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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第八部

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162/203

162.リュシアスの奢り

ジェマナイ視点です。

 今、トムスクの作戦室B‐21で、リュシアスはアーサー・カリニンからの通信を受けていた。

 クアラルンプール基地はなんとか持ちこたえているものの、ビッグマンの援軍を送ってほしい、というのである。

 リュシアスは、それにたいして難色を示す。

「3体のヴェガⅡだけでなんとかならないのか?」

「今、クアラルンプールにはクルアン基地から回ってきたヴェガ1体と合わせて、合計で4体のビッグマンがいます。しかし、敵が総攻撃をかけてくる可能性を考えると、ビッグマンは1体でも多くあったほうが良いでしょう」

「なるほどな……」

「バグダッド戦線も苦戦していると聞きます。ビッグマンは最新鋭の武装ですが、さすがに物量には押し切られてしまいます」

「わかった。日本からもう3体のビッグマンを派遣しよう。それでなんとか戦線をもたせてくれ。こちらでは、あらたなビッグマンの量産も急いでいる。春までには状況も改善するだろう」

「いささか、楽観的な見通しですな……」

 アーサー・カリニンは、厳しめの意見を具申した。

 リュシアスは眉根を寄せる。

「バグダッドには、わたしも出るかもしれない。ブラックスワーンダーの戦力で、膠着した戦況も改善されるだろう。それまでは、マレーシアに回せる戦力は多くはないな」

「アジアの離反を恐れているのでしょうか?」

「それもある。日本などは、まだ併合してから7年しか経っていない。パルチザンの活動も、依然として活発だからな?」

「バグダッドに、あまりこだわられませんように……」

 カリニンは、さらに慎重な意見を言う。

「ああ。しかし、イラクは統合戦線にとっては生命線だ。それを落としておくにこしたことはない」

「ご武運を祈ります」

 それで、通信は切れた。


 リュシアスはため息をつく。

 傍らには、いくぶん怪我もよくなったヴォルガが控えていた。

「ヴォルグラスⅡのロールアウトまでには、あと2週間といったところでしょう。それ以前に、一将がお出になるおつもりですか?」

 やはり、慎重に探りを入れる。

「ああ、それも考えている。アジア圏はほぼジェマナイのものとなった。これからは、中東およびヨーロッパに攻勢をかけていく」

「若干戦線を広げすぎでは? と小官は思いますが、やはりライジングアースを奪われたことがネックとなっていますか?」

「ああ。ライジングアース……NNN‐3は、もともとヨーロッパと中東の戦線に投入するつもりだった。統合戦線の衛星国を、ひとつひとつ落としていく作戦だったのだ」

「それは広大な構想ですが、しかし、実際にライジングアースは奪われました。今は、これへの対応が急務です」

「そうだな。こだわりすぎているかもしれない……あるいは、怖れか?」

 リュシアスは、銀白の仮面に指をあてた。

 その表情はうかがい知れない。

 しかしヴォルガには、リュシアスの今の不安が分かるような気がした。

 自分やカリニンといった歴戦の武将のほかに、今までは勇猛なセラフィアがいた。

 彼女は、リュシアスの片腕だったと言っても良い。

 軍事政治の両面での副官だったのだ。

 しかし、リュシアスを全肯定してくれるような存在は、今はジェマナイにはいない。

 セラフィアは、依然として行方不明のままだ。

 あるいは、ユーマナイズの影響で統合戦線に亡命しているのか?

 だとしたら、今後ともそんな状況は訪れ得る。

 ライジングアースを一刻でも早く破壊するか確保しない限り、ジェマナイはつねにその怖れにさらされ続けるだろう。

 ヴォルガもまた、嘆息した。

「難しいですな」


 そんなヴォルガは、バグダッドで敗戦して以来、若干性格が丸くなったようにも思われた。

 ときには子供のようにはしゃぐこともあれば、今回のようにリュシアスに真剣に忠言することもある。

 ヴォルガは怖れを覚えたのだろうか?

 いや、そうではなかったろう。

 ヴォルガは武人として、ミューナイトという同じく武人に対して敬意を感じていたのだ。

 再戦する機会があれば、ヴォルガはむしろ楽しむというか、喜ぶだろう。

 今までは、市民や陸軍の部隊相手にせせこましい戦い方をしていた自分が、八面六臂の振る舞いをする。

 ヴォルグラスやヴォルグラスⅡといったビッグマンは、そのとき喜びの声をあげているだろう、とヴォルガは思う。

 ビッグマンとして生まれてきた以上、弱者を踏み潰すような存在であってはいけないのだ。

 そんなビッグマンにふさわしい強敵が、今統合戦線にも初めて現れた。

 そのことを、ヴォルガは感嘆している。

 ビッグマンにもコギトがあるのであれば、彼らは今喜びをこそ感じているだろう……

 というのが、ヴォルガの予想だった。


「やはり、わたしが出ることにしよう……」

 しばらくの間沈思黙考していたリュシアスは、そんなふうに言葉を継いだ。

「ヴォルガ二将、貴官にはあらためて一将への昇進を打診する。わたしが留守の間、トムスクを守ってほしい」

「あっはは。トムスクは守るべきものも多くはありませんが、それはジェマナイの全体を見渡してくれ、ということでしょうか?」

「そうだ」

 ヴォルガの言葉に、リュシアスはうなずく。

「しかし、わたしに政治の才はありませんよ?」

「政治については子ルーチンのヨーランドがアドバイスしてくれるだろう。彼は、古参だ。しかし、あなたの手足として使っていい」

「それは、重要な役割ですな」

 ヴォルガは、呵々と笑った。

 リュシアスからこれほど信頼されている、とは思っていなかったのだ。

 彼は、軍事の面でのリュシアスのライバル、といった立ち位置でしかないだろうと思っていた。

 自分には政治の才能がない。

 だとしたら、リュシアスを出し抜くことはできない。

 ヴォルガは、常にそのことを意識していたのである。

 しかし、今リュシアスは彼に政治の一端をも任せようとしている……


「その責務、軽くはありませんな。しかし、小官にはまだ二将のままでいさせてください。小官が昇進するのは、武功があったときのみです。それで、一将との役割も差別化されましょう」

「それで良いのか? 貴官も昇進は悪い気持ちはしないであろう?」

「荷が勝ちすぎます。小官は、ジェマナイにおける一武人にすぎません」

 ヴォルガは、心持ち表情をひきしめながら、それでも微笑して言った。

「責務をおろそかにすることはない、ということだな?」

「もちろん、そのつもりです。わたしはやはり、戦場が似合っているのです。あなたの王国がもしも作られた暁には、わたしが国防大臣を務めましょう」

「ははは。その時には、世界がジェマナイのものとなっている。国防は存在しないよ」

 リュシアスもまた、笑った。

 ヴォルガは、その笑いを警戒した。

(今、一将は先走りすぎたかもしれない)と……ヴォルガは思う。

 それが、リュシアスの今の奢りの正体だった。

 ジェマナイを信じて疑わない……ということが、ヴォルガには正しいことだとは必ずしも思えていないのだ。

 ジェマナイは、あくまでも一つの政体に過ぎない。

 それを構成するのは、人間でありネオスである。

 ヴォルガには、ネオスとして生まれた誇りがあった。

 その誇りを、リュシアスは持っていないのではないか? と、ヴォルガは気遣う。


 戦争と政治に明け暮れるリュシアスには、自分にはない苦労があるのだろう、とヴォルガはあらためて思う。

 それだからこそ、今彼女に一線を踏み越えてほしくはなかった。

 ともに、統合政体ロシア・アジア共栄圏という国家の、彼らは重鎮なのである。

 勇み足は厳禁のはずだった。

若干性格の変化したヴォルガでした。これで第八部は終了となります。

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