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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第九部

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175/203

175.ユーランディアの誤算(2)

ピンチに陥ったユーランディアです。

 機体は5000フィートの高度から、地面に向かって直線的に進み始めた。

 落下……というよりも、急降下である。

 このままであれば、数秒も経たないうちに、自分は地面と激突する!


(わたしの奢り、いや油断が招いた結果なのか??! わたしは間違ったのか?)


 ネオスのAI脳のなかで、ユーランディアは高速に思考する。

 と、同時に機体の制動を立て直すすべをも高速で演算した。

(地面へ激突する直前まで加速して、そこから急上昇する! これで、機体を立て直せる???)

 ユーランディアは、臍を噛む思いだった。

 いらだちが、額に奇妙な汗をかかせる。


 しかし、それも数秒ほどのこと……


 地面に衝突寸前で、急速に機体姿勢を立て直して、V字型に上昇するQR‐X。

 ユーランディアははっとすると同時に、ほっとした。

(自分は、まだこの機体の制動を保てている……)

 と同時に脳裏に浮かんだのは、機体の制動を奪われた敵ビッグマンのパイロットの心境だった。

(彼らは、こんな恐怖を抱いていたのか……)

 と、今更のようにユーランディアは慄然とする。

 しかし、それもつかの間、自分が助かったということにほっとした。

 再び、上空3000フィートまで上昇するクオンティティー。


 ユーランディアの耳には、先ほどの、

「なんだ、お前? ネオスか??!!」

 という敵パイロットの言葉が木霊していた。

(ネオス、ネオス……だからなんだと言うんだ?! ネオス同士が殺し合うことが悪か!?)

 そんな場違いな考えまで浮かんできてしまう。

 今は戦闘中なのだ。

 そんな余白の思考に注意力を注ぎ込むわけにはいかなかった。


 ──


(やつめ、持ち直したか?!)

 アマレスは、タルタロスのコックピット内で無言で思考していた。

(タルタロスの電子戦性能がもっと優れていれば……)

 やつを倒すことができたのに、という思いもなくはなかった。

 しかし、この場では、自分たちが有利な立場に立ったということだけで満足すべきである。


(やつを、必ず仕留める!)

 アマレスは、この戦場におけるQR‐Xの活躍ということに関しても、事前に情報を得ていた。

 ライジングアースがヴォルグラスとプライムローズと戦った際にも、その現場にはQR‐Xがいたらしい。

 結果的にヴォルグラスは破れ、プライムローズは行方不明になった。

 というか、統合戦線に鹵獲されてしまった。

 アマレスには、これがライジングアース単騎による戦果だとは思えなかった。

 その背後に何者かの存在があったのである。

 その「何者か」を、自分は今相手にしている。

 とすれば、それを早々に討っておくべきは必然であるだろう。

 アマレスは、憎しみに満ちた目をQR‐X、クオンティティーに向けた。


「シズマ=ローク、マーシャ・ツヴァル! やつを必ず仕留めろ!」

 アマレスは、僚機に向かってそれまでになかったような激しい口調で指令していた。


 ──


 上空には、オルリヌイ・ルーチが展開し始めていた。

 自分が攻撃したタルタロスの部隊が、援軍を呼んだのだろう。

(このまま援軍がなければ、自分は撃墜される……)

 と、ユーランディアは戦慄した。

 QR‐Xは、全長で30メートルほどの威容を誇っている。

 敵に捕捉されれば、良い的である。

 ユーランディアは、自らの運命を呪った。

(今、この場にミューナイトがいれば! ライジングアースがいれば!)

 それらの機体は限りなく高度な連携を果たして、敵を撃退していたに違いないのである。

 戦略の失敗は、戦術の失敗だ。

 戦術の失敗は、戦闘の失敗だ。

 ユーランディアは、今回の失敗が自分の甘さに基づくものだということを、よく理解していた。

 というか、理解し始めた。

(すべては、寂しさから始まったこと……わたしは、ここで死ぬのか?!)

 AI脳における思考も、人間の脳における思考と基本的には変わりない。

 その速度がけた違いに速いだけである。

 ユーランディアは恐れた。自らの死を。自らの敗北を。

 しかし、決死の思いで、敵のオルリヌイ・ルーチをクラッキングする。


 いくつかの機体が、タルタロスに向かって特攻していった。

 無情にも、それを撃墜するタルタロス。

 そのそばから、ミサイルが放たれてクオンティティーに向かってくる。

 STSMを発射して防衛する。

 クオンティティーの周囲に展開される、火線。

 コンマ数秒のところで、今のところは躱している。

 ユーランディアの額に、ふたたび汗がにじむ。


(敵ビッグマン3機を相手にするのは、無謀だった??? ……くそっ!)

 ユーランディアは歯噛みした。

 それは、自分自身の過信にたいする歯噛みだった。


(違う! わたしは統合戦線を守ろうとしただけだ……!)


 そこへ……ついに、味方のイングレスαの部隊が到着した。

 それらの編隊を率いているのは、シエスタ・アレーテ中尉である。


「その機体! クオンティティーに搭乗しているのは、ユーランディア少尉だな!?」

「その通りです。こちらは、ユーランディア少尉です。すみません……ピンチに陥ってしまいました」

「そんなことは分かっている。貴官のことも、サイガから聞いている」

「サイガ中尉から?!」

「ああ、そうだ。この場は引け! QR‐Xでは、敵の機動性に十分に対応することはできない。イングレスαに任せるんだ!」

 それは、屈辱を伴う指示だった。

(自分は今、この場で撤退したくない。しかし、撤退する以外の道があるのだろうか……)

 ユーランディアは高速で思う。そして、

「わたしにも何か手伝えることがありませんか? 今、バグダッドに3機のビッグマンが向かっています!」

「そんなことは分かっているんだよ!」

 険しくも厳しい口調で、シエスタからの返信が返ってきた。


(はっ、この作戦ミスは、もしかするとバグダッドを危機に陥れることかもしれなかったのか……)

 と、ユーランディアは思考した。


 敵のビッグマンをやり過ごし、タージ基地にその存在だけを知らせる。

 そして、タージ基地からはイングレスαが緊急発進する。

 そして、ビッグマンの撃退。

 そんな型通りの作戦のほうが、もしかすると今はふさわしかったのかもしれない。

 自分の焦燥感によって、味方は自分を救わなければいけない、という枷にはめられた。

(ちっ!)

 ユーランディアはふたたび歯噛みする。

(己の若さというものが、これほど呪わしいと思ったことはない……)

 ユーランディアは、その戦闘経験の少なさを今は憎んでいた。

 シエスタ中尉は、歴戦の勇士だ。

 その言葉の一言一言が、今ユーランディアの胸に突き刺さる。


「シエスタ中尉、指令をお願いします!」

 ユーランディアは、我を曲げてシエスタに依頼した。

 屈辱が、白い渦となって胸のなかを駆け抜ける。

 その間にも、敵タルタロスから発射されるミサイル。

 STSMで、なんとか撃退。


「貴官は、上空1万メートルまで上昇しろ! その間に、敵のタルタロスに致命的な打撃を与える!」

 シエスタは、通信機に向かってどなった。

 これまでの数週間、拿捕も破壊もできなかったタルタロスにたいして、付け焼刃の作戦が成功するとも思えなかった。

 しかし、ここでクオンティティーとユーランディア少尉を失うことは、統合軍にとっては打撃だろうと思えた。

 だから、今はなんとしてでもこの味方を救わなければいけない。

 シエスタは、タルタロス3機の群れのなかに特攻していった。

シエスタが駆けつけました。

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