172.ライジングアースVSブラックスワーンダー(4)
引き続きブラックスワーンダーと戦うライジングアースです。
しかし、ミューナイトは動揺してはいなかった。
冷静に、この場面というものをAI脳のなかで再生している。
それによれば、ライジングアースはブラックスワーンダーに勝つことが可能だった。
(ミューナイト、一旦引け! 飛行形態に変形する。今はこの場を離れるんだ! ブラックスワーンダー、いや、リュシアス一将は強敵だ!)
(そんなことない! この状況を打開できる!)
そんな思念通信が交わされる。
(どうするのか?)と、セラフィアは思った。
それは、スタンドアローンの思考である。
ミューナイトもまた、そのとき別個に思考していた。
(スホーイの群れに、ユーマナイズを使うわ!)
(なんだって??!)
セラフィアには今、戦況が理解できていない。
しかし、人型形態でなければユーマナイズを発動できないことは理解していた。
ブラックスワーンダーに付随してきたスホーイ群は、今プライムローズを追って高空1万フィートにいる。
そこにユーマナイズを撃ち込む?
その作戦が成功したとしても、ブラックスワーンダーへの防備がおろそかになる。
コンマ数秒の遅れすら、命取りだ。
だが、ミューナイトはパイロット、自分はコパイロットである。
──
瞬間、コパイロットであるセラフィアは、パイロットであるミューナイトを信用することに決めた。
(分かった、やれ! ミューナイト少尉。わたしは、敵のハッキングに全力を尽くす!)
その後に行われたのは、高度な電子戦だった。
ネオスのAI脳で、セラフィアはブラックスワーンダーの電子頭脳を全力でハッキングする。
それを防御する、リュシアス。
一瞬一瞬の攻防が、めまぐるしく展開した。
ダミー情報を送られて、挙動に一瞬の躊躇がうまれるブラックスワーンダー。
リュシアスは、それを即座に補正する。
セラフィアが再度の攻勢をかける。
制動を失って、墜落しかけるブラックスワーンダー。
だが、それらの攻防もミリ秒からコンマ数秒のことだ。
セラフィアは、そんな戦いに喝采したい気がしていた。
(これなら、リュシアス様を超えられる……)
しかし、ミューナイトはやはり冷静だった。
(抑えて、少佐。ブラックスワーンダーへの対応は、最小限で良い)
ミューナイトは、ライジングアースを飛行形態に変形させる。
──
なんと??? ……と、セラフィアは思う。
今、自分の前の座席で、パイロットであるミューナイトが何を考えているのか、セラフィアには分からない。
ただ、機体はらせんを描きながら上昇した。
見る間に、ブラックスワーンダーは眼下に遠ざかっていく。
その瞬間、(勝った!)と、セラフィアは確信した。
上空では、プライムローズとスホーイがミサイルを撃ちあっていた。
ジグザグな軌道を描いて、たがいに交錯しあうミサイル。
だが、すんでの瞬間でプライムローズには交わされてしまう。
さすがに、一級の兵士であるダレンザグ中尉の駆る機体である。
『中尉、スホーイは何機いるの?』
『2機撃墜しましたから、合計で8機です』
ミューナイトがメッセージを送信すると、すぐに返信が返ってきた。
その間にも、交わされているミサイルの輝線。
また1機のスホーイが、プライムローズの発射したミサイルによって撃墜された。
(なるほど、多くもなく少なくもなし、か……)
リュシアス一将は、すべてを計算していたのだ。
多すぎる数のスホーイを送り込んでも、ユーマナイズで無力化されるだけだと。
それどころか、かえって自分にとっての不利に働く。
パイロットの命もないだろう。
ライジングアースには少数精鋭で当たったほうが、むしろ都合が良い。
スホーイのうち1機は、ライジングアースにもミサイルを撃ち込んできた。
瞬間、飛行形態から人型形態になって、敏捷にそれを躱す。
『中尉、これからわたしたちはユーマナイズを使う。あなたは、上空さらに1万2000フィートあたりまで逃れて』
『了解しました。離脱します』
飛行形態になって、戦域を離れていくプライムローズ。
その姿が、視界のなかで急速に小さくなった。
飛行形態のプライムローズの挙動には、敵のスホーイも追いつけない。
(少佐、今わたしたちの人間関数はどれくらい? 敵のミサイルを躱すのに手いっぱいで、確認できない)
(97%と出ている……高い数値だ)
(それなら大丈夫ね)
眼下のブラックスワーンダーをも目に入れながら、ライジングアースの胸部ユニットを再起動させる。
胸のW型のコアに光があつまった。
その間、2秒ほど……
(少佐、撃つわ!)
ライジングアースは、ふたたびユーマナイズを作動させた!
まばゆい光と音響がライジングアースの胸から照射される。
その光と音に飲み込まれていく、敵のスホーイ群。
ミサイル攻撃が止んだ。
数秒の後、敵のスホーイ群から次々と通信が入ってくる。……
『撃つな! 我々は味方だ。これよりセラフィスに帰還する!』
『統合戦線に亡命させてほしい。我々は敵ではない!』
『俺たちは、あなたに協力する。これからブラックスワーンダーを攻撃すれば良いのか?』
そんな必死の叫びだ。
ショート・メッセージの文字列から、悲痛な心情が伝わってくる。
ユーマナイズが作用したのだ。
どうやら、スホーイのパイロットはほとんどが人間だったらしい。
しかし、うち2機のスホーイは互いに衝突し合って、爆散した。
それらの機体が、子ルーチンの操る機体だったのだろう。
(5機あれば十分か……)
と、ミューナイトは思う。
(少佐。敵のコックピットをハッキングして! これから、彼らにブラックスワーンダーを攻撃させる)
ミューナイトは冷徹に告げた。
(了解した。しかし、相手の攻撃はどう躱すのか??)
(戦闘はしない。ただ、この戦域から離脱することだけを考えましょう。ブラックスワーンダーにユーマナイズは効かない。戦法を工夫する必要があるの……)
それには、QR‐Xの支援が必要だろう、とミューナイトは思った。
ユーランディア少尉の駆るQR‐Xは、今バグダッドにいる。
敵の数は多いとしても、それ以上に味方の数を増やさなくてはいけない。
ブラックスワーンダー相手に、プライムローズとライジングアースだけでは、不利だ。
ミューナイトもまた、リュシアスの実力というものを思い知っていた。そして、機体の性能も。
5機残っていた敵のスホーイ、いや敵だったスホーイがブラックスワーンダーにミサイルを撃ち込む。
そのコックピットのなかで、リュシアスは(やられたか!?)と思っていた。
それだからこそ、最低限の味方だけを引き連れてきたのだ。
ライジングアースが単騎でないことは幸いだったが、戦術でプライムローズとの間を引き離された。
その間(=ま)に、ライジングアースにユーマナイズを放たれてしまった。
味方のうち、何人かは死んだだろう。
指揮官として、リュシアスは臍を噛む思いをしていた。
じぐざぐに、味方であったはずのスホーイからの攻撃を躱すブラックスワーンダー。
しかし、何発かのミサイルは躱しきれずに、機体に命中した。
爆音とともに、振動がコックピットを襲う。
(どうすれば良かったというのだ!!!)
リュシアスは激高した。
しかし、すでに遅い。
味方の機体は、すでに敵となっている。
この戦場に、リュシアスは今一人きりだった。
「おのれ、セラフィア! この代償は高くつくぞ!」
それだけの言葉を、リュシアスは呟いた。
その瞳からは、理由の分からない涙が流れていた。
リュシアス、敗北しました!




