットが稚拙だという分析が出ている。一気に叩くぞ!」

「了解しました。クラッキング・キーウィ発動ですね!」

 そんな通信が交わされる。

 まだ、サテライト群はクラッキングされていない。

 敵の電子戦能力が劣っているのだろう。

 シエスタは、いつになく緊張した……が、高揚感はなかった。

 目の前には、戦いという「仕事」だけがある。


 リードル・ワイヤを射出する、3機のイングレスα。

 敵をもてあそぶ、という意味での「リードル」である。

 この場合は、それにまさにふさわしいネーミングだと言えた。

 3体のタルタロスを翻弄する、イングレス部隊。


 ……NooSは正常に機能していた。

 アマレスは、シエスタ機のハッキングを試みるが、うまく行かない。

 すぐに別のAI回路を作られてしまう。

 バックドアのハッキングは意味をなさなかった。

 統合軍のAIは、順調に進化している……


 しかし、シエスタはそんなNooSを信用していなかった。

 彼女の目だけが頼りだ、とつねに自分に言い聞かせていた。

 アマレスのタルタロスの腕にからみつく、シエスタ機のリードル・ワイヤ。

 すぐにクラッキング・キーウィを作動。

 見た目は、とげだらけの小さなボール、といった感じである。

 その無数のとげが、敵の機体にたいしてハッキングやクラッキングをしかける。

 この時代、自分の機体のAIをハッキングされたほうが、ほぼ負けである。

 シエスタは、ハッキングの能力も空軍のなかで最上位にくる。

 アマラ少尉やフィオリヒト少尉も優秀だ。

 この3人がチームを組んだら、勝つことは不可能でも、敵に負けるということはまずない。


 アマラ機は、シズマ=ロークを、フィオリヒト機はマーシャ・ツヴァルを攻撃している。

 不器用に右手を掲げる、マーシャ・ツヴァル機。

 ゆがんで握られた拳が、空をつかむように震えた。

 よし! 機体の制動は制御した。──フィオリヒト少尉は心のなかでうなずく。

 しかし、マーシャ・ツヴァルもなされるがままではない。

 全方位ミサイルを発射。

 しかし、見当違いの方向に飛んでいく!


 味方を出し抜こうとして出撃してきたアマレスたち3人の子ルーチンは、完全に統合戦線に出し抜かれる形になった。

 今では、ユーランディアのクオンティティーすら、捕捉できていない。

 アマレスのタルタロスが、ハンドガンを掲げてマーシャ・ツヴァルを撃った。

 中破する、マーシャ・ツヴァルのタルタロス。

 もはや離脱しかないのか?

 たった3機のイングレスαにやられるなど……

(リュシアス一将に申し訳が立たない……)

 子ルーチンとしてのAI脳で思うアマレス。

 その思考は、即座にジェマナイによって上書きされる……

(全体のことを考えよ)

 アマレスは、どこからともなく聞こえてくるそんな言葉を反芻した。

「シズマ、マーシャ、全体のことを見るんだ。個別のAIのクラッキングは考えるな。速度的にこちらが負けている!」

 それは、NooSの性能によるところも大きかった。

 ジェマナイにとって、統合軍のNooSの存在は大きな誤算である。


 ユーランディアは、上空ではっと息を飲んでいた。

(人間のパイロットがここまでできるなんて……)

 それは、斎賀に抱いていた敬意とも警戒心ともつかない思いに、似た感情だった。

 ユーランディアは、そのときシエスタの存在を意識した。

 彼女がいるからこそ、統合軍は勝ち進んでいられるのである……

 ライジングアースを奪えたのも、彼女がいたからこそ? ──ユーランディアは思考する。

 そのとたん、自分の機体が急に自由になったような感じがした。

 ハッキング・コンソールを全開にする、ユーランディア。

 3体のタルタロスの位置を特定。

 敵の欺瞞情報を投入。

 3機のタルタロスが互いを撃ち始める。

 まさに、地獄絵図……

 しかし、これもアジンバルのお子様部隊が相手だからこそ、できたことだった。

 そのことを、今ユーランディアは思い知っている。


 マーシャ・ツヴァル機に次いで、アマレス機が中破した。

 味方に味方を攻撃させる……これ以上に残酷な攻撃方法があるだろうか?

 シズマ=ロークは、ハンドガンを破壊された。


(このまま行けば、敵ビッグマンの鹵獲も可能なのではないか?)

 ユーランディアは考える。

(それなら、機体を大破させることは損失だ……)

 いまだにそんな傲岸な考えを抱いてしまう、ユーランディア。

 戦闘において、相手を生かさず殺さずということなど、相当の手練れでなければできることではない。

 ミューナイトや斎賀、シエスタのようなエース・パイロットでなければ。

 その点、ユーランディアはいまだに幼い。

 そして、今はそのことを自分でも分かっていた。


 それだからこそ、シエスタ機に通信した。

『敵は、現在完全にこちらのコントロール下にあります。完全破壊しますか?』

『第4世代のビッグマンの鹵獲は無理だ。上も、そんなことを望んではいない』

 そんな答えが返ってきた。

 シエスタ中尉は、冷静に現状を分析している。

 そんなシエスタ機から発射される、AAM。

 同様に、アマラ機とフィオリヒト機からもAAMが発射された。

 敵ビッグマン、3体それぞれのメイン・カメラを粉砕するAAM。

 まさに無双──という展開だった。


(これが、シエスタ中尉の力なのか???)


 ユーランディアは茫然としていた。

 自分は完全に、戦況から置いていかれている……


 3体のビッグマンが、砂漠に崩れ落ちた。

 統合軍の、ほぼ完全な勝利である。

 もっとも、それはユーランディアのクオンティティーが存在したからこそ、でもあった。

 シエスタは、自分たちの力だけでジェマナイに勝ったとは、過信していない。

 しかし、ユーランディアの命令無視は、許しがたい行為でもあった。

『NooSとクラッキング・キーウィの連動は最強なんだよ、たぶんな』

 そんなふうにユーランディアに通信した。


 NooSの導入に懐疑的だったシエスタも、今はじょじょにNooSの性能を信じ始めていた。

 実績があれば良いのだ……

 わたしたちを危険にさらさなければ……。

 そんなことを、この瞬間に思う。

 これで、夜間にバグダッドが不意打ちされることは防げた。

 敵の前進基地であるセラフィスは、すぐにでもタルタロスを回収するだろうが、それでも時間は稼げた。

 シエスタは、ライジングアースが前線に復帰する、ということは聞いていた。

 しかし、そのコパイロットが斎賀ではない、ということに痛い思いを抱いている。

(上は何を考えているんだ……いや、しかし戦争だから仕方がないのか。わたしは、どうすれば良い?)

 上空で旋回しているユーランディアの思いを置き去ったまま、シエスタはそんなことを考える。

(ユーランディア少尉は、処罰されるだろう。しかし、今処罰が適切なのか?)


(もしも、今ドラえもんのどこでもドアがあったなら、斎賀のところへ行くのに……)

 シエスタは孤独な胸で、そんなことを考えた。

 そしてユーランディア少尉は、自らの誤算をひたすら恥じていた。

シエスタたちに翻弄される、アジンバルお子様部隊でした。

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