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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第九部

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174/203

174.ユーランディアの誤算(1)

突出するユーランディア。当初は有利に戦いを進めますが……

 ユーランディアは、QR‐Xに搭乗して夜間の哨戒飛行に出ていた。

 今、バグダッドはビッグマンの攻撃にはさらされていない。

 戦線はもっと東にある……

 だからこそ、先制攻撃が必要なのだが、とユーランディアは思っていた。


 眼下の砂漠を見つめる。

 民家が1軒、2軒、明かりを灯している。

 いずれは、戦火にさらされる家屋かもしれない。

 そのことに、ユーランディアは胸を痛める。


 今、ユーランディアの胸にあるのは、ミューナイトのこと。

 統合戦線の統合軍は、突如としてライジングアースやプライムローズの居場所を発信してきた。

 それによれば、今ライジングアースとプライムローズはエチオピアの上空にいる。

(ジェマナイのブラックスワーンダーが、間もなく彼女たちに攻撃をしかける、ということを彼は知らなかった)

 ──間もなく、ライジングアースは自分たちに合流する。

 しかし、今からこの手でQR‐Xの機体をエチオピアに向けたい──


(自分がやらなければ、いったい誰がやると言うのだ……)


 ジェマナイの前進基地であるセラフィスに向けては、連日巡洋艦からの巡航ミサイルによる攻撃が行われていた。

 ジェマナイも基地の防衛を強化している。

 一か月前にはただの村だった場所が、今では要塞となっていた。

 そこでは、傷ついたビッグマンの修理も行われる。

 倒しても倒しても、敵は襲い掛かってくるのである。

 こんな過酷な戦場に、今ミューナイトは戻って来ようとしている。

(自分なら彼女を助けられる……)

 という甘い思いを、今のユーランディアは思ってはいなかった。

 ただ、

(このままではジェマナイも統合戦線もダメになってしまうのではないか?)

 という思いだけがある。

 両国の共倒れを、ユーランディアは恐れていた。

 ある意味では、彼も大人になったのだろう。

 憑き物が落ちたような具合であった。


 その哨戒飛行中に、ユーランディアは眼下に3体のビッグマンを発見した。

 夜間にジェマナイのビッグマンが攻撃をかけてくるのは、1週間ぶりである。

 しかし、その様子はどこかおかしい。

 まるで、手柄を急いで単独出撃してきたかのようなのだ……

 ユーランディアはタージ基地に通信した。

「こちらは、ユーランディア少尉のクオンティティー。バグダッドの東7マイルに敵ビッグマンを発見。指示を仰ぎたい」

「こちら、統合軍前線基地本部。了解した。イングレスαを向かわせる。帰還は上空で引き続き警戒行動を取られたし……」


 ユーランディアは歯噛みした。

 QR‐Xは、単騎でも十分な戦闘性能があるのである。

 これまでにも、戦線の最先端での戦闘を何度か具申してきた。

 しかし、上から返ってくる答えは、「クオンティティーは支援行動に徹したまえ」というものだった。

(これから、イングレスαが向かってくるのか? しかし、自分はその前にあれらのビッグマンを抑えたい)

 そう決意すると、ユーランディアは命令無視の行動に出た。

 そう決断した。


「こちらは、ユーランディア少尉のクオンティティー。敵ビッグマンへの攻撃を開始する。イングレスαは、遅れて当機の支援を行われたし」

「何をする、ユーランディア少尉! 命令に従え! 今イングレスαが向かっている……」

「通信終了。オーバー」

 ユーランディアは、まず眼下を歩行しているビッグマンのコックピットをハッキングする。

 その搭乗者が、アマレス、シズマ=ローク、マーシャ・ツヴァルというネオス(子ルーチン)であることを知った。

 できるだけ、ネットの情報を参照して、各機体のパイロットの性格を分析する。

 その戦い方は、お世辞にも美しいとは言い難い。

 ビッグマンで、逃げ惑う人間たちを踏み潰すような行動も行っていた。

 ユーランディアは、冷や汗をかくとともに、憎しみの唾を飲み込んだ。

(このような敵だ! 同士討ちがお似合いだろう!)

 そう思って、敵の戦術AIをクラッキング。

 2体のタルタロスから、残り1体のタルタロスに向かってミサイルが発射された。


 狙われたのは、アマレスの機体である。

 アマレスは、即座に僚機であるタルタロス2機に通信を試みる。

 良かった。通信はまだ通じる。

「なんだ??! 何があった? 敵にクラッキングされたのか!!?」

 動揺を抑えられない声である。

 シズマ=ロークは、「どうやらこの空域には敵電子戦機がいる」という通信を返してきた。

 マーシャ・ツヴァルは、「あたしたちの先制攻撃の試みはうまくいかなかったね、アマレス」という冷静な言葉。

 アマレスは、

「レファイン=ヴァルデス三将の出撃前に、攻撃の輪郭を整えておきたかったが……敵に手練れがいるのか?」

「例の、QR‐Xっていう機体じゃない? ジェマナイのネットにあがっていた」

「そうかもしれないな。あれは、もともとオーストラリア共和国空軍の機体だそうだ。統合戦線も見境なしだよ」

 と、シズマ=ローク。

「それは、あたいたちも変わんないけれどね」

「ああ。俺たちは今、アジンバルだ」

 アマレスは言って、唇をかんだ。


 ユーランディアは、ついでタルタロスの機体制御コンソールをクラッキング。

 シズマ=ロークとマーシャ・ツヴァルの機体が、アマレスのタルタロスに向かって突進していく。

 すると──アマレスのタルタロスは、ミサイルを……撃った。

「シズマ、マーシャ……これ以上その機体を敵にクラッキングされているようであれば、お前たちであれど破壊するぞ!!??」

 通信機ごしに怒鳴った。

 アマレスが、これほど激怒することは珍しい。

「殺すぞ!」

 その声音に、シズマ=ロークとマーシャ・ツヴァルは冷や汗をかいた。


 そんな彼らの様子を観察しながら、ユーランディアは余裕の表情を浮かべていた。

 QR‐Xは優秀な電子戦機である。

 このように敵同士で同士討ちさせるような攻撃を、もっとも得意としている。

 それに加えて、自分のハッキング能力さえあれば……


(イングレスαを待つまでもない……)


 それは、奢りであり誤算だった。

 ユーランディアは、どこか焦っていたのだ。

 それは、ミューナイトが姿を消したことと関係していた。

 例えば、この瞬間、斎賀はMIAになりながらも、アーヴァーズ・エ・ハークの面々と友情を維持した活動を行っていた。

 しかし、ユーランディアは完全に味方たちから切り離されてしまったのだ。

 ただ命令に従い、出撃し、イングレス部隊の支援を行うだけ。

 敵前進基地である、セラフィスへの攻撃も許されない。

 鬱憤と不満が蓄積していた。そして、それ以上に不安と恐怖が。

 ユーランディアは、孤独を理解できないネオスのAI脳で、孤独を感じようとしていたのである。

 そうである。ネオスは孤独を感じない……


 それが、今回の無謀な攻撃の理由だった。

 眼下では、3体のタルタロスが互いに争っている。

 ユーランディアは、

「は、は、は。ジェマナイめ、良い気味だ!!」

 と、思わず不遜な言葉を口にしていた。

 それが、彼の危機を招くものだとも知らずに。


 ──


「なんだ、お前? ネオスか??!!」

 と、突如、ユーランディアの目の前のコンソールが音声を発した。

 それは、ジェマナイのアマレスの声である。

(逆ハックされた??)

 ユーランディアはうろたえる。

 今、QR‐Xは上空5000フィートを飛んでいる。

 地上からは、容易にハッキングされないような高度だった。

 サテライト群のクラッキング処理も行っている。

 しかし……敵にユーランディア以上の優秀なネオス(子ルーチン)がいる、ということに、無自覚だった。

 タルタロスのコックピット内で、アマレスは舌なめずりをしている。

 倒し甲斐のある敵に出会えて光栄だよ、といった不遜な顔である。


 ユーランディアは慄然とした。

 クオンティティーの操縦系が奪われている。

 機体は急速にバランスを失って、地上へと降下し始めた。

 アマレスのクラッキング攻撃に遭ったのである。

ピンチに陥りました。

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