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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第八部

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153/203

153.クアラルンプールの戦い(2)

アーサー・カリニン無双です。

 クアラルンプールの市街地に降り立ったアーサー・カリニンは、絶句した。

 いくつかの高層ビルに味方のオルリヌイ・ルーチが突き刺さっている。

 地面で爆炎を上げているスホーイの姿もあった。

 どう見ても、敵のミサイルやレーザーによって破壊されたものではない。

(これは、敵の電子戦機であるQR‐Xによる、クラッキング攻撃だな?)

 と、カリニンは推測した。

 戦術AIを直接クラッキングされて、故意にビルや地面と衝突させられたのである。

 正直に言えば、自分たちも冷酷な戦い方というのはする……

 しかし、このオーストラリア共和国軍の戦い方は質が違うように思われた。

(俺たちは、世界からは悪だと思われているが、どっちが悪なんだ……)

 アーサー・カリニンは心のなかにつぶやく。

 それは、軍人として真っ当な感想だった。


 上空を旋回しながら、敵のGO‐STO10が通りすぎる。

 また、高層ビルで爆発が起こった。

「おいおい、マレーシアはお前さんたちのかつての味方だぞ……?」

 ジェマナイにしても、敵国の市街地を攻撃するということはある。

 市民の犠牲もいとわない。

 それが戦争というものだ。

 しかし、今のオーストラリア共和国軍の攻撃は狂気のようにも思われた。

(だから、わたしはリュシアス様の理想を実現したいと思うのだ!)


「二将、今何か言いましたか?」

 前方に展開しているヴェガⅡのうち1体、セルゲイ・イリインの操縦している機体から通信が入る。

 すこし、やつは突出しすぎだな……と、カリニンは思う。

「いや、なんでもない。オーストラリアのやつらの非道さに憤ったんだよ」

「これは戦争です、二将。センチメンタルにかられていては、やられますよ?」

「ふん。どうかな? センチメンタルで生き残る、俺のような奴もいるんだよ?」

「それは頼もしい言葉ですが……あっ!」


「どうした?」

「今ASMを食らいました。すんでのところで躱しましたが……」

「ああ。さきほどヴェガ1体がやられたらしい。腹部のコックピットを狙われた」

「そんなことが? 通信では伝わってきていませんよ?」

「敵には電子線能力に優れた機体がある。QR‐Xだ。それが、欺瞞情報を送り込んできているんだろう」

「では、我々の通信もいつまでもつかわかりませんね?」

「その通りだ!」

 アーサー・カリニンは強く叫ぶ。


 セルゲイ・イリイン一佐の機体、アミナ・ロストヴァ三佐の機体が、上空のGO‐STO10に向かって対空砲火をしている。

 クアラルンプールの市街地は狭い。

 21世紀になって経済的な繁栄を誇ったが、22世紀のアジアの凋落とともにさびれた街となった。

 今は、ジェマナイの駐屯地としての色合いのほうが濃い。

 もしかしたら、オーストラリア共和国軍は市民の解放、などということは考えていないのかもしれない。


 アーサー・カリニンも数機のGO‐STO10を相手にしていた。

 GO‐STO10は、統合戦線のイングレスαと遜色ない性能を有している。

 オーストラリア共和国は、見た目の穏健さとは裏腹に、軍事国家でもあるのだ。

 やがて、統合戦線同様台頭してくるだろう……

 今回のジェマナイとの戦闘は、その地ならしの意味合いでもあるのか?

 アーサー・カリニンは思案した。


 そのときだった。

「二将! まずいです! 味方のオルリヌイ・ルーチが暴走しています! わたしの機体も……!」

 通信を送ってきたのは、アミナ・ロストヴァである。

 彼女が操縦する機体が接地している地面に、次々とオルリヌイ・ルーチが飛び込んでくる。

 地面と衝突して、爆発するオルリヌイ・ルーチ。

 これは、敵の電子戦機であるQR‐Xの攻撃能力である。

 相手方の戦術AIをクラッキングして、その操縦系統を乗っ取ってしまうのだ。

 味方は、1発の弾丸も撃たずに、相手を攻撃することができる。

 アーサー・カリニンは思わず冷や汗をかいた。こんな戦場で部下を死なせるわけにはいかない……


 しかし、イラク戦線に出ていないカリニンらは、QR‐Xの能力というものを初めて見せつけられていた。

「三佐、引くんだ。ビッグマンとて無双ではない。物量でかなわない場合は引け!」

「了解です。高層ビルを盾にします!」

「それも心もとない作戦だがな?」

 通信は遮断されていない。

 しかし、これも敵方の作戦である。

 オーストラリア共和国軍は、ジェマナイ軍に心理的な恐慌が広がることを企図しているのだ。

 アーサー・カリニンは舌打ちした。


 ジェマナイの陸軍は、戦力的に優れているとは言い難い。

 ヨーロッパや南北アメリカに粒子気化爆弾を使ったあとのジェマナイは、ことに都市制圧戦では空軍のビッグマンを活用してきた。

 その圧倒的な破壊力によって、まずは敵のインフラおよび政治中枢を抑えたのである。

 これは「真っ当な」戦争だった。

 もちろん、内政干渉も行った。というより、情報テロである。

 ジェマナイは、旧ソビエトやアジア諸国の政体を、次々と自分たちの色に塗り替えていった。

 だから、今回の統合戦線、オーストラリア共和国との戦いが始まる以前、ジェマナイの内部は平和だった。

 アーサー・カリニンは、そのかりそめの平和を愛した。たとえかりそめであったとしても、平和は平和だからだ。


「二将、敵に一撃を与えないと、クアラルンプールは落ちます! 我々は敵の戦力をあなどっていた……」

 ふたたびセルゲイ・イリインからの通信が入る。

 そのころには、アーサー・カリニンにも日本を発ったころの余裕はなくなっていた。

 あちこちで倒壊するビル。

 雨のように降ってくるオルリヌイ・ルーチ。

 味方のスホーイ部隊も苦戦しているようだ。

「分かっている。俺がなんとかする……」

「なんとかって、何を?!」

 セルゲイ・イリインは、やや不審のようである。

 いずれは自機のミサイルや細部駆動のためのエネルギーも切れる。

 アーサー・カリニンは、どれだけの能力をもった上官なのかと、彼は訝った。

 このような些末な戦場で死にたくない、という思いが、イリインにもアミナにもあった。


「こちらに優秀なハッカーがいないのが残念だが……」

 と、アーサー・カリニンは通信機ごしにつぶやく。

「ホバー・アタックをかける。イリイン一佐とロストヴァ三佐は、できるだけ俺の援護をしてくれ?」

「何をするんです? ホバー・アタックって?」

 アミナ・ロストヴァもまたパニくっている。

 クアラルンプール市街地の幹線道路には、多くのクレーターが空いていた。

 これでは、ビッグマンの移動にも差し支える。

 どうやら、オーストラリア共和国は本気でジェマナイを滅ぼしにかかってきているようだ。


「一佐、三佐。ムルデカ118の陰に隠れろ!」

 そう叫ぶと、アーサー・カリニンは自機ヴェガⅡのスラスターを全開にさせた。

 ふわりと、地面から浮かぶカリニンのヴェガⅡ。

 これは、日本でカリニン仕様に調整してもらったジェットだった。

 そのまま、ものすごい勢いで斜め前方へと浮上していく、カリニンのヴェガⅡ。

 特攻をしかけてくるオルリヌイ・ルーチも、敵のGO‐STO10も躱して、高度10000フィートへと上昇する。

 ジグザグの軌跡を描いて……それはまるで、カリニンのヴェガⅡの足に大地でも付着しているようだった。

 鋭角、鈍角、と交互に位置調整されたジェットが、不規則な軌道をもたらしているのである。

「これが、ホバー・アタックだ!」

 と、通信機からカリニン二将の声。

「あんな戦い方ができるなんて……」

 と、セルゲイ・イリインはつぶやく。


 敵のミサイルも、味方の特攻も躱しながら、敵電子戦機であるQR‐Xの群れの前に躍り出る、ヴェガⅡ。

 そこで、全方位ミサイルを発射した。

 機体を回転させながら、確実に敵に照準を定めていく。

 それまで無傷だった、オーストラリア共和国空軍のQR‐Xは、カリニンの攻撃を受けて部分的に、また全面的に破壊された。

 一部の機体が、クアラルンプール市街へと落下していく。

 ふたたび上がる爆炎。

「どうだ! これで、敵QR‐Xの何機かは無力化しただろう!?」

 アーサー・カリニンは言った。

 セルゲイ・イリインとアミナ・ロストヴァとは嘆息した。

 これで、味方の特攻による自爆攻撃は防ぐことができる……

 アーサー・カリニンは、その瞬間心の底からほっとしていた。

(世の中に絶対悪なんてない! 生きようとする意志があるだけだ!)

 アーサー・カリニンのその独白は、この戦争の本質を表しているようでもあった……

マレーシア戦線の話はこれでいったん終わります。

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