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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第九部

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172/203

172.ライジングアースVSブラックスワーンダー(4)

引き続きブラックスワーンダーと戦うライジングアースです。

 しかし、ミューナイトは動揺してはいなかった。

 冷静に、この場面というものをAI脳のなかで再生している。

 それによれば、ライジングアースはブラックスワーンダーに勝つことが可能だった。


(ミューナイト、一旦引け! 飛行形態に変形する。今はこの場を離れるんだ! ブラックスワーンダー、いや、リュシアス一将は強敵だ!)

(そんなことない! この状況を打開できる!)

 そんな思念通信が交わされる。

(どうするのか?)と、セラフィアは思った。

 それは、スタンドアローンの思考である。

 ミューナイトもまた、そのとき別個に思考していた。


(スホーイの群れに、ユーマナイズを使うわ!)

(なんだって??!)

 セラフィアには今、戦況が理解できていない。

 しかし、人型形態でなければユーマナイズを発動できないことは理解していた。


 ブラックスワーンダーに付随してきたスホーイ群は、今プライムローズを追って高空1万フィートにいる。

 そこにユーマナイズを撃ち込む?

 その作戦が成功したとしても、ブラックスワーンダーへの防備がおろそかになる。

 コンマ数秒の遅れすら、命取りだ。

 だが、ミューナイトはパイロット、自分セラフィアはコパイロットである。

 ──

 瞬間、コパイロットであるセラフィアは、パイロットであるミューナイトを信用することに決めた。

(分かった、やれ! ミューナイト少尉。わたしは、敵のハッキングに全力を尽くす!)


 その後に行われたのは、高度な電子戦だった。

 ネオスのAI脳で、セラフィアはブラックスワーンダーの電子頭脳を全力でハッキングする。

 それを防御する、リュシアス。

 一瞬一瞬の攻防が、めまぐるしく展開した。

 ダミー情報を送られて、挙動に一瞬の躊躇がうまれるブラックスワーンダー。

 リュシアスは、それを即座に補正する。

 セラフィアが再度の攻勢をかける。

 制動を失って、墜落しかけるブラックスワーンダー。

 だが、それらの攻防もミリ秒からコンマ数秒のことだ。


 セラフィアは、そんな戦いに喝采したい気がしていた。

(これなら、リュシアス様を超えられる……)

 しかし、ミューナイトはやはり冷静だった。

(抑えて、少佐。ブラックスワーンダーへの対応は、最小限で良い)

 ミューナイトは、ライジングアースを飛行形態に変形させる。

 ──

 なんと??? ……と、セラフィアは思う。

 今、自分の前の座席で、パイロットであるミューナイトが何を考えているのか、セラフィアには分からない。

 ただ、機体はらせんを描きながら上昇した。

 見る間に、ブラックスワーンダーは眼下に遠ざかっていく。

 その瞬間、(勝った!)と、セラフィアは確信した。


 上空では、プライムローズとスホーイがミサイルを撃ちあっていた。

 ジグザグな軌道を描いて、たがいに交錯しあうミサイル。

 だが、すんでの瞬間でプライムローズには交わされてしまう。

 さすがに、一級の兵士であるダレンザグ中尉の駆る機体である。


『中尉、スホーイは何機いるの?』

『2機撃墜しましたから、合計で8機です』

 ミューナイトがメッセージを送信すると、すぐに返信が返ってきた。

 その間にも、交わされているミサイルの輝線。

 また1機のスホーイが、プライムローズの発射したミサイルによって撃墜された。


(なるほど、多くもなく少なくもなし、か……)

 リュシアス一将は、すべてを計算していたのだ。

 多すぎる数のスホーイを送り込んでも、ユーマナイズで無力化されるだけだと。

 それどころか、かえって自分にとっての不利に働く。

 パイロットの命もないだろう。

 ライジングアースには少数精鋭で当たったほうが、むしろ都合が良い。

 スホーイのうち1機は、ライジングアースにもミサイルを撃ち込んできた。

 瞬間、飛行形態から人型形態になって、敏捷にそれを躱す。


『中尉、これからわたしたちはユーマナイズを使う。あなたは、上空さらに1万2000フィートあたりまで逃れて』

『了解しました。離脱します』

 飛行形態になって、戦域を離れていくプライムローズ。

 その姿が、視界のなかで急速に小さくなった。

 飛行形態のプライムローズの挙動には、敵のスホーイも追いつけない。


(少佐、今わたしたちの人間関数はどれくらい? 敵のミサイルを躱すのに手いっぱいで、確認できない)

(97%と出ている……高い数値だ)

(それなら大丈夫ね)

 眼下のブラックスワーンダーをも目に入れながら、ライジングアースの胸部ユニットを再起動させる。

 胸のW型のコアに光があつまった。

 その間、2秒ほど……

(少佐、撃つわ!)

 ライジングアースは、ふたたびユーマナイズを作動させた!


 まばゆい光と音響がライジングアースの胸から照射される。

 その光と音に飲み込まれていく、敵のスホーイ群。

 ミサイル攻撃が止んだ。

 数秒の後、敵のスホーイ群から次々と通信が入ってくる。……

『撃つな! 我々は味方だ。これよりセラフィスに帰還する!』

『統合戦線に亡命させてほしい。我々は敵ではない!』

『俺たちは、あなたに協力する。これからブラックスワーンダーを攻撃すれば良いのか?』

 そんな必死の叫びだ。

 ショート・メッセージの文字列から、悲痛な心情が伝わってくる。

 ユーマナイズが作用したのだ。

 どうやら、スホーイのパイロットはほとんどが人間だったらしい。

 しかし、うち2機のスホーイは互いに衝突し合って、爆散した。

 それらの機体が、子ルーチンの操る機体だったのだろう。

(5機あれば十分か……)

 と、ミューナイトは思う。

(少佐。敵のコックピットをハッキングして! これから、彼らにブラックスワーンダーを攻撃させる)

 ミューナイトは冷徹に告げた。

(了解した。しかし、相手の攻撃はどう躱すのか??)

(戦闘はしない。ただ、この戦域から離脱することだけを考えましょう。ブラックスワーンダーにユーマナイズは効かない。戦法を工夫する必要があるの……)

 それには、QR‐Xの支援が必要だろう、とミューナイトは思った。

 ユーランディア少尉の駆るQR‐Xは、今バグダッドにいる。

 敵の数は多いとしても、それ以上に味方の数を増やさなくてはいけない。

 ブラックスワーンダー相手に、プライムローズとライジングアースだけでは、不利だ。

 ミューナイトもまた、リュシアスの実力というものを思い知っていた。そして、機体の性能も。


 5機残っていた敵のスホーイ、いや敵だったスホーイがブラックスワーンダーにミサイルを撃ち込む。

 そのコックピットのなかで、リュシアスは(やられたか!?)と思っていた。

 それだからこそ、最低限の味方だけを引き連れてきたのだ。

 ライジングアースが単騎でないことは幸いだったが、戦術でプライムローズとの間を引き離された。

 その間(=ま)に、ライジングアースにユーマナイズを放たれてしまった。

 味方のうち、何人かは死んだだろう。

 指揮官として、リュシアスは臍を噛む思いをしていた。


 じぐざぐに、味方であったはずのスホーイからの攻撃を躱すブラックスワーンダー。

 しかし、何発かのミサイルは躱しきれずに、機体に命中した。

 爆音とともに、振動がコックピットを襲う。

(どうすれば良かったというのだ!!!)

 リュシアスは激高した。

 しかし、すでに遅い。

 味方の機体は、すでに敵となっている。

 この戦場に、リュシアスは今一人きりだった。

「おのれ、セラフィア! この代償は高くつくぞ!」

 それだけの言葉を、リュシアスは呟いた。

 その瞳からは、理由の分からない涙が流れていた。

リュシアス、敗北しました!

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