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地上戦機ライジングアース  作者: クマコとアイ
第八部

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146/203

146.オリヴィア博士とライジングアース

忙しくて入浴もできないオリヴィア博士です。

 整備場に降りると、そこにはオリヴィア博士がいた。

 ミューナイトは思わず緊張する。

 その日、彼女に会うとは思っていなかったのである。

 ミューナイトは、ネオスながら突然の事態に対処できないという癖がある……


 ネオスは、一般的には演算をして思考を確定させる、という存在である。

 その点はミューナイトも一般的なネオスと変わらない。

 しかし、彼女にはディープ・コーディングの能力がある。

 その能力は、オリヴィア博士にとっても未知だった。


 オリヴィア・トゥレアールは、ミューナイトを目にして目を細める。

「ああ、やってきたね。ライジングアースの修復は順調だ。頸部のユニットはまるごと取り換えることになった。あと一週間で修復は済むだろう」

 そんなふうに言う。

 ミューナイトはそれに対して、

「それは良かったです。ライジングアースが早く直れば、統合戦線にとっても有利に働くはず」

「軍人みたいなことを言うんだねえ?」

「わたしは軍人ですから」

 ミューナイトが言うと、オリヴィア博士は笑った。

 先の戦いで、ミューナイトがユーマナイズを使わなかったことに、博士は納得している。

 それは、軽々しく使って良い兵器ではなかった。

 彼女のアドバイスにミューナイトが従ったことが、博士にとっては純粋にうれしかったのだ。


「そちらは?」

「セラフィア少佐です。今後、わたしのコパイロットを務めます」

「そう……サイガに代わってねえ……」

 オリヴィア博士は眉根を寄せた。

 じっと、ねっとりとした視線をセラフィアに注ぐ。

 セラフィアは臆するということはなかった。

 ただ、博士の視線をありのままに受け止めていた。

 彼女は敵なのか、味方なのか、慎重に吟味しているという態度だった。


「セラフィアだ。あなたは、このライジングアースの担当研究員なのか?」

「いや、違うね。わたしの担当はミューナイトだ。そして、あんたの担当でもない」

 苦り切った様子で、オリヴィア博士は言った。

 斎賀が行方不明な今、余計なファクターが事態に関わってくることはごめんだ、という思いがあった。

「あんたはセラフィア? わたしはあくまでも軍のアドバイザーだ。あんたの部下でも上司でもない。忌憚なく頼むよ?」

「それは、良いように」

 と、だけ、セラフィアは答えた。

 この、オリヴィア博士という人物は油断のならない人間のように、セラフィアには思われていた。


「さて。ライジングアースの修復についてだ。まず、わたしはあんたがたの『人間関数』を計測しなければならない。その値が規定値以下なら、ライジングアースを飛ばすわけにはいかない」

「わかっています」

 と、ミューナイトは答える。

「わかってないよ。あんたたちの使用している武器は、大量破壊兵器なんだ。軽い気持ちで乗ってもらっては困る」

 と、オリヴィア博士は言う。

 ミューナイトは困惑した。

「わたしは、その点についてもわかっているつもりです」

「つもりじゃ、困るんだ。実際でなくっちゃ……それで、そこのネオス。あんたはどう思っているんだ? ライジングアースに乗ってユーマナイズを発動できるのかい?」

「わたしは、あくまでもコパイロットだ。操縦はミューナイト少尉に任せる。そして、ライジングアースは単なる大量破壊兵器ではないとも思っている。ライジングアースは、戦力だ」

 それだけの言葉を、セラフィアは絞り出した。

 なぜか、このオリヴィア・トゥレアールという人物を前にしていると、自分は威圧感を感じる。

 ジェマナイで、戦術特務三将まで務めた自分がだ。

 そのことが、セラフィアにとっては納得がいかないような気もし、逆にうなずける部分もあるように思えた。

 今、自分は真に統合戦線の兵士なのである。

 かつての味方とも、戦わなければならない。

 しかし、オリヴィア博士は言った。

「それなら良いよ。戦争っていうのは、実務的じゃなくっちゃならない。戦争に感傷は不必要だ」

 それは、オリヴィア・トゥレアールのプロ意識が現れた言葉だった。

 ミューナイトは、改めて軍人とはなんなのか、ということに思いを巡らす。

 セラフィアは、統合戦線はジェマナイと似ている、と考える。


「さて、それじゃあ、これからライジングアースのコックピットに搭乗してくれないか? シミュレーションで環境変数の計測はできる。ライジングアースをただ修復するだけでは、だめだ。ユーマナイズ発動の原理についても解明しないと。……さて、ハルク・エンベルク大尉。あんたらの腕の見せ所だ。よろしく頼むよ?」

 そう言って、オリヴィア博士は計測室へと歩いていった。

 その場に取り残されたサモ・オクンジとハルク・エンベルクが、ミューナイトたちに告げる。

「博士、ずっとあの調子なんですよ。ユーマナイズのことでぴりぴりしているんだと思うんですけれど」

「まあ、博士の要望は要望だからな。貴官らは、ぜひシミュレーションにつきあってもらいたい」

「分かった」

 まず、セラフィアが答えた。

 そんなセラフィア(若干背が高い)を見上げながら、ミューナイトがゆっくりとうなずく。

「わたしもかまわないわ。……時間はたっぷりあるんだし」

 と、そんな人間的な言葉をつぶやく。


 ──


 ライジングアースのコックピット内は静かだった。

 時折、モーターの作動音がぶーんとうなる。

 しかし、機体自体が動いているわけではない。

 今は、機体の環境変数を計測しているのである。

 その計測結果は、計測室のオリヴィア博士のもとへとリアルタイムで送られていく。

 ライジングアースの足元では、やはりサモ・オクンジとハルク・エンベルクが計器類をモニターしていた。

 今現在、ライジングアースの人間関数は93%である。


 オリヴィア博士は驚いた。

(今、コパイロットはネオスなのに……人間関数がこれほどの数値をたたき出すのか?)

 これなら、彼女らにパイロットとコパイロットを任せたとしても、危険な状況に陥る確率は低いだろう。

 敵を殺してしまう、という悪魔の効果を発揮してしまう可能性も低い。


(やれやれ、あのネオス、一体何者なんだ? ミューナイトと同じくディープ・コーディングの能力を持っているのか? しかし、それならば容姿が若くはなかった。謎だ。ジェマナイでは戦術特務三将まで務めていたというが、そんな優秀な子ルーチンがなぜ統合戦線に亡命してきた? これもユーマナイズの効果なのか……)

 オリヴィア博士は、額に手を当てながら考え込む。

 前髪がぱさりと垂れて、彼女の頬にかかった。

 もう何日もシャワーを浴びていない。

 彼女は現場に出ているわけではないとは言え、裏方の苦労も相当なものだったのである。

 熟睡できたのは、いったい何日前だったろうか?


(ん? これはなんだ?)

 オリヴィア博士はモニタに見入る。

 そこには、かつてのマザー・セントラルのコアコードにも似た数列が展開されていた。

(なんだこれは! ライジングアースは……ジェマナイは、マザー・セントラルのコアコードを受け継いでいるのか?)

 ──だとしたら、ジェマナイにもライジングアースにも、マザー・セントラルの「意志」が流れ込んでいることになる。

 何十年も前に破壊された、統合意識体の祖が、現在のジェマナイの核に浸透している……??!

 オリヴィア博士は愕然として、息を飲んだ。

(とすると、ミューナイトや例のセラフィアというネオスが、現在のジェマナイに接続(=リンク)されている可能性すらある……)

 それは、認めたくない結論だった。

 しかし、何度思いなおしてみても、その仮説はたしかなように思われたのだった。


なし崩し的にライジングアースの担当のようになってしまいましたが……

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