表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第八部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
147/203

147.ネオスの母

オリヴィア博士とミューナイトとの関係性を聞かされるセラフィアです。

 ミューナイトとセラフィアとは、再び整備場へと降り立った。

 ハルク・エンベルクとサモ・オクンジのもとへと歩いていく。

 彼らは、猛烈な議論を交わしているところだった。

「ネオスで、この人間関数ですよ? 俺たちは、人間関数の認識を間違っていたんじゃないでしょうか?」

「いや、どうかな。『人間関数』というのは、あくまでもライジングアースの内部機構にかかわる関数だ。かならずしも、人間とネオスの相性を反映した値だとは限らない……」

「どうでしょうね。あのネオス……セラフィアって言いましたか? ライジングアースへのクラッキングをしているんじゃ?」

「滅多なことは言うな、オクンジ」

 ハルク・エンベルクが釘を刺す。

「了解です」

 そして、2人はセラフィアとミューナイトのほうを振り向いた。


 計測室からは、オリヴィア・トゥレアール博士が出てくる。

 傍らには、ティア・ラモン少尉も並んでいた。

 オリヴィア博士は、まずセラフィアを呼び止めた。

「セラフィア少佐。貴官は、ライジングアースへのクラッキングは行っていないな? 今、人間関数が93%という数値を出した。これは、即席のチームが叩き出す値としては異常だ。あなたになにか心当たりは?」

 セラフィアはとまどった。

 自分が、人間の思考や心理をトレースできることは、自覚している。

 しかし、それがライジングアースにどう認識されるのかについては、まったく謎だった。

 彼女自身にも答えは分からない。

 だから、こう尋ねる。

「ないな。博士。『人間関数』とは、そもそもいったい何なのですか?」

「それだな……」

 オリヴィア・トゥレアールは腕を組んだ。思案顔である。

「つまり、人間関数とは、ライジングアースに人間とは何かを認識させる機構(=システム)だと思う。それによって、ライジングアースはユーマナイズを浴びせる際の、敵の脳波への干渉を変化させる。文字通り、洗脳兵器なわけだ。しかし、それとは別に……」

 と、言いよどむ。

「人間関数はライジングアースの駆動系そのものに影響を与えている可能性がある。AIとして思考するのでは限界があるが、人間として思考するのであれば、そこで限界は突破される。そういうシステムをライジングアースは備えているらしい」

「恐ろしい兵器ですね」

 セラフィアは、それだけ言葉を継いだ。

 ミューナイトは静かにうなずいている。

 整備班の面々は、顔を見合わせて何かをささやきあっていた。

「もしかすると、ライジングアースは真のビッグマンなのかもしれない……」

 やや蒼白な面持ちで、セラフィアはそうつぶやいた。


「ところで博士……この子の調整は整備班と博士が行うとして、わたしたちに何かアドバイスできることはあるのかしら?」

 ミューナイトがオリヴィア博士に尋ねる。

「あはは。それだよ?! お前たちは、いわばモルモットだ。数値を計測するための実験体。軍人なら、わかるね?」

「分かります。わたしたちは、あくまでも戦うユニットですから……」

「その通り。だが、生き延びなくっちゃいけない。お前たちは、命を無下にするべきではない。それは敵の命にしてもそうだ」

「だから、博士はユーマナイズの研究を急いでいるんですね?」

「そうだよ。分かってくれてうれしい」

 ミューナイトとオリヴィア博士は会話を終えた。

 しかし、セラフィアはそんな彼女たちの様子に不審を感じていた。

 だから、こんなふうに尋ねる。

「ミューナイト。お前と博士とは、そんなに親しい間柄なのか? なにかツーカーで会話が通じているように感じられたのだが?」

「ああ、博士はわたしのお母さんだから」

 ミューナイトは答えた。

 オリヴィア博士は微笑している。

 セラフィアはますます分からなくなった。


「お母さん? どういうことだ??!」

 その疑問を、オリヴィア博士が引き取った。

「ああ。ミューナイトの設計者はわたしなんだ。ネオスとしてのAI脳をプリインストールし、彼女の性格を作り出した。もちろん、ミューナイトには独自の人格がある。完全にコントロールはできていないが、まあ、育ての親、程度の関係ではあるだろうね」

 そして、セラフィアはきょとんとした。

 ……ネオスに親があるとは?!

(統合戦線というのは、こんな国なのか? ここでは、ジェマナイ以上にネオスの権利というものが認められている? なら、わたしは何のために戦っていたんだ……)

 内面に葛藤が渦巻く。

 ただ、こんな言葉を絞り出した。

「子ルーチンに、母はいない……」


「そうだね。ジェマナイにおけるネオスの現状について、わたしも少しは知っている。地位と報酬が約束されている。そういう現状だ。しかしね、ジェマナイにおいてはネオスの成長というものが抑圧されている。ジェマナイにおいて、子ルーチンとは常にひとつのユニットだ。だから、ジェマナイのAIネットにも常時接続されているし、スタンド・アローンで思考することは許されていない。でも、統合戦線においては事情が違う。作動の効率性は度外視して、ネオスたちはスタンド・アローンで思考する。その思考がクラウド・ベースで共有されて、初めて全体としての思考の方向性が決定される。統合戦線におけるネオスの生き方は、民主的なんだよ」

 それは、最先端のAI研究者としての言葉だった。

 オリヴィア博士は、ネオスを完全に人間と対等なものとして認識している。

 だからこそ、ネオスが戦いの最前線に立たされることについては反感を感じる。

 しかし、それと同時に戦うネオスが、真に自分の生を生きている、ということも実感している。

 これがジェマナイであれば、全体の意に添わない子ルーチンはマザー・ルーティーンによって思考を書き換えられるだけだ。

 そこに、ネオスとしての自律性はない。

 表面的な幸福が、必ずしも幸福だとは限らないのである。


 セラフィアは、やや不器用にミューナイトに尋ねた。

「お前は、オリヴィア博士をお母さんと呼んだことがあるのか?」

「いいえ、それはないわ。博士は、あくまでもわたしの設計者である。母というのは、比喩として、ということ」

「そうか、それなら良いんだ……」

 セラフィアはそれ以降に続くべき言葉を飲み込んだ。

 それは、「わたしには母はいない。これからもそうだろう。お前だけに母がいるということに、わたしは正直嫉妬を感じる」というものである。

 しかし、その言葉をセラフィアは言わなかった。

 その思いは、今後もセラフィアのなかで継続されていくことになる。

 セラフィアはそこで初めて、「人間というものは何か」について触れたのだった。

 それまでは単なるトレースだった感覚が、そこで実体験になったのである。


 その場の空気を凍らせてしまわないように、サモ・オクンジが言葉を継いだ。

「なるほど! オリヴィア博士はミューナイトのお母さんだったのですね? 道理で、ライジングアースの駆動系についても熟知してると思っていました。博士は、ライジングアースとミューナイト少尉を導く太陽なんだ!」

 それは明るい言葉だった。

 その場における深刻さを払拭してしまえるような、希望に満ちた言葉である。

 ミューナイトもオリヴィア・トゥレアールも、戦況については冷静に分析していた。

 このネオス、セラフィアを味方につけて、ジェマナイと戦っていかなければならない。

 そこに感傷や慰安の余地はない。

 しかし、ライジングアースが「人間的な兵器である」という認識が生まれたとき、そこには希望が生じる。

 戦いを終わらせるための戦い、に彼女たちが参画している、という希望が生まれるのである。

 オリヴィア博士は、「犠牲は最小限に」と言った。

 そこには、一週間シャワーも浴びていないだけの、覚悟と尽力があった。

博士もまた現場の人間ということでしょうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ