第38鑑定 救出
「出なさい」
暗い部屋に感情のない声が鳴り響く。
ゼノは無言で立ち上がる。
「さて。既に何度も言っているが貴殿は我々に協力する気がないということですね?」
言葉を発したのは国王の付き人の小男だ。
玉座の間だというのに国王の姿はなかった。
「あぁ。国王様ならもう貴殿に愛想をつかしましたよ」
ゼノがチラリと玉座を見たのを小男は見逃さなかった。
「それで?」
小男がゼノに返答を求める。
ゼノは黙って小男を見つめ返し、首を横にふった。
「やはりそうですか……正直、貴殿のような方を見たのは初めてです。欲に目がくらむことも無く脅しにも屈しない」
小男は一度言葉を切った。
「しかし我々には必要のない人間ということも分かりました」
それだけ言うと、小男は部屋からゼノを連れ出した。
ゼノは狭い小部屋へと通された。
「ここは断罪の間と呼ばれる特別な部屋です。かつて国王様が殺戮天使に言うことを聞かせるために作ったお部屋にございます」
部屋の中には、所狭しと拷問器具が置かれている。
「改めまして。私、貴殿の拷問担当に選ばれました。拷問の末に首を縦に振るも良し、そのまま命を落としても良しです」
では、始めましょうか。と言って小男がトゲ付きの鞭を手に持った。
●
「では。落ち着きも取り戻したところで、今後のことを決めましょう」
ルミエがみんなにお茶を振る舞いながら言う。
心の中に燻っていた言葉にならない想いをみんなが吐き出したことで、少し落ち着きを取り戻していた。
「よくこんな物いれられたな」
ノワールが感心する。
「入れ物はそこら辺に落ちていた物を、茶葉は燃えカスを利用いたしました」
ペコリとルミエがお辞儀する。
「人間なら文句言うのかな?」
ずず。とルミエが作ったお茶……いや、謎の液体を飲みながらピクトが言う。
「おじさんなら文句言いそうだね。オレが淹れたお茶の方がうまいとか」
ミラーがケタケタ笑う。
「非効率なことを言うのが叔父様ですから」
「あん? 前はゼノが非効率なことを言うと文句言っていたではないか」
ノワールがアイリスに言う。
「最近は叔父様も非効率なことを言います」
アイリスが謎の液体を見つめ、中に入っている成分を分析し始めた。
「まぁアイリスちゃんったら失礼ね!」
その様子を見て、ルミエがぷんすか怒る。
●
セラは幾度と戦地へ送られていた。
以前の国王はセラを道具のように扱ってはいたものの、酷使することは避けていた。
セラを酷使することで、本当の限界が来ることを恐れていたから。
つまり、国王はセラを道具だと思っていながらも国王なりに大事にしていたということである。
無論、本当に壊れてしまうと国王自身が困るというのが本音ではある。
しかし今は文字通り酷使されている。
国王にとってセラはもはや不要品。
壊れるまで使うのみであった。
『今度は北方の国の討伐ですか……国王は今ダンジョンに夢中。私が遠征をして他国の兵力を削る……実に合理的ですね』
そうセラが思考する程に、現在の国王はダンジョン遠征に夢中になっていた。
先日手に入れた魔侍の性能を確かめる意味もあるが、ここ最近ダンジョンから入手できる魔道具が多く、他国を滅ぼすよりもそちらに力を注ぐ方が効率的だと判断したのだ。
『きっと私はこのまま壊れていく運命なのでしょうね……』
眼下の人間の兵士を見下ろしながら、ふとセラの脳裏にゼノの顔が浮かぶ。
『鑑定士様……』
ゼノが今どういう目に合っているのかをセラは知っている。
それでも助けに行かないのは魔道具だから。
『私には心がありません。私は魔道具ですから……』
しかし――
『本当はもう一度だけ会いたいです――』
●
「準備はよいな?」
「何でノワールが仕切ってるんだよ」
ミラーがジト目で見上げる。
「ほんとだよ。ずっとぶるぶる震えてるくせに」
ピクトも追い打ちをかける。
「な! 我は誇り高き魔剣だぞ! 我が敵にビビると言うのか!」
「まずはボクたちの動きを止めるあいつに見つからないことが必要だね」
シャルロットがミラーを見ると、ミラーは黙って頷いて、魔道具の動きを止める老人の場所を映しだした。
「ここは?」
シャルロットが訊ねる。
「お城の中ではなさそうですね」
ルミエが難しそうな顔をする。
「周囲が真っ暗です」
アイリスが冷静に、周囲の成分から……などとブツブツ分析をしているが、ミラーの映像から成分が分かるわけもなかった。
「ふーむ。我が思うに地下の洞窟といったところか……」
「確かに洞窟に見えますけど、どうして地下だと思われるのですか?」
ノワールの見解にルミエが疑問を唱える。
「む……何となくだ」
ルミエが頬を赤く染める。
「体温の上昇を感知しました」
「勝手に我を分析するでない! この不届き者が!」
ノワールがアイリスにごっちんを食らわせた。
「理不尽です」
アイリスが腕を銃砲に変形させる。
「わー! アイリスストップー!」
珍しくシャルロットが止めに入っていた。
「ところでさ」
ミラーが呟く。
「あんたはなんでずっと黙ってるわけ?」
そう言ってピクトの方を見やる
「あたしはこの場所を知ってると思う……」
全員が一斉にピクトの方を見る。
「ここは……ダンジョンだ。あたしとミルクが生まれ落ちたところだ……」
――もう何時間こうしているのだろう?
ゼノは両手を縛られたまま、棘の鞭で全身を打たれ爪を剥がれ指を折られ、全身を殴りけられていた。
「これでも首を縦に振らないとは強情ですね」
小男はにやりと笑い、手にした刃物を振り上げる。
「これは、当方に伝わる、刀と呼ばれる武器です。見てください。鑑定士の貴殿なら分かるでしょう? こんなに刀身が薄いのに切れ味は抜群ですよ? そこらの剣よりもよく切れる。不思議でしょう? 世の中には貴殿が知らないことがまだ多く存在する。貴殿が知らないこの刀で貴殿の首を切り落とすとしましょう。そうです。首を斬り落とせるんですよこの刀は!」
ニヤリと笑って小男が長い刃物を振り下ろす。
ザシュッ。という鈍い音と共に真っ白な羽が部屋中に散らばった。
「ごきげんよう。鑑定士様」
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