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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第八部

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159/203

159.戦闘シミュレーション(2)

戦闘訓練を継続します。

 その日の昼休憩、ミューナイトとセラフィアとはカップ1杯のカフェ・オレを口にしただけだった。

 身体能力として、ネオスは人間よりも優れている。

 最低限の栄養を摂取しただけでも、人間と等価の能力を発揮することができる。

 しかし、食事はしないにこしたことはない。

 彼女たちが昼食を口にしなかったことは、彼女たちの覚悟としては良かったのかもしれない。

 しかし、それが「いつも」では困る。

 そのことを、ティア・ラモンは心配した。

 それで、

「オリヴィア博士、彼女たちにあんなふうな無理をさせても良いんですか?」

 と、博士に尋ねる。

「良かあ、ないよ。でも、ミューナイトは一睡もせずに戦闘に出ることもしばしばだった。そのたびに、上官のボワテからはこっぴどく怒られたらしいが……彼女は、変わらなかった」

「と言いますと?」

「自分を貫いたのさ。『自分はネオスです。だいじょうぶです』と、ミューナイトはよく言っていた。あいかわらずだね」

「はあ……」

 ティア・ラモンはネオスの専門家ではない。メカニックである。

 だから、博士が「だいじょうぶ」だと言うのであれば、それを信じるしかない。

 いや、実際には博士は「だいじょうぶ」だと言ったわけではなかったのだが……


「午後からはバルーンを使っての、模擬実戦訓練に移ります。博士は引き続き計測室でモニタリングを?」

「ああ。なんでか、このあたしがライジングアースの担当っていうことになっちまったみたいだからねえ」

 苦々しくオリヴィア博士が言うのを、ティア・ラモンは横目で見つめていた。

 そうして、こう言う。

「今度は、ネオスが2人ですからね?」

「そうだ。ネオスが2人だ。人間関数が暴走しないか、上は監視してくれと言うんだ。なんだって言うんだい? ネオスが人間を超えるとでも? それとも、人間よりも退行するのか……いずれにせよ、要注意喚起っていうことだよ。まったく」

「それはご苦労様です。わたしたちも人間関数についてのデータは一応受け取っていますが、謎の部分が多いですね?」

「ああ、その通り。なぜ、人間とネオスでなくっても、93%もの値が出るのか、本当に頭を抱えているよ。それだけ、あのネオスが優秀なんだろうが……」

「セラフィア少佐ですか?」

「ああ、そうだ。彼女は、どこかミューナイトに似たところがある、そう思わないか?」

「わたしは気づきませんでしたが……」

「そうか。なら、良いんだ」

 それで会話は終わった。

 ……ティア・ラモンは、オリヴィア博士にたいしてとっつきにくさを感じている。

 今回も、少しでも会話がはずめばと思ってのことだったが、どうやらうまくはいかなかったようだ。


(そもそも、サイガとミューナイトとの関係が異常だったんだ。それでも、彼らの数値は91%にまでしか上がらなかった。それが、今回はあのネオスとの関係で、93%だ……ここには、何かある)

 オリヴィア博士は思った。

 もしかすると、ライジングアースは次なる人間の形態としてネオスを捉えているのか?

 もしそうだとしたら、ライジングアースは人類全体に対する脅威になる可能性もある。

 そんな兵器を、果たして運用していいのか……

「Human Function」が「Neos Function」になったとき……我々は、それを恐れておく必要がある。

 何しろ、あのライジングアースはジェマナイが作った兵器なのだ。

 しかし、そのオリヴィア博士自身も、ライジングアースが「ユー・フォーチューン」という新たな武装を作り出したことに関しては、いまだに未回答だった。

 それは、ユーマナイズ以上に恐ろしい兵器である可能性もある。

 しかし、逆に考えれば、それは真に平和をもたらす兵装である可能性もある。

(いったいどっちなんだ!?)

 と、オリヴィア博士は悩んだ。


 そうこうしているところに、ミューナイトとセラフィアも歩いてやってきた。

 2階の休憩室から降りてきたのだが、かたわらにはサモ・オクンジがいる。

 彼は、身振り手振りを交えながら、あれこれと話しかけているようなのだが、内容がよく分からない。

「軍曹! 何油を売っているんだい!? お前さんの仕事は、計器類のモニタリングだろう?!」

 オリヴィア博士が甲高い声をあげる。

「あ、いや、博士?! 今、少尉たちにちょっと説明をしていたところなんですよ……」

「だから、なんの説明だって言うんだい?!」

「いえね。バルーンは破壊しても良いけれど、付属部品のところを必ず狙ってくれって。今回の模擬戦闘訓練では、広範囲にバルーンを展開させる予定ですから、部品が基地の周りに落下したら困る。少なくとも、粉砕してくれなくっちゃ!」

「全部レーザーで攻撃させれば良いだろう?」

「ライジングアースにレーザーは装備されていません!」

「そうなのかい? ロートルだねえ。そんなんでジェマナイにかなうのかい?」

「大丈夫です。ライジングアースには、スーパー・アンブレラがあります!!」

「なんだいそりゃ? 日焼け除けの兵装かい? 聞いたことないね」

 そんなふうに言うオリヴィア博士の横で、ティア・ラモンが解説する。

「軍曹のネーミング・センスは独特ですから。いわゆる、一種の量子バリアです」

「ああ、そういうことかい」

 ティアがそう言うと、オリヴィア博士も納得した。どうやら、サモ・オクンジには通訳が必要であるらしい。


 オリヴィア博士とティア、オクンジは、ミューナイトとセラフィアがライジングアースに乗り込むのを見守っていた。

 全高40メートル。巨大な兵器である。

 タラップが上下して、直接コックピットに乗り込めるようになっているが、コックピットからはラダーも降りている。

 それを使って、搭乗者は自力でコックピットからの乗り降りができる仕様だ。

 もっとも、格納庫のなかでラダーを使用するといったことはないし、普段は寝かせた状態で格納されている。

 戦闘シミュレーションをするのに、少しでも実際に近い環境を、というので今回は立たせているのである。


 パイロット席とコパイロット席に着席したミューナイトとセラフィアは、まずお互いの現状を確認した。

「ミューナイト少尉。任務に支障のあるようなことはないな? 食べすぎや吐き気は?」

「ない。さっきあなたとコーヒーを飲んだだけ。つまみ食いの性癖は、わたしにはないわ」

「冗談が言えるなら、良好な状態ということだな。了解した。これより、訓練に移る」

「わたし、冗談を言った覚えはないんだけれどな……」

 ミューナイトの天然ぶりがさく裂した瞬間だった。

 セラフィアは、すこし動転する。

 ミューナイトとは、冷静な戦士であるように考えていたのだ。

 それが、こんな冗談を言う。

 さらには、その冗談が冗談ではないと言う。そのことが、セラフィアにとっては意外だった。

「分かった。これより思念通信に移る」

 セラフィアは、どぎまぎしながらそれだけのことを口にした。

「了解」

 ミューナイトはいたって冷静である。その冷静さが、セラフィアにとっては不満。


 格納庫の巨大なシャッターが上がっていく。

 ライジングアースの傍らには、修理中のプライムローズが鎮座している。

(あれが、わたしの機体だったのだ……)

 と、セラフィアは思う。

 しかし、辞令は辞令である。

 ライジングアースのコパイロットという職責を、セラフィアは全うするつもりでいた。

 一歩、二歩と踏み出していくライジングアース。

 視界が開けた。

 めいっぱいの青空が、HUDごしのセラフィアの目の中に飛び込んできた。

 その光を……「まぶしい」と、セラフィアは思った。

まだまだ謎があるライジングアースでした。

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