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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第九部

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166/203

166.斎賀の戦い

アーヴァーズ・エ・ハークのメンバーにたいして親しみを増していく斎賀……

 アーヴァーズ・エ・ハークの〈山荘〉で、斎賀もまたMVの映像を見ていた。

 放送はペルシア語なので、ところどころしか理解できない。

 その画面内では、ライジングアースの実際の映像とCGによる解説が展開されていた。

(ライジングアース……知らない機体だ)

 と、斎賀は思う。

 情報ネットのデータを調べてみると、統合戦線がジェマナイから奪ったロボだと言う。

 その、ロボを実際に鹵獲したのが自分だということも、斎賀は思い出せないでいるのだった。

 当然、アーヴァーズ・エ・ハークのメンバーはそのことを知る由もない。


「ライジングアース、不気味な機体だ」

 ハサン・ファルザーネが言った。

 彼は、アーヴァーズ・エ・ハークの情報担当である。

 いや、正確にはナジーネ・ハミーディが率いているこのグループの。

 彼なら、何かこの機体について知っていることもあるのではないか? と斎賀は思った。

 だから、尋ねてみる。

「あなたは、何かこの機体について知っていることがあるのか? これは、イランやあなたたちを利する機体なのか?」

「ジェマナイの天敵であることは、間違いない。ライジングアースにはユーマナイズという武装がある」

「ユーマナイズ?」

 斎賀は首を傾げる。聞いたことがない。

「ああ、そうだ。敵を洗脳して自分たちの味方につける。あるいは、パイロットを自殺に追い込む。そういう武装だと聞いている」

「それがイランに行使されたら、大変じゃないか?」

 思わず、斎賀は声をあらげた。

「ああ。しかし、ライジングアースの当面の敵はジェマナイだ。我々が影響されることはない。不安がっても仕方がないということだな」

「なら、良いんだが。俺も、今現在はあなたたちの仲間だ。あなたたちを危険に晒すようなことはしたくない」

 そう言う斎賀にたいして、

「お前さんだけの力で、俺たちを危機から救うことはできんよ。自分自身を買いかぶらないことだ」

 言って、ハサンは笑った。


 斎賀は、顔を赤らめる。

「いや、俺は自分を買いかぶったわけじゃ……」

 だが、言い訳は空しかった。

 たしかに、現状斎賀は自信をもちすぎていた。傲慢になっていたのである。

 それが、斎賀自身の実力から来ることだったとしても、不用意にアピールするべきではなかった。

「いや、すまない。どうやら俺は、自信過剰になっていたようだ。記憶も取り戻していないのに……焦りがあったんだな」

「分かってくれればいい」

 ハサンも、斎賀の自己分析を受け入れる。

 そこには、すでに仲間同士の絆というものが見られているようだった。


 ナジーネ・ハミーディがコーヒーを持ってやってくる。

 斎賀もカップの1つを手にした。

 こういう組織ながら、1つ1つのコーヒー・カップには気遣いが現れている。

 その一人一人がよく飲むコーヒーの分量、ファッション性の違い、そんなことを考えて個性が現れているのである。

 カップを選んだのは、ナジーネとレイラ・ザンドだった。

 斎賀は、コーヒーをすすりながら、「美味い」と言う。

 さっきまでのライジングアースにたいする不安は消えていた。


「オガーブ、ところであなたに見てほしいものがあるのだけれど……」

 と、ナジーネが切り出す。

「なんだ?」

「イラン領内における、ジェマナイの拠点のマップよ。奴ら、どうやらイランを属国化しようと水面下で動いているらしいの。あなたには、そのうちのいくつかの施設のハッキングをお願いしたい」

「アーヴァーズ・エ・ハークで、その情報を共有したいっていうことだな?」

「その通り。ジェマナイがイランを棄損するようであれば、わたしたちは奴らを許さない。イランはまだ独立国家よ?」

「サラーブ、でももうそれはあいまい……」

 と口をはさんできたのは、レイラ・ザンドである。

 彼女は、アーヴァーズ・エ・ハーク内の密輸・斥候担当であり、コードネームは「シャフレザード」。

 ジェマナイによるイランへの浸透工作については、現場という側面から熟知している。

「末端では、ジェマナイはイランの要人を拉致したり、洗脳したりしているわ。情報工作って言ってもいいけれど、すでに危険域にある」

「そうね。それは、これからのわたしたちにとっての不安要素。だからこそ、今のうちにオガーブにハッキングしてもらう必要がある」

「それについては、わたしも賛成よ」

 そんな会話がなされる。

 斎賀も背筋が引き締まった。──どうやら、自分が任されるのは重要な作戦らしい。


 そんなところへ、マフムード・カリミも話しかけてきた。

「オガーブ、俺からも頼みがある」

「ああ、なんだ。俺にできることならなんでもするよ」

「この〈山荘〉には、実は迫撃砲がある。アーヴァーズ・エ・ハークが地下ルートで入手した武器だ。この迫撃砲はAI制御になっている、そのメンテナンスをしてほしいんだが……」

「サング、あなたはこのグループの戦術担当だったな。しかし、そんなに危険が差し迫っているのか?」

「いや、そうではない。この迫撃砲のOSは例の『シャヒーン』だ。あなたなら、それをうまくメンテナンスしてくれるのではないかと思っている。なにしろ、サテライト群とシャヒーンとの連携は不可欠だ。あなたなら、バックドアを介して最適解をシャヒーンに与えてくれると思っている……」

「それこそ、買いかぶりすぎだな……できるだけのことはやってみるよ。あとで、そのOSをチェックしておく」

「頼む」

 マフムード・カリミはうなずいた。

 斎賀もうなずき返す。

 そこにはすでに、信頼関係というものがあった。

 アーヴァーズ・エ・ハークは、斎賀の生命を保証する。斎賀は、その能力を十全に発揮して彼らをサポートする。

 これは共存の関係、あるいはウィン=ウィンの関係だった。

「生き残りたい」という一点において、彼らは協力しあっている。それは、人間という生物の一つの種において健全な関係だったと言えるだろう。互助、協調、協力。そんな関係が、斎賀と彼らとの間にはあった。


「済まない、サラーブ。コーヒーのお代わりをもらえるだろうか?」

 斎賀は思わず声をあげた。

 手元のコーヒー・カップは、すでに空になっていた。

 斎賀がコーヒーのお代わりを頼むのは、このグループに参加してから初めてのことである。

「珍しいな、オガーブがコーヒーのお代わりだなんて?」

「俺も、ずうずうしくなってきたのかもしれないな。いや……今日はちょっと頭が働いているんだよ」

「知的労働の前のコーヒーは、最善の選択だ。いくらでも飲んでくれてかまわない」

 ナジーネは微笑んだ。

 斎賀が彼らに協力してくれることが純粋にうれしい、そういった意志表明である。


「で、あんたはどっちから手をつけるんだ? 俺の迫撃砲か、サラーブの拠点ハッキングか?」

 と、マフムードは笑いながら言った。

 そんな冗談も飛び出すほど、その場の空気は和んでいる。

 斎賀は頭を搔きながら、「まあ、簡単なほうからかな」と率直なところを答える。

「いい。それでいい」

 と、ハサン・ファルザーネがその場を締めた。

 それは、グループの最長老として、リーダーのナジーネをもまとめあげる言葉だった。

 最年少のレイラが、ふと表情を柔らかにする。

(このグループは、良いグループだわね!)という確信が、その表情の奥底にはあった。

次章からようやく戦闘シーン再開になります。お楽しみに。ライジングアースはまだ出ませんが。

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