第8鑑定 笑える日常
「ごきげんよう。国王様」
誰もが目を奪わるような、美しい真っ白で大きな翼を優雅に折りたたみ、その天使は一礼をした。
膝もつかず、頭も深く下げない。会釈に近い感じのそれには、敬意も忠誠心も感じることができなかった。
「久しぶりだな。調子はどうだ?」
「問題ない……と思いますよ? 今ここで試してみますか?」
優しい笑みとは裏腹に、殺戮天使と呼ばれた魔道具の眼光は鋭かった。
「私をあんな真っ暗な部屋に閉じ込めておきながら、私の機嫌を伺うとは実に滑稽ですね」
「貴様! 誰に向かって!」
国王の付き人が怒鳴るが殺戮天使は意に介さない。
「私に何の用事ですか?」
というよりも、殺戮天使にはまるで付き人が見えていないかのようだった。
「任務だ」
無視されたことなど気にしてない。と言いたげに付き人が辛抱強く言う。
「何やら先ほどから無能が私に話しかけてきて非常に不愉快なのですが、この無能は排除してもよろしくて?」
「よくない。それよりも任務を引き受けてほしい」
「お断りします」
「なぜじゃ?」
「めんどくさいからです」
あふ。と欠伸をしながら殺戮天使が言う。
「さぁ。さっさと私をあの監禁部屋へと連れ戻してください」
「もしも任務を達成できたなら、貴様を自由にしてやろう」
「ほぅ? 私の所有権を放棄するというのですか?」
「悪い話しではなかろう?」
「いいでしょう。どんな任務ですか?」
「最近、ダンジョンから太古の遺産を引き上げることに成功した。だがもちろん持っているだけではただの宝の持ち腐れだ」
「私には太古の遺物を操る力はありませんよ?」
「そんなことは分かっておるわ!」
先ほどから無能呼ばわりされている付き人が噛みついた。
瞬間、殺戮天使の目がギラついた。
「やめい!」
国王の鋭い声が鳴り響く。
「国王様の命令とあらば仕方ないですね……それで?」
「太古の遺物を扱える者を見つけろ」
「わかりました」
ペコリとお辞儀をする殺戮天使に向かって、付き人が捨て台詞を吐く。
「たかが魔道具に見つけられるのか?」
「いいでしょう。貴方の様な無能な方にも分かるようにご説明申し上げます」
殺戮天使が冷ややかな笑みを浮かべる。
生きとし生けるもの全てが凍り付く。そんな笑みを――
「見つけられるのだな?」
国王が再度問う。
「もちろん」
殺戮天使は相変わらず余裕の笑みを浮かべる。
●
ゼノ達は川岸に生えているまばらな木々を切り倒していた。
……いや。
破壊していた。
「ちょっとアイリス? どうして木が炭になってるの? ノワール! 君は木を切るには向いてないって言ったよね? ルミエ! ここで焚き火でもするつもり? ミラー笑ってないで手伝って! シャルロットは腕が取れてるよー!」
「お父様は時折うるさいです」
「我が何を斬ろうと我の自由のはずだ」
「私は火を点けるしか役目がないですから……」
「あーはっはっはっは! 誰も木を板にできないでやんのー!」
「どうしてボクはいっつも壊れちゃうんだろう……」
「いいかい? この斧という道具を使ってこうやって木を切り倒しすんだ」
「非効率です。私が風穴をあけます」
「何言ってるの? 君にそんなことできるわけないだろ? 仮にできたとしてもやらせないからね?」
「なぜです?」
「いや。必要ないでしょそんなこと。木は切ればいいの」
「不可解。効率的且つ安全な方法があるというのに……」
アイリスが文句を言った瞬間、大きな影がゼノとアイリスを覆った。
「巨大なパワーを感知!」
アイリスが見上げと、上空を白い鳥のようなものが旋回していた。
「うわぁー。凄いなー。僕天使って初めて見たよー」
空を見上げるゼノに気づかれないように、アイリスがサーチ機能を使う。
<おやぁ? スクラップなのにそんな機能があるんですか?>
アイリスの体の中に直接言葉が流れてきた感じだ。
他の誰にも聞こえない。
「殺戮天使……」
ゼノが見上げる空を見て、ミラーが絶句する。
殺戮天使は幾度か旋回を終えるとそのまま去ってしまった。
「あれは偵察ってことかな?」
ミラーがルミエに言うと、ルミエはゼノに気づかれないように小さく頷いた。
「何者かが私たちの平穏な生活を脅かそうとしているのかもしれませんね」
「よし、斬るか!」
「あれは切れません」
「貴様! 我は今物理的な話しをしているわけではない!」
「マスターはオレが絶対に守ってやる」
「ゼノ様じゃなくて私たちを本格的に破棄しに来たのかもしれませんよ?」
ルミエがミラーに言うと、ミラーがピョンピョン跳ねながらキーキー声で言う。
「マスターが無事でオレが壊れるならそれでいいよ!」
おかげでゼノに聞こえてしまった。
「何言ってるの? ミラーが壊れたらダメに決まってるでしょ」
ペシリと叩かれてしまう。
「あぅ……マスター。今ので壊れたかもよ?」
「そんなんじゃ壊れないよ!」
ひょいっとゼノがミラーを抱き上げる。
その手には、ルミエとノワールとシャルロットも居た。
「ゼノ様? いつも私を運んでて重くありませんか? たまには私が運びますよ?」
ルミエが申し訳なさそうに言う。
「いいのいいの。僕が持ちたいんだから」
「不可解。私は一度も持たれたことがありません」
「アイリスは重いからねー。100キロはあるんじゃない?」
「レディーに体重の話しをするのは失礼だとルミエが言っていました」
「え? ごめん」
みんなが爆笑した。
「何がおかしいのですか」
その様子を見てルミエはそっと微笑んだ。
願わくば。
この時間が、少しでも長く続きますように……
その様子を遥か上空から、殺戮天使だけが見ていた――
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