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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第九部

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167/203

167.希望の落日

ヴェガ部隊と交戦するシエスタたち。

 シエスタは絶句した。──ライジングアースのコパイロットが斎賀じゃない??!

 しかし、ボワテ大佐の言葉は、冷酷にそのことを告げていた。

「近々、ライジングアースが戦線に復帰することになった。それによって、ジェマナイの攻勢も激しくなるだろうことが予想される。ちなみに、ライジングアースのパイロットとコパイロットは、空軍のミューナイト少尉およびセラフィア少佐が務める。わが軍が鹵獲したプライムローズという機体には、空軍のダレンザグ中尉が搭乗する」

「待ってください、大佐! サイガはどうなったんです? サイガはアルスレーテにいるのですか?」

「サイガ中尉は……依然としてMIAだ。中尉。君の心配も分かるが……すべては上の決定だ」

「そんな! サイガの生死も分からないなんて……」

 シエスタは、思わず掌で顔を覆う。

 隣にいたアマリ少尉が、シエスタの肩に手をかけた。

 フィオリヒト少尉は、何とも言えない表情をしている。


「我々空軍は、ライジングアースと連携しての防衛作戦を継続する。戦況は、ライジングアースの合流によって我々に有利に働くだろう。敵ビッグマンの鹵獲も視野に入れておいてほしい」

 また型通りのことを言う! と、シエスタは思う。

 敵ビッグマンの鹵獲?

 我々は海賊か?

 いい加減、統合戦線はロボを自主生産すれば良い。

 我々現場の人間だけが、過酷な任務を課せられる。

 ビッグマン1体は、巡洋艦1隻ほどの戦闘力を誇っているんだぞ?

 それにたいして、これ以上どう戦えって言うんだ!

 どこにもぶつけようのない思いが、シエスタの胸にうずまいた。


 アマラ少尉は言った。

「サイガ中尉のことは、残念です。ですが、我々も懸命に捜索している。我々は戦線のことだけ考えないと……」

「考えているさ、戦線のことだけを! だけど、サイガは還らないんだぞ!?」

 シエスタは怒りをぶつける。

「中尉の怒りはわかります。統合軍は、無責任だ。あれだけ功績のあった人を……」

 ただ、アマラ少尉の考えていることは、シエスタとは違っていた。

 少尉は、すでに斎賀は物故していると考えていたのである。

 その功績を棚上げしておくというのが、少尉には腑に落ちなかったのである。


 ──


 ブリーフィングは終わる。

 シエスタらは、イングレスαに乗り込む。

 また、いつものような戦争が待っている。

 シエスタは、ヘルメットの奥で唇をかみしめた。

 厚く塗られた口紅が、舌の先に付着する。

 マーシャラーが手信号で、シエスタ機の誘導をしている。

「行くさ! 行くとも!」と、シエスタは小さくつぶやいた。

 急加速して、空中に飛び立つシエスタのイングレスα。

 直に、アマラ少尉の機体が彼女に合流した。

 これから、バグダッドの東へと向かう。


 ──


 今、バグダッド戦線には12体のビッグマンが展開している。

 第2世代のヴェガが2体。第3世代のヴェガⅡが4体。第4世代のタルタロスが3体。そのほかに、第2.5世代と第3世代のノルニール、リントヴルム、サロメ。

 狙うなら、第2世代のヴェガだ。

 そのほかの機体は、防衛性能も攻撃性能も、ヴェガより優れている。

 まずは、敵の行動半径を縮小させること。

 それによって、敵をその前進基地に押しとどめること。

 そのあとは、NooSを搭載した巡航ミサイルによって基地ごと攻撃すれば良い。

 わたしたちは、まずは前線に出てくる敵ビッグマンを叩く!

 と、シエスタは胸の内で反芻した。

 しかし、理屈は理屈である。現実は思うようにはいかない。


 視界の端に、2体のヴェガが映る。

 シエスタの動体視力は良い。

「アマラ少尉、敵ヴェガを発見した。これより、クラッキング・キーウィによる攻撃に移る!」

「了解です! 今日こそは仕留めましょう!」

 アマラ少尉も無線で答えた。

 ──

 やがて、通信は通じなくなるだろう。

 ただし、シエスタにも見誤っていることがあった。

 旧世代の機体であれば、そのパイロットも低級である、ということにはならないのである。

 ヴェガの1体は、ジェマナイのレファイン=ヴァルデス三将が操縦していた。

 戦力的に劣る部隊を、精鋭が率いていたのである。

 シエスタが攻撃すべきだとしたら、アジンバルのお子様部隊が率いているタルタロス部隊だったろう。

 その通りに、シエスタは苦戦を強いられることになる。


 シエスタとアマラ少尉は、クラッキング・キーウィを作動させるためにリードル・ワイヤを射出する。

 このワイヤは、およそ1~1.5マイルほどの長さがある。

 敵ビッグマンのロケットパンチとほぼ同じくらいの射程である。

 しかし、旧式のビッグマンであるヴェガにロケットパンチはない。

 レファイン=ヴァルデス三将は、ヴェガの機体から全方位ミサイルを撃ってこれに対抗した。

 空中の各所で爆炎が上がる。

 リードル・ワイヤの先には軌道を制御するジェット・ノズルと、クラッキング用の端末が備えられている。

 そこをピンポイントで狙ってくる、敵のミサイル。

 シエスタたちは、射出後もリードル・ワイヤの軌道を制御しなくてはならない。

 空中で、なんども起こる爆発。

 クラッキング・キーウィの本体を破壊されてしまっては、この攻撃は失敗だ。

 しかし、敵のヴェガ2体は予想以上にしぶとい。というか、動きが洗練されている。


 ヴェガ1体のパイロット、ネラは「わたしは誰? わたしは誰?!」とコックピットのなかで叫んでいた。

 ふたたび、戦闘中にマザー・ルーティーンで思考を上書きされている。

 それがなされた後の彼女は、無双だった。

 先日撃破された上官のヴァーヴよりも、戦闘性能では上回っている。

 味方であるはずの、レファイン=ヴァルデス三将の機体を盾にしながら、高速で円軌道を描いて移動する。

 そのビッグマンから射出される全方位ミサイル!

 アマラ少尉とシエスタの駆るイングレスαのすぐ横をかすめた。


「あっ!」と叫ぶ、シエスタ。

 リードル・ワイヤが切断された。

(まさか、ワイヤの射出口を狙ったのか? これは、基地に帰ったらしこたま怒られるな?)

 イングレスαは高価な機体である。

 当然、その装備品も高価である。

 1.5マイルもあるナノ素材のリードル・ワイヤは、そのなかでも突出して高価な装備品だった。


「アマラ少尉、わたしのクラッキング・キーウィがやられた。貴官のほうはどうか?」

「こちらは、まだ無事です。しかし、あのヴェガ2体、異常ですよ? 挙動が他のビッグマンとは違う!」

「そうだな。敵も精鋭なのかもしれない。旧型機と見てあなどっていたが……」

「どうしますか? 一時撤退しますか?」

「まずは、チーム・アマリのリーダーと合流しよう。今、マベナ大尉はどのへんにいる?」

「我々から3マイルほど離れた場所にいます。現在は、タルタロスと交戦中」

「よし、いったん戦域を離脱する。置き土産に、AAMをヴェガに叩き込め!」

「了解!」

 シエスタ機とアマラ機のイングレスαが、AAMを射出する。

 砂漠の上で停止、あるいは円軌道を描いている敵ビッグマンに、AAMが向かっていく。

 ASMほどの破壊力はないが、軌道はこまめに制御できる。

 ビッグマンの肩先で、AAMが爆発した。ひるむヴェガ。

 その隙に、全速力で離脱。

 敵ミサイルの攻撃圏内を離れる。


『さっきは危なかったかもしれないな。アマラ少尉』

 シエスタがメッセンジャーで通信する。

『俺も、もう死亡フラグは立てませんって。不吉なことは、金輪際俺もお断りです』

 悠長なメッセージが返ってきた。

 シエスタは苦笑する。

 再び、唇を舐めた。

 しかし、それが戦場におけるシエスタの余裕だった。

レファイン=ヴァルデス三将はけっこう強いです。

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