169.ライジングアースVSブラックスワーンダー(1)
久しぶりのロボ戦です。
ライジングアースは、今エチオピアの上空にいた。
エチオピア、と言っても今は独立国ではない。
統合戦線アフリカ機構における一州である。
ボワテ大佐ら、統合戦線の面々は、ライジングアースがサウジアラビアの上空を通過する許可を取り付けていた。
サウジアラビアは、未だに独立国家である。
この時代、独立国家の数は多くはない。
多くの国々が、ジェマナイや統合戦線アフリカ機構の連邦となっている。
その独立国の意向は、ジェマナイや統合戦線の意志に左右されるのだった。
サウジアラビアは、今のところ統合戦線にたいして便宜を図っている。
すなわち、統合戦線の衛星国の1つであるのであった。
ライジングアースは、飛行形態でプライムローズとともにバグダッドへ向かっている。
パイロットは、ミューナイト少尉。コパイロットは、セラフィア少佐である。
そんな彼女たちが、こんな会話を交わす。
「オーケー。サウジアラビアの上空に到達した。異常はないか、ミューナイト少尉」
「異常はない。あなたの計算通り。この軌道を通って良かった。敵は今のところ見当たらない……」
「見当たらない、か。サテライト群はすでにクラッキングされているのだろう? そのデータはあてにならない」
「そうね。でも。サテライト群も大量のデータの処理には反応してくる。もし敵の大部隊が来ているのだとしたら……」
「それはないな」
セラフィアは断言する。
「もしそうなら、サテライト群が反応している。それに、今アルスレーテをビッグマンの大部隊が襲ったところで、意味がない」
「意味がない?」
ミューナイトは首を傾げた。
「そうだ。意味がない。アルスレーテはたしかにジェマナイにとって、敵国の首都だ。しかし、首都を落とせば戦争の終結とはならない。敵は、さらに分散して抵抗を続けるだろう。今、ジェマナイは敵人民の破壊を望んではいない。味方についても同様だ」
それは、微妙な言葉だった。
ミューナイトは訝った。
ジェマナイは、アルスレーテの破壊を望んではいない?
だとしたら、その戦いの目的はなんだろう?
やはり、統合戦線の市民に威圧を与えることか?
それであれば、その衛星国であるイラクを攻撃するということにも、納得がいく。
自分たちは、今どんな攻撃への、どんな対処をしようとしているのだろうか?
ミューナイトはそのAI脳で高速に演算する。
しかし、そこで出てきた答えは意外なものだった。
敵──ジェマナイは、ライジングアースとの戦いだけを望んでいる。
ミューナイトははっとした。
自分が、そこに関わる重要なファクターであったからである。
そこに──人間は介在していない。ミューナイト……彼女と、セラフィア、同じくネオスである彼女との戦い。
その挙動に、ジェマナイが注目している?
だとしたら、ジェマナイは彼女たちを見逃すのではないだろうか? そんな予感さえした。
──
「セラフィア少佐。わたしたちは、今サウジアラビアの上空にいる。ここで、敵が出てくるとしたら、それは誰だと思う?」
ミューナイトは、上官や部下といった区別を抜きにして、セラフィアに尋ねた。
セラフィアは、今ライジングアースのコパイロットである。
ライジングアースの横には、プライムローズが並走している。
そのパイロットは、ダレンザグ中尉である。
彼は、自分たちにたいして強力な味方になる。
しかし、戦争とは所詮、多勢に無勢である。
敵の大部隊が出てきたら、なすすべはない。ユーマナイズでも使わない限り。
今、ダレンザグ中尉はミューナイトたちとは距離をおいて、1マイル圏内を飛行している。
それも、敵の集中攻撃を防ぐためである。
敵は何が出てくる? ビッグマン? それはたしかだ。それにスホーイか? オルリヌイ・ルーチか?
ミューナイトは、いつになく緊張するのを感じた。
──
前進基地セラフィスを、ブラックスワーンダーは数機のスホーイとともに発進した。
援護は、リュシアス自身が望んだ。
ビッグマンの援護は要らない、とリュシアスは先の作戦会議にて宣言した。
しかし、数機のスホーイをつけてほしい、と。
もちろん、リュシアスはジェマナイの戦争における最上位の幹部である。
彼女が言うことは、即座に裁可される。
が、彼女は皆の同意を望んだ。
ビッグマンの部隊は、バグダッドの攻略にむける(そちらも逼迫していたのだ)。
そして、自らは単騎スホーイとともにライジングアースの撃破に向かう。
それが、リュシアスの作戦だった。
いささか傲慢に見えないかと思えないこともない。
しかし──リュシアスの慧眼をレファイン=ヴァルデスは信じた。
彼女は──ライジングアースという兵器が恐ろしい武器だということを知っている。大量破壊兵器である。
ライジングアースは、子ルーチンたちの心を侵食する。
そして、戦局を一気に変えてしまわないとも限らない。
(一将には、なにか作戦があるのだろう……)
その通りだった。
ブラックスワーンダーは、ユーマナイズを無効化する反転場量子フィールドを装備している。
レファイン=ヴァルデスは、そのことは事前の説明で聞いていた。
だとすれば、不確かな自分たちが出撃して敵の味方となるよりは、敵に敵として対峙するブラックスワーンダーに任せたほうが良い。
今、ジェマナイは粒子気化爆弾などで、敵を威嚇できる状況にはないのである。
局地戦の積み重ね、それでしか勝利を得ることはできない。
だとしたら、ブラックスワーンダーにはなんとしても勝ってもらわなくてはいけない。
すべてのビッグマンに反転場量子フィールドが装備されるのは、バグダッド戦線が落ち着いてから。
まさに、時間との戦いなのである。
そんな冷静な判断も……レファイン=ヴァルデスには可能だった。
だからこそ、リュシアス一将に任せる。
ジェマナイの演算結果に、すべての運命をゆだねる。
この戦いは、見事ジェマナイが勝利してこそ、意味を持つ戦いなのだった。すくなくとも、彼レファイン=ヴァルデスには。
──
視界に、輝点が光った。ブラックスワーンダーだ。
その機体のデータは、南極戦線でライジングアースの中枢コンピュータに蓄積されていた。
(来ます、少佐!)
ミューナイトが、思念通信でセラフィアに伝える。
(分かっている。ブラックスワーンダーだ。たぶん、リュシアス一将だろう。わたしたちを、無事にバグダッドへは到達させないつもりだ!)
(どうするの?)
(もちろん、討つ。今ここで決着をつける)
(あなたって、結構血の気が多かったのね?)
(わたしは生まれて以来、ずっと軍人として生きてきた。意外だったか?)
(意外じゃない。でも、頼もしいとは思ったの。敵の、ブラックスワーンダーを撃破しましょう?)
(敵の……か。わたしにとっては、かつての味方だ)
ミューナイトは、そこで言うべき言葉にとまどった。
セラフィアが、未だにジェマナイへの忠誠を有しているのでは、と迷ったのである。
しかし、セラフィアにそんな迷いはなかった。
今、彼女は世界の行く末だけを気にしている。
ジェマナイという一つの生物的な器官の末端がどう思考しようと、その決断にたいしてセラフィアは関係がなかった。
この世界の理想を実現させるだけである。
ブラックスワーンダーから、ライジングアースにたいして、数発のミサイルが発射されてきた。
こんな攻撃であれば、ロケットパンチや腰部ミサイルで防げる。
しかし、セラフィアは沈黙していた。
ミューナイトがいらだって言う、「少佐、指示を!」
「ただ、躱せ! ブラックスワーンダーとの戦闘は持久戦になる!」
その時のセラフィアの決然とした表情を、パイロット席にいるミューナイトは見ることはできなかった。
ここからしばらくビッグマンと統合軍の戦いが続きます。




