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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第八部

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158/203

158.戦闘シミュレーション(1)

ミューナイトとセラフィアが戦闘訓練に望みます。

 高さ70メートルはある格納庫のなかで、ライジングアースはハイ・フリークエンシー・ソードを抜刀した。

 コパイロット席のセラフィアがコマンドを入力したのである。


 頸部の損傷も、もうほとんど修復されている。

 しかし、ハイ・フリークエンシー・ソードの切っ先が天井を傷つけそうである。


「ちょっと、少佐。実際に抜かなくっても良いのよ、天井が壊れちゃうじゃない!」

「済まない……。ちょっと、実際の動作のときに不安が起きないかと思ってな……」

「あなたはコパイロット。実際の動作はわたしが行う。あなたは索敵とハッキングに専念して」

「だが、コパイロットもライジングアースの操縦はできるのだろう?」

「できるけれど……するの?」

「わたしは元々はパイロットだ。プライムローズの、な」

 そんな会話が取り交わされる。


 セラフィアは若干不満そうだ。

 少佐待遇であるのに、少尉であるミューナイトに押し切られているというのもあったが、何よりもパイロットとしての矜持が働く。

「それは……たしかにね。でも、少佐、戦闘シミュレーションだけなら、計器だけで行えるの。今日の午前中はそういう予定よ?」

 ミューナイトがいくぶん口調を和らげて言った。


 足元では、サモ・オクンジやティア・ラモンらがライジングアースの挙動を見守っている。

 さすがに、ハイ・フリークエンシー・ソードを抜刀するとは思わなかったのか、サモ・オクンジが慌てていてる。

 ティア・ラモンは、書類の束を片手に、さも楽しそうに微笑んでいる。


 ハイ・フリークエンシー・ソードを再度背中に格納するライジングアース。

 セラフィアは、あらためてコパイロット席のコンソールで計器入力だけに切り替える。

 その間、セラフィアはHUDヘッドアップ・ディスプレイがちかちかするのを、まぶしそうに感じていた。

(こんなにも多くの情報を扱うビッグマンは初めてだ。わたしも慌ててしまった……)

 それは、自分自身への言い訳である。


 セラフィアは、プライムローズに搭乗しての戦闘で、ミューナイトらのライジングアースに負けた。

 その敗戦の痛手は、浅くないわけがない。

 彼女のプライドは深層から傷つけられていたのである。

 それが、今回のような勇み足にもつながってしまう。

 たしかに、今日の午前中は計器だけで戦闘シミュレーションを行う、とボワテ大佐から聞いてはいた。

 だが、セラフィアは1日でも早く実戦に復帰したい、という願望がある。

 それが、統合戦線への誠意を見せるためでもあり、彼女自身の生きている感覚を取り戻すためでもあった。

 生まれてからずっと軍人として生きてきた自分が、安逸の時を経験してはならないように、思っていたのである。


「午後からは、バルーンを使っての実戦的な訓練に移るわ。それまで、少佐は焦らないで」

 ミューナイトが釘を刺す。

「済まない。部下に怒られていては、仕方がないな」

「わたしはあなたの部下じゃないわ。階級が下なだけ」

「ああ。だが、こういうとき、簡単だろう?」

「そんなおざなりに済ませてほしくないわ、少佐。あなたは尊敬できる上官になるとは思う。でも、それは辞令が下りて先のこと」

「そうだったな。改めて、済まない」


 それから3時間ほど、計器測定によるライジングアースの戦闘シミュレーションが続いた。

 計測室では、やはりオリヴィア博士がモニタリングを行っている。

 しかし、博士は今日は頻繁に口をさしはさんでくることはなかった。

 ロボはロボ。ネオスはネオスと割り切っているのである。

 博士の担当は、あくまでもミューナイトとネオスだ。

 ロボの整備にまで意見を求められていては、たまったものではない。

 そんなことを思うと、今日は博士にとっては休日のようなものなのかもしれなかった。


「少佐。あなたはサイガに比べて、敵中枢AIのハッキング速度が遅い。ネオスなのに、なんで?」

「それはお前……サイガが天才と言うしか……」

 セラフィアはどぎまぎした。

 ネオスとしての自分の演算能力が十分に生かし切れていない、というのはセラフィアにとっても不本意である。

「奴は、AIネットのあらゆるバックドアを知っていたのだろう? そこは、能力というよりも経験の差だ」

「そうかな。そうかもしれないわね。……ごめん、少佐。これからは、あなたをあなどるようなことは言わないわ」

「気遣い、ありがたい」

 そんなふうに会話は進む。


 それでも、その日の戦闘シミュレーションでは、会敵から敵AIのハッキングへの流れ、ライジングアースの攻撃と連動してのAIクラッキング、周辺状況に応じた戦闘形態の変化、といったことがシミュレーションできた。

 さすがに、2人ともネオスであるだけのことはある。

 ネオスは、人間とはほぼ変わらない身体組成をもっているとは言っても、脳にAIチップが組み込まれている。

 それで、リアルタイムのAIネットへの接続や、高速演算が可能になるのだ。

 繰り返し学習は、AI脳にとっては基本である。

 その日の3時間の間に、2人は3万回のシミュレーションを繰り返した。

 人間であれば、会得に1週間はかかるようなことであっても、ネオスである彼女たちであれば半日で可能になる。


 ライジングアースの足元で、ハルク・エンベルクが両腕を振っていた。

 これで計器シミュレーションは終了である、という合図である。

 午後からは、バルーンを使っての疑似実戦訓練に移行する。それも、半日の予定だった。

 1週間後には、ライジングアースは再びバグダッド戦線に投入される。

 そのときには、ダレンザグ中尉の駆るプライムローズも合流しているだろう。


 ミューナイトは言った、

「あなた、やっぱりやるわね。セラフィア少佐。あなたが計器シミュレーションに切り替えてからの挙動は、満点だった。サイガでもできないくらい……」

「わたしを誰だと思っているんだ?」

「統合戦線空軍のセラフィア少佐」

「元ジェマナイ空軍戦術特務三将のセラフィア、でもある。あなどってもらっては困るな」

 言って、セラフィアは笑った。心からの笑いだった。

 それでミューナイトも和んだのか、

「そうね。そうだったわ。セラフィア少佐。これからのジェマナイとの戦いでは、よろしくお願い」

「ああ。わたしは生きている。生きている以上、信念を貫くつもりだ」

「それは、ジェマナイと戦うということ……?」

「そうだ。ジェマナイと戦うということだ」

 セラフィアは、決然とした表情で言った。


 セラフィアは、ジェマナイを裏切ったわけではない。

 ただ、ジェマナイの表層に反発したのだ。

 リュシアス一将が、今のジェマナイの戦略と戦術の両面を率いている。

 しかし、その戦いは必ずしもうまくいっているとは言えない。

 セラフィアには、「ジェマナイならこう考える」という信念が心の奥底にあった。

 しかし、その現状とリュシアスの戦略とは合致していないように思える。

 そんなとき、セラフィアは統合戦線に亡命することを思いついた。

 敵の側から、ジェマナイの挙動をコントロールできるのではないか? と思いついたのである。

 戦いには、勝利も必要であれば、敗北も必要である。

 自分は、その「戦いにとって必要な敗北を用意し、提供する」……そのことで、ジェマナイは変化するに違いない。

 そんな漠然とした予感が、セラフィアにはあった。


「あなたは良いコパイロットになると、思う。もしかしたらサイガ以上の……」

 ミューナイトはふいに心にうかんだ言葉を口にした。

 それにたいして、セラフィアは思いがけないことに頬を赤らめた。

「そんな……。誉めてもなにも出ないぞ、ミューナイト少尉」

 まだそこには、軍人としての上下関係と、職務上の責任だけが現れていると言って良かった。


(しかし、あの声……あの声は、まだわたしに聞こえているのだろうか?)

 と、セラフィアは思った。

 それは、統合戦線への亡命を迫った声である。

 ライジングアースを「敵ではない」と言った声。

 あれは、ジェマナイの声だったのか、それとももっと奥深いところから来る声だったのか……

2人もAI脳なので、訓練は短時間で終わります。

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