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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第八部

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161/203

161.合同作戦会議

統合軍とイラク軍による作戦会議が開かれます。

 シエスタらは、今タージ基地のブリーフィング・ルームに集まっていた。

 ここで、統合軍とイラク陸軍・空軍との合同作戦会議が開かれるのである。

 今、バグダッド戦線は膠着している。

 敵のビッグマンを3体破壊したとは言え、敵は依然として大部隊である。

 統合戦線やイラク軍が慢心を見せれば、バグダッドはすぐにでも火の海になるに違いなかった。

 そんななかで、シエスタは動悸を感じている。

 斎賀がここにはいない、ということが何よりも不安だった。

 ライジングアースは、未だに前線に出てきてはいない。行方不明、という扱いである。

 あんな大きな機体が……と、シエスタも誰もが思う。

 あってはならない情報の欺瞞が、そこにはあるように透けて見えるのだった。


 そんななかで、前線にはボワテ大佐も出てきていた。

 現場の指揮官として、今はバグダッドに赴任してきている。

 統合戦線も全力なのだ、とシエスタは思った。

 当然だ。

 バグダッドが落ちれば、統合戦線はジェマナイの攻撃のすぐ目と鼻の先にある。

 再び、アルスレーテを空爆の無人機が襲わないとも限らない。

 それよりも、統合戦線の首都にジェマナイがビッグマンを送り込んでくるのだとしたら……

 そのことをシエスタは恐れた。

 敵ビッグマンの部隊は、なんとしてもこのバグダッドで食い止めなくてはいけない。

(ここが、踏ん張りどころだぞ、あたし。チーム・アマリ……)

 そんなことを、心のなかに思うのだった。


 シエスタのすぐそばには、アマラ少尉とフィオリヒト少尉が控えていた。

 2人も、寡黙である。

 フィオリヒト少尉が口数が少ないのはいつものことだったが、アマラ少尉がだんまりを決め込んでいるのが、シエスタにとっては不穏である。

 なので、こんなことを口にした。

「アマラ少尉、今日は嫁さんのことは話さないのか?」

 それにたいして、アマラ少尉は笑って言った。

「アレーテ中尉、あれ、死亡フラグだって言ったでしょう? 俺もちょっとは気遣っているんですよ、現場のこと」

「だな。不吉なことは口にしないほうがいい。なにしろ、あたしたちはいつも死に直面しているんだ」

「です。俺は、滅多なことは言わないって決めたんですよ。そのほうが、生き残る確率が高そうだ」

 シエスタは笑った。

 アマラ少尉が、自分の命をも危険に晒されているものとして考えていると、見て取ったからである。

 危機感は、何よりも現場を救う。

 戦闘機乗りという、生死を賭けた職業に就いている以上、慢心はご法度なのだった。


 ブリーフィング・ルームでは作戦会議が続いていた。

「セラフィス」と命名された敵前進基地を全面的に空爆する、という案が提出される。

 しかし、却下。

 今、敵ビッグマンの部隊は砂漠に展開している。

 そこをつつくのは、藪蛇だというのである。

 しかも、セラフィスは元々はイラク領の街である。

 誰もが、バグダッドという都市を守ろうとしている。

 しかし、それはいささか消極的にすぎないのではないか、とシエスタは訝った。

 シエスタは、対地戦闘の専門家ではない。

 が、空軍にももう少しできることがあるのではないか、と考える。


 そんなところに声をかけてきたのが、例のシャダム・アルリク大佐である。

 シエスタよりも13歳も年上だ。

 そんな彼が、突然彼女に求婚してきた。

 もちろん、シエスタは戸惑っている。

「大佐、あなたは『亡霊女神』っていう二つ名に騙されていないか? わたしはそんなにたいしたパイロットではないよ?」

 と、シエスタは謙遜して言う。

 しかし、大佐のほうでは引かない。

「いやいや、俺の運命の人はあなただと、あなたの戦闘を見ていて思ったのですよ。ぜひ、このプロポーズを受けていただきたい」

 などと、強引に押し切ってくる……。


 しかし、その時の話題はまた別のことだった。

「中尉、イラク陸軍と統合軍空軍との連携のことなのですがね……」

 と、やや深刻ぶった表情で告げる。

「例のNooSというOS、あれは一体何なんです? イラク軍の上層部でもNooSを導入すべきか否か、なんていう議論が起こっている。しかし、あれってただの人工知能でしょう?」

「それが、ただの人工知能ではないんだよ。わたしたちをときどき危険にさらす……わたしはそう思っている」

 シエスタは声をひそめながら言った。

「ほう、それはどういうわけで?」

「イングレスαを飛行させる際に、ビッグマンの股の間をすりぬけろ、などという無茶な指示を出してきたりする。それはかなり、突拍子もないんだ。現場では、それでもめている……」

「ほほう……なるほどねえ。それはたしかに、危険なOSだ」

 アルリクは、その自慢のひげを撫でた。

「で、中尉はそれにたいして危機感を抱いていると?」

 挑戦的な目で、アルリクがシエスタを見る。


 シエスタは、それにたいして直接には答えなかった。かわりに、こう問いかける。

「あなたは早耳のようですね? 大佐。どこからそんな情報を?」

「なあにね。統合軍とイラク軍の上はツーカーなんですよ。わたしも准将レベルの上官から、そんな情報を聞かされた。統合戦線にも闇がある、ってね? 現場ではこんな陰口もたたかれています。これではまるで、イラクは統合戦線の属国だ、ってね?」

「なるほど。闇は深いらしいですね……」

 シエスタは考え深げに言った。

 ちらりと、横目でアルリクを見る。

「でも、そんなあなたなら打開策も考えているのでは? 軍の垣根を越えて、わたしに求婚したりするくらいだ。それなりの政治力はお持ちなのでしょう?」

「あっはっは。わたしはあくまでも、イラク陸軍のハン・ソロですよ。政治家にはなれません。……というよりも、統合戦線もいずれは解体される。ジェマナイとの戦争が終われば、また個別のアフリカの国々に分割されるんです」

 そう言って、アルリク大佐はにやりと笑った。

 その言葉を、意外だとシエスタは思った。

 シエスタは、統合戦線という国は盤石だと、いつのころからか思っていた。

 しかし、このイラクという中堅国家において、シャダム・アルリクはその先のことを見据えた目で戦争をしているのだった。

 シエスタは、あらためて自分の覚悟というものを疑った。──なんのために戦争をしているのか? と。

 それは、平和のための戦いのはずだった。

 しかし、統合戦線という国はどうだろう。

 首都のアルスレーテこそ空爆されたものの、大部分の都市や土地は無傷なままである。

 それに反して、日々空爆にさらされてきたポーランドやイラクといった国にとって、この戦争は「今始まったもの」ではないのである。

 シエスタは、言いかけた言葉を飲み込んだ。

 それは、「あなたは先の先が見えているようですね?」という言葉だった。

 シエスタは、自分の無思慮をさいなむ。

 これでは、チーム・アマリを率いていくリーダーにはなれない。

 いやむしろ、自分を未来のリーダーと見据えている自分自身が甘い、と思う。

 アルリク大佐との会話は、なんということのない政治的な戯言だったが、シエスタは深く悔悟した。

(わたしには、戦う資格があるんだろうか……?)

 そこまで、悩む。


 その場に斎賀はいなかった。

 もし斎賀がいれば、きっとなんらかの言葉をかけてくれただろう。

「シエスタは俺の恋人だ」とすら、言ってくれたかもしれない。

 シエスタは、戦場のなかでの孤独を思った。

 一人一人が戦うしかないのである。

 その運命を、誰も逃れようがない。

 だから、これだけのことをアルリクに向けて言った。

「お互いに、無事を祈りましょう。生きて生還することを」

「だな」


 ホワイト・ボードを前にして、ボワテ大佐が言った。

「統合軍とイラク軍とは、ジェマナイの攻勢にたいして最大限の防御力を展開するものとする。敵は、ビッグマンさえ撃破されれば、いずれは撤退するものと考えられる」

 それが甘い見通しだということを、その場にいる誰もが分かっていた。


次章はジェマナイ視点です。

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