第6鑑定 シャルロット
「では。早速私が王都を沈めてきます」
城門前でアイリスが物騒なことを言う。
「何言ってるのアイリス。君にそんなことできるわけないだろ?」
「いえ。お父様。私なら可能です」
「冗談はいいからさっさと行くよ」
「不可解。私は冗談を言いません」
「いいから! ミラー。エリスは今どこ?」
「えーっと。広場に向かって歩いてるよ」
「広場? 城と真逆じゃないか! もしかして処刑でもされるのか?」
「まぁそれは大変。急ぎましょう」
ルミエが口元を手で覆う。
ゼノが広場に着くと、そこには噴水の前でお祈りをしているように見えるエリスの姿があった。
「エリス?」
「ゼノ? 何でまた来たの? 早く逃げて!」
「で……でも……君は……連行されたんじゃ……」
「連行? お城には行ったけど、ゼノの行方なんか知らないって突っぱねたら帰されたわ」
エリスが首をすくめる。
「それよりも、ゼノがここにいたら私が逃がした意味がないでしょ! 大切な家族も待ってるんだから早く行きなさい! ほらほら」
そのままエリスは、人目のつかない路地裏までゼノを押し込んだ。
「人に見られないように帰るのよ!」
ゼノの背中越しにヒソヒソとそう言った。
「なかなか見応えのある小娘ではないか」
ノワールが胸を張る。
「マスターが助けようとするだけはあるね!」
「察知。手練れが接近中」
アイリスがルミエにそう言うと、ルミエがノワールの柄を掴んだ。
「ゼノ様。私落とし物をしてしまったので先を歩いててくださいまし」
それだけ言って、ルミエとノワールとアイリスは路地の入り口まで戻った。
「何かあったのかな?」
キョトンとゼノが言うと、ミラーはクスクス笑いながら、さぁ? と言った。
数分後に、アイリスたちは合流した。
先ほどとの違いは、ノワールの刀身に血がびっしりとついていることくらいだ。
「どうしたのノワール! 怪我?」
「誇り高き魔剣が怪我などするか! バカタレが」
「急いで血を拭わないと。脂で切れ味が落ちるんだよ?」
ゼノは背負い袋から布を取り出して、その場でノワールのメンテナンスを始めてしまった。
「急ぎたいのにね」
ミラーがイライラしながらルミエにひっそりと言う。
「そこがゼノ様のいいところですわ」
「私たちの存在に気づかれてしまいました。型番が古くてもやはり魔道具はレアな存在のようですね」
アイリスがサーチ機能を駆使して言う。
「先程は囲まれましたが、今回は私がそうさせません。最短距離で家へ帰りましょう」
「私にいい考えがありますわ」
にこりとルミエが微笑み、ゼノへ提案をするために近寄った。
「ゼノ様」
ルミエがメンテナンスをしているゼノに声をかける。
「ん?」
返事はするが、こちらには目もくれない。
「私は魔導ランプです。私の中は魔法の力でかなり広い空間となっております。私がゼノ様とノワールちゃんを取り込みますので、私の中でメンテナンスをするのはいかがでしょうか?」
「それはだめだよ。そんなことをしたら君が疲れちゃうじゃないか!」
「でもオレたちは先を急ぎたいんだよ!」
「だめだめ。ちゃんと手入れをしておかないと後で取返しがつかなくなるんだから」
「今も取返しがつかなくなってるんだっての! このアホマスター!」
「無駄です。お父様はこうなってしまっては、自分の気が済むまでメンテナンスを続けます。本当に時間の無駄ですが、私たちがお父様を守るしかありません」
アイリスが高火力モードに切り替わった。
「お父様にこの姿は見せたくありません。少し離れます」
カラカラとタイヤを鳴らしながら、アイリスはゼノが見えない位置まで移動した。
「オレもマスターの役に立てればいいのに……」
「魔道具にはそれぞれの役割がありますわ。戦闘はアイリスちゃんとノワールちゃんに任せておけばいいのです」
数分後にゼノのメンテナンスとアイリスの戦闘が集結した。
「アイリス?」
「問題ありません」
「目が飛び出てるじゃないか!」
「家での修理を申請します」
「うん分かった。そうとなればすぐに帰ろう!」
ゼノがメンテナンス道具を背負い袋にしまった。
「私がアイリスちゃんを運びますわ」
ルミエは、ゼノに止められる前にアイリスを自身の中に入れた。
アイリスの魔力は底を尽き、ルミエの中で眠るようにシャットダウンした。
『全く。本当ならとっくのとうにシャットダウンしていましたわ』
ルミエが冷や汗を拭うと、背後から声がした。
「面白いねキミたち」
●
通路の端に設置されているゴミ箱に投げ捨てるように捨てれていた人形の声だと、ゼノにはすぐに分かった。
「魔法人形……」
ミラーが絶句する。
「魔導人形とは違うの?」
「簡単に言えば、魔導人形は兵器として作られた道具。魔法人形は魔法が込められた人形だよ……」
「主に呪いや恨みの力が込められていますわ」
ミラーの説明にルミエが補足した。
「呪いの人形ってことか……」
見るからにボロボロの人形にゼノが近寄る。
「だめ!」
それをミラーが止める。
「魔法人形は本当に危険だ。呪いや恨みを込めた本人以外は触れない方がいい」
「キシシ。ボクはもう用済みだってさ。僕がずっと呪ってた家族はもういないからね」
そう言いながら人形が手を振ると、肘のあたりからポロッと折れたように曲がり、中の綿が飛び出ていた。
「わっ! 大丈夫? 痛いでしょ! ちょっと待ってね」
ゼノはミラーの制止を無視して人形に近寄り、応急処置と言いながら、自分の服の袖をビリビリに破って人形の腕に巻いた。
「ボクは痛まないけど?」
「かわいそうに……そんな使われ方しかしてこなかったんだね。君には行くアテはあるのかい?」
「あったらこんなところでキミ達を観察なんてしてないさ」
キシシと笑いながら、包帯の代わりとばかりに腕に巻かれたゼノの服の切れ端をまじまじと見た。
「一緒においで? うちに来たらもう少し手当てしてあげられるから。ね? シャルロット」
ゼノがそう言いながら手を差し伸べる。
「マスター! 呪いの人形だぞ! 呪われちゃうかもしれないんだぞ!」
「そんなことないよミラー。シャルロットはとても優しい子だよ。僕には分かるんだ」
わめくミラーをゼノはそっと撫でる。
「しゃるろっと?」
そう呼ばれた人形が首を傾げる。
「君の名前だよ」
にこりとゼノが微笑む。
瞬間、今までされてきた仕打ちの一部がシャルロットの脳裏に思い浮かんだ。
「さっさと呪わんかこのダメ人形が!」
「父上! きっと呪術が足りないのです! 私めにお任せください。呪いを強めるにはこれを痛めつけるに限ります」
「ほう! さすがは我が息子だ。この拷問器具を使って見たかったのじゃ」
「人間相手には使えませんが道具相手になら誰にも咎められませんよ」
「ひーっひっひっひ。顔面を焼くのも面白そうじゃの」
「どのくらいの力で引っ張ったら腕が取れるかも実験してみましょう」
「ボクは……ノロワナクチャ……ちゃんとやらないと……ちゃんとやるから痛めつけないで……ううん。違う。もう痛みは感じないんだった」
シャルロットがガタガタ震える。
「大丈夫! 僕は君を絶対に痛めつけないから。もう誰のことも呪わなくていいんだよ」
「呪わなかったらボクは何のために存在するの?」
「呪うことが君の存在意義ならば、僕のことを呪ってもいいよ? 君たちを裏切ったら僕のことを呪ってくれるかい?」
「ボクは……まだ生きててもいいの? ……捨てられたんじゃないの?」
「僕は捨てない! 君は家族だ!」
瞬間、シャルロットはゼノの胸の中で大号令した。
「やれやれ。マスターは本当にお人好しだね」
「ゼノ様は優しいのです」
「それでこそ我が認めた人間だ」
「お父様は、私が唯一信用できる人間です」
ここでアイリスが一言切った。
「でも。自分を顧みない危険性があります」
「どうやらオレたちがマスターを守ってやらないといけないみたいだね」
「我があらゆる物から守る盾にも文字通り剣にもなって守ってみせるわ!」
「お世話は私が一番得意ですわ」
「不可解。私が一番最初のお父様の家族のはずです。私が守ります」
「アイリス! なんであんたはいっつもマスターを独り占めしようとするかな!」
「私は独り占めなんてしていません。ありのままのことを言っただけです」
「また喧嘩してるの?」
みんなのやり取りが聞こえて、ゼノが後ろを振り返る。
胸にシャルロットを抱きながら。
それを見て、先ほどまで言い合いをしていた、アイリス・ミラー・ノワール・ルミエが同時に叫んだ。
「してません!」
「してない!」
「してなどおらぬ!」
「してませんわ!」
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