171.ライジングアースVSブラックスワーンダー(3)
引き続き、ライジングアースとブラックスワーンダーとの戦闘です。
(少尉、僚機のプライムローズに、上空1万フィートほどまで退避してくれるように伝えてくれないか?)
セラフィアが高速の思念通信で伝える。
(どうするの?)
と、ミューナイト。
(やはり、ユーマナイズを使う。ブラックスワーンダーをなんとしても無力化したい。味方になるかは分からないが……)
(分かったわ。ダレンザグ中尉に通信する!)
それまでの敵を味方につける、というこの武器──ユーマナイズ。
その恐ろしさを、ライジングアースのコックピットではセラフィアが、ブラックスワーンダーのコックピットではリュシアスが改めて再確認していた。
しかし、ブラックスワーンダーのリュシアスには余裕がある。
南極戦線で、ライジングアースの戦闘データはとってある。
そのうえでの、反転場量子フィールドの搭載である。
ブラックスワーンダー単騎であれば、ユーマナイズの影響は防げる、と踏んでいたのである。
しかし、そのことをライジングアースのミューナイトとセラフィアは知らない。
今、戦況がどんな局面に向かったとしても、実はその中心はブラックスワーンダーのリュシアスの手にあったのである。
仮面の下で、静かな微笑をリュシアスは浮かべた。
ミューナイト少尉の通信によって、ダレンザグの駆るプライムローズは上空へと退避していく。
それを、数機のスホーイが追った。
(この状況なら、リュシアス様をユーマナイズすることができる!)
と、セラフィアは思った。
それが、リュシアスを味方につけることになるのか、あるいは自死に追い込むことになるのか、セラフィアには分からなかった。
しかし、この状況でそんなことは考えておくべきことではない。
(自分は、ジェマナイの作り出したこの「ライジングアース」というシステムの機能に従う)
という思いが、セラフィアの胸にはあった。
(リュシアス様は、リュシアス様だ。しかし、この状況では自分すらジェマナイの駒なのだ……)
そう考えて、自分を納得させた。
(ええい、ままよ!)と、セラフィアは思った。
高度1500フィート、2000フィート、2500フィートへと上昇していくプライムローズ。
その間には、やはり敵と味方との間でミサイルが飛び交っていた。
ダレンザグ中尉からは、『了解しました』というショート・メッセージだけが入った。
完全に連携は取れていたのである。
今、ライジングアースの目の前には、ブラックスワーンダーだけが空中に屹立している。
(リュシアス一将、勝負です!)
と、セラフィアは心のなかで叫んだ。
ライジングアースの、胸部のW型のユニットが発光を始める。
ユーマナイズの起動兆候だ。
ライジングアースのすべてのエネルギーが、胸部のユニットに注ぎこまれていく。
(ミューナイト少尉、やれ!)
セラフィアの思念通信が叫んだ。
ミューナイトは耳を抑える。
瞬間──
ライジングアースの胸部ユニットが発光した。
まばゆい光と、音響があふれ出す。
その波に包まれていく、ブラックスワーンダー。
しかし、何かが違った。
ブラックスワーンダーを中心点として、球形に生まれた波。
それが、ライジングアースのユーマナイズを飲み込んでいく。
(あっ)と、セラフィアは思った。
(リュシアス様は、ユーマナイズへの対抗策を編み出していたのだ!)
しかし、その反応はすでに遅かった。
光の渦のなかから、斬り込んでくるブラックスワーンダー。
ライジングアースのハイ・フリークエンシー・ソードが震えた。
両者は今、ふたたび斬り合っている。
ブラックスワーンダーのコックピットのなかで、リュシアスはにやりとした微笑を浮かべていた。
……が、その詳細は仮面の下に隠れていて分からない。
しかし、「たしかにこれが勝利だ」という手ごたえが、リュシアスにはあった。
反転場量子フィールドが、ライジングアースのユーマナイズを無力化したのである。
(これさえ防げていれば!)
と、リュシアスは思う。
しかし、その認識も甘かった。
ハイ・フリークエンシー・ソードで、ブラックスワーンダーに斬りつけるライジングアース。
光と光、量子と量子とが、ふたたびさく裂した。
(リュシアス様、あなたはわたしの前に立ちはだかるのですか???)
セラフィアは思う。
(甘いな、セラフィア。わたしはいつだってお前の半歩先を行っている)
リュシアスも、無言のなかで思考する。
ミューナイトは、
(ユーマナイズが効かなかった??!)
と、愕然としていた。
実は、セラフィアにとっては予想外ではなかった。
南極戦線でライジングアースに対峙したその時から、ジェマナイの側ではユーマナイズに対する対抗策を用意していた。
要は、ユーマナイズにしても物理攻撃である。量子場を操作することで、相手の心理を書き換える洗脳兵器だ。
その物理を無効化してしまえば良い。
音と光の波をゼロにすること、それが課題だった。
ブラックスワーンダーは、それを成し遂げたのだ。
ブラックスワーンダーの攻撃は容赦なかった。
近距離からスパイラル・カッターを射出。
それが、ライジングアースの肩先に命中する。
制動を失って、不器用にうごめくライジングアースの両手。
しかし、破壊するまでには至っていない。
ライジングアースは、ブラックスワーンダーから距離を取ったあと、ロケット・パンチを射出。
それが、スパイラル・カッターと交錯する。
飛び散る、火花。
腰部ミサイルを発射するが、ブラックスワーンダーの量子なぎなたによってぶった切られてしまう。
ブラックスワーンダーは、まさに強敵だ。
(リュシアス様、引いてください! あなたが引くことで、平和が訪れる!)
(平和だと?! 偽りの平和になんの意味があるのか!?)
と、まるでテレパシーで会話するように、お互いの思考を交錯させる2人。
ミューナイトは、パイロットではあったが、そこでは脇役だった。
上空では、プライムローズとスホーイの空中戦が繰り広げられている。
何十発ものミサイルを撃ち込んでくる、ジェマナイのSu‐77。
しかし、それはプライムローズには当たらない。
すべてが、ダレンザグ中尉の放ったミサイルによって撃墜される。
低空では低空の、高空では高空の、戦いが繰り広げられていた。
セラフィアには、再びユーマナイズを作動させる、という余裕がない。
「ふっ、やはり効かなかったな。ライジングアース! 反転場量子フィールドはユーマナイズを無効化できる!」
ブラックスワーンダーのコックピット内で、リュシアスがつぶやいた。
これをすべてのビッグマンに搭載できれば、ユーマナイズは恐れるに足りない。
しかし、第2世代や第3世代のビッグマンに、この装備が搭載できるだろうか……?
エネルギー出力の問題は?
リュシアスもまた、高速で思考を巡らせる。
しかし、今のところは、このブラックスワーンダーでライジングアースの攻撃を防げる!
「落とすぞ! ライジングアース!」
リュシアスは再びつぶやく。
量子なぎなたを再度かまえて、ブラックスワーンダーはライジングアースへと斬り込んでいった。
再びさく裂する、光!!
サウジアラビアの上空が、雷雨に包まれたようだった。
今更ですが、ブラックスワーンダーは、経済学用語の「ブラックスワン」の洒落です。




