170.ライジングアースVSブラックスワーンダー(2)
引き続きブラックスワーンダーとの戦闘です。
ライジングアースに向かって、敵のスホーイから十数発のAAMが撃ち込まれてきた。
即座に人型形態に変形して、敏捷な挙動で躱すライジングアース。
プライムローズもまた、人型形態に変形した。
それは、敵であるブラックスワーンダーにとっては願ってもないことである。
しかし、ユーマナイズの攻撃によって味方が敵とならないとも限らない。
リュシアスは、ブラックスワーンダーのコックピットのなかで身構えた。
(セラフィア、お前は本気でこのわたしを討つことができるのか……?)
仮面の下で、涙の筋が光るようだった。
敵──と今はなった元ジェマナイの兵器で、自分の第一の部下が洗脳されている。
そして、今自分にたいして牙を剥く。
自分はどこで間違ったのか……ライジングアースを奪われた時からか。奪われる前からか。
しかし、そんな反省は今ここでは無用だった。
ライジングアースのコックピットでも、セラフィアとミューナイトはたただ戦うことだけを考えている。
──
(もう一度聞くわ、セラフィア少佐。あなたはかつての味方と戦えるの?)
(無論だ。わたしは討つべき敵だけを討つ。それがジェマナイの意向にも沿う)
(あなたはまだジェマナイを信じているのね?)
コンソールに表示される敵位置の情報を分析しながら、ミューナイトは高速で考えた。
こんなとき、ネオスとしての思考は戦闘の障害になることもある……
ミューナイトはそのことを即座に見て取った。
局地戦が、全体の戦いに、国家同士の興亡にまで結びついてしまうのだ。
今、斎賀がパートナーだったとしたら……彼は、そんなことは考えない。
しかし、今のコパイロットはセラフィアだ。同じネオスである。
数発、数十発のミサイルが飛び交う。
サウジアラビアの上空で、火線があざやかな軌跡を引いた。
敵──ブラックスワーンダーは強敵だ。ミューナイトは思った。
その操縦者がセラフィアでないとしたら、誰なのだろう?
ミューナイトは、純粋に戦術的な興味として分析する。
しかし、答えは出なかった。
だから、セラフィアに聞く。
(敵。ブラックスワーンダーを操っているのは、誰?)
(おそらく、リュシアス一将だ。ジェマナイの戦略・戦術長官。一級の戦士だ……わたしよりも、強いかもしれない)
(あなたよりも? なら、わたしたちは生き残れるの?)
(ユーマナイズを使え! 彼女を味方につけることができる)
(そんな小手先の攻撃が通じるとは、思えないわ。敵は……ジェマナイの大将なのだから)
ミューナイトは冷静だった。
今、ユーマナイズは使えない。
味方のプライムローズにも作用してしまう可能性がある。
しかし、味方の基地もないサウジアラビアの上空でブラックスワーンダーに対峙していることは、幸運だった。
機会を見て、ユーマナイズを発動することができる。
──
一方のブラックスワーンダーでは、リュシアスが歯噛みしていた。
仮面の下で、その表情はうかがい知れない。
敵──ライジングアースに対峙している緊張感だけは、その指先のふるえからも伝わってきた。
(奴め──セラフィア。本気でわたしに抗うつもりなのか?)
リュシアスは、未だにセラフィアが統合戦線に寝返ったことに納得できていない。
独自に潜入工作を試みようとしたのか、あるいは真に洗脳されたのか。
しかし、ライジングアースの反撃は本気だと思われた。
(セラフィア。お前はどうなってしまったのだ? ユーマナイズとはそれほど恐ろしい兵器なのか? だとしたら、ジェマナイはなぜNNN‐3を作った?!!!)
こちらも、高速でAI脳のなかで演算する。
戦闘と戦術、戦術と戦略がまざりあった。
今の自分たちは、ジェマナイがある国家を征服し所有する、というその一手と結びついていた。
リュシアスは、(外道め!)とひとりごちる。
今、セラフィアはリュシアスにとってジェマナイの裏切り者だった。しかし、本当にそうなのか?
ジェマナイの真の意志は、リュシアスにとっても図り切れない。
なにしろ、かつては味方であるモスクワやサンクトペテルブルクを粒子気化爆弾で破壊したジェマナイだ。
ジェマナイは、今どんな平和を世界にもたらそうとしているのだろうか……
そのことは、リュシアス自身にも図り知れなかった。
(今は目の前にライジングアースがいる。わたし自身すら、ジェマナイにとっての駒なのか……)
リュシアスは、仮面の下で歯噛みをした。
──
プライムローズがAAMの攻撃を受けて、地面すれすれまで降下する。
そのパイロットが今誰なのかを、リュシアスは知らなかった。
そのことが歯がゆいような気もするし、幸運であるような気もする。
プライムローズのパイロットの生死を考慮しなくて済むことは、リュシアスにとっても救いだった。
敵は──敵だ、という一点の感情に集中していれば良いのである。
リュシアスは、「落ちろ、敵ども!」と思わず叫んだ。
そして、量子なぎなたを抜刀する。
接近戦にもちこめば、ユーマナイズはいかようにも防ぐことができる。
あの胸部のユニットさえ破壊すれば……
そういう動物的な勘からだった。ネオス(子ルーチン)において、動物的な勘とは皮肉だったが。。
ブラックスワーンダーは、量子なぎなたをもってライジングアースに斬りかかった。
ライジングアースは、背中のハイ・フリークエンシー・ソードを抜いて、それに対峙する。
光と光とのせめぎ合い。
量子と量子との衝突。
激しい火花が、二体のロボ(ビッグマン)のあいだに交わされた。
真夜中の夜空に、光を映す二つの光点。
量子なぎなたとハイ・フリークエンシー・ソードが斬りあう。
(ミューナイト、危ない! これでは、ライジングアースが負ける!)
セラフィアは、高速の思念通信でミューナイトに伝えた。
(分かってる。でも、今はその時じゃないみたい……)
ミューナイトは思念通信で答えたが、それは必ずしも自信に満ちて、ということではないようだった。
空中で、交錯し、離れ合う機体。
推進ジェットが、十字の紋章を空中に切る。
轟音とともに、衝突し離れる2体のビッグマンとロボ。
呼び方など……今はどうでもよかった。
(ミューナイト少尉、ユーマナイズは今発動できないのか??!)
(今、ユーマナイズを発動したとして、誰を味方につけるの? 戦況は変化しない)
そんな高速通信を、ミューナイトとセラフィアは取り交わした。
(なら、この物理攻撃が正しいとでも言うのか?!)
セラフィアは尋ねる。
(正しい。なぜなら、この戦いは戦いだから……)
ミューナイトの答えは、要領を得なかった。
この戦い……それは、バグダッド戦線へと援軍を送る、そんな戦略によったのである。
自分たちは、バグダッドを守る、という戦いに参加すればよかった。
しかし、それ以前にブラックスワーンダーが現れた。
ライジングアースは、自らを守るという戦いを強いられた。
ここで負けていては、戦況が変化してしまう。
そのことを、セラフィアは微妙に感じていた。
(ジェマナイは、今変化しなければならない。それには、リュシアス一将が変化することが必要に思える……)
と、セラフィアは思っていたのだ。
しかし、リュシアス一将は出撃してきた。
(だとしたら、倒さなければいけないのではないか……?)
そんな無限とも思える煩悶が、今セラフィアの心を占めていた。
次章に続きます。




